6話 女子怖し
宮内からのメッセージによると、美玖ちゃんは活動に参加すると決めたそうだ。ただ地域のフットサルクラブが土日にあるらしく、どちらかは参加したいとのこと。
スマホのグループ画面。
『本当は帰り際に言うつもりでしたけど、それどころじゃなくちゃっちゃいまして』
新たに招待されていたようだ。
『やることにしたんすね』
『はい。浦部さんにそそのかされたので、やると決めました』
人聞きの悪い言い方をしないでください。
『おぉ美玖ちゃんマネじゃなくて、選手希望だったんだねぇ』
『学生から主婦さんまで色んな人が所属してるけど、ほぼ趣味なチームです。でもたまに県内や県外のクラブとも試合をするそうです』
働いてる人もいるから、土日が主な活動時間ってことか。
『じゃあ明日はクラブに参加かぁ。先輩として教えたかったんだけど、残念またこんどぉ』
しょんぼりのスタンプ。
神崎さんしょっぱなから学校周辺を案内しそう。鏡社は意味ないとかいって。
『月曜日に俺と鏡社向かうから、その時に説明書とかを渡すで良いか?』
『それで良いよ。ちょうど太志や隆明と俺んち周辺で遊ぶ予定だったからさ』
『えぇー 学校周辺で良いじゃん、本は帰りでさぁ』
こらこら、俺の予想通りな発言しないでください。
『すみません、怖いのでいきなりは無理です』
『よーし、じゃあ私も鏡社に行きまーす。宮内君はソロで遊んでても良いんだよぉ』
『いや流石にそれは兄としてだな』
ここで巻島さんがグループに気づき、既読と共に入ってきた。
『月曜はバイトだぁ』
稼ぎは一部家庭に入れてたりするんだろうか、それともお小遣いをなしにして自分でバイトしているのか。なんにせよ偉いな。
『ミクちゃん一緒にがんばろっ!』
『はい、仲良くしてくれると嬉しいです』
スタンプで握手を交わすお二人。
『明日の宮内はどうなん?』
『すまんが妹のクラブ初日だから付き添いたいんだ』
『もう過保護なんだから』
なんやかんや宮内もシスコンか。まあ当然だよね、もし俺に美玖ちゃんみたいな妹いたら、お兄ちゃんとんでもないことになっちゃうもん。
『じゃあ明日はアタシら三人で活動だね』
『はーい』
やばい、俺もう緊張してきた。
宮内がいない。ヒロインの癖に妹を優先させるとはけしからん、でも美玖ちゃんなら仕方がないので赦す。
『それじゃあ皆さん、これからよろしくお願いします』
ペコリと頭をさげたヘンテコなキャラのスタンプ。キモ可愛いという分類なのでしょうか。
二人も可愛いキャラでよろしくとの返答をした。
・・
・・
学校の正門で待っていると、小走りで駆け寄ってきた神崎さんが、自慢気に胸を張ってきた。
なんだいきなり。
「じゃーん、ついに買っちゃいましたぁ」
よく見るとそこにはブローチが装着されている。俺に見せたくて駅から走ってきたのか。
「おぉ、金策お疲れさまっす。それで内容のほどは」
機嫌は悪くなさそうなので、ひとまず安心。
「さあさあ受け取りたまえよ、浦部くん」
後から追いかけてきたマキマキが、最近よくみる呆れ顔を覗かせる。
「もうサトちゃん、キャラ変わりすぎだってぇ」
息を切らしてない所からして、彼女も身体強化をされているようだ。
「では失礼して」
さっそくブローチを受け取る。
どれどれ。
〔守護者のブローチ〕
《〖守護者の盾〗を操作でき、物質+属性強度(小)を得て攻撃を(4)回防ぐ・鬼姫化の疲労が(中)か(小)のどちらかになる》
「スキル後の疲労経験者から言わせてもらうと、これは優秀ですよ」
「でしょでしょ。私もこの前さぁ、あれ始めて使ってみたけど、疲労が中でもやばかったもん」
デバフじゃないので状態異常治癒でも癒せない。疲労のデメリットがあるのは、決まって強力なスキルだったりもする。
「高火力で《疲労減少》をつけなくて済むなら、その分を威力アップのビー玉に回せますな。中か小のランダムでも、これはデカい」
「えへへぇ」
「でも固有の性能はいまいちじゃない?」
おい巻島さん、あんたって人は。
「バカバカ、うるさいっ 真希うるさい!」
「アハハっ だって朝っぱらから調子乗り過ぎなんだもん」
手加減しているようだけど、パカパカと巻島さんを叩く。
「真希めぇ こうしてやる、真希めぇ」
「ちょっとアンタ、最近馬鹿力なんだから」
ガチで痛そうなマキマキ。
「神崎さん、パッシブは外しませんと」
「ああ、ごめんね。いま外します、まっててね真希」
「殴らなくて良いから!」
そうしてこの日の活動は始まった。
寺社巡りだね。
・・
・・
敵は二体。
槍持ちの賊。
ヘルメットを被り、防護スーツを身にまとう敵が、こちらへ向けて銃を連射する。
近未来の敵ってのは初だな。
「巻島さん、俺に近づいてください!」
「わかった」
〖法衣〗の渦が【弾丸】を反らす。
銃口の火花が黒く光っているので、バフ弱体の効果があるようだ。
〖白赤青黄の鎖〗を神崎さんに放ち。
「神崎さんに青人を」
「青大将ね」
ちゃんと名前呼びしてたの俺だけだから、たまに忘れると言われるんだよな。
「じゃあお願いしますね。行ってください、青ですよ」
「ちぇっ、仕方ないなぁ」
不満そうに口をとんがらせんでください。
「〖うおぉぉぉっ!〗」
〖青髪〗を燃やしながら特攻するが、銃持ちに近づかせまいと、賊姿の槍使いが立ちふさがる。
神崎さんを白く光る【槍】で突くも、まとっていた〖青大将〗の氷膜で威力を弱めた。槍による攻撃は浅かったが、その肉体が白く点滅しているため、恐らくHP毒のデバフだ。
「巻島さん、ちょっと横に動きます」
神崎さんと繋がる〖滑車〗をこの場に残す。
「了解」
肉薄している両者に向けて〖黄鎖〗を放ち、それが彼女を通り抜けて命中した。
「引き寄せます!」
「こいこい」
両者の位置取りに注意しながら、《巻き取り》を実行して引き寄せる。
「クロちゃんを賊に当ててください」
「ほーい。〖クロちゃん〗おいでぇ」
敵味方の〖滑車〗位置は別々。
黄の鎖セット中《引き寄せた敵は守り3種弱体・引き寄せた味方は守り3種強化》
神崎さんはすぐさまもう一度走り出す。
「うおりゃぁ!」
アスファルトを蹴って高く飛び上り、銃持ちへと〖大剣〗を振り下ろす。
後ろにさがって避けられた瞬間、俺は彼女へと伸ばしていた〖白鎖〗を解除。
HP毒と浸食の状態異常を治癒。
一段階の〖重力場〗が発生。
近未来兵は大剣で陥没した地点に弾を撃つ。もしかするとそれでも浸食で圧力を弱められたりすんのか。要検証だな。
「神崎さん、早めに決めた方が良いぞ!」
「こしゃくなぁ!!」
青叫《明鏡止水を得ようと、心は決して燻らず》
精神が安定しても戦意はさがらんよって意味だそうです。
地面から持ち上げられた〖大剣〗を身体ごと振り回し、動きの阻害された敵を吹き飛ばす。銀色の強い輝きが発生。ありゃHP0だな。
状態異常の治癒作業を終えたので、こっちは賊退治に専念する。
「クロちゃん援護を頼む、巻島さんはとり兵衛を俺に憑依させてくれ」
〖豹〗のサポートを受けながら、〖鳥〗で強化された肉体を動かして、じわじわと賊のHPを削っていく。
2対3の時点で有利はこちらにあるのさ。
安定した勝利をおさめ、俺らは報酬の確認に移る。
法衣《範囲内の味方に変化が起こり、各自のバフを強化(小)》
おお、これは小だけど良いんじゃないか。
「緑は変化か。黒の逆で味方のバフを強化してくれるんですって」
「へえ、そうなんだ」
しかも効果が1つってのが最高だ。絶対に残るから、両方アタリのビー玉と合成すりゃ良いわけだ。
「アタシのは火鳥で、《攻撃命中時に確率で並の熱感・熱感発生時に炎上してHPダメ》だって」
「必要なのがまとまって揃いましたね、かなり良いんじゃないですか」
巻島さんは嬉しそうにうなずいた。
今日は状態異常耐性と疲労系のビー玉も(中)で出たから、ポーションも良いの作れるだろうし。
「私は土の大剣だね。《溜め時間短縮(大)・重力場の冷却3秒増加》だってぇ」
「一方はバットでも3秒なら許容範囲ですかね。効果(大)は貴重っすよ」
もしステータス数字化できたら、彼女って運の値は低いんだろうな。
「うーん、どうしよぉ」
失敗したら機嫌が悪くなりそうだ。
「帰ったら考えよっと」
続けて神崎さんは手鏡を確認する。
「うぅ、まだスキル枠増えなーい」
「仙衣が使えませんね」
こういう時に鏡ショップの高級防具が欲しくなる。土属性のスキル枠つきのやつ。
でもレベルアップすればそのうち増えるのに、12万は払えんよな。ちなみにソケット+になると数十万いきます。
・・
・・
今回は修羅鬼橋とは別方面。
お寺に到着したので。
「どうします?」
「休もうかぁ」
「けっこう疲れたね」
疲労回復のポーションは有難い。
「じゃあお二人さん、これをどぞ」
〖黄色の滑車〗を2つ出現させ、両名に打ち込む。
「ほんと良いスキルだよねぇ」
「自分には打ち込めないってのが残念だけど、なんか浦部って感じだわ」
俺のイメージどうなってんすか。
「あぁ、疲れた。どっこいじょっと」
ベンチに二人は腰を下ろし、俺は地べたに座る。
「校長先生の次はおじさんだぁ」
「こっち座れば良いじゃん」
「自分免疫ないので、鼻血でたら困ります」
アハハと笑いながら。
「なんなら真中座る? 両手に花だぞぉ」
「揶揄わんでください」
二人に背を向けて、手鏡の画面を見た。
「ねえねえ、私たちもう数字0のショッピングモールでも戦えてるけど、これがマイナスになると上級者向けになるんだっけ」
「効果(大)の宝玉って全然でないけど、やっぱ難しとこじゃないとダメなの?」
極大も上級でなければダメだ。
「県内じゃ少ないんじゃないっすか。夏休みが終われば荒木場第二を狙ってますが、今は宮内君の調査待ちっすね」
「寮生活ってストレス溜まりそうだもんね」
「私なんかホームシックになっちゃいそう」
3年にならんと1人部屋無理だったりしそうだもんな。
「学校周辺も物足りなくなってきたよねぇ」
「そう言えば時計の件も聞き届けてくれたんすよね、俺らの要望」
どんな内容にするか考えながら。
「運営さん、大鳥居の数値ある程度で良いから、こっちで操作できませんかね!」
上級にできるようにとかじゃない。
「80から20の間くらいで調節可能にできりゃ、あとは足でなんとかしますんで!」
「ちょっと変な光景だわ」
「美玖ちゃんいる時は、もとに戻せば良いってことだぁ」
これが叶えば、学校から少し離れるだけで数値も下げれる。
「休日のショッピングモール、行く意味なくなっちゃうのは寂しいかな」
「確かにそうかも」
ただ効率は上がる。野球部のグラウンドとか手応えありそうだわ。
「上級かぁ、探すだけでも大変だね」
「東京とかに行けばそこら全部が上級だけど、まずはマイナス10以下のとこっす」
京都は時代そのものが変化している。考えるに鏡が今よりずっと貴重だろうし、脱出ポイントは少ないはずだ。
「現代の町並みなら鏡も多いですし、都会に行けば公園やそこらのビルに入ればあるかな」
上級じゃなければ手鏡からの脱出で問題ない。人込みの中で出ても、あんま気にされないからね、接触事故は怖いけど。
「立ち入り禁止のところで脱出するのは、もし見つかったら怒られちゃう?」
「男性トイレから脱出ってのも気が引けるね」
「まず手鏡からの侵入もやめた方が良い。ちゃんと建物に設置されてるとこから入って、登録しておくべきです」
移った先。
女便所からは出れるけど、男側の洗面所は駄目だった。鏡の状態はランダムだから、そういうのもあるよな。
「多目的トイレなら、時間差で出ればいけるかなぁ」
あのスキャンダルを思いだしてしまった。
「姉が言ってました。鏡の曇り消しをショップで買うだけで、かなり違います」
「めっちゃ高いけど、鏡の補修シートってのも売ってたね」
薄い膜を鏡面に張り付ける道具だけど、これ10万します。
「皆でお金出してそれ買えば、東京遠征も可能かもしれませんね。たぶん日帰りになりますけど」
「保護者の許可なしで宿とるのは難しいからねえ」
流石に大人のホテルは無理ですごめんなさい。
「ベットで寝れないのはきついけど、ネットカフェとかどう?」
「あれも未成年は制限あるっすよ」
日帰りじゃダメなのか聞くが。
「遊びたいじゃん」
「当然でーす」
「じゃあとりあえず親に相談しましょう。男女は別の宿にしてお願いすれば、なんとかなるかも知れません」
実は以前からカプセルホテルってのに憧れがあった。
「クラスの友だちと東京で遊びたい。男女は別の宿にするから、お願げえしますだって頼んましょう」
「別々にすれば、そこら辺は黙ってても良いんじゃない?」
首を左右に振り。
「自分らはただでさえ映世で法律外の怪しいことをしてます。せめてそこら辺はちゃんとすべきです」
「けっ これだから真面目君はぁ」
「はいはい、了解しましたよーだっ」
不貞腐れんでくださいよ、これ男女逆なん違いますか。
「だいたい浦部よぅ、あんたアタシの時は廃校カフェ一緒すんの嫌がった癖に、ミクちゃんなら平気ってのはどういう了見なのさ」
「そうだそうだぁ」
「ちょっとは免疫ついたからですって。以前なら今日だって宮内君に泣きついてましたよ」
怖いよぉ。
「情けない奴めっ! おらこっち来い、手ぇ握るぞこんにゃろ!」
「ボディタッチしちゃうぞ!」
「勘弁してくださいってぇ」
太志、隆明ごめん。俺は調子乗ってた。
まじで怖い。
・・
・・
そんなこんなでこの日は夕方まで活動し、俺らは解散となった。
東京遠征の話しはグループで広めておく。美玖ちゃんはまだレベル的に難しいけど、遊びには一緒に行こうと先輩2人が誘ってくれた。
許可出ると良いね。
うちの親はたぶん大丈夫。
俺はヒロイン宮内と一緒のホテルになるだろう。
姉が実家に帰省するのはお盆に合わせるそうなんで、それまでには行っておきたいかな。
日帰りでも俺は行くつもり。活動場所は考えておくか。




