5話 ギンちゃん始めての告白
俺と宮内は神崎戦を経験していたが、巻島さんのショックはかなり大きかった。
また橋の修理に目途が立ったのも束の間、あの野郎が駄菓子屋の出入口を壊しやがった。
さらにムカつくのが、やはり今回も巻島さん宛てに初敗北おめでとうのメッセージ。死んだら蘇生のビー玉も貰ったとのこと。あと疲労回復(小)と状態異常耐性(小)もおまけで付いてきたらしい。
そんなちょっと優しいところがある運営。
予定はないけれどHP0後も戦うなら、痛みの緩和とか負傷回復、HP再起動までの時間短縮といったビー玉を付けなきゃいけん。生身も想定するならそれに合わせたビー玉構成が必要になる訳ですね。
《HP0になると3分間身体強化(中)》
《HP0になるとMP消費半減》
《傷を負う毎に防御強化(自傷可)》
《得物を振るたびHP再起動時間短縮》
実際に優秀なビー玉もあるんだけど、現状これらはとても貴重な財源です。
今後ある程度(中)が揃えば、そんだけ換金ポイントにも回せるから、資金繰りも楽になるとは思う。
翌日。太志は地元を離れるそうだがら、俺らは駅と奴の家から距離のある場所で活動する。
敗戦のあとであれだけど、俺は連休の土日を使いけっこう強くなった。
・・
・・
そして月曜日。
休み時間に三人で集まっていると、マキマキが現れて太志と隆明にペットボトルの飲料を渡した。いつも飲んでるのを事前に教えていたので間違いはない。
「この前はごめんね」
「おっ お気を使わせてしまい、この度は遠路遥々……」
「か、家宝にいたしましゅ」
本当に言ったな太志。
アハハと力なく笑う巻島さん、その瞳には太志に対する怯えがうかがえる。
太志の強さはストレスの溜め具合よりも、前世が影響した感じだろう。
「じぶん、なにか粗相をいたしましたでひょうか?」
「いやいや全然ぜんぜん、3人ともテストはどうだった」
気を持ち直したようだ。精神保護すばらしい。
「あ、明日あたりでますかね」
「自分はそれなりに自信ありましゅ」
「俺は平均取れりゃ万々歳っすね」
少なくとも平均を少し下回るくらいはいけたはず。
そうこうしていたら、教室のドアから神崎さんが入ってきた。
「あれぇ、真希じゃん」
俺を含めた3人の限界を感じとってくれたのか、マキマキは自ら彼女へと歩み寄ってくれ、我が校のトップ相に囲まれるのは免れた。
「ふぃー 腹いっぱいになったら眠くなっちまったぁ」
太志は自分の席につき、残り時間で惰眠を貪るために動きだす。ちなみにこいつの飯は総菜パン一つで、今はダイエット中らしい。
「さてさて次の授業前に、トイレを済ませておきましょうかね僕は」
隆明はもう一方の扉から撤退を測った。
「お疲れ、また告白?」
「違うちがう、今回は委員会の仕事」
俺はリュックから知恵の輪を取り出す。話しかけないでくれたまえ、今集中してるんだ。まあ話しかけてくれても、別に良いんだけどね。別にね。
はい、話かけられませんでした。
・・
・・
巻島さんはバイトで、宮内は部の方に顔をだしておきたいとのことだった。退部はしているけど、たまにボールは触りたいとのことだ。妹さんとか女子マネだったりすんのかね。
皆それぞれに用事がある。今日の活動は学校内にするか、外にでるか悩んでいた。
うん。俺だって1人で太志と遭遇すんのは怖い。だってあいつ駄菓子屋が閉まってただけで、突発的に出現するんだぞ。
なんか悩みないか聞いたら、ダイエットが辛いだとさ。
「食え食え好きなだけ、まったくぅ」
今日は学校の中じゃなくて、テニスコートとか体育館まわりを探索してみっかなと、俺はなんとなくそっちの方へ歩いていた。
「やっぱ俺は好きなんだ、付き合って欲しい!」
体育館の裏で告白現場に遭遇しちまったい。
「えっ でも前にお断りしたよね」
「諦められないんだ。それだけ俺の想いは強いんだよ!」
こっそりと覗きこんだら、神崎さんと目があってしまう。
人気のない場所ってほどじゃないけど、こんな所で男子と向き合うの怖くないのだろうか。
彼女は困っているような笑いを浮かべていた。
「たぶん今回も断られるかも知れない、でも俺は諦めたくない!」
いや普通に怖えよ。
「どうしよう」
でも頑張ってみるか。
名案を思い付いてしまったんだ。
体育館の陰からゆっくりと歩きだし、彼の背中に語り掛ける。
「素敵やん」
宮内君、お前の力をオラに分けてくれ。
「なっ なんだよ、お前」
「すまない、聞こえてしまったんだ」
俺は主人公だ。俺は主人公だ。俺は主人公だ。
「不屈の精神、諦めない情熱、熱き血潮」
潤った目で名も知らぬ彼を見つめる。
「俺と付き合ってくれ、パワフルボーイ」
「はぁ? 付き合うって、お前男だろ」
信じられないという表情で顎を左右にふり。
「今の時代にそんなのはナンセンスじゃないか、男も女も関係ない」
「いっ いや、申し訳ないけど無理だよ」
瞼を閉ざし、ゆっくりと悲しそうに息をつく。
再び開いた瞳に、俺はできうる限りの強き意思を灯す。
「諦められない、諦めたら試合終了だ。俺は諦めない!」
諦められず、何度か告白して響いてくれる相手もいるだろう。
「俺の想いはそんだけ強いんだよっ! たぶん俺は断られるだろう、でもっ!」
「……わっ わかった。俺が悪かったよ」
お前は悪くないさ。
「悪いのは全部青春の熱き想いさ」
黒歴史となるだけだ。
彼の肩を数度叩き、俺は背中を向けて去っていく。
・・
・・
校舎の非常階段に座り込み、俺は顔を両手で隠していた。
「あの、浦部くん?」
「やり直したい、戻りたい」
思い返したくない。
黒歴史だぁ。ナノマシンばら撒いちゃったよぉ。
「穴があったら入りたい」
「どっ どんまい。あの、助けてくれてありがと」
恥ずかしい。
「良い案だと思ったんだ」
「そ、そういう事もあるって」
俺の隣に座り、背中を優しく撫でて寄り添ってくれた。
惚れちまうだろぉぉ
枠が足りず〖オーラ〗を外してるから、精神保護も得られない。
数分後、いくらか落ち着き。
「いつもあんなだと、神崎さんもお辛いでしょう」
「今回のはちょっと困ったかな。でもまあ見た目が良い自覚はあるし、勉強も運動も頑張ってるしで、その甲斐あってモテてるわけなんで」
それは自業自得なのだろうか。
「本気でイヤならもっと地味にするとか、他にやり方はあるでしょ?」
力なく笑みを浮かべていた。
「俺も頑張れば神崎さんのように。いや、宮内君のようなイケメンになれますかね」
「うへぇ? えっと、近づけるんじゃないかなぁ」
やっぱ頑張れば俺もイケメンに成れるのか。
「でも最近、なんで頑張ってんのかなって思うときあるよ。女の子らしくなさいって言われたからなんだけどさ、私これでも昔はガキ大将だったとか……なんちゃって、うんごめん嘘です」
「そうなんすね」
さぞや力持ちだったのだろう。大剣とか振り回たり、橋をぶっこわしたり。
「今日は本当にありがとね、助かっちゃった」
「へい」
俺も気を取り直して活動しよう。
・・
・・
翌日の火曜日。登校すると太志に話しかけられる。
「おい、お前なにしたんだよ」
「は?」
彼は周りを見渡してから。
「男に告白したって本当かぁ?」
「……あぁ」
リュックから手鏡をとりだし、パッシブスキルをセットする。《精神保護》に守ってもらおう。
その動作を終えると、ちょうどスマホが振動する。
『サトちゃんから聞いたけど、噂が広まってるね』
太志にも事情を説明する。
宮内からもメッセージが送られてきた。
『話の繊細は俺もさっき神崎から聞いた』
その後何時間か経過して、広まった原因が判明する。
どうやら告白することを友人に話していたそうで、どうだったと聞かれたので男に告られた。自分と似たような発言をされて、色々気づかされたんだと伝えたそうだ。
せめてもっと時間を空けてから再告白をするべきだったとも。
彼の友人たちは俺の行動が面白くなかったらしく、口頭だけじゃなく裏サイトとかも使って俺の話を広めた。
もう一度告白しろと焚きつけたのも、そのお友達らしき連中だそうだ。隠された悪意を見抜けなかった彼にも問題はあるんだろうけどさ。
俺が宮内を当たりの陽キャだって思ってたのはこれだよ。この学校にもやっぱり居るんだ、怖いよねえ。
にしても広まるの早すぎるだろ。世間じゃポリコレだ性差別だと騒いでいるが、地方の高校生なんてこんなもんだよな。
太志はデブなことを気にしているが、自分は好きなもんを好きなだけ食って早死にするって奴もいる。選択は個人の自由だ。
だから中には性認識が異なっても、俺らは小さなコミュニティーでひっそりやってるだけで、そんな騒いだら逆に反感もつ人も出てくるだろ。そっとしておいてくれってのも居るはずなんだ。
でもそんな連中はまず発言なんてしない。
差別をどうこうするなんて、人類には土台無理な話だと思う。
だってホモサピエンスは、嘘を覚えて他の人類を蹴落とした種族なんだぞ。岡〇先生が動画で教えてくれた。
性悪説ってやつだ。悪を根にしながらも、理性と理論で善をなしているだけ。
「こういう無駄な思考に流れる時は、たぶん気分が沈んでいるからなんだろうな」
でも精神保護のお陰か、一応は問題なく過ごせている。
スマホが振動した。
『俺たちで繊細を広めとくから、鎮まるのちょっと待っててくれ。これ以上騒ぎ立てない限り、相手に報復とかはしないけど良いか?』
『感謝です、それでお願いします』
うおお。味方に陽キャいるとすげぇな。
『あっ でも神崎さんに告白した彼は守る方向で頼みたいっす。俺と同じ青春の被害者なんで』
『了解した』
こんな感じでその日は終わった。
今日は活動なんてとても無理です。太志の家で一緒に遊ぶ。
コントローラーを持ち、画面をみつめながら。
「そういえばお前らって、神崎さんと同じ小学校だったりするのか?」
太志の空中コンボを喰らってしまう。
「俺たち地区が微妙にちゃうからなぁ」
隆明は漫画を読んでいた。
「3つの小学校が合わさって、1つの中学になるんですよ」
巻島さんとは同中だったんだよな。こいつらの家は最寄り駅とは逆方向だ。
「それに僕ら当時からインドアでしてね」
確かにこいつら、めっちゃ格ゲーとか上手い。
「外での遊びに目覚めたのってさ、君と出会ってからなんですよ」
「小学校のとき昭和の夏遊びを体験できるゲームをしてな、俺らちょっとそれに憧れてたんだ」
特殊過ぎんだろそれ。
「んっ 昭和?」
なに言ってんだお前ら。
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まあこんな感じで1件落着すると思ってたんだけど、残念ながらこれがトリガーになっちまった。
水曜日は宮内と外回り。
木曜日はマキマキと学校探索。
金曜日。登校すると神崎さんが消えていた。




