表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そこに居たはずの誰かへ  作者: 作者でしゅ
四章 学校行事・歩こう遠足編
26/65

4話 蛍火


 アスレチックで遊んでいると、偶然に後ろが宮内だった。


「身体強化も困りものだね、上級者コースもけっこう楽だしさ」


「高所のスリルがあるから楽しいけどな」


 お互い恐怖症ではないらしい。


「足は大丈夫?」


「途中からキツかったな、休んで大分良くなったから、こっちに来たとこだ」


 完治には近づいてるのだろうか。まあ今は様子を見るしかない。


「すまんね、もしかしたら参加できんかも」


「気にするな。浦部にも付き合いがあるだろ」


 揺れる木の足場をほいほいと進んでいく。さすがに命綱をつけるレベルの本格的なコースはなかった。

 あと落ちたらずぶ濡れとか。


 それでも自由時間は1時間半ほどなので、一通りあそんで展望台にもどる。


「じゃあ、もし来れたら」


「はいよ」


 二人はどこだと見渡していると、同級生が一方を指さし。


「あいつらなにしてんだ?」


 アヤトリで遊んでいた。


・・

・・


 足に負担がかかるのは下り坂とは言われるけど、途中でへばる者もなく来た道をもどる。


「浦部ごめん、ちょっと手伝ってくんない」


「へいへい」


 保健委員には男子生徒もいるようだけど、人手が足りないようだ。


「俺らも手伝いますよ」


 頼まれて休憩所の荷物を幾つか運ぶ。ここぞとばかりに同級生も名乗りをあげるが、もちろん太志にそんな元気はない。


「細川は無理すんな」


「すみません。じゃあ浦部の荷物が多いし、せめて鞄は持ちますよ」


 お言葉に甘えてリュックを渡す。誰かさんと違って君は良い人だね。

 誰かさんと違ってさ。


「ねえ太志ちゃんよ」


「ん? 食うか?」


 スティック菓子の容器を差し出してきた。まあ一本もらいました。

 帰りの道中にホタルの様子を確認するが、まだそれっぽいのは伺えない。


 駐車場に到着後はいったん集まってから自主解散となる。


「じゃあ気をつけて帰れよぉ」


 先生が電車の時刻を教えてくれた。それを逃しても、1時間半後にまたあるらしい。


「俺はまだ歩かんといけんのか」


 あまり機嫌が悪いままだと、これからの活動に支障をきたす。


「ほらっ これやるから」


「え、良いのか。やった、サンキュ浦部ぇ」


 食べなかったお菓子を渡した。


 時刻は4時過ぎ。

 こうして彼は帰宅予定の同級生と一緒に帰っていった。


・・

・・


 駐車場はけっこう込んできたけど、満員とは程遠い。ここは料金をとるので、路肩に止める車もあるし、数分だけ眺めてすぐに行く人もいる。


 バスは朝の時点でもどっているが、一部のスペースは借りているので、コーンの内側にいるよう先生の指示があった。

 帰宅時間に合わせて一台くるんだってさ。今ここにあるのは学校所有の大型ワゴン車だけだ。


「道路にはでちゃいかんぞ」


 アウトドア用の椅子などあり、テントは流石に組まれてないが、ブルーシートも敷かれていた。お茶や冷えた果物なども頂く。


 キャッチボールやバレーなんかは今から車も増えるのでダメだけど、バトミントンの羽根とラケットは幾つか用意され、何人かの生徒が遊んでいる。


「やります?」


「いや、遠慮します。ベーゴマでも持ってくりゃ良かったな」


 残ったのは40半ほどの人数だった。


「しっかしカップルも多い」


「うちの学年で付き合ってる人らは、そりゃ残るんじゃないですか。帰宅組の中にはそのまま遊びに行く方たちもいるかも知れませんがね」


 こいつを1人にするわけにも行かないからな。


 見渡すとすでに3人の姿はなかったが、先生を含めて気づいている者はいない。

 うちの学校でも目立つ連中だ。本来ならそんなはずはない。


・・

・・


 俺はスマホで時間を確認する。

 5時43分。


「浦部に用事かな?」


 1人の女子生徒がこちらへと近づいてきた。

 俺は隆明に一言残し、立ち上がって歩み寄る。


「ごめん、ちょっと手を貸してもらえると助かる」


「どうした?」


 出現するのは2から4体で、終わると次がくるといった仕様になっていたとのこと。

 一度に10体だったらどうしようと考えていたが、それなら助かるな。


 巻島さんは少し呼吸を整えてから。


「強敵」


「まじか」


 どうすべきか考えていると、背後の少し離れた位置より。


「僕は1人でも問題ないですよ、用事なら行ってください」


 巻島は少しのあいだ細川を見つめ。


「ごめんね」


「じゃあちょっと行ってくるわ」


 ブルーシートに置いていたリュックを取りに行き、そこからベルトを取りだして装着する。今日まで使って来た感想なんだけど、これってどうも認識阻害の効果ありそうなんだよ。


 だって校内でジャージに革製のごついベルトしてたら、普通なにそれって友人や先生とか聞いてくるじゃん。

 収納から手鏡をとりだし。


「数値は33か」


 朝に確認したときと大きな変化はない。


「ごめん、二人ともまだ戦ってるから」


「すんません」


 巻島さんは視線を集める。こちらを意識してたりする生徒も数名はいるはず。


「じゃあ行きましょう」


 だけど気にすることなく、映世に移りますかの文字をタップする。


「うん」


 すごい抵抗感はあるけど、これをしても問題ないのだから、やっぱ運営はとんでもない。


・・

・・


 いくつかのポーションをベルトにつけ、腕当とメイスの調子を確かめる。


 鉈は映世の方に残していたようで、それをホルダーに差し込み。


「こっち」


 数歩前にでて俺を急かすので、後を追って走りながら話を聞く。


「一通り戦いが終わったんだけどね、今回の活動じゃ珍しく単体で沢を見てた生徒がいて、アタシらそいつで最後かなって近づいたんよ」


 出てくるのは駐車場やその横を通っている道路だけ。

 7連戦くらいしたってことだから、かなり稼いだな。


 移動をしながらポーションを飲む。身体強化(小)を5分間。


 最初は使い込まれた両手剣を獲物とする兵士。

 次に日本の鎧兜をまとった武士。


「急に頭んなかにメッセージが浮かんでさ。特殊条件ホタルを満たしました、細川をユニーク形態に変更しますって」


 隆明かよ。

 

 俺らはそのまま駐車場からでて、坂道を登っていく。


 映世は現世よりも暗く感じる。

 蛍と思われる沢山の光が道路には浮かんでいた。


 視線の先で戦っている二人を視線に捉え。


「大丈夫か!」


「すまんっ 助かる!」


 神崎さんにしては珍しく、青い〖鬼火〗を灯してらっしゃる。


「ごめんね。でもありがとう」


 テンションが低いままだ。



 頭髪の(まげ)は解かれ、額に巻いた汚れた布には血が滲む。


 通常は人として出現するのって、顔の部分が歪んでて表情が分からない。


「暗くなればと期待したが……新手か」


 そいつは喋る敵だった。

 肩当や背中には数本の矢が折れて刺さったまま。専用の器具がなく、抜くことができなかったのだろう。

 時代背景とかそういうのは分からん。


「落ち武者かよ」


 いくつかの装具は外され、所どころに傷がうかがえる。


「お前も農民ではなさそうだな。であれば、悪足掻きに付き合ってもらうぞ」


 爺婆の世代はけっこう訛りもあるんだけど、隆明の言葉は俺らと違いはない。


「多勢に無勢ってなっちまうけど、それでも良いんだな」


「覚悟の上だ、せめて一人でも道連れにさせてもらう」


 肩で息をしており、少なくとも疲労(小)はありそうな感じだ。


「戦いづらいから止めるつもりだったけど、問答無用で刀を抜いてきて」


 手鏡で脱出する余裕もなかったみたいだ。


「そういう設定になってるんすよ」


 最期に見た光景がなんだったのか。

 追い込めという言葉に顔色を悪くしていた理由。


 宮内は隆明に意識を向けながら。


「最初からHP0だったし、手傷も負ってるんだがな。異常に腕が立つ」


 見たところ憎悪の闇は背負ってねえな。

 敵が武器を構え直したので、情報を聞き出す暇もない。事前にもっとマキマキから聞いておくべきだった。


「ごめん、いつもみたいに力が湧いてこないの」


「一種の精神攻撃っすよ」


 こちらはHPという安全なシステムに守られている。

 再現された相手とはいえ、本物の気迫を受けてしまい、神崎さんのパッシブも上手く機能せずか。


「俺から行く」


 そう言っても相手は視線を絞らず、全員に意識を向けていた。


 メイスを構える。

 仲間に〖鎖〗を放てば、宮内も〖守護盾〗を発動。


「すまん槙島」


「大丈夫。私は後衛だしさ」


 俺が不参加だったので、《最大数+1》をセットしておらず。


 日本人は魔法なんて使えない。

 すでに戦ってたからかも知れんけど、スキルに対してもこれといった反応はなかった。



 相手が姿勢を脇構えに変更した。俺も呼吸を整えてから、走り出すと同時に落ち武者へ〖鎖〗を放つ。


「そいつはエフェクトごと斬ってくるぞ!」


 刃が欠け、さらには刀身も歪んでいる。それでも【武器】は銀色に光り、俺の〖鎖〗を弾く。


「神崎さん、俺は土のメイスを使う!」


 非物理は属性耐性で弱体化させたりもするけど、あえて受けるか回避するのが基本だ。

 銀色なので時空系の【スキル】なんだろう。


「宮内はこっちに合わせてくれ!」


 接触する手前で急停止して、片手持ちの〖メイス〗を足もとに叩きつける。


 これまでの戦闘で、こいつは神崎さんのスキルを把握していたようだ。

 相手は飛び上り、俺の重力場を利用して【太刀】を振り下ろす。

 打刀と違って馬上でも使えるくらいに長い。


「させるかっ」


 宮内が割り込み〖時空盾〗で受け止めた。


「ぐぅっ!」


 頭上からの圧力が加わった斬撃は凄まじく。

 〖障壁〗を突破され勢いのまま押し込まれたが、赤い〖鳥〗が憑依したことにより堪える。


 神崎さんが時間差で道路を陥没させ、一段階の〖重力場〗が発生した。


 落ち武者は柄から片手を離し、腰の短刀を少し抜いて親指を切る。すると儚く小さな無数の蛍火が、優しく彼を包む。


「状態異常治癒か!」


 こいつは最初からHP0であり、特殊形態だからか当初の傷も回復はしていない。動作阻害もまたデバフ。


 俺は〖黄鎖〗を打ち込み、敵の脇腹へ命中したのを確認してから後退する。


「少し頼む」


 〖赤い浮剣〗が盾裏の鞘と重なり、〖短剣〗が引き抜かれた。


「わかった」


 感電は不発だったが、〖鎖〗による疲労の蓄積は一瞬の揺らぎを生む。

 〖時空盾〗で落ち武者を押しのけるも、【太刀】の背を手の平で支え、刃を傾けて力の行き場を流す。

 攻めの〖浮剣〗が追撃。


「小癪な」


 【柄尻】で〖短剣〗の仕込まれた〖赤剣〗を弾き、即座に屈みながら【短刀】を抜いて、〖盾〗の横から腕を急所へと差し入れる。

 地面に落下した短剣は銀色に光って消え、盾裏の鞘にもどった。


「間に合う」


 足の付け根を狙った【短刀】を〖青剣〗で防ぐも、発生した膜ごと貫いて破壊された。しかし【切先】を鈍らすことには成功し、太い血管とは別の位置に突き刺さる。

 光と共にHPは削られたが、隆明の狙い通りであったら、もっと大量に奪われていただろう。


 〖赤い浮剣〗が盾裏の短剣と重なり、数秒間の身体強化を残し、鞘から宙へと引き抜かれる。


 俺は背後の二人に意識を向けて。


「行くぞ。万が一に備えて黒豹は温存してくれ」


「うん」


「りょ」


 神崎さんに〖氷人〗をまとわせ、宮内の位置取りを確認しながら、〖滑車〗を巻き取った。

 回転音が発生して、落ち武者が無理やり引き寄せられる。


「〖うおぉぉぉっ!〗」


 滑車と繋がるのは落ち武者の脇腹。


「ダメだっ! 命中位置が甘い!」


 〖叫び〗ながらも間合いを見計って〖鉄塊〗を振り落とすが、敵は姿勢を崩されても無理やりに腰を捻じった。

 【短刀】で〖大剣〗の刃を滑らせながら、軌道を無理やり反らして眼前を通り抜けさせる。


「とんでもねえな」


 弾かれた【短刀】の切先をアスファルトに押しつけ、それを軸として【太刀】で俺らの足を斬り払う。


 神崎さんは〖氷〗と〖戦叫〗からの防護膜で守られ、姿勢も大きくは崩さず。さらには〖守護盾〗と〖青白の鎖〗もある。


 でも俺の片足には銀光の切断線が刻まれ、その場で転倒してしまう。〖守護盾〗がいくらか受け持ってくれたが、かなりのHPを持ってかれた。


 振り払った反動を使い、相手はこちらに背を向ける。振り向くと同時に倒れ込みながら、肩で背負った【刃】に自重を乗せて俺に落される。


 即座に横に転がって避けるが、すでに落ち武者は片膝をついて、腕ごと【太刀】を脇下にまで引きもどす。

 短刀を口に咥え、両手で俺の首を突いてくる。


 〖法衣〗の突風がその一撃を鈍らせ、片手持ちの〖メイス〗で払い退けることができた。


「〖鱗粉の風っ!〗」


 〖闇豹〗が側面から落ち武者に食らいつく。


 圧し掛かりながら牙を剥き出しにするが、噛みつきを【太刀】で防がれていた。

 尻尾が狙いを定め、勢いよく顔へと〖ナイフ〗を突き刺すも、首を曲げて寸前で避ける。

 物質化しているのは頭部・前脚・尻尾の一部なので、それら攻撃を凌いだ隙をついて起き上がった。


 HPは巻島さんが回復したばかり。


「俺ごと行け!」


「了解!」


 宮内が頭上の〖鞘〗から〖雷光剣〗を解き放つ。


 落ち武者は属性の輝きに反応して振り返った。雷撃がその身に襲いかかるも、肉体へのダメージはない。


「……」


 感電による異常な違和感と痺れを堪えながら、【短刀】で舌を切って即座に癒す。

 その場から離れようとするも、〖大剣〗を担いだ神崎さんが接近。


「ぐぅっ!」


 【太刀】で受け止め横に長し、〖鉄塊〗を地面へと激突させる。

 不十分な姿勢では、威力を流し切れなかったのだろう。刀は完全に武器としての機能をなくし、落ち武者の肩は(ひしゃ)げていた。


 咥えた短刀を残った手で握り絞め、神崎さんの心臓部へと【切先】が押し込まれた。

 青人の守り強化と防護膜に阻まれ、削られたHPも一部が〖守護盾〗に吸収。


「迷いをみせたな」


 敵に指摘され、彼女は悔しそうに歯を食い縛る。


「神崎離れろっ!」


 宮内の叫びに気づき、わずかに反応が遅れるも下がろうと行動した。


「させん」


 【短刀】を手放し、足を掴んで転倒させられる。

 落ち武者は即座に身を動かし、起きようとした神崎を盾にする位置へと回り込んだ。


「迷えば死ぬぞ」


 赤髪で攻めるべきだった。


 意識を彼女に向けたその一瞬。


「今だ」


 俺の〖重力場〗は冷却をすでに終えていた。神崎さんと繋がっていた〖滑車〗を可動させて武者から遠ざける。


「……ふむ」


 道路に圧しつけられ、首を垂れたまま抵抗の仕草はない。


 メイスを地面から浮かせ、それを頭上へと掲げた。


「どうした。この首を持ち帰れば手柄にもなろう」


 敗戦からの落ち武者。


「安心しろ、この先に用はないさ」


 勘で言ったのだけど、なにも言い返さない所からして当たっていたらしい。

 護衛対象。主君を逃がすための殿ってやつか。


 重力場が解除されると、そいつは道路へと腰を下ろし、力尽きて仰向けに倒れ込んだ。

 俺は警戒を解かず数歩動き、折れ曲がった太刀を遠くに蹴飛ばす。


「時世の句でも読むかい」


 少し笑った。

 彼らしい詩を読んだのち、落ち武者は目を閉ざす。


「誰も道連れにできなんだか」


 瞼を開き、瞳だけを横に動かす。


 神崎さんの胸には未だ短刀が刺さったまま。


「くれてやる」


「……」


 角つき女はわからんけど、たぶん修羅鬼と闘仙鬼は武芸者の類。なにかしら通じるものがあったのだろうか。


「剣に生きても所詮この様」


 映世の月夜に視線をもどす。


「だが中々に楽しめた」


 揺蕩(たゆた)う火の粒に酔って溺れる。


「もうよい……さすがに疲れたわ」


「そうか」


 ここではないどこかの沢で、苔むした岩に背中を預けたまま、短刀を握る男の姿が脳裏に浮かんだ。

 暖かな沢山の光に包まれて、彼はその生涯に幕を降ろしたらしい。


「じゃあな」


 来世で会おう









蛍火に

導かれるか

この命


されど君らは

誰がいざなう



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ