1話 ショッピングモール下調
ツチノコ狩りの翌週。6月の第2日曜
俺らは電車に揺られながら、ショッピングモールを目指していた。
最寄り駅の前で休んでいるのだけど、我らがアイドル神崎さんのご機嫌が非常に悪い。
「前よりは全然良かったじゃないっすか」
「どうせ私は浦部君の下位互換ですよーだ」
〔精霊の首飾り〕
《1体を自分に憑依でき、精霊に応じた強化(中)・HPMP秒間回復(極小)》
神崎さんは活動を毎日休まず続け、そして小遣いやお年玉の一部をかき集め、なんとか1回分のガチャを引く予算を工面した。
アカン。アカンですよ神崎さん、それもう沼ってる。
前回よりは良い。前回よりはずっと良い。
〔精霊のブローチ〕
《1体を自分に憑依でき、精霊に応じた強化(中)・HPMP秒間回復(中)》
俺の下位互換なのは事実なんだ。
「あまりムキになって、使える宝玉とか換金しないようにな」
いかん宮内、お前が言ってはいかん。
「神引きの誰かさんには、私の気持ちはわかりませーん」
「うっ……すまん」
なんとか機嫌を沈めて欲しい。
「じゃあ次に引く金がたまるまで、自分のブローチと交換します?」
「それはダメだよ。施しじゃなくて、自分で集めるからこそ楽しいんだもん」
おお、これは好感もてる。
「よしっ もう2人に八つ当たりするのは終わり」
自分の両頬をパチンと叩き、今日は不貞腐れないと宣言した。玉のお肌が赤くなっとりますぜ。
「次に買うなら、いったん精霊は止めて守護者を買いましょう。2つまでなら付けれるそうなんで」
「うん、そうだね。次はそうしよっと」
ちなみに神崎さんのアクセサリーもすでに出現済みだ。
〔闘魂の装飾品〕《戦叫・赤 テンションによって身体強化(極小~大)・ランダム》
自前で戦意高揚を用意しないといけない。戦叫の赤にはその効果もがあったか。
スキルやビー玉に頼らなくても、戦ってれば自然に上ることもあるけどね。
(極小~中)(小~大)ってな感じのランダム要素がある。
神崎さんの活動参加率って俺より高いし、次に買うなら宮内よりこれかな。
そうこう話していると、公衆トイレから女の子が小走りでやってくる。
「すみませーん、お待たせしましたぁ」
「良いよ良いよ。じゃあ美玖ちゃん行こ」
昨日メッセージにて、宮内から妹が同行しても良いかとの内容が送られてきた。そろそろシューズを買いたいとのことで、親からお金をもらったが友達と都合がつかなかったらしい。
「マネージャーもなかなか休みは取れないの?」
「予選が終わったので、少しは増えると思いますよ。いや、どうかなぁ1年生大会とかあるし」
先週がそれだったのかな。
「うちはそんなに厳しくないんで、事前に言っておけば休んでも怒られませんよ。公式大会とかならあれですけど」
これがガチの強豪校とかなら違うんだろうけど。
「女子マネを失うことを恐れている節があるな」
俺は知ってるぞ宮内。お前が退部したことで、なら自分たちも残る意味ないやって娘がそれなりに居たことを。
「あとこいつはたまに手伝ってるだけで、正式な女子マネじゃないぞ」
「えっ そうなの?」
「誘われてはいるんですけど。兄が顔をだす時なんかは手伝ってます」
宮内が退部してなけりゃ、もしかすると入ってたのかも知れんか。さぞや部員もガッカリしたろうな。
「今回もけっこう良い所までいったんすよね」
準決勝か準々決勝かは分からんけど、3位決定戦とかはどうなるのかまで知らん。
「ああ、例年通り良い所までいった」
できれば俺も参加したかった。あえてこうは続けなかったんだろう。
「大鳥居で校庭は安全ゾーンだし、今度ゴール前のパスくらいならしてあげよう」
「……本当か?」
親指を立てる。
「ありがとう」
「その代わり期末前には勉強を教えなさい。あと荒木場第二との練習試合あるときは、ちょっと付き添って数値を調べてくれると助かる」
実は県内に寮付の高校があって、そこは軒並み部活のレベルが高く、上級ダンジョンでないかと狙っていたりする。県外からも生徒を受け入れてる私立だ。
「確かにあそこなら。了解した」
「なんの話してるんですか、もしかしてお寺や神社とか?」
「えっ あぁ、そうっすね。次どこ行こうかって」
ショッピングモールに行くことを宮内はすでに家族へ伝えており、妹さんに私が行っても邪魔じゃないか聞いてくれと頼まれたそうだ。
「なるほどぉ」
コミュ強すげえな。俺なら姉の同級生と買い物とか絶対に無理だわ。
「今日は本当にありがとうございます、浦部さんともっと話したかったんで、ワガママ言っちゃいました」
こんなこと言われたら、僕ちんもうデレデレよ。
「神崎先輩もよろしくお願いします」
あっれれぇ~ おっかしいぞぉ~
「えへぇ 先輩だってぇ」
宮内は前を歩く2人を見つめ。
「すまんな、今日は活動できんかも知れん」
うん、さっきのは俺の聞き間違いだろきっと。
「もともと屋上にパワーあるか調べんのと、注意喚起があるか確認するのが目的だからね。それにんなこと言ったら、ホタルの時は俺だって急遽不参加になったわけだしさ」
やる気まんまんの神崎さんも、今日はいったん活動から離れて、ショッピングで憂さ晴らしをするんだと言っていた。金はないがとの一言に悲しくなったが。
・・
・・
ショッピングモールに到着して、お昼はレストラン街に決める。神崎さんは飯代をくださいとママに頭をさげ、なんとか勝ち取ったと言っていた。
「自分は回転寿司に1票」
「俺はパスタに1票で」
「私は浦部さんに投票します」
「んーどうしよう。じゃあジャンケンで買った方に1票」
そこは俺に入れてくださいよ神崎さん。
結果として自分は負けました。
「じゃあ俺は票の振り直しで宮内君にいれます」
「えぇー 浦部さんの裏切りものぉ。じゃあ仕方ないんで私も兄ちゃんにします」
イケメンがすまんなと笑い、今日の昼飯が決まる。
店員に案内され着席すると水をもらい。
「そうだお二人とも、良ければ姉の誕生日プレゼント、鏡にしようと思うんすけど選んでくれません?」
安物なら良いんだけど、けっこう良い値段の手鏡を買うのは、宮内妹が変に思うかも知れない。そう思って二人には事前にこの嘘を伝えておいた。
宮内からは別に気にしなくても良いだろと返された。確かに彼は妹に良い手鏡あったら貸してくれとお願いして、元気になったお祝いにあげると言われたのだった。
「えっ 良いの?」
「自分のセンスに自信ないんで、頼んますよ」
「浦部さんがそう言ってくれるなら、一緒に選ばせてもらいましょう先輩」
あっれれ~ やっぱおっかしいぞぉ。
「でも鏡は贈り物として良くないんじゃ」
割れたら縁が切れるとかだっけ。
そんなことどうでも良いよ妹さん、今はそれどころじゃない。
「本人の要望なんで問題ないっすよ」
あれぇ やっぱ聞き間違いかなぁ。
神崎さんがウキウキ顔で俺を見つめ。
「私良いの選ぶね。要望はあるかな?」
自分のじゃなくても、買い物自体が好きってのは姉で知っている。
「あまりかさ張らないけど、鏡面はそれなりに大きい方が良いかな。ウエストポーチに入るサイズで頼んます」
姉だけじゃないのかも知れんけど、もう覚えちゃいない。
美玖ちゃんはニコニコ笑いながら。
「お姉さんがいるんですね、浦部さんって。誕生日を祝ってあげるくらいだから、仲良いんだぁ」
「宮内家ほどじゃないっすよ」
仲良いっていうか、普通に怖いですよ家のお姉たま。俺は美玖ちゃんのような妹がえかった。
「えー うちは普通ですってぇ」
あれ。これ本当にプレゼント買わなきゃいけん流れ。
実際に姉の誕生日って夏前なんだわ。
「ついでに俺のぶんも頼みます。お揃いとかは止めてください、シンプルだけどちょっと良いので、折りたたみ式が良いっすね」
神崎パイセンと宮内は俺の内心を察したのか、声にだして笑っていた。
・・
・・
予算は1枚3000から4000円ということで、万札1枚を財布からだし、それを神崎さんに渡す。
「ちゃんとレシートも渡すから安心してね」
余ったら好きに使ってと格好つけようとしたが、これはあまり良くないかと思い直した。それにこの金は活動費。
「頼んます」
「お礼に後で3人には甘いもんでも奢るよ」
宮内がイケメン力を発揮しやがった。
「やったー」
「うーん、逆に申し訳ないなぁ」
「落ち込むことがあったんだ、このくらい良いと思いますよ」
なにかあったんですかと妹さんが訪ねろば。
「宝くじで張り切りすぎちゃって」
「ありゃぁ、残念でしたねぇ」
ガチャだとは流石に言えないパイセンであった。
俺らは屋上のことを話す。
「えっ 神社仏閣ってあれも入るんですか?」
「珍しいっすよね、ショッピングモールにそういうのって」
「だよな」
さも当然だと言わん顔で宮内とうなずき合う。
美玖ちゃんは少し引きつった笑みを浮かべながら。
「じゃあ神崎先輩と買い物してますね」
「先にシューズ行く?」
どうしよっかと会話をしながら、彼女らはパンフから店の選別を始めた。
「俺はなにも聞こえない」
「ん? なんの話だ?」
現在の居場所は一階。
お兄ちゃんは手鏡を取り出すと、その鏡面を操作して。
「数字は限りなく0だな」
覗きこむと確かに変動しており、1~5の値にもなるが、ほぼ0で良いだろう。
鏡社ではこれが100で、大鳥居だと80だったりする。神崎さんに落された橋で40から30の間。
神社仏閣など宗教施設内部では60から40になるけれど、鏡社や大鳥居に比べると狭い範囲で数値が落ちる。
さらに画面を操作して映世進入の欄を確認する。
『人口密集地帯になり、一部の人間が無意識下のストレスを抱えています。敵対者の数が増加しますが難易度に変化はありません。慎重な判断を心がけてください』
休日の昼過ぎだから、時間帯によっては人も減るだろう。
「じゃあ屋上に行くか」
「だね」
3階からはエスカレーターのループから外れ、別の場所から上がらなくてはいけない。
屋上はエレベーターと自販機くらいで、外にでると駐車スペースになっている。
自動ドアの近くに室内サイズの鳥居と社が設置されており、俺らはそこの前で佇む。
「効果はあるが25ってところだ」
「下の階は10前後だったね」
この位置から離れろば数字も落ちるだろう。
「じゃあ俺は屋上駐車場と3階調べるから、1・2階を頼むよ」
ウエストポーチから予備の手鏡を出す。
「了解。パンフの地図に数字を書き込んどくか」
「そうだね」
出入口に無料のそれがあったのでもらう。
・・
・・
調査の結果としては、全ての階でも社の直下であれば15から5は残る。
駐車スペースは端っこで20ほど。
「活動も出来そうだな」
「屋上で慣れたら、下の階って感じだね。でも混む時間帯は避けた方が良いか」
その後、買い物が終わったとの連絡が届いたので、俺らは2人と合流する。
アイスを売っていたので、それをお兄ちゃんに買ってもらい、ベンチに座って食べることにした。
「今日は楽しかったです。急なお願いだったのにありがとうございました、うんと嬉しかったです」
「自分も素敵な手鏡をゲットしたので大満足っすよ。神崎パ さんもありがとうございました」
「えへへぇ 良いってことよぉ」
なんか当初より大分キャラ変わってますよね。
「兄ちゃんもアイスありがとね」
「ジェラートな」
こうして満足な結果を得て、俺たちは自宅へと帰還した。
・・
・・
さっそくグループに今日の情報を共有。
『では来週の日曜だけど、皆さんは行けそうですかな?』
『アタシもシフトは入れないでおくよ』
1週間ごとに勤務を決めれる職場のようだ。
『俺も大丈夫だ』
県内最大ではないけど、一応の目的だったショッピングモールでの活動が決まった。
『お昼代活動費から出しても良いかな。これ以上はママに怒られちゃう』
『はい、そうしましょう』
移動費も活動費には含まれてるしね。
『とりあえず気をつけるのはさ、そのお金どこから出てるのって聞かれないように、たくさん服やバックとか買わなきゃ良いんよ』
欲しい物が一杯あるお年頃には辛いのかも知れんけど。
『わかった』
了解のスタンプが即座に貼られた。
神崎パイセンの場合は欲しいの映世関係だもんね。
「うーん」
ツチノコ狩りは全員ジャージだった。そしてうちは学年ごとに一部の色が異なる。
だから同学年だと勘違いされている訳じゃないはず。
「なんで先輩って呼ばれないんだろうか」
俺もせーんぱい♡ って呼ばれたい。もしくはお兄ちゃん。
「あっ もしかしてキモいからか」
なーんだ、なっとくぅ。




