1話 ボクのなつやすみ
検証の結果としては、ケンちゃんの手鏡から引き揚げてもらうにも、現世と映世であまりに離れすぎると無理だった。
でも彼の手鏡には〖分鏡〗セット者が映世の何処にいるかを、現世からでも光の点で確認できる機能があった。某有名漫画の玉を感知するレーダーみたいな感じ。
その日の夜。
『はじめまして、雪谷健司です』
『槙島真希でーす、よろしくね』
可愛いスタンプ付き。
『ケンちゃん休み中どんくらい活動できそうだ?』
学校が始まる前には、できるだけ強化しておきたい。
『大会がもうすぐあるんだ』
それが終われば部活も自由参加になるらしいので、本格的にレベル上げを始めるらしい。
『サッカーは全国大会が7月下旬から8月2日で開催される』
宮内君も県代表の試合をネット配信だかテレビだかで観戦したいとのこと。サッカー部の友人と一緒に応援するのかね。荒木場頑張れ。
『健司君は試合かあ、頑張ってね』
美玖ちゃんが送った変キャラのファイト!スタンプに、感謝のスタンプを返すケンちゃん。君もスタンプを持っているのか。
ちょっと羨ましいが、買うとなるとやはり悩む。
『猛暑の中大変だぁ』
『本当にね、アタシら映世の活動でもキツイのにさ』
夏場でも30度前後だから、現世よりは快適だったりする。まあ熱中症の危険は十分にあるんだけど。
『お盆に姉が帰郷するんで、それまでに東京遠征を済ませたいっす』
『うちらは夏休みでも、土日は避けたいかな』
『金曜日も夜は混むんじゃないか』
『狙い目ではあるらしいんすけどね、遊ぶじゃ向いてないか』
働いてる人は大変だな。
『じゃあ5・6とかどうでしょ』
『そだねぇ、私は問題ないよ』
『OK、そこはシフト入れません。宮内は火曜だけど行けんの?』
『俺も大丈夫だ、さすがに休ませてもらうよ』
『すっごく楽しみです!』
『羨ましいなあ』
そりゃケンちゃん置いてけぼりだもんな。流石に中学生を東京遠征に参加させるのは難しい、1泊2日だし。
冬休みはおじさんおばさんに無理を言ってでも、お願いするつもりではいる。参戦させるんじゃなく、脱出のサポートでな。
『健司君にはアタシらがお土産を買ってきてあげよう』
『スキルも一部使えるビー玉があるし、楽しみにしててくれ』
ある意味、これがケンちゃん最大の強みかも知れん。
『任せて、絶対(極大)ゲットするんだから!』
『それは神崎が使うだろ』
『はい、楽しみにしてます。俺もソロで無理せずやってみよ』
美玖ちゃんが閃いた とのスタンプを押し。
『私たち1日目は観光するので、ここで言ってくれたら分鏡セットしとくよ』
健司が活動する時は、不参加の人に〖分鏡〗を使ってもらう予定だ。
『じゃあそうさせてもらいます。皆さんの高校周辺で活動しようかな』
『大丈夫? 地元のほうが良いんじゃない?』
巻島さんは神崎さんの時もソロは反対してたもんな。
『大会が終わったら、学校周辺でも活動できるくらいには自分らで協力しましょう』
『私も東京で参戦できるくらいには強くなっておきたいです』
夏休み中だから、活動も普段よりかなり捗るはず。
『ホテルの予約は各親に頼むとして、移動手段はどうする?』
『早いのは電車だけど、特急やら使えば結構お金かかるよねぇ』
『ちっと調べてみたけど、高速バスの方が安いっすね。でも県内の何ヵ所で客乗せっから、電車よりも到着が遅くなっちまう』
移動手段は活動費から出すとしても、俺らはショップで武器を買うために金策中だ。
どっちにするか話し合うのも、なんやかんやで楽しかった。ケンちゃんが羨ましそうだったけど。
『みんな親からお小遣いもらえそう? 私は今パパを落としてる最中でーす』
『俺は美玖のお零れをもらえそうだ』
『兄ちゃん感謝するように』
『アタシはバイト代から、あんま無理言えないもん』
マキマキの返答を受け、神崎さんが恥ずかしいと顔を隠すスタンプを押す。
美玖ちゃんは反省猿のやつだ。
『あっ なんかごめん』
余計なことを言ってしまったという感じか。こういう気づかいできるマキマキは素敵よね。
『俺、親に江戸切子買ってこいって金渡されたんだけど、これ使っちゃおうかな』
ネットでも買えるじゃん。
『ダメに決まってるでしょ!』
巻島さんに怒られてしまった。
・・
・・
翌朝。神社まで向かい昨日仕掛けた罠の確認に向かう。
「なんで適当だった太志のにいるんだよ」
立派なクワガタ。隆明のにはメスのカブトムシだ。
「……カナブン」
俺の虫かごにクワガタを入れ、隆明はメスのカブトムシっと。太志のは緑色に輝く綺麗なのだ、きっと喜ぶぞぉ。
神社の石段をくだって自宅に戻れば、ちょうどケンちゃんが家から出るところだった。
「おはようさん」
「あっ おはよ。なにそれ、虫かご?」
うなずきを返し。
「今度、高校のダチと虫相撲すんのよ」
「そっ そうなんだ。前から思ってたけど、ギン兄ちょっと変わってるとこあるよね」
自分は人とは違うってのはもう中学で卒業したんですよ。
「ケンちゃんは練習か、こんな朝早くから大変だな」
「もうすぐ大会だしね。でも本当いうと、部活より映世の方を優先させたいかな」
強制だから最初からやる気がうすいってのもあるけど、彼の場合はたとえ実感がなくても肉親が関係している。
「雫さんのこと考えるとな」
思うように進められないのは、ストレスになってたりするのだろうか。
「こんなことしてて良いのかって考えちゃうよね」
「俺が全部忘れて最初から始めてるのも、ある意味だと遠回りなんかも知れん。ただ焦らず攻略できてるのは確かだよ」
彼の場合、冬休みの本番も現世でのサポートをお願いするので、無理に活動する必要はないのではとも考えた。
「とりあえず大会が終わるまでには、すぐレベル上げできるようビー玉集めとくからな」
「ありがと」
上級から引き揚げるとなれば相応の時間がかかる。
これを短縮できるビー玉もあるはずなんだ。
ケンちゃんが活動する意味は大きい。
・・
・・
自宅に戻ると、さっそく成果をグループに写真つきで送る。
『ズルしてないだろうな浦部さんよぉ』
『そんなセコいことするわけないだろ』
『じゃあ明日の午前10時ころに神社でいいですかな?』
了解の返事をして、俺は映世で活動するため家を後にする。
今日はケンちゃん以外は全員集まれるから、うちの県で一番大きい駅で活動する予定だ。一通り回ったら町中だね。
あと宮内が近く定期受診で病院に行くので、その時に数値を測ってもらう予定だ。活動するかどうかは別として。
・・
・・
後日。太志は虫相撲にザリガニを持参しやがった。前捕まえたのは三人で試食会をしたので、わざわざまた一匹捕まえてきたらしい。
いくら何でもセコ過ぎるだろ
「ボクくん、これで最後だ。お前が勝ったら真の仲間だってみとめてやる」
「ラスボスですよボクくん」
蜂の巣つついて自宅にワープさせてやろうか。
「なに、○○山への道が解放されたりすんのか? それとも秘密基地の屋上にいけたり?」
やったね!
「なあ、お前らってペットボトルロケットって作ったことあるか」
「小学校のとき、工作で班ごとに制作しましたな」
「キットみたいなの買わんとダメだぞ、それに説明書もついてる」
ネットで売ってっかな。ホームセンターとかにもあるか。
「あのゲーム繋がりで、夏休みの終わりころに打ち上げるか」
「では僕らもやりましょうかね」
「一番飛ばした奴が優勝な」
賞品は金を出し合って、お菓子の詰め合わせを買うことになった。
「場所はどうすんだ?」
「うちの中学、公式試合終わったら部活も休みになるし、生徒もいないからそこでしよう」
先生いても顔見知りだし、お願いすりゃたぶん大丈夫だろう。
この章が終わりましたら、自分はしばらくお休み期間にはいります。
8話くらいです。




