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そこに居たはずの誰かへ  作者: 作者でしゅ
三章 燃え滾る美少女・神崎聡美編
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7話 屋上の大鬼戦


 神崎さんがもっとも意識を向けている場所。

 気の抜けない場所。

 心安らがない場所。


 学校の中で彼女が逃げ場としていたのが、普段は立ち入り禁止の屋上だった。

 巻島から得た情報のお陰で、すぐに発見できたのは幸いと言えるだろう。とはいえ全く歯が立たず、俺らは2週間のレベル上げをしたのだけど。


 鍵が壊れているというべきか、老朽化のせいで扉を持ち上げながら引くと、けっこう簡単に開いてしまうらしい。


・・

・・


 〖銀の鞘〗は剣ごと実体を失っている。その代わりに〖時空盾〗を使えるのだけど、ここで仕込み短剣を覚えなかった事が仇となる。単純に武器がない。


 赤い【鬼火】を頭髪に灯した大鬼。


 空気を引き裂く音を置き去りにして、鉄塊の武器が姿勢を屈めた宮内の頭上を通りすぎた。


 返す刃には少しの溜めを要す。大剣が赤い光と共に超巨大化。

 宮内は〖障壁と時空盾〗で受け止めたが、倍化したエフェクトだけは容赦なく、そのまま彼を通り抜けて屋上の広範囲を薙ぎ払う。


 俺は脚力に任せて飛び跳ねて【実体のない大剣】を避け、鬼に向けて2重の〖赤〗と〖黄〗を打ち込み、着地と同時に地面を蹴って接近する。

 《他色に使える》が揃ったお陰で思考量が減り、自分も前に出れるようになった。

 メイスが敵の脛を打つ。


 巻島さんにも大剣のエフェクトが迫るけど、自分を〖氷人〗に護衛させ、〖守護盾〗を操作して2重で防ぐ。


「トリ兵衛さんっ」


 ナイフが転移して上空の〖鳥〗に移ったが、それを察知した大鬼が【青い火】を頭髪に灯す。

 角つき女の気配がした。

 〖炎鳥〗が急降下して鬼を突き刺すも、【叫ぶ】と同時に発生した【防護膜】に威力を弱められ、大したHPは削れなかったようだ。


 俺はメイスを握りしめ、即座に飛び跳ねてさがる。


 半裸だった大鬼が茶色に輝く【仙衣】をまとえば、大剣を振り抜き宮内を遠ざける。

 続けて奴は片足を地面から持ち上げた。


「来るぞ!」


 即座に俺は〖メイス〗を打ちつけて〖重力場〗を発生させ、鬼の動作を妨害するも、素足を踏み抜き屋上が陥没する。

 威力は弱められたはず。


 頭上からの圧力に、近場にいた俺らは押えつけられる。


「トリべえさん、そのまま宮内にお願い! クロちゃんは浦部ね!」


 宮内に〖炎鳥〗が憑依。こっちを狙った鬼の攻撃に割り込み、青い〖浮剣〗と〖障壁〗を破壊されるも、なんとか〖時空盾〗で防ぐ。


「サンキュ」


 俺は〖クロちゃん〗をまとい、大剣を握る前腕をメイスで狙い、【仙衣】に尻尾の〖ナイフ〗を突き刺してもらう。バフの弱体。

 メイスが命中する寸前だった。


 オーガが叫ぶ。スキルの気配はなし。それでも燃え上がる戦意が俺らの心を圧迫する。


「しぶてぇ!」


 ぶつかった位置が土で覆われ、衝撃が分散された感触。なかなか大ダメージは通らないが、見た感じ大して回復はしてない。


 空いたもう一方の手で俺を掴もうとしてきたが、【闇豹】が爪で引き裂き、その隙に俺は距離をとる。

 宮内も赤い〖浮剣〗で攻撃しながら後退していた。


「前世をスキルとして使ってやがる」


  銀の鞘。それは時と空間の属性。

 宮内の雷光剣と時空盾は形状が変化しており、どこか夕焼けに染まった英雄の武具に似ている。


「大鬼は攻撃、ツノ女は防御、闘仙鬼は土ってこんか」


 二人に〖白青の鎖〗を放ち、宮内に〖守護盾〗をもらう。


 鬼の【頭髪】が変色して再び赤く染まる。鬼火は火属性じゃなく、ただの色と考えた方が良いか。


「させねえよ!」


 鬼に再度〖赤い鎖〗を2重で放つ。この馬鹿力は是非とも弱体化させなくては。

 レベルアップでスキル性能も向上した。

 熱感は必ず成功するけど、弱か並かは確率で変化する。それと同じく身体能力も(小)か(中)かは運だよりだ。


 そのまま接近すれば、【大剣】の斬撃を半身で横に避け、〖メイス〗で足の側面を狙った。


 【戦叫】が場を支配し、赤い光が周囲に木霊する。

 敵の戦意が高揚するたびに、俺への圧迫が強まっていく。


「……」


 スキルからくるデバフじゃない。本能を刺激する正真正銘の強者が放つ威圧。

 これまで宮内と巻島には白鎖を使い精神安定を施していた。

 でも俺は違う。

 気づかぬうちに少しずつ蓄積していたみたいで、身体が硬直してしまった。


「やばっ」 


 パッシブの精神保護だけでは補えず、俺は大鬼に身体を掴まれる。

 もの凄い握力が銀色の光を発生させ、ゆっくりと靴が宙に浮かぶ。

 捕らえられてからの攻撃なためか、残念ながら法衣の突風は発生せず。


 このまま握りつぶされるか、地面へと叩きつけられるか。後者であれば突風がクッション代わりに吹く可能性もあるか。


「浦部っ!」


「〖鱗粉の風!〗」


 一瞬意識が飛んだと思ったら、上空へと投げ飛ばされていた。俺にも定期的にこのスキルを使うべきだった。

 屋上のフェンスを越える。〖鱗粉〗は俺に届かず。


「トリ兵衛さんお願い!」


「すまんっ」


 精神安定のお陰か、巻島さんが冷静な対処をしてくれた。

 空を飛ぶ〖炎鳥〗の爪につかまれ、落下速度は緩やかになるが上昇は難しく。


「槙島逃げろ!!」


 これまで狙われていなかった巻島さんに、大鬼が飛びかかるのが視界に映ったところで、校舎そのものに視界を遮られた。

 いや違う。俺が居なくなったから、彼女を狙う余裕ができたんだ。


 数秒が経過し、そのまま校庭へと転がりながら着地する。


「クソがっ」


 俺は速度強化ポーションを口に含み、屋上に向けて叫ぶ。


「すぐ復帰する、耐えてくれ!!」


 身体強化は消え、新たな効果が肉体を満たす。飲みすぎ注意。

 そのまま校舎へと走り出す。


・・

・・


 土曜とはいえ途中で何名かの影と遭遇したが、無視して校舎の階段を目指した。

 宮内は塾を休んでまで合わせてくれたんだ、簡単に諦められるかよ。


 俺らは屋上前のスペースで映世に進入したので、今日の校舎内は把握してない。

 しかし構造は単純だった。トイレとは違い、廊下を走ってりゃ階段にはたどり着く。


「……やらかした」


 精神保護があったとしても、やはり俺はパニくっていたようだ。


「現世に戻るべきだった!」


 最上階までは20分近くを要した。現世であれば10分もかからない。


 扉を蹴り破ると同時に、全色の滑車を出現させ、俺へと〖鎖〗を放つ。

 悪寒を左腕に感じながら。


「心臓はやばかったか」


 胸部に発生した感電は痺れだけでなく、強烈な違和感が中心から全身へと駆け巡る。


 もし自動脱出すると、一定時間は映世への侵入ができなくなる。


「無事か!」


 巻島の姿はなく、そこにいるのは孤軍奮闘する宮内のみ。


 【鉄塊】をさがって避けるが、赤い大剣のエフェクトが彼の身体へと迫る。

 青い〖浮剣〗で弱めるけれど通過され、宮内のHPは減少した。

 続けて空間を歪めるほどの膝が彼を狙うも、障壁と〖時空盾〗で凌ぐ。


「良く耐えた」


 常に先頭を進む彼の勇士を、今ここに再現する。

 特攻隊長。


「クレメンス君、どうか再び」


 右腕と背中に伸びる〖赤い鎖〗。うち一つの〖滑車〗が本来の姿を取りもどす。

 〖赤く燃える大男〗が背後に佇む。

 屋上に風か吹く。



 歯車の描かれた厚手の布が靡いていた。



 旗をベルトに固定した団員を残し、俺たちは走り出した。

 接触の手前で立ち止まり、両手持ちの〖メイス〗を地面へと打ちつける。

 

 青い頭髪の鬼は私に気づき、こちらへと振り向きながら、【叫び】と共に大剣を振り落とす。

 〖変化への拒絶〗が発生し、突風がその威力を鈍らせた。

 燃える〖金棒〗が【鉄塊】と接触すれば、〖鎖〗で繋がれた俺を焼きながらも、熱気と共に大剣を押しとどめる。


 青年が頭上に浮かぶ〖雷光剣〗の柄を握る。

 続けて〖刃〗が〖鞘〗から放たれ、雷鳴が空気を裂いて駆け抜けて、その巨体を【防護膜】ごと稲妻が通過した。

 こいつの治癒はないに等しい。強烈な銀の輝きが大鬼に刻まれる。


 追撃の〖浮剣〗は命中するも、鬼に光は発生しない。HP0。


 足もとからメイスを離し、身体能力を活かして接近すると、勢いのまま殴りつける。だが鬼の頑強な前腕で受け止められた。

 感触からして皮膚は硬く、筋肉は屈強。


 大剣の柄尻で狙われたが、〖赤き原罪〗の一撃により、片膝を折らせることに成功。

 身を焼き尽くす熱感を背負うも、俺は勢いのまま〖メイス〗を振り抜いた。


「……いける」


 〖雷光剣〗を手に駆け寄って背後を狙うが、鬼は折られた片膝を地面につけ、もう片方の足を勢いよく伸ばし彼の接近を妨害。


「くそっ」


 青い〖浮剣〗と〖白盾〗で裏蹴りを防ぎ、〖剣〗を逆手に持ち変えて切先を突き刺すが、頑強な皮膚と強靭な筋肉に阻まれる。

 雷撃はHPしか削れず。それでも肉体を巡る〖感電〗の違和感はあるようで、集中力が奪われていくのだろう。

 俺が現に体験しているのと同じく。

 〖赤き原罪〗が鬼に追撃を喰らわせる。


 他の名はうっすらと思いだしたが、そいつだけはどうしても無理だった。

 だって私は貴方のことを、名前で呼んだ経験がほとんどない。


「団長殿っ!」


 〖白い滑車〗から伸びていた〖鎖〗が、勢いよく解除されて宙を舞う。

 赤き原罪は滑車にもどり、俺は彼を再び置き去りにする。


 大鬼の青き【戦叫】を自分の声で耐え凌ぎ、鉄塊の大剣を〖咎人のメイス〗で迎え撃つ。

 時間は刻々と迫る。宮内も隙をついて〖剣〗を振るが、決定打は放てず。


「仙衣は健在か」


 ただでさえ頑強なのに、土の衣が威力を分散しやがる。

 それでも回復スキルがないため、鬼の消耗もかなり激しい。


「黄色の鎖を!」


 疲労回復効果のある〖鎖〗を宮内に放ち、鬼には防御力を低下させる〖鎖〗を射出。

 やがて巨体は血に塗れ、もう一押しという場面まできた。


「……」


 全身を疲労が襲う。


「あと少しだ、堪えろ浦部ぇっ!!」


 鉄塊の大剣を受け止めたが、片手持ちとなったメイスは弾け飛び、俺は吹っ飛ばされて背中から倒れ込む。〖法衣〗の突風が威力を弱め、〖守護盾〗が宮内に何割かを引き受けさせた。


 消えゆく緑の団員が、無言で俺の頭上に立つ。

 歯車の描かれた傭兵団旗に、輝く十字架が浮かびでた。

 磔刑に処された誰かの姿を。


「君たちは、戦い続けたのか」


 滲んだ視界の先。

 青空を〖氷炎鳥〗が駆ける。

 自動脱出からの復帰には20分。


「スキルを交換したんだな」


 傍らにもどっていた〔メイス〕を握り絞め、目もとを擦ってから急いで上半身を起こす。


 〖嘴〗は鋭く凍っていたが削れるのはHPだけで、肉体そのものに命中すると水に戻ってしまう。

 だけど全身にまとった氷で重量を増したことにより、〖ナイフ〗が鬼の喉を貫く。


「やった、のか?」


 闇が大鬼を包み、神崎の姿を映しだす。


「あぁ……勝った」


 宮内はその場に腰を落とす。


「聡美っ!」


 巻島が走りだせば、俺は背中から倒れ込む。


 もう旗は消えていた。




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