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そこに居たはずの誰かへ  作者: 作者でしゅ
四章 学校行事・歩こう遠足編
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1話 打ち上げ


 前回、鏡社で活動したのは妖精戦の翌日なんで5月の序盤。二人からの話を聞くと、けっこう裏道は荒れていたそうだ。


 そんな悪環境をものともせず、巻島さんの話ではそれはもう勇猛果敢で、小学校時代を思い出したとのこと。

 元気があれば何でもできるようで、人形が出るたびに大剣で破壊していたらしい。


 物足りないとの感想をいただいた。

 さっきから俺の中でずっと、伝説レスラーの有名ソングが流れているよ。


『とういことで2人の疲労が大丈夫なら、明日は鏡社の手入れをしたいと思いまーす』


 えっ 良いのだろうか。


『神崎さんはそれで問題ないんすか?』


『すっごく悩んだけど納得しました』


 バンザイのスタンプが送られてきた。何気にこのグループで初だ。


『問題なければ、そのあと廃校カフェで打ち上げをしたいんだけど』


 せっかくなので参加の意思を返信する。じゃあ俺もとのことで、全員が揃うこととなった。


『浦部は感謝を込めて奢ります、宮内もそれで良いな』


『ああ、了解した』


『なんかすんません。うれしいですはい』


 素直に喜びましょう。


『その代わり、乾杯の音頭は浦部くんの仕事だよ』


 親指を立てるスタンプ。


『今から考えておきます』


 半分は報酬目的でも、助けられて良かったよ本当。


『ああ、それと報酬確かめてみましたか? 自分は〖風の盾〗って固有スキル付きだけど、50万ですって』


 簡単に内容を説明する。


『俺のも〖暗黒の戦槌〗ってスキルだった、残念ながらこちらも50万だよ。あと帰ってから気づいたんだが、新しいスキルで〖始まりの闇〗を覚えてたぞ』


 空間に最初からある闇が、時空盾の障壁から触手となって伸び、それに掴まれると宮内に憎悪を向けるらしい。


『おお、ついにヘイトスキルだ』


『今回は槙島がそれで緊急脱出になったからな、ちょうど良かった』


『痛くなかろうと敵が攻撃してくんのは怖いんで、引きつけてくれるなら正直ありがたいです』


 巻島さんのはどうなのだろうか。


『アタシのは反応見たいから、明日ね』


 契約のナイフだっけか。余程すごい内容みたいだ。


『ちな50万』


 先ほど神崎さんが使ったからか、しょぼんとした可愛いキャラのスタンプがついた。どうしよう、俺のスマホには最初からあるのしかない。

 いや、そう言えばオークが如くのを買った記憶がある。


 悲しそうな表情を選んで俺も送信した。ミニカーレースで負けた時のだ。


『ちょっと、思いだしちゃったじゃん』


『なんのこと?』


 涙なしでは語れない惨劇の説明をする。駄菓子屋を壊されたのも加え。


『ふーん。いいなぁ、やっぱ明日活動したくなった、皆わたしを置いてきぼりにしてさ』


 俺らがスキルや報酬のことを話していて、羨ましかったらしい。


『ごめんごめん、放課後もちゃんと活動するからね。機嫌をなおしてください』


『俺の時よりもレベル上るのは速いと思うぞ』


『宮内君は火木土が塾で、月曜日は槙島さんもバイトないんでしたね』


 危ねえ、名字いつもので打つところだった。


『私は毎日できます』


 神崎さん、今の時点で入れ込みようが凄まじいな。


 ここらでやり取りも終わりかなと思ったところで。


『ねえねえ、私も専用武器あるかもだからポイント貯める予定だけど、その前に装飾品買っても良いかな?』


『そうですね。もし買うなら自分のは止めて、精霊か守護者の方が良いっすよ』


 他色の鎖と一緒に使えるは、もう自前のビー玉でなんとかしていると伝える。


『どっちが良いかな?』


『俺としては槙島のやつだな。3つ同時には無理だが、どれかを得られる』


 トリ兵衛は身体能力の強化や、時々だけど火属性でHPダメ。

 青大将は守り3種の強化だけでなく、氷でも直接防いでくれる。

 クロちゃんは敵バフの弱体と、爪や尻尾で攻撃の手伝いも可能。


『確かに宮内君のは便利だけど、アクセサリーなくてもスキルの効果は発揮されるんすよ。だけど精霊は装飾品を買わんとダメっす』


『じゃあお金たまったら、真希のやつ買うね』


『買う前すっごくドキドキするから。結果悪くても、アタシに当たっちゃダメだよ』


 そんなことしないよ、との返事が帰ってきて、この日は終わった。


・・

・・


 草刈り機は俺が使う。宮内には鉈とノコギリで邪魔な枝や倒木の除去。

 鏡社周辺の草は鎌でお二人にお願いし、それが終了したら社の拭き掃除をしてもらう。


 廃校は昼時だけ食堂になる。


 午前9時から11時、午後2時から4時はカフェとのことだ。

 なんとか食堂終了までに終わって良かった。


 実はけっこう人気あるんだよ此処。

 さっそく席に着席し、ご飯を注文する。

 先にと頼んだ飲み物が揃ったのを確認したのち、俺は丁寧に折りたたまれた紙を広げ、咳ばらいをしてから内容を読み上げる。


「本日はお日柄もよく。このような機会を用意してもらえましたことに、気恥ずかしさと喜びを胸に着席しましたことを最初に伝え、乾杯の音頭を取らせていただきます」


 なんども練習しただけあり、つっかえることもなく。緊張で少し声が震えているが、それもまた感動に打ち震える演出となっているはずだ。


「たぶん映世でのことがなければ、このメンバーと接する機会もなかったと考える今日この頃。とても新鮮な気分で楽しく過ごせていますことを思い、無事に救出できたのを……」


「浦部ぇ 長いって、もういいよ」


 おい、俺が徹夜で考えてきた長文を無にする気か。


「校長先生みたいだねぇ」


 一緒にしないでください、生徒が貧血で倒れたらさすがに中止します。


「へいへい。では今後の安全と活躍を願って」


 全員が声を揃えてかんぱ~いをする。それぞれが口をつけたのち。


「まあ確かにな。浦部だけじゃなくて、2人ともしょっちゅう喋ってたわけじゃなかったから、良い縁を築かせてもらったよ」


「アンタの場合はサッカー馬鹿だったからね。でも本当によかったよ、サッカー馬鹿だったからこそさ」


 うんうんと笑いながら。


「真希の悩みも良い方向にうごいて良かった」


 気持ちしんみりしてしまったので。


「ところで巻島さんのナイフは、まだ教えてくれないんすか?」


「ああそうそう。これこれ」


 そう言って手鏡を操作するが、ショップ画面は姿見でないと出せないことに気づき。


「浦部良かったね、大好きな私とまた会えそうで」


「ぐへぇっ」


 神崎さんは口に含んでいたジュースを出しそうになるのを堪え。


「そうだったの?」


「あぁ、ちゃうちゃう前世のこと」


 契約のナイフ。

 固有スキルは〖妖精〗だった。


「まじっすか。でもどっちかって言うと、宿敵の部類なんすけど」


 強がって見せたが、うまく隠せているかは分からん。


「なんつうか戦ってるとき、あんま敵意を感じなかったんですよ。おちょくられるばっかで」


「浦部かなり怒ってたからな」


 そっかぁと神崎は巻島をみて。


「真希の前世は妖精で、それ以外だとエルフだったんだよね?」


「んで宮内君は騎士っすね。勇気を胸にってくらいだから、あの英雄は勇者かなと自分は思ってたりします」


「ぷっ 勇者輝樹だ」


 宮内は頭を掻きながら。


「浦部は聖職者だもんな」


「んむ? 傭兵じゃないの? あっ 別の人生ではって話か」


 最近になって司祭のメイスから虚無。聖職者のオーラから偽りの神々になった。


 神崎さんにたぶん同じ人生だと伝え。


「スキル名や説明から察するに、教会組織を追放になってから、傭兵にでも鞍替えしたのかと」


 咎人のメイス使用中になんか意識が混じった感じがするんだ。たぶんあれのお陰で、デバフ受けながらでも動けたんだと思う。


「さては悪事を働いたなぁ」


「うわっ エセ神父だ」


「だがその傭兵団の幹部が、あなたの原罪をとか書いてなかったか?」


 原罪ねえ。


「アダムとイブが蛇に唆されて、知恵の実を食べたってやつか」


「えっ でも異世界の宗教じゃないの? この世界は関係ないっしょ」


「まあ俺の前世なん別に良いじゃないっすか」


 教会を追放され、傭兵団に協力を願った。

 なにかと戦うために。

 そうなると相手は追放された教会か。

 腐敗でもしてたんか、出世争いにでも負けたか。

 たかが傭兵団一つ。

 勝てる見込みは。


 偽りの神々。

 この世界に色んなものがあるように、異世界にも幾つかの宗教はあったはず。

 そこから分離したのも含めてたくさん。


 虚無のメイス。

 異世界なんだ。実際に本物の神が存在したのかも知れん。

 俺らに厄介な運営がいるように。

 唯一神や天使か。それとも神々か。


 たぶん確信する出来事があったんだろう。

 信仰していた神が、宗教が偽りだって。

 原罪。

 寄る辺を失ってから最初の罪。


 神崎さんが俺の前に手を伸ばし、1つの指先で机を叩く。


「大丈夫?」


「ええ、なんか考え込んじまった」


 辛い現実から逃げて、仲間を置き去りにして、全部忘れたってことか。


「浦部。あまり考えすぎるな」


「ほら、ボーっとしないの。店員さんこっちきたよ」


「そうっすね。うぉ、ワカメご飯だ」


 給食らしきランチを頂く。


「俺はまたサッカーがしたい」


「病気に効く薬を飲ませる」


「そうでしたね。ちゃんと理由があって、皆さん集まってるわけだ」


 出る料理は日ごとに違うが、全員内容は同じ。


「私は思いっきりぶっつぶしたい」


 だって給食だもの。ケンちゃんメニュー考える人が代わったとか言ってたけど、これもしかしてそういうこと。


 暗い雰囲気にしちまったので。


「そういや来月の行事、皆さん残るんすか?」


「うん、アタシら蛍みたいし」


 1クラス35人前後で、我が校は1学年4組だから、まあ総勢だと150手前くらい。


 俺らの学年は今度ハイキングがあり、高所の展望公園で弁当をすませ、16時には第一陣が現地解散する。

 ピクニックやら小学校の遠足だと揶揄されてるが、まあそこはしゃあない。


 んで希望者は麓の沢で蛍の見れるスポットがあるんで、残るならバスで学校や道中の家付近まで送るから、事前に名乗りでるよう言われている。


「ねえねえ、そこって此処から近いよね。もしかすると鏡社の範囲内だったりする?」


 距離的に考え。


「前に神崎さんと戦った橋くらいの弱体化ならしますよ。もうちょい低いか」


「部活の先輩から聞いたが、去年は4・50人くらいだって話だったかな」


 6月2日の月曜。

 日の入りが19時手前として。


「各自解散が4時半で、蛍みた後の点呼が7時30分だって」


 残るのは陽キャか忌々しい彼氏彼女持ちだろ。

 そう思っていたら、神崎さんがキラキラな瞳で訴えかけてきた。


「やりたいなぁ」


 自分の容姿を理解してらっしゃいますね。


「活動しちゃう?」


「危なくないっすか」


 暗い中での行事だし、先生方も気を配るだろう。


「4時から6時半までそれなりに自由は許されるが、以降は10人ごとに分けられる」


 良く知ってんね君。


「私たちが映世に居るあいだ、こっちだと存在感が薄くなるんでしょ?」


「とりあえず6時半までに戻れば大丈夫だよ」


 残るのは50ほど。その数字で思い浮かべてしまう、武器の値段を。


「人と接するだけでもストレスは溜まるか。そんだけ集まってれば」


「嫌々参加してる生徒も多いからね。帰った連中もまだ意識はそこに向けられている」


 俺個人としちゃ雨で中止になるから、是非とも降って欲しいのだけど。

 駐車場から展望公園への道中に、ホタルのスポットがあるんだったかな。


 学校周辺だと10分歩いて戦闘が1度あれば調子がいい。1体のときもあれば2体のときも。


「やるか」


「そうだな。50万も遠いし」


 少し考えてから。


「当日までに、学校の体育館や音楽室で戦ってみるか」


 複数の敵が出現する可能性もある。


「ただうちって強豪校じゃないから、驚くほど練習は厳しくないんだっけ。野球場はダメだからね、さすがにまだ早すぎる」


 神崎さん好戦的だけど、まだ鏡社での経験しかない。


「えぇ~ そうかなぁ」


「吹奏楽部は前回全国に行ったぞ」


 ほう。


「たまに体育館とかグラウンドで走り込みしてるよね。肺活量鍛えるため?」


「明日は第二体育館での練習だって友達いってたよ。筋トレするんだって」


「今から少し、神崎のレベル上げておくか」


 乙女の目が輝いた。


 時刻は1時半。午前中に労働しているけど、現世でもパッシブやらの効果はあったりする。それに疲労回復のスキルやポーション。

 急遽ここから例の橋に向けて、神社仏閣巡りを開始することになった。

 

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