4話 青春フルパワーの日々
我が校の期末テストは7月の第2週には始まるので、部活動の休み期間と同じくして、映世での活動も一時的に停止することになった。
宮内とは塾のない日など、放課後に図書館やファミレスで勉強を教えてもらう。文系理系の違いはあれど、かぶる科目もあるのでとても助かる。
日曜日には予定通り、彼のお家へお邪魔することになった。
うちは祖父母が農家でしたが、父も母も後は継いでおらず。それでもまあ田舎の家といった感じだ。
宮内宅は今風の一軒家で、両親ともに仕事で不在なため、兄妹に出迎えられて案内される。
「私も浦部さんに教えてもらおっかな」
「自分は教わる立場ですので、とても非力ですよ」
そもそも宮内の妹だけあり、彼女の成績は良いと聞く。
「じゃあ私ちょっとやることあるんで」
妹さんと別れ部屋に到着すると、すでに二人ともそろっていた。
「巻島さんこんちわ。あと神崎さん、今日はお世話になります」
「教えられるところはお任せあれぇ」
最近は活動も休止しているし、ストレスは溜まってないだろうか。こっそりやってたりして。
「サトちゃん勉強の遅れとか大丈夫なん?」
「うんそれなりにできてるよ。これでも夜は勉強してたしね」
日課になってるんすね、テスト期間中だけでなく。
「神崎の場合だとストレス発散できてるし、効率は上がってたりしてな」
「たしかにそれはあるかもだけど、気づくと鏡いじってたり、スキルや宝玉の確認してるんだもん」
彼女は部屋の隅にある姿見に視線を向けていた。
「すごい分かるっす」
「アタシは精神状態が安定したせいか、前よりも調子良いかな」
「それは俺もだな。勉強量が増えても、身が入ってなかった」
なるほどねえ。
俺はリュックから勉強道具を取り出し、宮内の隣に座る。シンプルなのにオシャレな部屋ですね。
ノートPCは閉じられていた。便利な時代ですなぁ、宮内君。
これから勉強を始めようというその時、思いだしたといった風に。
「浦部と同じで俺の武器も名前が変化したぞ」
「そうなん?」
立ち上がり鞄から手鏡を取り出して、こちらを向ければ3人が鏡面に視線を向ける。
〔失われし英雄の剣〕〔解き放たれし封印の盾〕
「以前から気になってたんだけど、お前のスキル闇属性が加わったりして、段々と雲行が怪しくなってないか?」
最終的に前世の宮内は雷光剣を失ってたんかね。鞘も実体はないエフェクトのスキルだし。
「解き放たれしってさ、なんかヤバイのを封じてたけと、それが解放されちゃったってこと?」
「うんうん、なんか闇堕ち勇者感がでてきたよねぇ」
夕焼けの校庭。闇に染まる直前の景色。
「悲しき英雄輝樹かあ」
「やめてくれよ」
俺も原罪とか書かれてて人のことは言えんけどさ、こいつのは世界を滅ぼす、または滅ぼしかねない内容じゃね。
・・
・・
時々聞きながら勉強をしていると、ノックの音が室内に響く。
「皆さんこれ摘まんでくださいね」
うっひょー 女にょ子の手作りクッキーですだぁ。
「すんません、頂くっす」
「わーい」
「二人とも、まだ手を伸ばすな」
巻島さんは写メを撮りだした。
「そういえばSNSとかやってんすか?」
「まあね。でも写真載せてるだけで、あんまコメントはしないようにしてる。友達の失敗談を聞いてから怖くなっちゃってさ」
「炎上でもしたのか」
なんどか頷いて。
「過去のコメントとか遡られて、けっこう怖い目に遭ったんだって」
探偵並の洞察力を発揮して、写真や発言のわずかな手がかりから、色々と特定されるって聞くな。
現在問題になっているコメントと、逆の発言を過去にしてたらそこを突かれるとかもある。
「でも写真アップされるの、ちょっと恥ずかしいですよぉ」
「大丈夫だって、これは個人用のだから。想い出用だから良いでしょ?」
それならと承諾を貰えたようだ。
渡されたウェットティッシュで軽く拭いてから、さっそく焼き立てのクッキーを頬張る。
「うまくできてますか?」
「はい。感動で泣きそうっす」
神崎さんもクッキーを手に取り。
「えぇ そこまで」
「太志と隆明に自慢します」
女にょ子の手作りお菓子を食べたんだぞと。
「よかったねぇ浦部」
「へい」
妹さんは苦笑いを浮かべていた。
「じゃあ兄ちゃんちょっと横に退いて、私も勉強するから」
そこからは妹さんも交えて勉強会が再開された。
・・
・・
月日は流れ10年後。
嘘です。
宮内様や神崎パイセンのお陰もあって、俺はなんとか期末テストを乗り切る。
結果としては平均よりちょい上だけど、年が明ければ本腰を入れるのも増えるだろうから、まだまだ油断はできませんな。
神崎さんは2位に転落し、学年はちょっとした話題になっていたが、本人としては安堵の表情で良かった良かったと笑っていた。
大きな成績の低下でなければ、母に言われたりもしないようで、親への面目は保てたそうだ。
「これで胸を張って活動再開できるよぉ」
なんとなくだけど、以前よりも人の目を気にしなくなっているような気がする。パッシブのお陰か、もともとの豪快な面もちょっと復活したのかな。
俺から見ても精神面は良好なようだ。
「宮内君おめでとう」
「素直に嬉しいな、ありがとう」
神崎さんの映世ドハマりも大きいけれど、勉強量の増加や精神の安定もあり、今回の学年1位は宮内だった。
女子たちの目がうっとりしてましたよ。
まあ良かった良かった。
昼休みの教室にて。
「今回もまあまあだったよ」
本当にムカつくが、太志の野郎は成績が良かったりする。本当にムカつくが。
「僕はそれなりでしたかな」
あんまり勉強できなかったと言っていたが、彼も安定の上位勢。おめでとう隆明。
・・
・・
夏休みがもうすぐそこまで迫っていた。
活動をしなかった日の帰り道。
2時間ほど太志や隆明と遊んでから、学校の最寄り駅に到着すると、数名の女子生徒が電車を待っていた。
うち1人がベンチから立ち上がり。
「兄ちゃんの友だち」
そう友人に説明してから、こちらへとやって来る。
「どうも浦部さん、お帰りですか」
「学校お疲れさんっす」
今日はこのまま帰宅の予定だと伝えれば、テストはどうだったかと尋ねられ。
「ボチボチっすね。前よりも親に怒られない成績はとれました」
うちの親は怒らんけどね、酷い点数でも。
「そちらさんは?」
両手を腰にもっていき、胸を張って。
「えっへん。なんと私は4位でした」
運動はそこまで得意じゃないそうだけど、こんだけ頭が良けりゃ人気もうなぎ上りだろうね。
「すごいじゃないっすか」
「本当ですか」
待ってましたと言わんばかりに。
「じゃあじゃあ、今度おめでとうってことで、此処つれてってくださいよ」
スマホの画面を俺に見せてくる。
「そこ知ってますな」
「浦部さんちの近くですよね、次の土曜日なんてどうですか?」
嬉しいお誘いではあるけれど。
「日曜日にしませんか、宮内いますし」
「え~ なんで兄が関係するんですか、私は浦部さんのことを知りたいんですから」
この子ったら、先輩のお顔は真っ赤ですよもう。
「もしかして自分ってモテ期到来してますかね?」
「そうですよぉ 今こそ青春フルパワーです!」
あっ こりゃ違うなと察してしまった。
ていうか分かってたから、俺もこんなド直球な言い方をしたんだけどね。
「人生はめぐり合わせって言うじゃないっすか。たまたま俺の時に上手くいっただけで、自分は特別なこたぁなんもしちゃいねえです」
「もうそこら辺は理解してますってぇ。お友達から始めましょうよぉ」
お兄ちゃんと結婚する、ぜったい恋人なんて許さない。そんなタイプではないけれど、お兄ちゃん大好きっ娘だ。
つまり俺は宮内の閉じた心を開いた恋人的存在と認識されているのだろう。
私もそんなお兄ちゃんの恋人と仲良くなりたい。
「そんなブイブイ来られたら、先輩勘違いしちゃいますよ」
「勘違いする人には、こんな接し方はしませんって」
ツチノコ狩りの夜から今日まで、それなりに接して来たからね。俺がある程度知ったように、彼女も俺を知ったわけだ。
「午前中で良いっすか、土曜日は午後から予定があるんで」
神崎さんとご一緒します。ちなみに彼女も今は活動にご執心なんで、自分など眼中にありませんよ。
あと巻島さんも父のことで現在は恋愛どころじゃないっす。
俺のヒロインは宮内だったのかと落ち込みながら。
「今年の夏休みは楽しくなりそうっすね」
「ですねぇ」
留年しなければ、もう帰ってこない高2の夏。




