3話 ショッピングモールでの活動
映世は現世に比べると涼しい。
日曜の昼下がり。
太陽の射す屋上にて俺らは戦っていた。
HPという要素があるため、肉を切らせて骨を断つ戦方が主ではあるけど、攻撃をくらうのなら気を付けなきゃいけないことがある。
熊の【爪】を脇腹にかすめながらも、神崎さんはその前脚に〖大剣〗で切断線を残す。巨体が傾き姿勢を崩したが、彼女は追撃に移すことができず。
「ビリビリもらったぁ!」
「はいよ」
〖白鎖〗を解除して状態異常を治す。
熊さんは憎悪対象である宮内へと向きを返して歩きだしていた。そのまま神崎さんを狙った方が良いんだけど、これもまたヘイトスキルの効果だ。
「お尻にドッカーン!」
〖修羅鬼〗の攻撃がHPを削り切り、続いた彼女の〖大剣〗が熊の下半身へと減り込む。
宮内は〖黒豹〗と重なりながら、握った〖短剣〗で女剣士と刃を重ねていた。
「前方50mに新たな影だ!」
言われてそちらを見ると、すでにダチョウのような鳥へ姿を変え、こいらへ勢いよく走りだす。
剣士の黒い【斬撃】を二重の〖青い浮剣〗で受け止めれば、〖時空盾〗の障壁から〖闇の触手〗を鳥へと伸ばした。
命中はするも、トリの行動が一足早かった。
「飛び越えられた、そっち行くぞ!」
宮内と女剣士を飛び越え、背後でサポートをしていた俺に、羽根をバタつかせながら脚爪を向けてくる。
まとっていた〖青大将〗が氷壁で防いでくれたが、それを蹴り返してダチョウは着地。
首だけをクルっと動かし、続けて胴体も反転させて宮内の背中を狙う。
「させるかっ」
〖黄鎖〗を放つ。命中後に〖巻き取れ〗ば、氷に包まれた〖メイス〗を頭部へと打ちつける。
やはり憎悪があるとこちらへの意識が鈍り、普段は避けられるような攻撃も当たりやすい。
「人より獣の方が効果あるけど、迷っちまう時点でこっちが有利なのは変わんねえ」
憎悪もまたデバフなので、精神安定で冷静を保ったり、状態異常での治癒もできる。
俺は左手の〖ナイフ〗でダチョウの後ろ脚を裂く。
「神崎さん!」
すでに熊は沈んでいた。
「任せて」
一段階の〖重力場〗が発生。
俺は〖ナイフ〗を宙に投げ飛ばす。
「巻島さん合わせてくれ!」
上空より〖ナイフ〗を宿した〖トリ兵衛〗が、旋回しながら特攻体勢を整える。
命中する前に〖滑車〗を破壊したのち、その場から距離をとった。
ダチョウのHPは0。
憎悪対象である宮内に意識を向けるも、今からでは攻撃が届かないと判断したのか、視線を動かして巻島さんと俺を交互に見つめる。
そんな悩んでいる余裕は本来なく、〖トリ兵衛〗がダチョウを貫いた。
〖ナイフ〗が〖豹〗へと移れば、巻島さんは闇に包まれて姿を消す。
「これならいける」
宮内は〖剣〗が〖鞘〗に収まっているため、どうしても攻撃手段が減る。そこに〖闇豹〗が加わったことで、爪と尻尾の攻撃が女剣士を襲う。
HPが0になれば〖鞘〗の柄に手を伸ばし、雷をまとった〖剣〗で直接切り伏せた。
・・
・・
報酬のビー玉を回収して、俺らはいったん現世へと戻る。
「楽しかったぁ」
ご満悦そうな神崎さんとは対照に、巻島さんは暑そうなようす。
「フードコート行こ、ちょっと休もぉよ」
「昼時だしちょうど良いな」
俺らは出入口の脇にある社へ手を合わせてから、2階へと向かう。
目的地に到着すれば、さっそく飯の物色を始めた。
「冷やしうどんにしよ」
「アタシもそれでいいや」
考えるのも億劫らしい。
「俺はハンバーガーにするか」
トマトソースが売りのあそこだね。
「うーん、ラーメン食べたい」
暑いなか凄いですね。
完成したら音が鳴るのをもらい、それぞれの店舗が中間となる位置に座る。
「午後からは3階に挑戦するか」
「さんせーい、ちょっとは涼しくなりそうだし」
「売り物を壊さんよう注意しませんとね」
空調は映世だと可動してないが、現世では冷房で涼しくなっているため、そこら辺は反映されていたりする。
「にしてもさ、本当に良いダイエットだわ」
「だよねぇ 私も最近は走ってないもん」
毎日活動してれば、そりゃ運動量も倍どころじゃないっすよ。
「浦部もちょっと引き締まった?」
「かも知れねえっす。神崎さんほどじゃないけど、ほぼ活動してますんで。だけど7月になったら、試験勉強も始めませんとね」
「う”っ 一気に成績落ちたらママに怒られるし、まあ仕方ないかぁ」
学年トップは大変だ。
現在活動にハマっている神崎さんも、さすがに厳しかったりするのだろうか。
「サッカーの練習に付き合ってもらうお礼に、こんど浦部とは勉強する予定なんだ。もし良ければ2人も参加するか?」
もっ、もしかして青春の醍醐味、勉強会でしゅか。
「せっかくだしそれも良いか」
「だねぇ、それで何処にするの?」
「学校か近くのファミレスですかね」
宮内はしばらく考え。
「俺の家にするか。最近なんか妹が浦部にご執心でな」
巻島さんが茶化すような口調で。
「えぇ~ お兄ちゃんとしてはそれで良いのぉ?」
もしかして僕ちんにも春が。
「自分で言うのもなんだが、ずっと落ち込んでたのを元気づけられたからな。どんな人か気になっているんだとさ」
「しょ、しょうでしゅか」
妹さんも色々と頑張ったけど、上手く行かなかったと言っていた。
「あっ 浦部くん赤くなってる」
「そりゃあ自分もお年頃なんで。ただ妹さん異性っていうのとは別の感情だと思いますよ」
たぶん文化祭で敵として出現したんじゃないかな。そんだけ宮内のこと心配してたわけで、ポッとでの友人が解決したわけだ。
「恋愛に関しては俺にもわからん」
彼ってボールが恋人なんだよね。練習に付き合うようになってわかったよ。
普段さ、すごい気を使ったり遠慮するのに、もっと練習したいオーラが凄くて。次はこうしてくれ、もっとああしてくれと要求がエスカレートしてくる。
〖滑車〗を相手選手に見立てたいとか言ったり、〖鎖〗を避けながらボールをゴールまで運びたいとか、もう熱量が凄まじいの。
「それに浦部の場合はそれどころじゃないか」
「なんかやらかしたかも知れない責任はとらんとね」
神崎はうーんと唸りながら。
「恋人だったりしたのかなぁ?」
「存在が消えてて、アタシらの記憶も書き換えられてるから、一年の頃を思い返してもね」
少なくとも去年の夏休み、太志たちと遊ぶくらいの余裕はあった。完全に活動中心であれば、連中とも仲良くなる機会はなかったはず。
あっ でもあの2人って前世が異様に強力なんだよな。そこら辺から接点を持とうとした可能性もあるけど、なんかそれは嫌だねえ。
「中間テストの時に気づいたんすけど、いつも学年2位だった人が同じだと思ってたんすよ」
「今回と前回は違ったはずだ」
そしてもう一つの違和感。
「姉は成績がめっちゃ良いんですが、教えてもらった経験がないわけで」
電話したとき〔夜光の短刀〕に関して説明したら、すごい食いついてたな。今度帰省したとき、許可証と実物を買うって言ってた。
「生徒会長って、やっぱ浦部くんのお姉さんだったんだぁ」
詩と吟次ではあるけれど、婆さんと母が好きで教室に通ってたのが由来だね。
別に俺も姉もぉ 吟じませんがぁー あー あぁー♪
「自分から進んで勉強する性格でもなかったんすよ。今はヤバいんで一応してますが」
どうやって受かったのか。なぜ受けようと思ったのか。
「その人に面倒をみられていたとなれば、同級生か先輩ってことになるか」
「毎回学年2位かぁ。もしそうなら私も意識してたと思うけど、やっぱ覚えてないなぁ」
2年生になってすぐ、神崎さんはけっこう気楽に自分へ話しかけてきた。それはある人物を間に挟み、以前から簡単な繋がりはあったから。
太志と隆明は同じ中学だから別として。ほとんど面識のなかった巻島さんも、最初から俺の名字を呼び捨てにしていた。
「浦部の勉強みてたり、活動のことがなかったら、サトちゃん危うかったかもね」
現在どハマりしているのだから。
「確かにやばかったかもぉ」
かなり迷惑を掛けていた可能性が高い。
「冬までに少しでもレベルを上げんとな」
「だね。まだアタシは決めてないけど、手伝えることは手伝う。だって浦部には恩があるもん」
「成績が維持できれば、冬休みは参加したいかな」
巻島さんが心配そうな顔で神崎さんをみているが、気づいてはいないようだ。
皆それぞれに自分の人生がある。限られた時間の中で生きている。
青春という一幕を。
夏休み。
9月の体育祭。
10月には修学旅行。
11月には文化祭。
そこに彼女はいない。
12月には雪の降る京都へ。




