8話 仲間になった③
なんと神崎さんは元の姿に戻るとすでに起きていた。
頭には鉄板に闘魂と漢字で彫られた額当。うん、オシャレに疎い俺でも分かる、これはダサい。
そして一回り小振りとなったが、彼女の背丈ほどある分厚い大剣。
スキルで強化されていたとしても、とても扱えそうにないんだけど。
宮内は座りながらその光景を眺め。
「神崎、お前よくそんなの持ってられるな」
剣先が屋上に触れているとはいえ、彼女は柄を握りしめている。
「ふえ? ああこれ、うんなんか持ってるよ」
まだボーっとしているようだ。巻島に抱きつかれ揺さぶられながら。
「ねえねえそれより、さっきまで私ってみんなと戦ってたよね?」
「まあ、そうだな」
宮内の剣盾を眺め、俺のメイスに視線を移し、巻島の外套に触れて確かめる。
「なんかすっごく楽しかったんだけど。浦部君投げ飛ばしたときとか、もうスーっとした! あっ、でも無事で良かったです、ごめんなさい」
おいおい。
「ストレス解消になったっすか?」
「うん! ごめんなさい」
解決法を考えていたけど、こう来たかぁ。ていうか思い返すと、2度も高所から落とされたんですけど。
「ねえ大丈夫なの、具合悪いとかない?」
平気平気と巻島さんの頭を撫で。
「ああ、そうだ。浦部君ごめんね、私の……せいではないか。でも迷惑かけちゃった」
男に告白した件ね。
「それより今日までのレベル上げの方が大変で、もう半分忘れてましたよ。宮内君や巻島さんが動いてくれたんで、被害は最小限で済みましたし」
あと言っておかなきゃいけないことがあった。
「神崎さんに告った本人じゃなくて、どっちかっていうとその友人たちが犯人です。ていうかありゃたぶん友達じゃない」
その気にさせてもう一度告らせ、様子をみて笑いたかったって感じがする。
「たしかに、そうだな」
「そっかぁ」
実際にそいつらとは距離を置くようにしたと、本人から後日謝罪されている。
「あのさ。レベル上げって言ったけど、やっぱ敵いるの?」
「サトちゃんやアタシらみたく、直接こっちに迷い込むのは少ないんだけど、突発的なのや蓄積されたストレスで出てくるのがいるね」
マキマキの返答を受け、神崎さんの表情は明らかにキラキラと輝いていた。
「とりあえず此処から出ましょう。俺予備の鏡あるんで」
「私のやつ壊れちゃったんだよね」
「なら俺のがあるから、それを使え」
予備を含めて壊れた場合、映世の鏡を探す必要がある。安物でなく良い品を複数買いした方が安上がりなんだろうか。
今は強敵と戦うって事前にわかってる時だけ予備を用意している。
「あっ そう言えば報酬」
「忘れてました」
いかんいかん。神崎さんの足もとに視線を移す。
「ありゃ、宝玉1つだけだ。でもなんか木札みたいなのある」
立ち上がり、重い足を動かしながら二人のもとへ進む。
宮内も動きだしたが、20分間ソロで大鬼と戦ってたから、疲労(中)の俺より辛そうだ。
「ほらっ、これ」
疲労回復系のポーションを渡す。
「良いのか」
「どうぞどうぞ、今回の戦いで一番の功労者は貴方です」
それは確かに一見ただの木札。
契約のナイフ・販売許可書。巻島専用。
黒鋼の戦槌・販売許可書。宮内専用。
緑鋼の小盾・販売許可書。俺専用。
「姿見に入れることで、ショップに追加されるんだって」
1つだけあったビー玉を確認する巻島さん。
「やった、私のだ」
初のボス戦だもんな。でも少しすると彼女の顔がひきつっていた。
「一方がバット効果っすか?」
「精霊の加護で姿消えてる時に、気づかれないで攻撃するとHPダメ増加(レベル比例)」
後のは消える時間3秒延長とのこと。
運営性格悪いよ。
「……私のはないんだ」
そんなに落ち込まないでください。だってあなたボスだったんだもの。
・・
・・
現世にもどり、いったん俺の教室に行き、いつも通り説明書と攻略本を読んでもらう。
「ほうほう、ふーん なるほどぉ」
実に楽しそうだ。
「えぇー 寺社巡りって、これのことだったんだねえ」
「あの時はお世話になりました」
俺の返答でなんとなく察したらしい。巻島さんと話すようになり、だいぶ緊張はしなくなった。
「ご迷惑をお掛けしました」
「神崎戦を事前に経験できたのは、今回の情報収集にもなったから、結果としては良かったけどな」
宮内君。僕らは屋上でも戦って負けてますよ。
その後も神崎さんは読み進めていたが、攻略本から説明書に持ち手を変え。
「廃校カフェって私、前に行ったことある」
「……明日にしましょう」
俺と宮内を交互にみて。
「二人ともお疲れだね。でも初心者用なんでしょ、私1人で行くから大丈夫だって」
おいおい。
「浦部君も最初は1人だったんだよね。うんっ 私もへっちゃらだよ」
「自分は否応なくって感じでしたんで、可能なら単独は嫌でしたもん。めっちゃ怖かったし」
「そうだよ、明日もみんな予定ないしさ」
「闘魂は伊達じゃないな」
宮内が苦笑いを浮かべていた。
神崎さんはしばらく考えた後。
「うん、わかった」
こりゃ解散後に行くな。
巻島さんはため息をつき。
「仕方ないなぁ。でもいったん家には帰りな、記憶書き換えられてると思うけど、二週間近く居ないことになってたんだから」
「そうだね。うん、そうする」
俺は宮内と顔を合わせ。
「超火力のアタッカーが加わったな」
「これからは回復に注意しないと」
俺ら3人は自力でけっこう回復できる。まあ〖白鎖・味方〗は素だと自分に打ち込めないんだけど。
大鬼戦を顧みるに、神崎さんは恐らく回復系のスキルだけでなく、ビー玉も少ないはず。
代わりに総HPや守り関係は高そう。
赤か青に燃える頭髪。
赤と青の叫び。
超巨大化した大剣のエフェクト。
土の仙衣。
地面を踏みしめて一定範囲を重力で圧しつける。
予想できるのはこれら5つ。
手鏡を握ってもらい、こちらでスキルの確認をする。
・・
・・
〔鉄塊の大剣〕スキル枠1
〖土の大剣〗 剣専用。重さの調節(小)が可能。振るたびにMP回復(小)。
剣を地面に叩きつけると〖重力場〗が発生。圧力は振り落とすまでの溜めで変化。冷却1分。MP消費は一段階で(中)、二段階で(大)。
〔闘魂の額当〕スキル枠1
〖鬼火髪〗 額当自分専用。
赤火の時は身体能力強化(極小)。
青火の時はHP耐久・装備性能・防御力強化(極小)。
徐々にMPを消耗(小)。
戦叫時のみ一本角のエフェクトが発生。
赤は実体のない修羅鬼が背後に浮かびでる。
青は自分の周囲に防護膜を張り、威力・圧力を軽減(極小)させ、属性耐性強化(極小)。
今は〖戦叫〗を覚えてないので不可。
〔自分〕スキル枠1
〖燃える闘魂〗 額当自分専用。徐々に戦意高揚。元気があれば大剣だって振り回せる。テンションが高まるほどに身体強化(極小から中)。攻撃を命中させるとHP回復(極小)。MP秒間回復(極小)。
・・
・・
最後のダメだろ。
なんとなく予想できるのは、巨大な大剣のエフェクトは叫んだときに発生する、修羅鬼ってやつの武器になるのかな。たぶん俺らが戦った大鬼のことだろう。
あれ、これペル〇ナか。いや違う、スタ〇ド……もだめか。
俺はベルトの収納を開け、ビー玉を探る。
「えーと、精神保護はあったかな」
「あっ いいよ、私のあげるから」
巻島さんがこれからついて行くようなので、お願いしちゃうか。
「じゃあ、すんませんが頼みました」
「俺も今日は無理だ、これで帰らせてもらうよ」
一応だけど敗北も見越して午前と午後。そんで翌日もあけていた訳だが、俺らはもう戦うの無理だ。
「じゃあ明日は……どうします?」
休みにしたいけれど。
「明日も遊びたいな、午後からで良いからさ。ねっ お願いします」
「へい」
「了解した」
俺も遊びたい気持ちはあるさ。
「アタシとしちゃ、活動じゃなくて打ち上げみたいなのもしたいんだけどさ」
「それもいつかしよ。でも明日は活動です」
更衣室でリュックを背負う。
「良かったよ上手くいって」
「本当っすね。あんだけ頑張って失敗だったら、今後の士気に関わると思ってたんで」
少し笑われ。
「敬語のままだな」
「あっ」
女子と一緒の時はいつもそうなんでね。
「最初は2人だったけど仲間も増えたな。あとは浦部のお姉さんたちか」
そこら辺の事情は後で巻島さんから神崎さんに伝えるそうだ。
冬休みの京都。
「面白そうだから私は参加したい……とは言わねえか。神崎さんはそこら辺の気は使えるだろうし」
むしろ周囲に気を使い過ぎてこうなった。
「今のあいつを見てると、内心は考えそうだが、口にはださんよ」
そうだなと返答してから。
「彼女の場合は俺のが切欠になっただけで、原因は今日までの蓄積だろ」
「父親の病気に引退せざるを得ない怪我。大きな物事でなくても、迷い込む可能性はあるってことか」
もともと暴れん坊。もとい活発な娘だったらしいし、よほど大剣を振り回して戦うのが楽しかったんだろう。ストレスの発散だ。
更衣室を後にし、皆で駅へ向かう。
神崎さんは気持ち落ち込んだ表情で。
「明日だけど、もし厳しそうなら遠慮しないで言ってね」
ちょっと時間を挟み、自分の言動を振り返ったんだろう。
「そうさせてもらいます。けっこう熱くなってきたし、もし鏡社の裏道が草ボウボウなら教えてください」
「もともと浦部のお爺さんが手入れしてたんだっけ?」
正直いえば俺ら3人がいれば、学校や周辺での活動に神崎さんが混ざっても問題はない。
「実際の管理者は町ですけど、まあ子供のころからやらされてたんで」
「その時は手伝うさ」
感謝を口にして、俺は身体を伸ばす。
青春だねぇ。
電車での会話は少なかった。
途中の駅で三人は下りる。
「じゃあな。帰ったら許可書を確認しないと」
神崎さんは頭をさげ。
「本当にありがとうございました。助かったよ」
「またね」
宮内はこのまま帰宅。彼女らは神崎の実家によったあと、鏡社に向かうとのこと。
・・
・・
自転車で帰宅すると、さっそく例の木札を姿見に入れる。
「固有スキルありの武器か」
もともと盾は欲しいと思ってたんで丁度いい。〖風の盾〗ねえ。
なんでも〖法衣〗と合わせれば、エフェクトが法衣鎧に変化するんだと。
黒鋼の戦槌。宮内は〖鞘〗に剣を収めている間に使えそうだ。仕込み短剣を選ばなかったから、挿入中は武器なしになってるのが現状。
契約のナイフ。こりゃたぶん追加の精霊じゃね?
わくわくしながら視線を動かすと、ある数字で目が止まる。
この2週間で俺らは確かに8万という金を稼いだ。巻島さんもすこし安くなるとはいえ7万。でもけっこう無理をしたんだぞ。
「……50万」
高すぎだろ。
今は5月も後半。
県内の最終目標であるショッピングモール。
買ってから行くべきか、そこで稼ぐべきか。
ここまで読んでいただき、本当に感謝です。
今は17万文字くらいで、六章の途中くらいなんで、もうちょい書きためはあるかな。
次章は学校行事になります。




