5話 魂の行方
報酬は短刀とビー玉4つ。あとベルトに装着する金具らしき物。
〔月夜の短刀〕 誰でも可。特殊条件細川専用の報酬。固有スキルあり。
落ち武者に認められたことで、神崎のみ〖蛍火〗を使用できる。
〖蛍の光〗
半パッシブスキル。夜だと光の粒が周囲に広がり、範囲内の味方に効果あり。
HP秒間回復(極小)。
浸食耐性(極小)。
〖蛍火〗
刃で自傷すると発動。赤く白い光が装備者を包む。
HP回復(小)。
身体強化(極小)。
状態異常治癒。
属性耐性(極小)。
精神安定。
MP消費(中)。
秒数経過で停止。
冷却30秒。
・・
・・
俺らが買おうとしている専用の品も含め、こういった装備はスキルの使用回数で強化されるらしい。
残念ながらソケットはないか。今後レベルアップで追加されるなら、運営からビー玉解除のメッセージがあるはず。
手鏡を操作してセットすれば、〔腕当〕や〔メイス〕みたいな扱いになる。
通常の隆明を倒せば、太刀の方を貰えたのかもな。
巻島さんの鉈とかさ、すぐには使えない状態で持ち歩かんと、銃刀法なんかに引っかかりそうで怖いもんね。現世だと消えてくれるのは助かる。
「あっぶね、漆の手鏡メインにしてたわ」
「その短刀、どんな感じなの?」
やはり気になっていたようで、三人はこちらに視線を向けていた。
内容を軽く説明して。
「神崎さん使うと良い。専用スキルもあるみたいですし」
「えっ でも」
俺ら3人を交互にみる。
「絶対あった方が良いですって。あとソロのときは戦いの前後に使ってください、精神安定があるのはデカい」
なにが一番心配かといえば、テンション上がって無茶な真似をすることだ。
「アタシらお金貯めなきゃだけどさ、一応は専用武器も買うつもりじゃん」
彼女だけ今のところないのが現状だしね。
握った短刀を彼女に差し出す。落ち武者もそれを望んでたみたいだし。
「ありがとう」
これが昔のネトゲだと、分配に揉めるんだよね。今のは別々に報酬がでるんだけど。
両手で持ちながら、たまに鞘から抜いて刀身を眺め、手鏡の画面を見つめる。
「……えへへ」
嬉しそう。
「サトちゃんよかったね、始めてのボス戦報酬だ」
「うん!」
宮内はビー玉の確認をしながら。
「こういう要素を使えば、誰でもソロが可能な作りになってるみたいだな。まあ俺は極力組んだ状態で活動したいけど」
「私もー」
「このメンツだから言えるってのもありますよ。誰かと組むってのは本来色々と面倒なんです」
過去に人間関係の難しさで嫌になり、こっち系のゲームとか基本はソロでするようになった。太志や隆明もしてるなら違うけどさ。
「なんかよく分かんないけど、アンタがそういうなら一理あんのかもね」
巻島さんをぞんざいに扱う同級生なんいないだろうからな。ネトゲやソシャゲでもしてみりゃ違うか、でもコミュ強だし問題ないんだろうな。
「まあ俺もチームプレイをしてたから、そこら辺は何となくわかるよ」
サッカーの試合観ると、熱くなって仲間同士でも揉めてるもんな。
「私は1人も皆も楽しいけど、どっちか一方しかできないなんて嫌だね」
プレイスタイルは人それぞれさ。組んだ方が効率良いのは確かだもん。
宮内が摘まんだビー玉を俺に差しだす。
「あと、これは浦部用だな」
「その金具か、どれどれ」
手にして調べると、ビー玉と同じく内容が脳裏に浮かぶ。
〔鋼の留め具〕固有スキルあり。浦部専用。
〖無色の鎖〗 最大数1。自分のみに放てる。冷却20秒。引き寄せ時の姿勢安定(中)。解除は自分の意思か戦闘終了。徐々にMP消費(小)。ソケット無。
「こりゃ多分だけど、運営が巻き取りを習得した俺に用意したもんだ。強化もなんも出来ないけど、緊急回避とかに利用できる」
地味に嬉しい品だね。接近戦を仕掛ける前に、滑車を準備しないとな。
手鏡でセットすると、銀色に光って消えたかと思えばベルトに装着されていた。
万が一紛失したりしても、こうしとくと大丈夫って感じだ。
ビー玉の方を確認しようとしたが、宮内が心配そうな顔で話しかけてくる。
「大丈夫か?」
「そりゃねぇ。気分の良いもんじゃないよ」
前世とはいえ、最初からあんな状態の友人と戦うのは。
「普段は顔が歪んでて見えないとはいえ、俺らは現代日本人として経験しちゃいけない行為をしてんだなって認識しちまった」
「私なんて精霊にお願いしてるから、あんたらよりもそういった意識は薄いかも」
ゲーム感覚で人殺しをしているって怒られても文句いえんよ。
「私も楽しいより、心が痛むの方が勝っちゃって」
そりゃテンション上がらんよな。
「喋るだけでもあれなのに、満身創痍ときちゃね。しかもめっちゃ強いとか、あんなん精神攻撃っすよ」
「特殊形態になる前は面頬してたぞ。目もとも空間が歪んでたから、たぶん喋ったりもしなかったはずだ」
「でもその前に変化した兵士さんは、もっとすごい活躍したってことなのかな?」
落ち武者の状況をより大きな功績で考える。やがて世界を救う英雄を、命がけで逃がしたとかそんな感じだろうか。にしちゃ隆明があまりに一般人すぎて。
まあそれを言ったら勇者とか、エルフのお偉いさんとか求道者とか、俺も含めてそうか。
なんといっても地方の高校生だし。
自分の報酬を確認し終えたようで、巻島さんは身体を伸ばし。
「剣の扱いが異常なだけでさ、スキルはそんな厄介じゃなかったよね」
「ユニーク状態とかって強くなるイメージあるけど、細川の場合は見た目からして弱体化だろうな」
果たしてそうなのだろうか。
「異常に腕が立つってのが、特殊形態の特徴って可能性もあるんじゃね」
神崎さんの方を見ると、未だに短刀を見つめていた。
そんな彼女に、偉大なプロレスラーの詩を教えて上げよう。
「道」
危ぶめば道はなし。その一歩が道になる。迷わずいけよ、いけばわかるさってやつだ。
まじで格好良いから、後で本人の声で聞きたくなってきた。
名前忘れちゃったけど、僧侶さんが考えたのが元って説もあるらしい。
「私……もう迷わない。これからは全力でぶっ潰すよ」
「一応言っておくけど、今は平和な世の中だからな」
宮内君の懸念もわかる。
ここでの活動が救いになっている以上は、映世でやるぶんには問題ないさ。現世じゃなければね。
「武道ってのは精神を鍛えるものだってよく聞きますし」
「うっ うん、そだね」
修羅に堕ちるとかゲームや漫画の展開なら有りだけど、現実だと普通にヤバイ人だもんな。
まあいざとなればパッシブを外せば良いか。
報酬の確認は後にしよう。
手鏡を見て時刻を確認し、ケースに入れてベルトの収納にもどす。
「あと20分くらいで集合かけられるな、そろそろ駐車場に帰りましょう」
「はーい」
セットを終えたのか、神崎さんの革ベルトは形状が変化しており、短刀を装着できるようホルダーのサイズが調整されていた。
姿見ショップで買ったこれ、安かった割にはけっこう便利だな。
認識阻害もあるけど、ホームセンターで買った鉈とかホルダーに入れてたら、流石に何してんだって聞かれると思う。
・・
・・
駐車場前の道路に到着する。
「……ねえ、嘘でしょ」
困惑の表情。当然だ、彼女はトラウマ級の経験をしている。
「真希大丈夫?」
神崎さんも話は聞いてる。
「平気。あいつは嫌いだけど、大堀が悪い奴じゃないってのは知ってるもん」
「本当に?」
しつこいぞと神崎さんを小突く。笑みも出ているので確かに大丈夫そうだ。
まあオーガ戦や落ち武者だけでなく、これまで色んな敵と戦ってるからな。オークも含め。
宮内は収納に手をかけ。
「とにかく駐車場に行こう。そこから現世に逃げるぞ」
道路で帰還して先生に見つかると怒られる。
「せっかくお菓子あげたのに、あの野郎。たしかに悪い奴じゃないけど、どうしようもない奴ではあります」
「アハハ」
神崎さんはウズウズした様子で。
「私さ、前から噂の大堀くんと戦ってみたかったんだ。細川くんの時と違って、なんかやる気みなぎってる」
肉眼では確認できないけど、沸き立つ闘志は俺にもわかる。
「大堀くんに恨みはないけど、真希の仇を討ちたい」
「アタシ死んでないけどね」
今なら迷いなくぶっ飛ばせるよ。との発言は聞き流そう。
そうこれ。これなんだよ、面倒な意見の相違。
「まだ時間も余裕あるじゃん。HPもMPも大丈夫だよ」
戦いながらも十分に回復できる仕様なんで、戦闘が終わって少し経てば満タンにはなる。
「俺と違って連戦じゃないっすか、疲労は大丈夫なんすか」
「私の場合は疲労より、たぶんテンションの方が勝っちゃうんだよねぇ。二人はどうかな?」
「ポーションのお陰で戦えないこともないが」
「うーん、アタシはちょっと」
騎士や妖精、落ち武者との戦いは10分も掛かっていない。でも楽だったかといえば断じて違う。
「神崎さんとの屋上戦は30分近く使ったんすよ。集合時間に間に合いますかね?」
主に俺が校庭に投げ飛ばされたからだ。
「大堀はやばいボスだと思う」
「意見を交えている時間もない、ここは浦部が決めろ」
彼の存在は非常に助かる。
「じゃあこうしましょう。巻島さんはもどって、俺らがトイレに行ったと先生に伝えてくれ」
駐車場の出入口近くに公衆トイレが存在していた。
「よし」
「ごめんね。でも嬉しい!」
呆れながらも、どこか嬉しそうなマキマキ。
「もう、仕方ないなぁ」
俺と宮内にだけ聞こえる声で。
「アタシの記憶じゃ、今まであんな我儘は絶対に言わなかった。お願い、ちょっと付き合ってあげて」
「燃える闘魂の副作用もあんじゃないかな。自動脱出ってのがありますし、まあ許容範囲っすよ」
「そもそも学校行事中に活動してる俺らも、自分勝手の部類に入るからな」
巻島さんは感謝の言葉を残し、駐車場へと走りだす。
〖守護盾〗を貰い、二人に〖鎖〗を放つ。
「どちらにせよ、いつかは戦いたかった相手だ。情報収集をしましょう」
「だな」
そうして俺らの判断が決まると同時だった。
未だ太志のままだった影が口を開く。
「Is that a person?(あれは人ですか?)」
悍ましき瘴気を発する化け物に変貌したのち、いつかと同じイノシシ頭ではないオークへと姿を固定させる。
「No, it's fresh meat!(違う、新鮮な肉だ!)」
なに言ってんだよお前。
「あの武器、すっごい格好良い!」
なに言ってんすかあんた。
肉切り包丁で近くのガードレールを破壊され、残骸が沢へと落ちていく。
「おい、登場と同時に壊すのやめてくれよマジで」
構えをとると、オークはそのまま数秒静止した。
「俺が受け止める」
すでに〖始まりの闇〗が触手を伸ばしていた。薄暗闇では目視も難しく、オークは避けずに憎悪を募らす。
足底が道路を抉る。空気の破裂音と共に、一瞬で距離を詰めてきた。
速度も威力も凄まじく、〖障壁と時空盾〗で受け止めたが大きく後退。
オークの【左腕】が黒く染まれば、一回り巨大化して宮内へと伸び、〖盾〗ごと掴むと身体の浸食が始まった。
このスキルには引き寄せがあると判断。
「させねえ」
〖巻き取り〗を発動。
「〖うおぉぉぉっ!〗」
赤い鬼火が灯る。
・・
・・
俺は宮内を残して帰還した。
少し前にやられていた彼女のもとへ進み。
「ほら神崎さん、戻りましょう」
「……」
両手を握りしめ、うつむいて頬をふくらましている。あら可愛い。
「今回は迷わなかったのに」
「そうですね」
よほど落ち武者に言われたことが響いたようだ。
「すごぃ、くやしぃ」
「うんうん」
靴底でアスファルトをなんどか叩く。
「私、くやしいよ浦部くんっ」
分かる。わかるよ。
「君は悔しくないの!」
「熱くなったら負けなんすよ、妖精戦での俺みたいにね。でも情報は得ました」
何度も当たって覚えたり、攻略サイトや動画を見て調べるのも有効だ。でもこのゲームにはもう一つ方法がある。
「次にやるときゃ、学校に誘い込みましょ」
さっきの細川戦を見るに、弱体化され報酬も変わったけど、かなり良い物だった。まああれは特殊条件を満たしたからってのもあるけどな。
だけど騎士戦も妖精戦も、それで得たビー玉は未だに使える良品。
修羅戦で得た報酬だけど、あれって大鳥居から離れた位置ならもっと安くなって、上級者マップだと今回の短刀みたく実物を貰えたんじゃないだろうか。
「おいお前ら、さっさと戻れ!」
けっきょく先生に怒られてしまった。
「宮内はまだか?」
「察してやってください、先生」
大きい方なんですはい。
ブルーシートへ行き、お茶をもらうと巻島さんがこっちにきた。
「どうだった」
「もっと浸食耐性を揃えんとだめっすね。まあ夜って判定されてたんで、ホタルの短刀だけでも助かりましたけど」
属性耐性は全てを含む。
「うん。かなり強い浸食だったと思う。ホタルの光もまだ強化が足りないから、次までにもっと鍛えなきゃ」
浸食耐性ってのはそれに特化したので、さらに細かくすると回復妨害とかもあるらしく、奴のはまさにそれだった。
こちらのバフを弱体化。または確率で消す。残念ながら俺には黒い鎖ってスキルはない。
「後日また話し合ってみましょうか」
俺は軽く会話をすると、隆明のもとへ戻る。
彼はスマホでソシャゲをしていた。
「終わったんですか?」
「ああ、お蔭さんでな」
「細川ごめんね、浦部借りちゃって。話し相手いなくて暇だったでしょ」
巻島さんの登場に、隆明はスマホを胸元へ持って行き。
「全然、なんとも、ありませんでございます」
神崎さんまでこっちに来たから、今にも呼吸困難を起こしそうだった。
「でも本当に助かったよ、もし良かったらこれ食べてね」
まだ封の開いてないお菓子を手渡す。
「あっ ありがたき幸せ」
俺の方を見て、スマホに文字を打ち込む。
『これは国宝にすべきではないだろうか』
「なにか困ったことがあったら言って、アタシにできることなら力貸すよ」
「私たちがついてるから」
隆明が困惑しまくってるよ。
「ふぅ、ふっ ふぃぃ」
あぁ、過呼吸起こしちまったじゃねえか。ビニール袋からゴミをだし。
「おら、これで息吸え」
シンナーじゃありません。俺らは誓ってやってません。
よかった、先生は宮内に話しかけていた。
その後は適当に10名前後で別けられ、ホタルのスポットへ向かう。
どうしてもそれを見ている隆明に、俺は話しかけることができなかった。
脳裏に浮かんだあの光景を思い出してしまって。
帰り道。
「今日は楽しかったですよ」
「そうか」
彼はまだ沢の方を眺めながら歩いていた。
「お前ってさ、剣道とか興味あったりする?」
もしかしたら今からでも始めれば、すごいことになるのでは。
「なんですか急に。そんなのまったくありませんよ、痛いのは嫌です」
だよねぇ。
剣に生きても所詮この様。
言葉は悲壮な感じだけど、なんか満足してたような気もする。
心残りがあるとすれば。
「また来年もくるのか?」
君らってのが蛍を指していたのか、それとも何かを重ねていたのか。
守るべき主君か。
残した家族か。
「ええ。ただ希望する進路によっては、しばらく来れないかも知れませんね」
ここは田舎だしな。
「でもなんか、区切りがついた気がします」
「なんの?」
沢から視線を帰り道にもどし。
「わかりません」
「そうか」
こうして俺たちのツチノコ狩りは幕を閉じた。
自分もうやけくそで色々元ネタを入れちゃってますが、もしやばかったら消す所存です。ごめんなさい。




