9話 夏休み最後の戦い
中学時代は毎日この校庭で部活をしていた。もちろん鏡社に近く、出現する敵も高校より弱い。
ロケット発射失敗、そして報酬のお菓子もゲットならず。
「やっぱこうなったな、太志君よ」
映世に出現するんじゃないかと試しに移ってみれば、予想通りにオークがいやがった。
太志は周囲を見渡し、壊す物がないと判断したのち、不満そうに俺を見て。
「fresh meat」
「なんで元気ないんだよ」
先日購入したばかりの〔緑鋼の小盾〕を構える。〖風の盾・法衣〗と一緒に使うことで、エフェクトが法衣鎧に変化。
【肉切り包丁】が黒色に変色したのを確認すれば、太志がこちらに突進するための姿勢をとる。
「属性耐性を浸食耐性に変更」
法衣鎧は相手の扱う属性に合わせて耐性を変えられる。あとなにより大きいのは突風の使用回数を1つ追加。
「I'm going to be an internet meme」
ちょっと何言ってるかわかんない。
ていうかもの凄い勢いで特攻してきたのでそれどころではなく、急接近してきた太志の体当たりに合わせ、〖盾〗から突風を噴射する。
蓄積数を1つ消費。
残りは撃ち負けた時のためにとっておきたいので使わない。
突風で勢いは弱まったが、巨体からの圧力は完全に消せず、完璧な受け止めとはならず。
【包丁】を逆手に握り直し、俺の肩首に向けて突き刺してきた。
「問題なし」
〖赤(2)〗と〖白〗の鎖をオークに放ちながら、【包丁】の切先を脇差からの〖無断〗で弾く。数秒間の身体強化を得たが、〔脇差〕に浸食を確認。
「I'm popular」
「なに言ってやがる」
包丁を振り払ったのち、いったん脇差を背後に回し、オークの足を切り払う。こちらも〖黒刃〗による浸食を相手に喰らわせる。
しかしその攻撃では大して姿勢も崩さず、膝蹴りが俺の胸部を狙うも、なんとか〖盾〗を挟み受け止めた。
靴底を削りながら後退すれば、オークの腕が黒い影に覆われ、突き出すと同時に【手】が俺へと伸びる。
横へと飛び跳ねて回避すれば、数歩進んでから相手の上腕を斬る。HP減少の光が発生。
伸びた【前腕】を通常の状態に戻しながら、俺に肘打ちをしてくるけど、その場にしゃがんで脇差の切先を相手の脇下に突き刺す。
「it hurts」
太志はその場に倒れ込んだ。
「行動阻害」
即座に察知して後ろに飛び跳ねる。【泥】に足を取られたようなデバフを受けるけど、こうすることで回避可能と前回の戦いで学んでいた。
【黒い沼】は発生時に回避成功すれば歩行阻害もない。
「ここで追撃は悪手だ」
沼から複数の【触手】が俺へと伸びる。
着地後の隙を突かれ足を掴まれたが、動作の阻害などはない。回復妨害のデバフ。
〖法衣〗の属性耐性は(中)まで成長しているし、ビー玉での強化もある。なにより今は〖盾〗の効果で浸食耐性に変化していた。
それでもこれ以上【触手】に命中するのはよろしくないので、〖無色の滑車〗を出現させ、オークとは逆向きの〖一点突破〗で距離をとってから回避に専念する。
触手に追尾はあるけど、一度でも避ければ消滅していた。
《素早さ関係強化(中)》や《渦内の味方と自分の素早さ関係強化(小)》を付けている。
やがて触手の発生はなくなり、地面の沼も消えた。
「ここが狙い目!」
オークは起き上がろうとするが、〖無色の滑車〗を起動させて接近。
赤鎖《巻き取りにより時間が延長されるとスキル性能中強化》
「ridiculed」
「異世界なのに英語ってなんだよ!」
〖黒刃〗で斬りつける。白い切断線から黒い靄が発生して、オークのHP回復を妨害する。
追撃の斬撃を片腕で受け止められたが、すぐさま脇差を手放して装備を変更。
俺はその場で背中から倒れ込みながら、勢いよく地面に〖メイス〗を叩きつけ〖重力場〗を発動させた。
茶白のメイス《動作阻害された敵は守り三種低下(大)》
オークを地面へと押えつけるが、肩から2つの【腕】が出現すると、それを使って身体を起こす。
俺も起き上がって姿勢を整える。
【右肩の腕】が俺へと伸びてきたが、〖盾〗の突風で勢いを弱めてから、タイミングを合わせて弾き落す。
【左肩の腕】も続けてくるけれど、そっちは横に飛んで避けた。
「やっぱ来るよな!」
逃げた先を狙って【包丁】を振り下ろして来たけれど、予想をしていたので〖メイス〗で受け止める。
茶白のメイス《攻撃時に確率で身体強化(中)・振るたびにHP大回復》
身体が赤く光った。運は俺に味方しているようだが、それでも筋力は太志のほうが上のようで、【包丁】に押し込まれた。
側面からもう片方の腕で殴り飛ばされる。大きくHP減少。
上半身を起こすと、オークの片腕が黒いエフェクトで再び【巨大化】していた。
迷っている暇はなく、〖青鎖〗を自分へと打ち込む。
「アドルフさん!」
両手持ちの〖メイス〗を杖がわりにして身体を起こすと、〖青き原罪〗が盾で【巨腕】を受け止める。
《青の原罪が攻撃を防ぐと自分に強の悪寒、7秒間原罪の性能強化(大)》
アドルフさんは【腕】に掴まれるも、引き寄せられまいと堪えていた。
しかしオークは引き寄せを中断し、【包丁】を頭上に掲げながら〖原罪〗に飛びかかる。
「させませんよ!」
私は〖メイス〗で【包丁】を受け止めると、敵に打ち込んでいた〖赤鎖〗を1つ解除。
新たに〖赤い滑車〗を太志の側面に出現させ、君の名を呼ぶ。
「今ですクレメンス君っ!」
青鎖《自分に使うと精神保護》
白鎖《精神安定強化》
赤鎖《自分に使うと戦意高揚》
〖金棒〗が振り下ろされるも、【肩から生えた腕】がその攻撃を受け止めた。
接触と同時に燃え上がり、私とオークを熱する。
「You who laugh at me, don't you realize you're being watched?」
「英語苦手なんだよ馬鹿野郎がぁ!」
寒さと熱さに耐えながら、両手に力を込めて【包丁】を押し返し、オークの脛を靴の先で蹴る。
多少は姿勢を崩せたが、もう片方の【肩腕】が拳を握りしめ、こちらに迫る。
「すんません」
アドルフさんが【巨腕】を払いのけ、その攻撃を防いでくれた。
俺は相手の左腕に〖咎人のメイス〗を振り下ろすが、包丁を握る側の前腕で受け止められる。
だがその隙に〖赤き原罪〗が回り込み、燃え滾る〖金棒〗をオークの膝裏へと減り込ませた。
巨体は片膝をついたけれど、まだだ。
「アドルフさん、包丁を狙ってください!」
させまいと【肩腕】が邪魔に入るが、それを〖氷の盾〗で滑り退ける。
続けて〖氷の剣〗を右腕へと差し込めば、その部位が凍りつく。
俺は太志に背中を向けると、振り返りながら側頭部へ〖メイス〗を激突させた。
HP0。
「団長殿!」
白鎖《鎖解除でデバフの治癒をすると、自分と味方の身体強化(中)》
2人が滑車へと戻った。
「A hero bound by fate」
「お前を喰うのは俺だっ!」
〖黄と白の鎖〗をオークに放ちながら、【肩腕】を掻い潜ってメイスを振るう。
「Will you be bound by your mission and give up everything?」
「黙れ!」
戦意が、気力が満ちていく。
「You're free now」
力が漲る。
「My friend」
心が燃える。
・・
・・
なにを言ってんのかさっぱりだけど、太志が戦いよりも、俺に語り掛けることを優先させているのだけは伝わった。
戦いを終えて現世のグラウンドに戻る。
「お前どこ行ってたんだよ」
「すまんすまん、ちっと便所が長引いちまった」
俺と隆明のロケットは片づけられていたが、太志はもう一度発射を試みていた。
その後、満足いくまで太志に付き合ってから、俺らは職員室に寄る。
「先生、ありがとでーす」
「どもした」
「ありがとうございました」
先生は自分のデスクから離れると、こちらに歩み寄り。
「はいはい、暑い中お疲れさま」
俺らは確かに女子が相手だと緊張しちゃうけど、たぶん隆明も太志も同年代って感じなんだろうな。
先生に対しては緊張も薄いようだ。
「そう言えば浦部君、おじさんは帰ってきてるの?」
「いやぁ、今ごろどこで何してるか。下手すりゃ日本にいないかも知れねえっすよ」
まさに自由人っていうか、なにしてるかも知らんけど、あの人は色んなところを動き回ってる。
「そっかぁ、帰って来てたなら挨拶したかったんだけど」
「今じゃ信じられないけど、もと教師なんでしたっけ?」
以前そんな話を先生から聞いたことがある。
「そうそう、私これでも教え子だったのよ」
中学時代の担任だったらしい。
「何時になるかわからんけど、顔出せって言っときますね」
「お願いね」
イメージからすると体育教師だけど、歴史とかが好きだから、日本や世界中を飛び回ってんのかな。
帰り道、ふと思った。
「神崎さん怒るかな」
どうしよ。
太志戦を入れる場面がここしかないなと考えた結果、6章の最後に入れさせてもらいました。
あまり執筆進んでないのですが、とりあえず出来てるところまで投稿しようと思います。7章はたぶん5か6話くらいだと思います。
現在4話まで終わってます。




