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そこに居たはずの誰かへ  作者: 作者でしゅ
六章 楽しい夏休み後編
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7話 お盆

 お盆になると我が家に親戚があつまる。と言っても父の兄は結婚しておらず、妹さんが小学生の子供を連れてくるくらい。

 もっと多ければ、たぶん夜勤入れて逃げていたというのが母の言葉だ。


 我が家の外には蝋燭型の電球が入った提灯が吊るされており、机の上には仏壇の中身をだしてナスやキュウリの馬とかを飾っている。精霊馬っていうんだっけか。


 俺が幼稚園とか小学校のころは、爺さん婆さんの兄弟も顔を出してたけど、今じゃ寂しくなったもんだね。

 従妹のガキどもは姉ちゃんに対しては大人しいが、なぜか吟次さんのことを同列とみているようで解せん。


 とりあえず一緒にゲームしたり、外で遊んだりしていたので、活動はできませんでした。ぜったい俺が捕まえた蝉の方がでかいよ。


 そんな彼らが帰宅すると、両親は母の実家へ顔を見せに出かけた。

 少し前に帰省していた姉が、台所でアイスを食べていた俺に話しかけてくる。


「墓参り行くから、あんたちょっと付き合いな」


「へい」


 姉ちゃんは帰って来るのちょっと遅かったので、それ以外の家族は祖父母への挨拶を終えている。


「それが終わったら、会わせたい人がいるから」


「へえ、誰だろう」


 すでに免許をもっているので、家に残っていた母の車で菩提寺に向かう。


「彰吾先輩?」


「ご両親とまだちょっとギクシャクしてるみたいでね、一緒に帰ろうって言ったんだけど、お盆とずらして行くって聞かないのよ。たぶん今年は帰らないつもりよあれ」


 進路を京都に決めたことか。東京であれば日帰りも可能なんだけど、あっちとなれば出来んことはないけど厳しいスケジュールになる。

 そして大学卒業後ってのは故郷にもどる人は少ない。


「一つ言っておくけど、あんただけの責任じゃないからね。私や彰吾も同じよ」


「俺さ、かなり無理な検証を色々してたろ。例えば死亡後も再生して蘇生するとか」


 雪谷雫さんが迷い人になった理由。


「確かにあの攻略本を見てれば、気づくかも知れんね」


「そんな無茶する性格とは思えないんだけどさ」


 映世という遊び場に触れて。


「ゲームだゲームだ言ってたけど、本心じゃ本気で人々を救おうとしてたのは間違いない」


 自分は特別な人間だ。選ばれたからにはやらなくては。


「中学卒業した頃はすっかり無気力になってたのに、こうやって私自身が映世で活動する前から、その豹変ぶりに違和感を感じてたもの」


 姉も彰吾さんも迷い人になって、俺が。俺らが助けたってことか。


「自分はなにも成せない人間だって諦めてたところに、映世なんて世界が舞い降りたんだ。たぶん中二病が再発したんだろうな」


「このままだとあんたはニートになるってさ、雫ちゃん心配して勉強とか無理やりさせてたわけだけど、なんかに目覚めちゃった誰かさんにずっと戸惑ってた」


 時に自分の死すらいとわず、使命に燃えた中二病患者。大切に思ってくれてたなら、そりゃ心配もするわ。


「同い年ってことで良いんでしょうか。あと関係性はただの幼馴染なんで?」


「あんたの同級生よ。私から見れば世話のかかる弟の面倒をみてるって感じだったけど、雫ちゃんの気持ちや本音までは把握してないし、ここで言うべきことでもないでしょ」


 恋人ではなかったようだ。


「あんたは今くらいが丁度いい。これだけは自信を持って言える、だから自信を持ちなさい」


 俺が俺のままであれば。


・・

・・


 顔見知りの住職さんは副業だか所用でおらず、奥さんに挨拶してから二人で浦部家の墓を目指す。

 寺の裏手にある鬱蒼とした竹林、狭い道をのぼった先。


 橋向こうには道路があり、寺に寄らなければそっちに車を止めれるスペースもある。

 戒名の板。塔婆っていうんだっけか、それが幾つか立てかけられているんだけど、俺らは顔も知らない血縁者だね。


 祖父母のは比較的に新しいのでわかるけど、どっちが爺さんか婆さんかの判別は付かない。

 お掃除は前にやったので今回は線香だけだ。花もまだ新しいため、水の交換だけしました。


 俺も姉も正しい礼儀作法なん知らないけど、一通りのやるべきことを終える。


「雪谷さんのとこにも挨拶するよ。雫ちゃんを守ってもらえるようお願いしないと」


「そうっすね」


 ケンちゃんちのお墓は、もうちょっと高い位置まで移動しないとダメだ。

 苔むした木があり、季節になれば沢の近くに彼岸花が咲く。そんな場所に雪谷家の墓はあった。


「かなり遠いけど、血縁でもあるってお爺ちゃんから聞いたことあるから、我が家とも繋がりのある家系よ」


「そうなんすか」


 何代前の話なんだろう。


「だから怖がる必要なんてないでしょ」


「……」


 ここも前回訪れており、家族と挨拶は済ませていたけれど、俺はなんか申し訳なくて入ることができなかった。

 覚悟を決めて姉の後に続き、石材の外柵内部に足を踏みいった。


「はい」


 火のついた線香を渡されたので、その場にしゃがだのち、お供えをしてから両手を合わせた。

 謝罪はしない。

 だって記憶がないのに、いなくなった相手が誰かも知らんのに、そんな状態で謝っても失礼かなって。


 力の限り手は尽くす。もし今年は駄目でも、身体が動くうちは挑戦を続けると伝えた。


「さて、それじゃ行きましょうか」


 姉もすべきことを終え、その場から立ち上がる。


「あんたに会わせたい人がいるのよ」


「ん?」


 そういやんな事いってたか。


「いいからついて来な」


 俺は雪谷家に一礼をして墓を後にした。


・・

・・


 墓所に通じる橋。そこに一人の男性が立っていると気づく。

 姉が俺に視線を向け。


「私たちの協力者よ」


「……まじか」


 一方的に知っている相手だった。


「始めましてってことで良いんかな」


 40代前後の見た目で、たしかその通りの年齢だったはず。


「三好さんですよね?」


 高級スーツに身を包んでいるわけでもなければ、駐車スペースに止まっているのも高級車じゃない。

 Tシャツに半パン。そして足もとは草履。


「そうそう弟のほうね。あえてこう言わせてもらうよ、久しぶり元気にしてたかい」


 病気療養中。行方不明。迷い人となり映世で出現したのは、去年は住宅街だったそうだし、想い出のボロアパートってことか。


「新しく設立された部署」


「正式には子会社なんだけどね。今は俺が社長さんやってる、表向きには各病院とか訪問して、どんくらい精神患者さんいるか聞いたりしてるよ」


 精神を病む人が減っているとの現象が事実か調べ、同じ目的をもった大学と協力をしながら原因を探る。


「実際は映世での活動をサポートしてる感じだね。前世が薬師や錬金術師だったみたいで、自分で自分を救えた」


 巻島さんと似た事情か。


「異世界の薬って、こっちより進んでるんすか?」


「まず地球じゃ手に入らない材料があってさ、それを姿見ショップで買えたりすんね。んで手鏡に〖調薬〗や〖錬金〗ってのがあるから、作り方もファンタジー要素なんだわ」


 助けられた時。手鏡に姿見から素材を購入できるってメッセージがあり、そこから三好さんは問題の改善につながった。


「一儲け狙ったりしないんすか?」


「無理無理、量産できる仕組みになってないんだ。上手いこと考えてるよ、金はあっても時間が足りない」


 完成までに○○分かかりますってな奴か。


「換金画面に凄いの売ってませんでしたか、エネルギー発する素材とか」


「そんなおっかないこと出来ねえ、国はともかく外国に潰されちまう。あと多分だけどさ、利益だけを追求するような性格だったら、俺は選ばれてなかったんじゃないかな」


 映世を金儲けの道具にしか捉えない人。

 俺が今まで仲間にしてきた連中に、問題のある性格は恐らくいない。自分はどうなのかと聞かれたら困るけど。


「覚えてないだろうけど、あんた以前も三好さんと同じ話してたのよ」


 二人は楽しそうに笑っていた。


「俺と兄さんだけじゃ、なんとも動けん。うちってまだまだ弱いからね、映世と同じくらい怖い化け物が一杯いるのさ、簡単に呑まれて奪われちまうよ」


 立ち話もなんだから、座れるところに行こうと誘われる。


・・

・・


 俺と姉は母の車にもどり、いったん橋の駐車スペースに向かう。


「カーナビに場所入ってると思いますけど、念のためついて来てください」


「はーい」


 どっかカフェにでも行くのか。ここら辺じゃ廃校くらいしかないなと思っていたら。


「家なんすね」


「だって許可証とか貰わなきゃでしょ、あとスキル玉だっけ?」


 庭に車を止めると、後を追ってきた三好さんの軽自動車も、姉に案内されて停車する。


「じゃあさっそくお邪魔させていただきますよ。早速で悪いけどさ、これで許可証と実物を一つずつ用意してもらえるかい?」


 封筒に入ったお金を貰う。普段はビー玉ポイントでやりくりしてっから、この厚さは初体験だ。


「了解しました」


「すまんね」


 俺は一足先に自宅へ入り、部屋の姿見からショップを開く。


 売っているのは。


〔一点突破の武器〕 槍・細剣・突剣などから選べる。


〔無断の武器〕 鈍器などが主。


〔黒刃の武器〕 刀やサーベルとか、斬るのに特化したもの。


 これら3種の許可証を購入したのち、リュックから神崎さんに用意してもらった、〔夜光〕の許可証と短刀の実物を取りだす。


 あとスキル玉のもあったな。


 これにも実はランダム要素があったりする。

 〖攻猿〗ってスキルを15万で購入すると、稀に〖赤猿〗という召喚系に変化すると説明欄に書かれていた。

 他も〖青猿〗と〖白猿〗って感じだね。


 部屋のドアがノックされ。


「お邪魔します」


「どうしたん、すぐ持って降りるよ?」


 その前に確かめることがあるとのことで、姉ちゃんは姿見の前に立ち、それの操作を始めた。


「あんたの姿見でも、私の画面が映るのよ。許可証を投入できるか確認させて」


「なるほど」


 手に持った木札を姉に渡し登録を試みる。


「入ったわ」


「行けそうだね」


 姿見ショップに〔無断の武器〕が追加されたので、残りも続けて登録していく。


「うおぉ ビー玉ポイントの数値すご」


「でも行きつく先はあんたらの方が上よ、これ見てみなさい」


 そう言って操作した画面を覗くと、そこにはレベル1にしますかとのメッセージが表示されていた。

 追加要素の説明が続いており、〔アクセサリー〕のことも記入されているし、各スキルの変更点も説明されてる。


「現状だと私や彰吾のスキルって、冷却が短くなったとか効果範囲が広くなった程度なのよ。それにレベルも頭打ちね」


「シーズン制ってことか」


 レベル1から始めれば、有利な要素が色々と追加される。


「原罪だっけ? もともと咎人のメイスには召喚なんてなかったのよ」


 俺の〖鎖〗も敵か味方かは選択式だったらしい。


「だからもし今年の作戦に失敗すれば、私らはこれをタップする予定」


「そうか」


 一通りの作業をすませ、俺らは部屋を後にする。


・・

・・


 居間にもどると三好さんは麦茶を飲んでいた。


「すまないね、先にゆっくりさせてもらってるよ」


 病み上がりだろうし、ここまで来るのも大変だったかも知れんな。


「〔短刀〕の実物です」


「ありがとう、こっちのお金も払うね。神崎さんだっけ、あとでお礼を頼むよ」


 まだ参加の意思は決まってないとのことで、三好さんも接触はしないと決めたようだ。


「手鏡からの装備も出来そうです」


「なら良かった。現在うちに所属してる全員が、強い前世とは限らないんだ」


「何人くらいいるんですか?」


 映世での活動が可能なのは20名弱らしい。そんでけっこうな割合で、もと引きこもりがいる。

 全員が正式な社員じゃなくて、協力者ってな感じの人も混ざっているんだと。


「しかし意図的なものを感じるな。君の仲間たちは総じて〔武具〕2つ持ちで、前世も強力ときた」


「ですね。迷い人だからといって、強力とは限らないってのは東京で感じました」


 確かにあの文官みたいな奴は厄介だったけど、これまで戦ってきた仲間の前世と比べれば弱かった。

 護衛付とかなら話は別だけど。


 なかには武器のない人もいるようで、その場合は自分にHPMPが設定されている。

 だとしても映世で活動できる総数が少ないんで貴重な戦力だよ。


「俺も戦闘向きじゃないし、知ってるかもだけどまだ身体も万全とはいえない」


 経験値は手鏡での作業でもらえ、レベルが上がると調合リストやショップの品も増えていくらしい。


「この〔武器〕や〖スキル玉〗があれば、その子らの強化もできそうだ」


 社員さんには基本給を払っているので、彼が装備でお金を出すのは許可証までとのこと。


「詩さんたちも強い相手とは戦ってるけど、こういった報酬は落ちなかったんだよ」


「ヤバイのは私や彰吾、あと高橋さんって人で対応するけど、多分あんたの言うシーズンってのに参加してない所為ね」


 俺らが強力な前世持ちを倒せば、そのスキルなどを宿した〔装備〕や玉を報酬として入手できる。


「それで、京都の攻略状態はどんな感じなんすか?」


「今は無理なのよ。4月ころはまだ雪も弱かったんだけど、夏に近づくほど強くなってる」


「冬に近づくとまた弱まるんじゃねって予想してるな」


 その吹雪ってのが気になってたんだ。


「雪谷雫さんが関係してるたりする?」


「ええ。彼女の前世が暴走した結果、今みたいになってるの」


「だがあの雪には封印の効果があるみたいでよ、本来京都にいた敵が出現しなくなったんだわ」


 姉から雫さんの選択スキルを教えてもらう。


 〖時空剣〗というのを扱えるようになる。疲労もなくて通常の戦闘にも組み込めるそうだ。


 〖氷の牢獄〗 本人が氷漬けになり、一帯が吹雪に覆われて徐々にHPダメを喰らわせる。味方は軽減。終了後はしばらく強の悪寒が続き、疲労(小)もつく。


「今の京都は〖牢獄〗が暴走してる状態なんすね」


 攻略本の目立つ場所に書かれていた、あの文章を思いだす。


「手鏡で事前に確認しないで、目を閉じるほうから侵入しちゃったんか?」


「数値はマイナス50だった。私らは35まで活動も進んでたのよ」


 転移先が大昔の京都だなんて予想してなくて、脱出可能な地点も全然見つからなかった。


 最高難度の京都に挑戦したけれど、あまりの鬼畜具合に精神が圧迫され、脱出すらままならず雫さんは前世に囚われた。


「ただ今は色々と違うじゃない、あんたが記憶を失ったお陰でね」


「当時は姿見ショップつっても俺のくらいで、曇り消しや修正テープもなかった」


 一通りの話を聞き。


「その吹雪が封印になってるとすりゃ、問題は救出に成功したあとか」


 京都の化け物が復活する。


「雫さんの弟君には、是非参加してもらいたい」


「不本意だけど、そうね」


 映世からの脱出。


「侵入した所の鏡が割れててね、あのとき私らは登録できなかったのよ」


 もし救出できたとして。彼女がHP0になった場合は、俺らのリスポーン地点に飛ばされるとは限らない。




前話の妹スキルですが、まだ障壁は合成してません。合成するとあんな感じになるって意味で加えました。

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