2話 怖いもんは怖い
巻島さんは飯がまだとのことで、廃校カフェで給食らしきランチを食べるとのことだった。俺は時間を見合わせてから、食パンを一つ口に放り込んだのち、自転車に跨り自宅をあとにする。
到着すると、まだお食事中とのことで、外で待たせてもらう。
しばらくして。
「中くれば良いじゃん。今日ワガママ言ったんだし、飲み物の一杯ぐらいサービスしたのにさ」
「ここ家の近所なんすよ。常連は顔見知りもいっから、母ちゃんのもとまで話がくると面倒でして」
本当はそこまで知り合いもいない。だって女の子と一緒にご飯なんて僕、なんかしでかしそうで怖いんだもん。
そっかそっかと笑いながら。
「噂って広がるの早いもんね、サトちゃんとかけっこう苦労してんのよ」
あなたの噂も広まるの早いですぜ、どこどこでバイトしてた等。
「そうっすよね、俺のもとまで流れてくるぐらいだから、他の連中なんもっとか」
聞き耳を立てていた訳ではないと断わっておく。
「良い所だよねここ、さっきたくさん撮っちゃったもん」
映えというやつでしょうか。
・・
・・
二人並んで裏道から鏡社を目指す。
「今日は失敗ばかりだし、頑張んなきゃ」
「ところで自分のスキルは確認済んでます?」
宮内の時にした失敗を活かし、今回は事前に使い方の説明もしておく。
「そりゃしてるよ、実際に戦わなきゃいけないんでしょ」
「格闘技の経験とかあったりしませんかね?」
身体能力に差があるのは仕方ないとしても、本格的に習ってたりする女性より、ずぶの素人である俺の方が弱いのは当然だ。まあ今はスキルで強化されてたりもするんであれだけど。
「ないない。それに運動神経も普通かなぁ」
「俺らと戦ってた時のこと覚えてます?」
現状の彼女が持ってるスキルは俺も把握してる。
「素敵で綺麗な巻髪の槙島さん」
「えっと、その あれはですね」
ランダム合成の失敗と再ゲットに関する話をして、嬉しすぎて調子乗ってたすみません的なことを言い、ごめんなさい許してください虐めないでと謝っておいた。
アハハと笑いながら。
「浦部は鎖と鈍器で戦ってたね、あとなんか緑色の光る僧侶さん的な服。んで宮内は盾と剣に透けてる鎧って感じ?」
けっこう覚えてるみたいだ。
「アタシはなんか動物みたいなの使ってなかったっけ」
「問題はそこなんすよ。巻島さん、まだ精霊覚えてないじゃないっすか。そうなるとナイフで戦わんとダメっすね」
巻島は折りたたみ式の鏡を取り出し、画面を操作する。
「精霊のナイフってので呼べるんじゃないの?」
「説明欄にはそんなこと書いてないっすよ」
〔精霊のナイフ〕スキル枠1
〖白銀のナイフ〗 ナイフ専用。振ることでMP回復(小)。徐々にMP消費(極小)
精霊や自分の間を転移可能。精霊に持たせることで強化できる。各精霊ごとにMP消費(中)。
「……マジか」
「あとこれ渡しときますね、精霊の加護につけれるビー玉で、《精神保護》がついてますんで」
〖精霊の加護》 全部位可能。パッシブ。HPMP秒間回復(極小)。身体強化(極小)。
精霊強化中は5秒間、炎鳥・身体強化量小増加。闇豹・自分の姿が消える。氷人・守り3種強化(小)。
ソケット1《精神保護・MP回復量小増加》
俺に言われてビー玉をセットしてみたものの。
「冷静を保てても、怖いもんは怖いと思う」
そこら辺は慣れと性格だよな。
「どうしよう」
「ようは戦いに参加すりゃ良いんすよ。俺が前に出るんで、合図したら鱗粉使ってください」
戦いは精霊に任すというのは、公園で話したときから本人が言ってたからな。あの精霊をまとう奴とか覚えても、もしかすっと使えなかったりするかも。
・・
・・
そうこう話をしているうちに、俺らは鏡社へ到着する。全ての切欠だとは伝えてあったので、青銅鏡も含めて興味深そうに眺めていたが。
「アタシの部屋にある姿見と手鏡があれば、わざわざ此処にくる必要もない?」
「そうっすね」
宮内の部屋にある姿見は、もうランダム合成ができるようになっているが、彼女のはやはりまだ換金が足りないのかできない。
そして俺の姿見だが、なんとショップが使えるようになっていた。鎧とかローブみたいなファンタジーじゃなくて、特殊な素材をつかった服だね。
これで装備性能強化の効果もちっとは機能するかも知れん。だって法衣や鎧エフェクトなんだもの。
あとビー玉を使った装飾品。これがかなり凄く、そして金食い虫のランダム要素。
映世に突入すると、いつの間にか巻島はマントを羽織っていた。
「不思議だよね。ちょっと写メ頼んでいい?」
「使えないんすよスマホとか」
そうだったと落ち込むマキマキ。
「まあしゃあない」
全身を包んでいたそれを背中側に退ければ、ナイフが鞘に入った状態で太腿のベルトに固定されていた。そういや宮内の剣には鞘がないっけか。
「一回、試しにスキル使ってみましょう。外套に意識を集中して、心の中でも声に出してでも良いので、鱗粉の風って唱えてください」
「わかった」
俺と宮内は最初2つだったけど、彼女は3つすでに覚えている。
〔妖精の外套〕スキル枠1
「〖……鱗粉の風〗」
マントがふわりと持ち上がり、彼女を中心に緑の風が吹いて、鱗粉が舞い踊る。
〖鱗粉の風〗 マント専用。
範囲内の味方と自分HPMP回復(極小)。負傷治癒(極小)。状態異常治癒。10秒間状態異常耐性、属性耐性強化(極小)。疲労回復(小)。精神安定。冷却30秒。MP消費(中)。
たぶん鱗粉そのものに回復効果があるんだろう。キラキラ輝いて綺麗だし。
「冗談抜きで前世が妖精なんだね、私って……自分で言ってちょっと恥ずい」
「宮内君の場合は英雄っぽいのから騎士になりましたよ。ちなみに巻島さん妖精の前はエルフでした」
嬉しかったのだろう。
「えっ 本当に」
「男性ですがね」
喜びも半減したのか。
「男かよ!」
「中性すぎて断言はできませんが、たぶん。あと高貴な感じでしたよ服装が、神聖な感じの杖も持ってました」
世界樹の枝とかが材料だったりして。
口外しちゃ駄目なのか判断できないけど、この話題で元気づけてあげよう。
「神崎さんにボロ負けの話したじゃないっすか。実はオーガだったんすよ」
「あ、あぁ~ 確かにサトちゃん、たまに豪快なとこがある気もしないでもない」
身に覚えありかよ。
「小学校のころはもっとヤンチャだったし。今は落ち着いてるけど、たまに無理してんじゃって思う時もあるかな」
「そ、そっすか」
さてさて、んじゃあそろそろ始めますかね。
あっ その前に。
「ちょっと体験しときましょう。それだけで心の持ちようも違ってきますんで」
「ん? なにを?」
適当な枝を拾い。
「HPを」
「……えぇ。まあでも、こうやって戦い続けてたら、いつかはだもんね」
こちらに手を出してきた。嫌々ながらも了承を得たので、女子にすんのは気が引けるけれども。
「では失礼して」
まあ異性の敵もメイスでぶっ叩いてるんだけどさ。
「しゃあこい!」
目をつぶってちゃ意味ないかもだけど、枝を前腕へと振り落とす。彼女の腕はその反動で、白い光と共に下へと弾かれた。
その部位を確認しながら。
「マジで痛くないんだね。これなら確かに、ちょっと気が楽になったかも」
良かった良かった。
・・
・・
毎度お馴染みの木製人型の出現を確認すると。
「どうします?」
HPというのを体験したから、意見に変化はないか聞いてみた。
「とりあえずそっちで一回お願いします」
「へい、お任せを」
そのまま前にでて、人型の攻撃をワザと数発くらう。
「この通り、衝撃で仰け反りはしますが痛くはないっす。それに拳部分が柔らかくなってますんで、たぶんHP0でも」
ふとあるスポーツを思いだす。
「あー ボクシングなんかじゃ、グローブでも失神するか」
「殴られながら平然と話してんの、すごい違和感があるんだけど。まあ痛くないのはわかった」
HPの機能をさらに照明できたので、人型のパンチを腕当で受け止め。
「んじゃ鱗粉をお願いします」
「りょ」
背後から風が吹き、わずかに減少したHPが回復した。
これで経験値も等分じゃないかも知れんけど、巻島さんにも入るはず。メイスで木人を破壊する。
敵は消えた。
「宝玉ない」
「学校なら確実に1個はでるんすけど、ここじゃ報酬なしもけっこうあります。とりあえず今日の目的は精霊スキルを一つ習得って感じかな」
明日は宮内もいるし、学校の近場を3人で回ろう。
その後、数回は俺が前に出て戦う。
・・
・・
ついに意を決したようで、次は彼女が前にでた。
〖赤鎖〗二つと〖青鎖〗を巻島。
敵には〖青鎖〗を打ち込む。
「ねえ精神保護って本当に効いてんの?」
「その効果をパッシブで得てるって思い出せる時点で、けっこう冷静だと思いますよ」
宮内以上のへっぴり腰で、マキマキは人型に近づく。
「来ますよ!」
巻島に殴りかかろうとした瞬間に、俺は〖滑車〗を破壊して木人のHPを0にする。だが敵に痛みも衝撃も与えないので、そのまま動作は止まらず。
彼女は前腕でなんとか受け止めた。身体強化が2重で発動しており、本人のパッシブもあるため問題はない。
「あぁ、もうっ!」
俺も似たようなもんだったけど、殴る殴られる経験なんて小学校時代の喧嘩くらい。
「援護します」
側面から敵に忍び寄り、〖メイス〗を地面に打ちつけて〖重力場〗を発生させる。
「どうぞ!」
「わかった」
〖白銀のナイフ〗を両手で握り絞め、人型の首部分に突き刺す。その一撃で、敵は光となって消えた。
「おめでとう」
「やったー!」
ビー玉が落っこち、それを拾って確かめる。
「あっ HP秒間回復の極小だ」
よかったよかった。でもここじゃ疲労回復系のビー玉は出ないんだよね。
「バット効果のやつ3つと、疲労のを交換しましょう」
「良いの?」
うんうんと頷き。
「格好つけたいんで。あとバットもお金に交換できるんすよ」
「そう言えばお金かせげるんだっけ?」
俺は苦笑いを浮かべ。
「橋の補修費に回します」
「あはは、簡単には稼げないってことかぁ」
さらにショップという要素も加わってしまった。
・・
・・
夕方の4時ころまで映世での活動を続け、彼女もある程度は接近戦にも慣れた。
「でもやっぱ、アタシは離れた位置から攻撃した方が良いかな」
手鏡を取り出し、画面の確認をする。
高価なのを持ってるかと思ったが、残念ながら安物しかなかったようで、3000円ほどの品をテスト期間中に神崎と買いに行ってきたらしい。
「あっ スキル覚えてた」
俺や宮内の時より早くなってるな。
「そうなんすね、良かったよかった」
出来ればレベルアップ時に、ファンファーレとかで教えてくれる仕様が欲しい。
「……どれか一つしか選べないんだって」
「えっ 選択式なんすか?」
それは困るだろ。彼女に頼み、画面を確認させてもらう。
「あぁなるほど、覚える順番をこっちで決めれるみたいっすね。そのうち一方しか覚えられないってスキルも出てきます」
「それすげぇ悩みそうなんだけど」
実際、俺も宮内も超悩んだことを伝える。〖巻き取り〗〖滑車破壊〗、〖仕込み短剣〗〖守護者の浮盾〗について簡単に教えた。
「両方覚えられんの?」
「こういうのもゲームの醍醐味って言えるんすけどね。悩むのが楽しいんすよ、どっちも優秀だったりすると」
あと可能性があるとすれば、両方覚えられるんだけど。
〖巻き取り〗習得か、〖滑車破壊〗二段階目の強化。
・・
・・
帰りのバスや電車は時間を把握しているので、それに合わせて俺らは学校に戻る。
「今日はありがと。明日もよろしく」
「仲間も増えりゃ、そんだけ活動の幅も広がるんすよ」
最初は緊張したが、振り返ってみりゃ楽しかった。明日からはゴールデンウィークの後半戦だ。
「このあと、お姉さんに電話するだっけ?」
「流石に家族なんで、巻島さんや神崎さんみたいにゃ緊張もしませんが、俺から連絡なんて普段しねえからあれっすね」
学校の前を過ぎ、木々に囲まれた坂を下る。
「やっぱ会長の弟さんだったんだねアンタ。彼氏さんと同じ大学かぁ、同棲でもしてたりして」
「いや、どうなんすかね」
姉弟なんてこんなもんだ。
「もし悪い結果だったとしても、ちゃんと教えて」
「へい」
京都が気に入ったからというのではなく、仲間が死んだのかそれとも映世に、前世に吞み込まれたのか。
俺の記憶が書き換えられているのかどうか。
「アタシも宮内も仲間ってことで良いんでしょ?」
「そうか、そうっすよね。今後活動してたら、そういう事が起こる危険もある」
なぜか肩を叩かれた。
「アタシは目的があって協力してるわけさ。だからそれも含めて自分の責任」
「へい」
それを踏まえて、自分たちは浦部の仲間だと言い切られた。
マキマキちょー格好良いんですけどぉ。




