3話 ボス戦の土曜日
そんなこんなで勝負の土曜日を迎えました。
俺は自宅にて、攻略ノートや説明書の見直しをしていた。
社の鏡。または自室の姿見だけで使える機能がある。一年前に姉のお古をもらったんだけど、あんま使ってなかったから良かった。
敵から入手したビー玉。正式には宝玉と呼ぶらしいけど、不要なそれを換金できたりする。
日本や外国の紙幣や硬貨。または金や銀、それ以外の価値ある物とも交換可能。
良く解らんが、エネルギーに変換できる素材なんてのも一覧にはあったが、なんか怖いので触れてない。
最初知った時はこれで生活できんじゃねって喜んだが、現実はそうも甘くない。正直、壊れた手鏡の補充で一杯いっぱいだった。
金は1グラムから可能で17000円。とてもじゃないが、そんな数のビー玉は稼げない。
銀ならいけるかもね。
だいたいよ、もしこの活動で生活するとなれば、なんか税金とか難しいこと考えなきゃいけなくなるんじゃ。この金はどうやって稼いだのか聞かれても困るじゃない。
俺のような小物はさ、趣味や小遣い稼ぎくらいに止めておくべきよ。
それはさておき、このたび新たな課金要素が追加されてしまった。
「やっぱどっちにも書いてないかぁ」
ビー玉は基本2つの能力が入るんだけど、中には一つしかついてない場合もある。
あとバット効果とかね。
「ランダム合成か」
合成するビー玉によって値段に違いがあるので、質が良くなってくれば費用も増えていくだろう。
一定額お金に変換したことで、要素が解放されたのだと思われるため、もしかすると今後も追加される可能性があった。
「……お金が」
痛い出費だったが、一応準備は整った.
そして今週の成果がこれだ。
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〔咎人の腕輪〕 スキル枠2
〖青の鎖(敵)〗
腕輪自分専用。
最大数2。
HP耐久、装備性能、防御力低下(小)。
命中位置に弱の悪寒。
秒数経過で解除。
MP徐々に消耗(中)
ソケット枠2
《命中位置が凍り動作阻害(MP消費量小増加)・MP吸収(小)》
《他色の鎖と一緒に使える・MP消費減少(極小)》
〖白の鎖(敵)〗
腕輪自分専用。
最大数2(+1)。
命中した敵のHP(小)・MP(小)を吸収。
徐々にMP消費(小)。
命中時確率で弱の視界不良。
秒数経過で解除。
鎖ごとに冷却25秒
ソケット枠2
《HP吸収量小増加・滑車追加+1》
《味方に使うと自分も回復・MP吸収小増加》
〔自分〕 スキル枠2
〖咎人のメイス〗
自分専用。
両手の腕輪が鎖で繋がれ、メイスが両手持ちに1分間変化。
セットされている鎖スキルを全て自らに打ち込める。
終了時に疲労(大)→(中)。
ソケット1
《形状変化後、8秒間身体強化(小)増加・形状変化終了時の疲労を(中)にする》
〖赤の鎖(敵)〗
腕輪自分専用。
最大数1。
身体能力低下。
命中位置に弱の熱感。
時間の経過で解除。
徐々にMP消費(中)
ソケット1
《味方の身体強化量小増加・自分に使うと命中位置に弱の熱感》
〔メイス〕 スキル枠1
〖聖職者のオーラ〗
全部位使用可能。パッシブ
攻撃命中時にHP回復(小)
身体強化(小)
ソケット2
《得物を振るとHP回復(極小)・命中時にMP回復(小)》
《精神保護・一定範囲の味方にも効果あり》
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バット効果やソロだと意味のないやつも混じってるけど、そこら辺は御愛嬌だ。
それと一方しか覚えられない発生スキルもあるみたいで、現在絶賛悩み中です。
振り直しができりゃ良いんだけど。
〖滑車破壊〗 滑車を破壊すると、敵のHPを減少させる。MP消費(大)。冷却15秒。
〖巻き取り〗 任意の鎖を巻き取り、こちらに引き寄せる。大型は姿勢を崩すのみ。MP消費(大)。冷却時間20秒。敵味方を含め、各鎖スキルの継続秒数が伸びる。
同一個体に複数の鎖を打ち込んでいても、引き寄せられるのは一方面だけ。
これらはスキル枠にセットする必要はなく、全ての〖鎖〗スキルに追加される効果だ。
「攻略本仕事しろよぉ」
まあしゃあない。追々決めよう。
「宮内助けに行かんとな」
上手いこといけば、仲間になってくれるかも知れん。仲良くできるかは俺のコミュ力次第だな、まあ宮内なら大丈夫か。
ボスとなればスキルだって使ってくるかも知れん。絶対ってわけじゃないが、色でどんな効果かを予想することも可能なんだそうだ。
青は守り。赤は攻め。白はHPMPと心。黄はスタミナと素早。茶は重量。銀はHP。黒は心と浸食(敵のバフを弱体・消すなど)。
青は水氷時。赤は火。白は光。黄は雷。茶は土。銀は時空。黒は闇。
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自転車に乗って10分ほどの距離に駅がある。学校周辺に比べると、ここらは田舎だね。
ただけっこう前に合併したから、村でなく町ではあるんだけど。
バスでも良いが俺ん家からだと駅の方が近い。ていうか駅にバス停がある。
まあどちらも本数が少ないんだけどね。
電車に揺られること25分ほど。学校の最寄り駅にて、思わぬ人物と遭遇する。
「あれ、浦部だっけ?」
振り返ればギャルがいた。おいおい、面識ほとんどないのに呼び捨てかよ。
「どもっ 巻島さんですよね」
髪の毛も一段とまっきまきじゃないか。服装も派手ながら良く似合ってる。
ちなみに服の種類とか解らんからな。オシャレ雑誌すら買った経験のない人間を舐めんな。
「そうそう槙島真希」
名前まで巻きまきっすね。
「これから学校?」
俺ジャージだからな。休日に制服は着たくないし、だからといって私服で学校にも行きたくない。
「へい」
「あれ、部活入ってたっけ。にしては重役か」
もう昼まわってるしな。
「いやっ その。図書館で勉強しようと思って、家だと中々」
「おうおうマジメ君だねぇ」
とりあえず苦笑いを浮かべ。
「まあ……成績あんま良くないんすよ」
「あっ そうなんだ。アタシも友達いなきゃもっとやばかったかも」
神崎さん学年トップだもんな。ちなみに2位もしょっちゅう同じ奴なんだけど、名前は忘れた。
「私は家族の用事でお出かけ」
「そうなんすね」
勉強頑張れよと有難いお言葉をもらって別れる。
そういえば学校に許可をどうこうって話を以前していたが、なんか家庭の事情でもあんのかね。普段あんま詮索とかしないけど、精神の負担に繋がりそうな物事は把握しときたいからな。
通学路の道中に野球部のグラウンドはない。テニス部のコートは学校の敷地内にあるが、どうやら名物の坂をダッシュ中のようだ。
駄菓子屋を曲がった先。俺もえっちらおっちらと坂をあがれば、少しして学校に到着する。
「あー やっとついた」
正門を潜って校舎の前を進み、横目で校庭を見下ろせば、今日もサッカー部の連中が青春の汗を流していた。
監督の先生だけでなく、OBなのかコーチも何人か伺える。
「サポートする側って選択も考えてたんだろうな」
女子マネージャーからすれば大喜びなはず。
彼は成績も良いし、生徒会とかも狙えると思う。
下駄箱で靴を履き替えるが、シューズはビニール袋に入れて持ち運ぶ。
なんせボス戦の地は校庭。映世の物がそのままあるとは限らないし、下手すりゃ中履きで帰ることになりかねない。
まずは図書館に向かう。
「すまんな宮内。もうちっと待ってくれ」
とりあえず、夕方までは勉強さ。
誰かに言われたわけじゃないが、やばいのは確かだ。
「俺も真面目になったもんだ」
両親は宿題をやれだけで、それ以上の勉強をしろとはあまり言わない人たちだ。
誰も言ってくれないのだから、自分からやるしかない。
楽器の演奏をBGMに勉強を始めた。
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・・
世界の一部では戦争をしているが、まあ今のとこ平和な世の中でいいだろう。
人口は増え続けており、それを減らそうと企む組織があるのだと唱える陰謀論。ディープなんちゃらや、グランドなんとかだっけ?
陰謀論者なんて比喩されたりもするけど、中には本気で調べた結果そういう可能性があるって結論だした人もいるから、一概に全否定もしちゃだめだけど。俺にはなんとも言えんね。
平和はいつか限界がくる。だとすりゃ人の存在が消えるこの現象を、どう受け止めるべきか。
ただ俺はあくまでも一般人で、一般的な価値観しかもっちゃいない。そして一般の道徳感情の持ち主でもある。
夕方になり、今は演奏もいったん止まっている。外からは生徒やコーチ陣の声が聞こえた。
一階のトイレに入り、個室でリュックから鏡を取りだす。
「買っちゃったんだよな」
漆塗りの高級品で、保護ケース付きのメイドイン京都製。
これまで貯めてきたお年玉から1万の出費さ。家のなかや姉ちゃんの部屋で良いのないか漁ったんだけど、残念ながら立派な鏡はなかった。
「京都ねえ」
縁も所縁もないのに、なんでそっちの大学選んだんだろ。
「彰吾先輩の関係か」
まっ 仲良いようで結構じゃないか。
リュックを背負い直す。自分の身体から離れていると、向こうへは持ち込めない。
また向こうの物は基本、ビー玉などの報酬以外はこちらへも移せず。
そしてあっちの食べ物を口にすると、かならず嘔吐するので絶対に食べるな。
靴をシューズに履き替える。
「行くとしますかね」
映世に移る方法は2つ。
鏡に触れて目をつむり、鏡の向こうを意識する。
鏡面をスワイプして専用画面を映し、映世へ行きますかの文字をタップ。
もし移動先が上級向けであれば、注意喚起が追加されるとのことだった。
目を閉じる方法だと、場所によっては知らずに上級マップへ案内されちまう。
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映世で建物を壊したりすると、現世では一見だと問題ないけれど、その部位が脆くなったりする。
今のところ壁とか壊すような敵はいないけど、普通に机や椅子がひん曲がったりはするので、こういうのはやらないといかん。
だから手鏡を操作して画面を映し、MPまたはお金(不要なビー玉)を消費して、そういった表裏の不具合を改善させなくてはいけない。
MPは応急処置で時間が経つとまた脆くなってしまう。ちゃんと直すにはお金を出さなきゃならん。
「異常なしっと」
もし自分以外に映世で活動できる人がいて、修復せずに帰還してたりすれば、この画面に変化がでる可能性もあるはず。
準備を終え個室便所からでると、洗面所の鏡を確認する。
「セーフゾーン発見っと」
割れてない一定の大きさがある鏡。トイレの中は安全地帯だと考えて良い。
あと上級者向けの場所だと、手鏡からの脱出ができなくなる。
清んだ鏡は脱出可能。セーフゾーン。リスポーン地点。
曇り鏡は脱出不可。セーフゾーン。リスポーン地点。
割れた鏡は効果なし。
上級向けだと自動脱出は近場か登録した鏡。要はリスポーン地点ってのに飛ばされる。
だから学校や鏡社から距離のある場所で活動する時は、絶対にちゃんと確認してから映世に入るよう、攻略本には目立つ場所にデカデカと書かれていた。
説明書にも簡単には書かれていたけど、こういう詳しい内容はやっぱ助かるな。癖で楽な方ばかりでやりがちだし。
「気をつけんとね」
とりあえずリュックはここに置いておこう。
ウエストポーチを腰に巻く。
「さてと、行きますかね」
トイレから出れば、そこには見覚えのある空間が広がっていた。
「げっ 職員室かよ。まあちょうど良いか」
正面玄関に行くのは面倒なので、ここから外に出る。
赤く燃える夕焼けの校庭には、見上げるほどの大鳥居。
校舎にそって歩き、階段から下る。
宮内はまだゴールの方を眺めたまま。
オーバーワークによる故障じゃない。公式試合での接触が原因と聞く。
1年の頃、松葉杖で登校してきた日にゃ俺も驚いたもんだ。
リハビリやらで頑張っていたみたいだけど、普通に歩く分には問題ないが、思うように走れなくなった。
優秀ではあるけれど、注目株というほどの選手じゃない。むしろスポーツ以外の分野に進んだ方が活躍の機会は多い気もする。
ただ幼少のころから今日まで。彼にとっては掛け替えのない人生の一部だった。
「待たせたな。宮内君」
想い悩み、精神を消耗して、この世界に迷い込むほどに。
騎士っぽい誰かが、ゴールからこちらへと視線を移す。