6話 神引きなるか
神崎さんの居場所はけっこう直ぐに見つかった。橋よりも鳥居パワーが強く弱体化していたが、それでも俺たちは2週間近くをレベル上げに費やしている。だって勝てなかったんだもん。
そこで我々は一つの目標を立てた。俺と宮内は〔精霊のブローチ〕を、そんで巻島は〔守護者のネックレス〕の購入。
宮内の提案もあって、少なくとも高校を卒業するまでは、映世で得たお金は活動目的でしか使わない。
出所がまずわからん、賽銭とかお布施だろうか。次にこれが一番の理由だけど、当初の予想以上に映世での活動には金がかかる。
成人を迎えてからは自己責任。税務署とかに目をつけられても、映世のことを説明しようが信じちゃもらえないだろう。
俺も日々の生活費に余裕をくらいしか考えてなかったので、別にそこら辺は良いけどね。
巻島さんもその気があるなら、バイトなんて続けてないとのことだった。
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数値は28。
神社仏閣のパワーもあるけど、学校周辺に比べればかなり低い。
隣を川が流れる道路上で俺らは戦闘を繰り広げていた。
「来るぞ!」
「大将お願い!」
空からの急降下。俺らの手前で滑空状態になった大鳥の特攻は、凍った〖青大将〗に防がれるも突き抜けられ、その先にいた宮内の〖盾〗に受け止められる。
〖浮いた鞘〗に騎士剣は納められ、今は彼の背後で浮かんでいた。
〖時空盾〗というスキル名に変化しているそれは、衝撃吸収だけでなく表面に障壁が張られている。
大きな鳥は翼を羽ばたかせて後退すると、再び飛び上ろうと地面を蹴る。赤い〖浮剣〗が追撃するも、衝撃はないので動作の邪魔はできず。
「もし野生の鳥なら、逃げることもあったんだろうけどね」
運が良かったのは遠距離や落下攻撃がなかったこと。わざわざこっちに接近してくれる。
敵に〖白黄の鎖〗を放つ。俺のスキルを無視して相手は飛び上り、再び空へと舞い戻った。
巻島は手を空に掲げながら。
「残念、感電つかなかったかぁ」
成功してれば翼の動きを阻害できたはず。
「こういう時、巻き取りにしとけば良かったと思うな」
「そりゃね」
俺は〖白い滑車を破壊〗して、大鳥のHPをたくさん奪う。
「トリ兵衛さん、行って!」
彼女の頭上が赤く光り、〖鳥〗が空を駆けて大鳥に襲い掛かり、そのHPを0にした。
「〖転移〗」
青人から〖赤鳥〗へと〖ナイフ〗が移り、燃える〖鳥〗が爪で首を掴めば姿勢を崩し、一緒に川原の草むらへ落ちる。
巻島さんの身体が〖加護〗により赤く光り、身体能力を強化。
でも使い道がない。もったいねえなと思ってしまう。
「仕方ないでしょ」
「いや、すんません」
心を読まれた。
少しすると落下位置の草揺れが落ち着いた。宮内がそこを見つめながら。
「やったか」
「しかしどうするか、あそこじゃビー玉探せんかも」
「あっちゃぁ」
しゃあない。
「とりべえさん、あんがとよ」
「うん。トリ兵衛さんは悪くないよ」
ちなみに彼女の選択スキルは〖憑依〗か〖合体〗だった。
〖精霊憑依〗
最大憑依数2(固定)。自身の肉体に精霊を憑依させる。ベースは必ず〖闇豹〗となる。
〖赤鳥〗は身体を強化し、〖青人〗は守り関係を強化。攻撃や防御に各属性を混じらせる。
精霊が冷却中は使用不可。40秒間持続。
MP消費(大)。
残り10秒で〖シンクロ〗状態に入り、身体強化(中)。
終了後に疲労(小)。
〖精霊合体〗
最大合体数2(固定)。
精霊同士が合体して、各性能を強化。ベースは自由に選択可能。実体化する。MP消費(大)。
どちらを選んだかは言うまでもない。まあ本人の自由だ。
それに合体の方が使用後のリスクも少ないから、多様もできるはず。疲労の厄介さを知っているからこそ分かる。
「行くだけ行ってみるか。宮内君は巻島さんの護衛を頼むよ」
「ごめんね、ありがと」
そう言って歩き出した時だった、俺の目前が銀色に光り、そこから3つのビー玉が地面に落ちて転がった。
「おお、便利機能だ」
「ナイス運営」
「やったね。報酬報酬っと」
しかし二人のスキルも面白そうだよね。本当にゲームなら、キャラ変えてやるのにさ。
「ほい、これ浦部のね。私のもあるから、パッシブは宮内つかえし」
「ちょうだいします」
「どれどれ」
なんと宮内は総HPMP増加(大)がでた。かなりのレアだ。
「おい、なんで総MP減少(小)がついてるんだ」
こりゃランダム合成するか微妙なライン。
「ねえねえこれ良いかも、青大将がナイフなしでも物質・属性強度(小)を得るだって」
もう一方もバット効果じゃないとのこと。
護衛役の青人が物理判定なしって不便だもんな。
俺はどうかね。
全鎖スキル《他色の鎖と一緒に使える・MP消費減少(中)》
「やった、これで白も同時に放てる」
「なら一層に〔鎖のネックレス〕は不要になるか」
味方だけで敵には効果なしなんだよ。そして何より巻島さんのが優秀過ぎる。
「今日中には買えそうだね、装飾品。ちょっと怖いんだけど、変なのついちゃったらどうしよ」
「念を込めすぎちゃいけませんぜ、無欲っす無欲」
「無理だろそれ」
そんなこんなで俺らは活動を再開した。なんとか駄菓子屋の修理もでき、実に順調であった。
「サトちゃん、あと少しだから」
今の彼女は父のポーションより、自分の強化を優先させている。まあそうだよな、幼馴染で仲が良いってんだから。
それも一度、学校が離れちまったそうだし。
幸い近場だし休みとかは遊べたんだろうけど、お互いに話し合って同じ高校を受けたんだろう。
「今回の敵も、30代半ばだったな」
「見た目の年齢だから確証もないけど、それより上の世代はあんま居ねえ」
「私が一緒に活動するようになってからも、たしか数回くらいだよ」
汚染された魂ってのが異常に増えたのは、そんくらいの年代からってことか。
じゃあ映世ができたのは最近なのかと言えば、俺にもわからん。
妖怪とか幽霊とか、吸血鬼やゾンビなんかは昔話に登場する。
占いや呪いが政治の中枢を担っていた時代なんか、日本にもあったよなたぶん。
もしかすっとこれまでも、定期的に大小あれど、俺らみたいな役割はあったんじゃねえかな。
「……京都か」
どうすんだよほんと。
有名どころの妖怪を思い浮かべ。
「酒呑童子ねえ」
俺らが今度戦うの、同族だったりして。
・・
・・
鏡に不要なビー玉を入れ、ショップ画面のポイントを増加させる。
「……神さま仏様ぁ」
目をつぶって購入をタッチした。
〔精霊のブローチ〕《1体を自分に憑依でき、精霊に応じた強化(中)・HPMP秒間回復(中)》
「うっしゃぁぁ!」
嬉しくて、堪らずグループにメッセージを送ると。
『やったな』
『宮内君はもう引いたのかい?』
既読になってもしばらくは返事がこず。
『浦部には非常に言いにくいんだが、《1体を自分に憑依でき、精霊に応じた強化(大)・〖銀の鞘〗ソケット1追加》』
「どんだけぇぇ」
神引きじゃねえか。
『ちくしょう、おめでと!』
『なんかすまん、でもありがとう。めっちゃ嬉しい』
文章だからわからんけど、テンションヤバイんだろうな。だって身体動かして稼いだポイントなんだもん。
『わたし、まだ怖くて引けてない』
『今なら波が来てる、行けっ!』
『運営も鬼じゃないっすよ』
既読がついたまま数分が経過した。
『《〖守護者の盾〗を操作でき、物理+属性強度(中)を得て攻撃を(2)回防ぐ・〖青人〗でも物理+属性強度(中)を得る》〗
おお当たりじゃん。強度(中)で2回ってのも悪くない。強度(小)なのに5回防げるとか、強度(大)でも1度しか防げないってのがあるからな。
ってあれ。
『嬉しいけど被ったぁ!!』
『いや、確かあの宝玉は小だったはずだ』
『小でも良い効果だから、けっこうな値段で売れるはずっすよ』
全員ガチャは成功だな。
『だよね!』
俺もHPMPの回復より、咎人の火力を優先してたから、今回のは普通に嬉しい。でなければ宮内に祝福なんて送れなかったさ。
『守りの浮剣にも物理強度中強化とか付けれろば良いんだが、あれもとが脆いんだ』
『たぶんその効果があると、仕込み短剣を選択する意味が薄くなっから、あえてないんだろうな』
けっこうレベルも上がったのに、未だ物理強度(小)だもんな。
『その替わりに《威力を弱める膜》ってのがあるんだと思うよ』
『だな。良しっ、この勢いでHPMP(大)の宝玉も合成してみる』
行くねぇ。だが調子乗るとなあ。
にやにやしながら結果を待つ。
『失敗した』
だよね。どんまい宮内。
『まあ良いじゃん、宮内は神引きしたんだしさ』
『そうだな、そうだよな』
こうして俺らの準備は整った。
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明日の本番を前にして、その日は中々寝つけず。
俺はベットに腰をかけ。
「メイス」
現世には出現しない得物を思い浮かべ、それに意識を集中させながら〖茶白のメイス〗を発動させる。
透明に光る武器が俺の手に握られていた。
「虚無のメイス」
自分にセットしているスキルを思い浮かべる。
「偽りの神々」
確かに思い返すと、俺のパッシブは2人に比べて弱かった。
少し前にメイスとオーラの名称が変化した。
そして運営から『新たな宝玉が解除されました、一般の敵を倒して入手してください』とのメッセージが届く。




