表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そこに居たはずの誰かへ  作者: 作者でしゅ
五章 楽しい夏休み前編
31/65

3話 ショッピングモールでの活動

 映世は現世に比べると涼しい。


 日曜の昼下がり。

 太陽の射す屋上にて俺らは戦っていた。


 HPという要素があるため、肉を切らせて骨を断つ戦方が主ではあるけど、攻撃をくらうのなら気を付けなきゃいけないことがある。


 熊の【爪】を脇腹にかすめながらも、神崎さんはその前脚に〖大剣〗で切断線を残す。巨体が傾き姿勢を崩したが、彼女は追撃に移すことができず。


「ビリビリもらったぁ!」


「はいよ」


 〖白鎖〗を解除して状態異常を治す。

 熊さんは憎悪対象である宮内へと向きを返して歩きだしていた。そのまま神崎さんを狙った方が良いんだけど、これもまたヘイトスキルの効果だ。


「お尻にドッカーン!」


 〖修羅鬼〗の攻撃がHPを削り切り、続いた彼女の〖大剣〗が熊の下半身へと減り込む。



 宮内は〖黒豹〗と重なりながら、握った〖短剣〗で女剣士と刃を重ねていた。


「前方50mに新たな影だ!」


 言われてそちらを見ると、すでにダチョウのような鳥へ姿を変え、こいらへ勢いよく走りだす。


 剣士の黒い【斬撃】を二重の〖青い浮剣〗で受け止めれば、〖時空盾〗の障壁から〖闇の触手〗を鳥へと伸ばした。

 命中はするも、トリの行動が一足早かった。


「飛び越えられた、そっち行くぞ!」


 宮内と女剣士を飛び越え、背後でサポートをしていた俺に、羽根をバタつかせながら脚爪を向けてくる。


 まとっていた〖青大将〗が氷壁で防いでくれたが、それを蹴り返してダチョウは着地。

 首だけをクルっと動かし、続けて胴体も反転させて宮内の背中を狙う。


「させるかっ」


 〖黄鎖〗を放つ。命中後に〖巻き取れ〗ば、氷に包まれた〖メイス〗を頭部へと打ちつける。

 やはり憎悪があるとこちらへの意識が鈍り、普段は避けられるような攻撃も当たりやすい。


「人より獣の方が効果あるけど、迷っちまう時点でこっちが有利なのは変わんねえ」


 憎悪もまたデバフなので、精神安定で冷静を保ったり、状態異常での治癒もできる。


 俺は左手の〖ナイフ〗でダチョウの後ろ脚を裂く。


「神崎さん!」


 すでに熊は沈んでいた。


「任せて」


 一段階の〖重力場〗が発生。


 俺は〖ナイフ〗を宙に投げ飛ばす。


「巻島さん合わせてくれ!」


 上空より〖ナイフ〗を宿した〖トリ兵衛〗が、旋回しながら特攻体勢を整える。


 命中する前に〖滑車〗を破壊したのち、その場から距離をとった。

 ダチョウのHPは0。


 憎悪対象である宮内に意識を向けるも、今からでは攻撃が届かないと判断したのか、視線を動かして巻島さんと俺を交互に見つめる。


 そんな悩んでいる余裕は本来なく、〖トリ兵衛〗がダチョウを貫いた。


 〖ナイフ〗が〖豹〗へと移れば、巻島さんは闇に包まれて姿を消す。


「これならいける」


  宮内は〖剣〗が〖鞘〗に収まっているため、どうしても攻撃手段が減る。そこに〖闇豹〗が加わったことで、爪と尻尾の攻撃が女剣士を襲う。


 HPが0になれば〖鞘〗の柄に手を伸ばし、雷をまとった〖剣〗で直接切り伏せた。


・・

・・


 報酬のビー玉を回収して、俺らはいったん現世へと戻る。


「楽しかったぁ」


 ご満悦そうな神崎さんとは対照に、巻島さんは暑そうなようす。


「フードコート行こ、ちょっと休もぉよ」


「昼時だしちょうど良いな」


 俺らは出入口の脇にある社へ手を合わせてから、2階へと向かう。



 目的地に到着すれば、さっそく飯の物色を始めた。


「冷やしうどんにしよ」


「アタシもそれでいいや」


 考えるのも億劫らしい。


「俺はハンバーガーにするか」


 トマトソースが売りのあそこだね。


「うーん、ラーメン食べたい」


 暑いなか凄いですね。


 完成したら音が鳴るのをもらい、それぞれの店舗が中間となる位置に座る。


「午後からは3階に挑戦するか」


「さんせーい、ちょっとは涼しくなりそうだし」


「売り物を壊さんよう注意しませんとね」


 空調は映世だと可動してないが、現世では冷房で涼しくなっているため、そこら辺は反映されていたりする。


「にしてもさ、本当に良いダイエットだわ」


「だよねぇ 私も最近は走ってないもん」


 毎日活動してれば、そりゃ運動量も倍どころじゃないっすよ。


「浦部もちょっと引き締まった?」


「かも知れねえっす。神崎さんほどじゃないけど、ほぼ活動してますんで。だけど7月になったら、試験勉強も始めませんとね」


「う”っ 一気に成績落ちたらママに怒られるし、まあ仕方ないかぁ」


 学年トップは大変だ。

 現在活動にハマっている神崎さんも、さすがに厳しかったりするのだろうか。


「サッカーの練習に付き合ってもらうお礼に、こんど浦部とは勉強する予定なんだ。もし良ければ2人も参加するか?」


 もっ、もしかして青春の醍醐味、勉強会でしゅか。


「せっかくだしそれも良いか」


「だねぇ、それで何処にするの?」


「学校か近くのファミレスですかね」


 宮内はしばらく考え。


「俺の家にするか。最近なんか妹が浦部にご執心でな」


 巻島さんが茶化すような口調で。


「えぇ~ お兄ちゃんとしてはそれで良いのぉ?」


 もしかして僕ちんにも春が。


「自分で言うのもなんだが、ずっと落ち込んでたのを元気づけられたからな。どんな人か気になっているんだとさ」


「しょ、しょうでしゅか」


 妹さんも色々と頑張ったけど、上手く行かなかったと言っていた。


「あっ 浦部くん赤くなってる」


「そりゃあ自分もお年頃なんで。ただ妹さん異性っていうのとは別の感情だと思いますよ」


 たぶん文化祭で敵として出現したんじゃないかな。そんだけ宮内のこと心配してたわけで、ポッとでの友人が解決したわけだ。


「恋愛に関しては俺にもわからん」


 彼ってボールが恋人なんだよね。練習に付き合うようになってわかったよ。

 普段さ、すごい気を使ったり遠慮するのに、もっと練習したいオーラが凄くて。次はこうしてくれ、もっとああしてくれと要求がエスカレートしてくる。


 〖滑車〗を相手選手に見立てたいとか言ったり、〖鎖〗を避けながらボールをゴールまで運びたいとか、もう熱量が凄まじいの。


「それに浦部の場合はそれどころじゃないか」


「なんかやらかしたかも知れない責任はとらんとね」


 神崎はうーんと唸りながら。


「恋人だったりしたのかなぁ?」


「存在が消えてて、アタシらの記憶も書き換えられてるから、一年の頃を思い返してもね」


 少なくとも去年の夏休み、太志たちと遊ぶくらいの余裕はあった。完全に活動中心であれば、連中とも仲良くなる機会はなかったはず。


 あっ でもあの2人って前世が異様に強力なんだよな。そこら辺から接点を持とうとした可能性もあるけど、なんかそれは嫌だねえ。


「中間テストの時に気づいたんすけど、いつも学年2位だった人が同じだと思ってたんすよ」


「今回と前回は違ったはずだ」


 そしてもう一つの違和感。


「姉は成績がめっちゃ良いんですが、教えてもらった経験がないわけで」


 電話したとき〔夜光の短刀〕に関して説明したら、すごい食いついてたな。今度帰省したとき、許可証と実物を買うって言ってた。


「生徒会長って、やっぱ浦部くんのお姉さんだったんだぁ」


 詩と吟次ではあるけれど、婆さんと母が好きで教室に通ってたのが由来だね。

 別に俺も姉もぉ 吟じませんがぁー あー あぁー♪


「自分から進んで勉強する性格でもなかったんすよ。今はヤバいんで一応してますが」


 どうやって受かったのか。なぜ受けようと思ったのか。


「その人に面倒をみられていたとなれば、同級生か先輩ってことになるか」


「毎回学年2位かぁ。もしそうなら私も意識してたと思うけど、やっぱ覚えてないなぁ」


 2年生になってすぐ、神崎さんはけっこう気楽に自分へ話しかけてきた。それはある人物を間に挟み、以前から簡単な繋がりはあったから。


 太志と隆明は同じ中学だから別として。ほとんど面識のなかった巻島さんも、最初から俺の名字を呼び捨てにしていた。


「浦部の勉強みてたり、活動のことがなかったら、サトちゃん危うかったかもね」


 現在どハマりしているのだから。


「確かにやばかったかもぉ」


 かなり迷惑を掛けていた可能性が高い。


「冬までに少しでもレベルを上げんとな」


「だね。まだアタシは決めてないけど、手伝えることは手伝う。だって浦部には恩があるもん」


「成績が維持できれば、冬休みは参加したいかな」


 巻島さんが心配そうな顔で神崎さんをみているが、気づいてはいないようだ。

 皆それぞれに自分の人生がある。限られた時間の中で生きている。

 青春という一幕を。


 夏休み。

 9月の体育祭。

 10月には修学旅行。

 11月には文化祭。


 そこに彼女はいない。

 12月には雪の降る京都へ。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ