2話 神崎ボ○バイエ
お噂通り、神崎さんマジパねぇっす。
けっこう自信あったんだが、俺があのレベル帯だった頃より、ずっと動けてますわ。
もとから運動神経いいのは知ってたけど。
ただビー玉の内容を確認させてもらった結果、やはりパッシブ以外にはHP回復の効果はなかった。
目的地の橋に到着したので、そのまま解散となる。
宮内は巻島を送ってから帰宅するとのことで、俺は神崎パイセンのお供をする。
えへへ、緊張しちゃうなぁ。はいキモいですね、顔に出さんようにしなくては。
「燃える闘魂は確かに優秀ですけど、ちょっと考えもんですね。バーサーカーってほどじゃないんですが」
「でもあれないと、たぶん私大剣扱えないよ」
そうなんだよなあ。
彼女ね、青系統全然使わないのよ。鬼火はいつも赤。
「ただ巻島さんの鱗粉や俺の白鎖で、精神安定使うでも行けるかと思います」
俺の白鎖だと、精神安定は打ち込んだ瞬間につく。
「しかし初期の状態で小から中なんで、今後を考えると恐ろしいスキルっすね。テンションが上がるほどに身体強化かぁ」
「えへへ」
本当に活き活きしてた。
「楽しかったっすか?」
「うん、すっごく」
なら良かった。
「でも忘れちゃいけませんよ、あそこは危ない場所だって」
「そうなんだよねぇ。パッシブの所為かもだけど、少しずつ抜けてっちゃう。確かに厄介なスキルだ」
ストレスの発散場所である以上は、どうしてもその面が浮き出てくるか。
「偉そうに言ってますが、俺もゲーム感覚が拭えないんすよ」
「アハハ、だって浦部くんも楽しそうだったもん」
そうだ。これで良いんだ。
「気楽に進みましょう」
「だねぇ」
焦っちゃだめだ。
・・
・・
翌日は朝にテレビでみた予報どおりの雨だった。そのため吹奏楽部は第二体育館ではなく、音楽室での練習に変更したとの情報を神崎さんが持ってくる。
「行くぞ」
宮内の声掛けに俺らはうなずく。
扉を開けた先には、4人の生徒。
冒険者っぽい槍使い。
豚頭のオーク。今回はイノシシじゃない。
重鎧のメイスと盾使い。
俺と同じサイズのトカゲ。
宮内は扉を開けてすぐ、〖時空盾〗を構える。〖障壁〗が歪めばそこから4本の〖触手〗が伸びていく。
敵には避けようとするのもいたが、俺の鎖とは違い追尾機能があるようだ。
全てに命中。敵の背中から憎悪の黒い靄が発生。すでに触手はなくなっており、無理やり引き寄せることはできない。
「いったん引くぞ」
音楽室は色んな物が置いてあり、戦いには不向きだった。下手に暴れると修理費がね。
いくつかの〖滑車〗を用意し、扉から出てきた敵に放つ。
「よし」
意識が彼に向いているお陰か、〖鎖〗が避けられにくい。
すでに仲間にも〖鎖〗は放っている。神崎さんには〖白〗だ。
彼女は〖赤い鬼火〗を靡かせながら。
「いっくよぉ……」
大きく息を吸い込む。
「〖うぉぉおおおおっ!〗」
彼女はふざけていません、ちゃんと本気です。
〖戦叫〗 一定秒間範囲内の味方に効果あり。
MP消費中。冷却30秒。
色の切り替えは鬼火で決まる。
赤髪であれば身体強化。戦意高揚。
青髪であればHP耐性・装備性能・防御力強化。精神安定。
本来であればその大声に敵は反応するが、今は宮内に憎悪を向けたまま。
槍使いの身体が黄色に光り、一気に彼へと接近したが、〖障壁と時空盾〗で防ぎきる。
オークもこちらへと走りだすが、俺がそちらは受け持つ。
重鎧は【青い光】をまとって後に続くも、〖豹〗が飛び越えてその前に着地した。
大トカゲが口を大きく開ける。
「全体攻撃くるぞ!」
この女子生徒。いや、トカゲとは学校での戦闘経験があった。
以前は廊下だったけれど、なんでもソロパートを任されたらしく、けっこう悩んでいるらしい。
基本的に敵として出現するのは、戦闘能力の高い前世が優先される。
今はこんな姿をしているが、どこにでもいる普通の委員長だ。爬虫類っぽい顔でもない。
敵味方を巻き込んで、口から【火炎】を放射してくる。
〖緑の渦〗が範囲内の属性攻撃を弱め、青い〖浮剣〗が光り炎を弱体化させた。
巻島さんにも〖氷人〗が護衛につく。
重鎧が〖黒豹〗の攻撃を無視して、槍使いと戦う宮内へと迫る。
「そーれっ!」
彼女の大剣は誰もいない場所を横断するが、背後の〖修羅鬼〗が物理判定のない〖鉄塊の大剣〗で斬り払い、俺や宮内ごと通り抜けた。
トカゲ以外の3体に命中して、かなりのHPを削った。俺らのHPも減ったけど、味方の場合はある程度の軽減されるんだと。実体のないこういう攻撃は特に。
ただHP0で直接だと普通に喰らう。高校一年の俺、なんでそんな検証してんだよ。
「神崎、重力場も行けるか!」
「ごめん。そっちのが良かったか」
軽減されてもHPダメは貰うんでね。彼女は〖大剣〗を肩に背負い、溜めを開始する。
「とり兵衛さん!」
狭い廊下の天井を飛び、下降と共に嘴の〖ナイフ〗がトカゲの身体に突き刺さり、大きなHP減少の光を発した。〖豹〗は狙いを女子生徒に変更したようで、追撃をしてから消える。
廊下は広くなっているが、それは横幅のみ。
跳び上った神崎さんの〖大剣〗は天井に亀裂を残し、重鎧は盾で受け止めるも鉄塊に圧し潰され、〖修羅鬼〗の攻撃も通過した。
銀色の輝きが重鎧を突き抜け、HPが0になった盾使いは、いつの間にか剣の横に転移。このまま生身を晒したら重症を負うため、こういう仕組みになっているんだろう。
敵も俺らも同じ条件だろうし文句はない。
〖重力場〗が全ての敵を押えつける。
〖土の大剣〗で重量を軽くしてから持ち上げれば、神崎さんは位置のズレた相手を見下ろし。
「ひゃっはー!」
重装備なのですぐには動けず。もう一度頭上から鉄塊を振り落とす。
「やったぁ!」
狂喜乱舞。流石にやばいと感じたのか、槍使いがそちらへと目を向けた。
「お前のミスだ、芝崎」
側面に浮かぶ〖鞘〗から〖雷光剣〗を払うと、電撃が扇状に広がって残った3体のHPを奪う。神崎さんも巻き込まれるけど、非物理の広範囲攻撃はこういった点が魅力だ。
事前に非物理はFFしても問題なしと決めている。
味方であればデバフの心配もない。
トカゲと槍使いに強の感電が付与された。
抜刀術は日本刀だからってのもあるけど、彼の〖鞘〗には物理判定がないので、強引に引き抜いても問題ない。そして中距離に雷を放てるのはこの瞬間だけ。
芝崎こと吹奏楽部の男子生徒は、〖重力場〗の影響もあって〖雷光剣〗の追撃をもろに喰らう。
「やっぱ学校内の敵はもう弱いっすね。巻島さん、委員長にお願いします」
「はいはい。クロちゃんもう一回っ!」
再び呼び出した〖豹〗が闇に変化し、壁走りでトカゲに接近。
俺もオークの飛びかかりを横に避けたのち、側頭部にメイスを叩きつけた。
HP0。
「ほい追撃!」
姿の見えない巻島さんが、鉈で豚頭の足を叩き斬る。
「さがったよ」
「了解」
声の方角を確認しながら、俺がメイスで止めを刺す。
・・
・・
今回の戦闘で破損したカ所を見ながら。
「じゃあ今回はアタシからね」
「うぅ~失敗した。一段階の溜めでよかったかぁ、ご迷惑おかけします」
神崎さんは天井の亀裂には気づいてないようだ。
「俺もしょっちゅうすよ。このスキルにしときゃよかったって、その積み重ねが経験っつうこんで」
修羅鬼戦なんかだと、俺は〖滑車破壊〗を使わなかった。あのスキルってHPを削るのに優秀なんだけど、けっこう忘れちまう。
命中してからしばらくは繋げておきたい。でもいつの間にか滑車から離れたり、時間がきて鎖が解除されることが多い。
「連係も難しいな」
一人ずつ修復画面に不要なビー玉を放りこむ。
「神崎は育成中だから、無理しないで良いぞ」
「うん。じゃあせめて最初の一周だけ」
報酬を回収。《鎖の射出速度中増加》
ソケットに余裕がありゃなぁ。ただ速度が今のままでも、命中させる方法はあるんだ。味方と交戦中とかね。
あと本当はさ、悪寒で敵を凍らせて動作阻害ってのも付けたい。
ついでに手鏡を確認をする。
おっ レベルアップしてら。
「やっぱそうきたかぁ」
最大数(固定)ってのがあったんで、予想はしていたけど。
「ん? どうしたん?」
逆にして鏡面を見せながら。
「〖滑車破壊改〗か〖巻き取り〗の二択ですって」
壊せる滑車の数が1つ増える。冷却が15秒だとすれば、30秒で2つ蓄積するって感じだな。同じ個体に重ねて使えばHPダメージ2倍ってことだ。
巻き取りは任意の滑車を可動させて引き寄せる。また使えば敵味方問わず、継続時間も伸びる発生スキル。
同一個体に複数の鎖を打ち込んでいても、引き寄せられるのは一方面だけ。
こちらが改良された場合はどうなるのだろうか。八つ裂きの刑とか。
「攻略本作ったの誰だよ、気になるじゃんかぁ」
「あんたでしょ」
両方バランスよく育てるか、一方に絞るか。
「つまりいずれは俺も、〖仕込み短剣〗を覚えれるってことで良いんだな」
「可能性は高い」
「まあアタシは精霊合体一択かなぁ」
ですよね。
「私の選択スキルってどうなるんだろ」
「お楽しみってこんで、すげえ悩みますよ」
実際に俺は今もの凄く悩んでる。
「えぇ~」
「そんな悩まなかったけどなぁ」
ですよね。
「じゃあ次は第二体育館か。雨でサッカー部が練習してるはずだ」
野球部は専用グラウンド内に室内施設あります。うちって金持ち高校だよね。
「次に4人揃う日は野球部のとこ行ってみますか。校庭と違って敵も出ると思いますんで」
前回近くを通ったけど、進入しなかった所為か球児の影はなかった。
「おっけーい」
「やったぁっ」
サッカー部の影も鳥居の影響で普段はでないから、戦える機会は雨の日くらいだ。
あの神ゲーにも雨の日限定の敵とかいなかったっけ。
しかしあれだな。俺も含めて皆さん豊富なスキルがある。
さっき戦った連中がもし迷い人になっても、この三人ほど苦戦したのだろうか。
太志なんかはあんな理由での出現だったけど、なんか滅茶苦茶強そうだし。やっぱ前世ってのはかなり強弱で関係あるんだろうな。
・・
・・
電車の時間に合わせて、この日は活動を終了とする。宮内はサッカー部に寄ってから、部員と一緒に帰るとのことだった。
マジかよ。おれ女にょ子と一緒に帰るのか、太志と隆明にまた自慢せんと。このまま俺、アイツらに嫌われるんじゃないだろうか。
「明日は宮内くんも塾だっけ?」
「そだね。アタシもバイト」
神崎さんは続けてこちらを向く。
「すんません。自分も友達との約束がありまして」
「んぅぅ~ 残念っ」
宮内と巻島は楽しんでいるけど、やはり目的のためってのがある。でも彼女は俺と同じで、完全にドハマりですな。
「俺も今まで1人の時はソロで活動してましたよ。たぶん大丈夫なんじゃないっすか?」
「はあぁ? ダメだよ、危ないでしょ! この子は回復手段ないんだし」
「うぅ ポーション使うもん」
俺らはもう粗方(中)は揃っている。でも神崎さんは違う。
「数は足りてんの?」
言い返せずに頬をふくらませて下を向く。なにその顔、超可愛いんですけどぉ。
「緊急脱出もあるし、自分は大丈夫だと思うんですが。ただ予備の鏡を使ってくださいね、あと今日みたいに生徒や教師の多くいる場所は避けてください」
HPという要素があるので、そのぶん敵もタフなんだから、複数戦はやっぱ分が悪い。相手がどんなに弱くても、絶対に一撃じゃ倒し切れないんだ。
「ほらほらどうだ真希ぃ 問題ないだろぉ」
マキマキに胸を張る。
「もう、余計なことを」
恨めしそうな眼で睨まれる。
「すんません。俺もハマってるんで、なんとなく分かるんですよ」
「宮内はサッカー馬鹿だからあれだけど、アンタも二人での活動を通して、あわよくば聡美と仲良くなりたいってのないよね?」
神崎さんはうーんと悩みながら。
「下心は罪じゃないと思うけどねぇ。私だって好きな人ができれば、うへへあわよくばってなると思うし」
あるよ、あるに決まってるでしょ。
「例の事情がなければ、そりゃ俺だって下心は出てたかも知れねえっす」
「……あぁ、そっか。ごめん」
惚れてた可能性は大いにあるはず。
「うへへぇ。はいっ じゃあ真希は反省。そして私のソロ活は決定です!」
あわよくば活動したい神崎さん。
「ちょっと! それとこれとは別でしょ!」
仲良きは美し気かな。
「たぶん止めても神崎さん言うこと聞かないっすよ」
「だぁよねぇ~♪」
「あぁもうっ!」
楽しき青春の一幕を体感しながら、帰り道は過ぎていく。
ボンバイエ やっちまえ。彼を倒せ って意味らしいです




