3話 東京での1日
夏の太陽が降り注ぐ街へと降り立ち、俺たちは最初の予定地へと足を運んでいた。
一際でっかいビルに入場し、まあまあな並び時間を耐えた先。
「すげぇな、小魚の群れか」
「ねえ兄ちゃん、なんで大きい魚が一匹だけ混ざってるの?」
「天敵じゃないか? これがいるから、イワシが綺麗に並んで渦を作ってるんだろ」
美味そうとか言いそうな奴は何処にもいない。
マキマキと神崎さんは別の水槽を見て。
「これ毒があるんだっけぇ」
「たしかそうじゃなかった。カサゴだったかな、でも美味しいんだっけ?」
あっ いらっしゃった。
皆さんそこまで詳しくないので、ゆっくりと眺めながら動いていく。
「なんかすごく奥域がありますよ」
「鏡とかあるんすかね?」
「照明を上手く使ってるんだな」
受け応えがさすがのイケメン。
俺はうす暗いスペースに足を踏みいれていた。
「クラゲ、えぇな」
小さな水槽に1か2じゃなくて、けっこう沢山いるクラゲたちの大水槽。
全個体が白く光っているので、たぶんHPMP系の能力だな。
「キレイですね」
美玖ちゃんの方が綺麗だよとは、俺じゃぁキモくて言えん。
水族館のお馴染み、チンアナゴなども堪能した。
そのまま見て回っていると、神崎さんが一方を指さし。
「ねえねえ、触れるんだって」
中庭みたいな陽の射した場所があり、そこでは浅い水槽に猫サメやら小判サメが泳いでいた。
「ストレス溜まんないのかね?」
「そう言えば人間じゃなくて、もとが動物の敵には遭遇したことないな」
ペットとかが影として出たことはない。
知性が高い生物の方が汚染されやすいとかだろうか。ちょっと分からん。動物園とかにいけば、もしかして出るんだろうか。
泳ぐペンギンを下からみれるところでは、皆で口をぽかんと開けていた。巻島さんは撮影可能かを確認しては記録係に精をだす。
一通り楽しんで、そろそろレストランで昼飯にしようという話になり、その前にトイレへ行った。
「こんな時に限って宮内くんときたら」
個室にこもってなにしてるのさ。
「ねえ君たちさ、どこから来たの。連絡先だけでも良いから交換してよ」
「良いじゃん良いじゃん、よきじゃんよきじゃん」
兄貴とパイセンは慣れてる様子だけど、美玖ちゃんは少し怖そうにしていた。我が妹によくも。
手鏡をとりだしてビー玉を外す。
あの男たちは味方。あの男たちは味方。
俺は前腕に意識を集中させ、その場に〖滑車〗をふたつ用意。いつもよりずっと薄いな。
その場から移動してから、〖鎖〗を両者へと放つ。
うん、無事に命中。
他のお客さんを巻き込まないよう、頃合いを見計らってから。
「〖巻き取り〗」
やはり敵だと認識してしまったようで、無理やり引き寄せられた二人は悪寒で背筋をぶるりと振るわせていた。現世だと弱体化されるのでたぶん大丈夫。
役目を終えたので滑車を消す。
俺は女の子たちから距離をとったまま。
「これで良し」
腕を組んでうんうんと満足していたら、マキシマの兄さんが駆け寄ってきて。
「あんたなにしてんの、さすがにやりすぎでしょ!」
「一般の人にはスキル見えませんよ」
薄くなってるので、目を凝らせば見れるかも。
「だとしてもダメなもんはダメ!」
急に後ろへと滑った男2人は、パフォーマンスだと勘違いされたのか、幾人かの観客に拍手をされていた。ムーンウォークとは違うか。
宮内が出てくるのを待ち、俺たちはすぐさまその場を後にする。
「浦部くんやりすぎぃ」
神崎さんは笑っていた。
「でもありがとうございました」
美玖ちゃんは安堵の様子。ならば俺は自分の行動に後悔はなし。
「すまんすまん」
「もう兄ちゃん」
やい宮内、お前は個室便所にこもって何してたんだ。
「マッチングアプリだけじゃなくて、実際にいるんすね」
「しかし水族館でナンパってあんま聞かないよな?」
「だからこれから遊ぼうとかなかったわけよ。女か家族かわからんけど、連れがいたんじゃない?」
連絡先だけでもか。
「でも行動力すげえな、とても真似できん」
「しなくて良いよぉ」
成功した実例があるからこそ、彼らはやってるんだろう。
なんだっけ、進路を塞いじゃいけない。触っちゃいけないとか色々あるんだっけ。なんか客引きみたいだな。
まあ彼女いる上でナンパとかしてんなら論外か。
・・
・・
当初の予定通り、水族館のレストランで昼飯にありつく。
「俺は海鮮丼を」
「ハンバーグかな。美玖はどうする?」
「私オムライスでいいや」
「シラス丼」
「ん~ イルカのカレーライス」
ごはんが海豚の形になってるやつか。
「食べ終わったら、お土産買わないとねぇ」
「もちろん」
「私もー」
「あまり買い過ぎるなよ、帰るの明日だぞ」
大きいのは送るから平気とのこと。本当にお土産好きだよね。
「アタシら水族館でたら店で買い物するけど、浦部はどうすんの?」
明日は活動で疲労のデメリットを受ける場合もある。
「今日のうちに買って送った方が良いかな、江戸切子」
「付き合おうか?」
ちょっとスマホで調べると、有名どころは江戸川区・墨田区・江東区か。
「いや、自分1人で行きますよ。宮内もナンパ避けで彼女らに同行した方が良いっしょ」
「大きな駅の工芸品店やデパートでも売ってるんじゃない?」
あっ そうか。
「じゃあ私ちょっと興味あるし、浦部さん1人じゃ心配なんで、近くの駅やデパート付き合いますよ」
少し不安だったんだ、ありがとう美玖ちゃん。
「助かります」
「これは借りですぜ旦那ぁ」
俺らは売ってそうな場所はないか、スマホで調べる。
すると皆に着信がきた。
「あっ ケンジくん今から始めるそうですね」
「大丈夫かな、危なくない?」
「もう真希ってば、今さらだよぉ」
「ちゃんと育ってるから大丈夫だ」
選択は雫さんのスキルで自ら戦うか、もしくは幻を召喚するかだった。
俺らは全員で手鏡を操作して、ケンちゃんに好きなのを使うよう送る。
「4つだし私のはなしかあ」
宮内とスキル似てるからな。
・・
・・
3人は街へと繰り出し、俺らはとある店へと向かった。
「電車乗らずにすんで良かったですね」
俺は人込みを歩くだけで精一杯なので、スマホを時々確認しながらも、美玖ちゃんに道案内をお願いすることになりました。
しばらく歩き、趣のある扉を開け、店内に足を踏み入れる。
「アンティークショップって感じですね」
外からの光が射しこむ棚に、それは置かれていた。
「わぁ、綺麗」
「これ丸ノコみたいなので削るんすよね。ちっとの力加減で割っちゃいそうだわ」
有名どころの店に行けば、実際に職人さんの工房があったりするけど、ここには流石にないか。
「やっぱ夫婦じゃ青と赤ですか?」
とりあえず万札2枚わたされているので。
「じゃあこの一番安いの」
「ダメですよ」
はい。すんません。
でも残ったお金が僕の懐に入るんだじょぉ。
「浦部さん選べます?」
俺のセンス。
「高校生になったころ、そろそろ服は自分で買いに行くと、親にお金を貰いました。そんで姉に言われたんです、もう絶対にあんたは選ぶな。今後も私かお母さんに任せろって」
紫・赤・ピンク・白・紺。たくさんの色が胸元で混じり合い、すごく独創的で格好良いTシャツだったんだけどな。
「はい分かりました。私が選びますね」
中心に一つ目が描かれてて、俺に買ってくれって訴えてきたんだ。
「これなんてどうです?」
「ふむ」
1つ8千円。
「なんの用途ですか」
「たぶん晩酌とかかな」
うーんと唸り。
「日本酒かな」
「焼酎もよく飲んでますが」
わかりましたと頷いて、美玖ちゃんは熟考に入る。
30分後。
店員に声を掛け、彼女が選んだ品をラッピングしてもらい、宅配で送ってもらうように用紙へ書き込む。購入後も少しの間は店内を見て回った。
・・
・・
宮内にメッセージを送り、現在地を教えてもらい合流。
美玖ちゃんはさっそく2人と混ざり、品々を物色し始めた。
「買うわけじゃないんだよね」
「そうだな」
俺も姉の買い物に付き合ったことが何度かあるので。
「買うつもりはあるんだよね」
「そうだな」
空は晴天なり。
「この店は何度目?」
「2度目だな」
早く新鮮な肉を食べたい。
「フレッシュミート」
「そうだな」
俺らは立ち尽くす。
・・
・・
帰宅ラッシュで込み合う前に、電車でホテルの最寄りに移動。
「あとちょっと遅れてたら重なってたぞ」
「もう兄ちゃんしつこい」
「そうだそうだぁ」
「ほらさっさと歩け」
下手なこと言えませんな。コインロッカーで荷物を回収して、巻島さんが選びに選んだ焼肉に向かう。
普通の食べ放題の店です。高級とかじゃない。
「ご予約の槙島さまですね。ではこちらへ」
お姉さんに案内された席につき、さっそくタンやらカルビやらを注文する。
「野菜もちゃんと頼めよ」
巻島さん絶対に長女でしょ。
トングで網に乗せていく。
「わーいお肉だぁ」
「はいこのピーマンはサトちゃんのね」
頬をぷっくりとふくらませ、箸を咥える。あら可愛い。
「それ共用でしょ、なにやってんの」
弾幕薄いぞ。
「ごめんなさーい」
焼けたお肉や野菜を端に避けるようだね。その箸はぜひ私めに。
「熱消毒~」
肉の油で燃え上がった火で箸を炙る。神崎さん、キャラこれ以上壊さんでください。
あぁこっちが素か。
「浦部ごはんどうする?」
「あとでカレー食うからまだ良いや」
焼くようの野菜、サラダやらデザートやらはバイキング形式になっている。ちなみにビビンバは注文しないとダメです。
タン塩にレモンを絞って。
「うまい」
続けて何枚か食べ、次はどれにしようかな。
この肉ちょっと嚙み切れない、まだ早かったか。新鮮すぎたな。
「映世での活動始めてから、ごはんの量とか気にしなくなったんで助かります」
「それねぇ」
「ホント って浦部、それまだ焼けてない。豚肉だよ」
「へい」
すんません。
「俺、ホルモン頼みたいんだけど」
「やだー 後にして兄ちゃん」
「ちょっと塩キャベツ取ってきますわ」
席を立つ。
「じゃあ私もホルモンに備えて、ちょっと箸休めを」
「このピーマンをまずは食べなさい」
ぶーと唇を揺らす。
・・
・・
皆で食後のデザートを食べていると。
「皆さん武器のお金集めてるんですよね?」
「私は違うよぉ。そういえば3人共どのくらいなの」
「自分は45万くらいっすね」
「私はもうすぐ40に届くって感じ」
「槙島と同じく38万だな」
あまり高校生が口にだす数字じゃないが。
ちなみに神崎さんもこんくらいガチャに溶かしてます。
そのお陰もあって、以前よりも良いのゲットしているけど、この話をすると宮内の神引きを妬みだすので。
「偉いですね、私物とかに使わないで」
「下手にお金遣いが荒くなると、いけないバイトしているとか怪しまれちゃうじゃん」
「少なくとも高校を卒業するまでは、活動以外で使うのは避けようって話し合ったんだ」
「でも姿見ショップ欲しいのありすぎて、全然足りないもん」
映世での活動にハマるほど、他で使う余裕はなくなっていく。
現実のお金を使ってないから無課金になるのか。
でもビー玉ポイントは金に交換できるんだよな。
あれ、わけわかんなくなってきたぞ。
別にお酒も飲んでないし、間違えて注文したなんてこともない。空気にでも酔ったのか、心がフワフワするね。
楽しいわ。
「あんま遅くなると補導されちまうし、そろそろホテルに戻りましょう。俺ら送っていきますよ」
「名残惜しいけど、そろそろ明日に備えなきゃね」
「そうだな、行くか」
「はーい」
「今日、本当に楽しかったです」
俺がこんな一時を過ごせる日がくるとは。
・・
・・
カプセルホテルが良かったんだけど、母ちゃんに却下されて普通のビジネスホテルになった。
ちなみにヒロインと同部屋だ。
「どう宮内くん」
「使えるな」
洗面所の鏡にはショップの画面が映っていた。
「これを知れただけでも大きいな」
出発前にも色々と教えてもらっている。
敗北時のデメリットだけど、こっちで決めれるらしい。
ビー玉の出現率を増やすかわりとして、HP0になってリスポーン地点にもどった場合。
翌日まで、どれか1つのスキルが使えなくなる。
2日間、総HP減少(中)。
登録した鏡とは別の地点に送られる。
まあこんな感じだそうだ。
今日は東京を歩き回ったけど、人が多い所は全部マイナス10以上。
「都会は昼間の住宅街とかがお勧めだってよ」
板橋区とか。
「でも予定通り行くんだろ?」
「もしあそこがダメなら、住宅街って皆に送っとくよ」
神社仏閣。あそこしか俺の浅い知識じゃ思いつかなかった。
スカイツリーのおひざ元。
「じゃあ早速だから宮内君、例のあれやってみるかい?」
「……そうだな、いつかはやらんと」
唾を飲み込んだのが分かった。
ランダム合成。
《素早さに比例して身体強化・素早さ関係低下(中)》
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・・
結果としては明日の活動で、もっと良いの入手できるさと励ますことになった。
「これで神崎に僻まれなくなると考えれば、まあ儲けものか」
「諦めなければ、もうそれはゲットしているのと同義さ」
だなっと笑みを見せるが、落ち込みは隠せんよな。
よくわかるよ宮内君。
「俺も付き合うか」
ベルトの収納から、バット付のやつで良いのを探す。
《熱感が弱から始まり、徐々に強まっていく・解除後に身体能力低下(小)》
青と赤は弱か並か運だったけど、これがあれば後半は確実に並となる。
「無理しなくても良いんだぞ」
「せっかくの東京なんでね」
俺は知っているんだ、こういう時は上手くいって、逆に気まずい雰囲気になると。
その現象を利用させてもらおう。
原罪系の能力と合わせるか。
んじゃ、ぽちっとな。
「……ありゃぁ」
「なんか飲むか、奢ってやるよ」
予想が外れちまったい。
まじかぁ。
まじかぁぁ




