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そこに居たはずの誰かへ  作者: 作者でしゅ
三章 燃え滾る美少女・神崎聡美編
14/20

1話 逆らえぬ者の宿命

 巻島さんのバイトは週ごとに勤務が違うそうなので、宮内と違って固定はされてない。


 正直いうと病院じゃなくて本当によかった。

 俺が県内で目指しているのはショッピングモール。これは人が多ければそんだけ敵も増えるんだけど、それだけじゃない。

 人込みが嫌いって奴多いじゃん。これが無意識にストレスとなるんだ。


 でも病院って具合が悪い人が多いわけだ。そんで働いてる人もかなりのストレスをため込んでいる。

 上級者マップの可能性が高い。あと母ちゃんの話を聞くに、高齢者施設なんかもやばいかも。


 働いていれば必ず大小のストレスは溜まる。あと本来だと学校だって難易度は高いはず、うちは大鳥居のお陰で初級になってるだけで。


 巻島さん、本当に公園で良かったよ。


・・

・・

 

 火水木のテストを終え、俺たち3人は帰り道を共にする。ちなみに最終日は半日だ。


「焼かれたい奴から、掛かってこい!」


 出来るだけ渋い声を意識する。


「キュリュウちゃぁん、ワシャもう辛抱堪らん」


「しっ 死に晒せ!」


 俺の側面から折りたたみ傘を脇腹に抱えた一匹のガリオークが迫って来る。

 それを兄貴が間に入って止めた。


「お、おじき どうして」


「ワレ、なにさらしてくれとんのじゃボケぇ!!」


 腹を刺されたまま、アニキは舎弟をぶっ飛ばす。まじでかっこいいっす兄貴、でも唯一文句を言うなら、役者があまりにもひどい。



 俺たち3人は駅に向かう道中、オークが如くごっこをしていた。ちなみに隆明はじゃんけんに負け、マジュマの舎弟役だ。


 そんな熱演に浸っていると、ポケットのスマホが振動した。


『今、浦部の地元に向かってるから、最寄り駅でまってる』


 えっ ちょっと待ってくれよ。


『木曜は宮内君が塾だから、明日集まろうって話をしましたよね?』


 すぐに既読がつき。


『その(やしろ)周辺って初心者用なんでしょ、なら浦部だけでも良いじゃん。宮内の時だってそうだったんでしょ』


『いや、何となくわかってると思うんすけど、自分女の子と話すの苦手でして、緊張がすごくて宮内いないと無理っす』


 俺が顔面蒼白なのに気付いたのか。


「大丈夫か、変なもん食った?」


 そりゃお前だろ。


「ちょっと休んできますか。近くの公園にベンチもたぶんありますよ」


 これから俺らは電車に乗って、より映える場所を求めてオークが如くごっこに興じる予定なんだ。

 繁華街とか?


『大丈夫、私は気にしないから』


『すみません、俺今からカラオケに行く約束してまして』


 流石にこれなら。


『えっ マジで、じゃあ仕方ないか。んで、どこのカラオケ行くの、私も一緒に遊ぶわ、色々聞きたいし』


 おい陽キャふざけんな。


「俺が共通の趣味で宮内君と仲良くなったのは知っているな」


「あっ ああ、お前すごいよな、勇者だよ」


 なにを持って勇気があるのだろうか。


「その繋がりで、俺らのカラオケに巻島さんが同行することになった。断るべきか、了承すべきか」


「……」


「……」


 太志はお腹を押さえ。


「あっ いてて。俺変なもん食ったかもしれん、今日は帰らせてもらいましゅ」


 隆明は鼻を押さえ。


「血が出て来てしまいました。まことに残念ではありますが、宴もたけなわ……」


 太志と隆明は自宅の方向へ逃げ出した。二人とも幼馴染で、家は高校の近くだった。


『急遽所要ができまして、私はそちらに行けそうです』


『無理やり解散させちゃったりした? なら無理しなくても良いよ別に』


 大丈夫です、彼らとはしょっちゅう一緒にいますのでと返す。そしてすでに何処かに行ってしまった事も。


『なんかごめん、ちょっと反省した。次からは気をつける』


 正直、巻島さんとの活動は面識なかったから心配だったけど、少し安心したかも知れん。ちょっと強引だったけど。


『いえいえ。気をつかってもらい、ありがとうございます』


 どうしよう。女の子と二人きりなん経験ないぞ、俺も奴らと同じく異性への免疫はない。


『大堀と細川だよね、私から謝った方が良いかな。あんた経由にすべき?』


『俺から槙島さんが謝ってたと伝えておきますよ』


 イマジネーション女子友よ、我に力を。


・・

・・


 駅につくと、嬉し恥ずかし初心者案内係が始まった。


 再度謝られたが。


「なんやかんや言って、女子と遊ぶのは俺らも嬉しいはずなんですが、本当に免疫のない小心者の集まりなんすよ」


 今ごろ後悔してんじゃないですかねと、自分の場合を想像して返答しておく。


「じゃあ、浦部のスマホちょっと貸してくれる。アタシから送るから」


 3人のグループ画面を開いてから手渡す。

 『大堀と細川へ。すまないことをした、今度ジュースでもおごってあげよう。byマキシマ』


 あの二人だと家宝だとかいって、大切に保管しそうだな。俺もだけど。


 その後バス停まで行き、時刻を確認すると、あと20分ほどでくるようだ。


「自分このとおり自転車なんで、ちっと先に行ってますね」


 リュックから攻略本を取りだす。


「前回読み切れてませんよね、せっかくなんでこの時間で可能なだけ進めといてください」


 一時的に貸すのは良いけれど。


「浦部の字なんだよね?」


「曰くつきの品なんで、できれば自分の手元から離したくないんすよ」


 まったく記憶にないことも教えてある。そして自分の予想だと未来からの品。


「へぇ。昔の記憶はあるんだよね、部分的に欠けてるとかないの」


 さすがに10年前の言動や、どんなことをしたかなんてうろ覚えだ。


「一応ちゃんとありますし、欠けてるとかもないっすね」


「宮内やアタシがあっちにいた時は、存在が消えてたんだっけ。それか記憶が書き換えられたり、行方不明になるとか」


 記憶を失う。攻略ノート。


「俺は以前から映世で活動してたけど、なんかの切欠で迷い人になって、一部の記憶が書き換えられてるってことですか?」


 誰かに助けられ、こうして今ここに居る。


「でも助けてくれた人は、俺に姿をさらしてない」


 適正がなければ、現世の自宅などに戻される。でも俺は映世の鏡社だった。


「理由は分かんないけど。もし戦う力を得てもさ、精神的に追い込まれることだってあるじゃん」


 なるほどな。そっちの方が可能性としては高いか。未来からノート送るより。


「まあ実はこれアタシじゃなくて、宮内の推測なんだけど」


「そうっすか。 ってそれ、俺に教えてよかったんで?」


 黙ってた訳があるんじゃ。


「えっ あれ、どうなんだろ。浦部には言わない方が良いって内容だっけ。たぶん言われてない気がしないでもない」


「宮内が言わなかった理由か」


 記憶を失った、書き換えられたとして。


「俺にとってあんま喜ばしいものじゃない」


「あっ なんかごめん」


 その発言を受けて、宮内が言ったことを思いだしたらしい。


「もしそうなら忘れて助かったんだ。映世に吞み込まれるほど、追い詰められてたわけだし」


 俺は適正がなかった。でもその悩みは記憶の忘却で解決できる類だったから、運営に脳みそをいじくられた。


「……ごめん」


 困った娘ですわ、実に困ったちゃん。


「映世とか現世とか、巻島さんも混乱状態だったんじゃないっすかね。宮内君の話が入ってなかったとしても仕方ないっすよ」 


 昨日の今日。いきなり非現実に巻き込まれたんだし、巻島だけに。ちょっとしつこいか。


 攻略ノートを渡す。


「いつの俺が記したものかわからないけど、多分すごく頑張って書いただろうし、役に立ててください」


 父親のためにも。


・・

・・


 家に帰宅する途中、見知った中学の制服を発見する。

 チャリを止め。


「ようケンちゃん、久しぶりじゃん」


「あっ ギン兄」


 お隣といっても、まあまあ離れている。幼馴染ではあるけど、3つ離れていると関わる機会も減っていく。


「中学はどんな感じだ、なんか変わったことあったか?」


「岸辺先生が別の学校に移ったとか。あっ、あと給食センターのメニュー考える人が変わったらしいんですよ」


 野球部の名物監督、もう居ないんだ。


「そうなのか」


「カルシウムdayとかで、ワカメスープやご飯にサラダ、なんにでも小魚入ってたりするんだ」


 うわぁ、そりゃ確かに嫌だな。


 自転車を引きながら歩く。


「あと俺やっぱ思春期なんかなぁ」


「そりゃ中2だし、んなもんだろ」


 健司は空を見上げ。


「家にいるとなんか違和感っていうか、自分でもなにいってるか分からないんだけど、なんていうか不安的な」


「……」


 違和感か。

 駅からの道だと、先に到着するのは健司の家だ。


「そんじゃギン兄またね。詩さんによろしく」


「おう」


 手を振り返す。健司が玄関の扉を閉めてからも、俺はその家をしばらく眺めていた。


「雪谷健司」


 妄想の女子か。


「雪谷」


 実感ないけど。もしそうなら俺は、こんな呑気にしてて良いのか。

 雪谷という苗字の女が居たかも知れない。その可能性を忘れないようにしなければ。


 存在が消える。最悪は最悪だけど、一番最悪なのは映世で戦い死んだという可能性。

 ただ緊急脱出といった要素を考えるに、そこまでムチャするかね。


「俺を映世から助けた誰か」


 迷い人だった宮内も巻島も、記憶の書き換えはない。そんなことは言い切れるのか。


 健司にはもう一人幼馴染がいる。俺の姉だ。

 神社仏閣といえば京都や奈良。

 縁も所縁もない土地の大学に入学した姉とその彼氏。


 今日帰ったら、電話してみるか。


・・

・・


 自宅にもどりポケットから携帯を取り出すと、宮内から連絡が入ってた。


 黙ってたことの謝罪と、自分でも言うべきか悩んでいたそうだ。


 うっかりミスを巻島が報告したんだろう。

 助けてから昨日の今日だし、その話をした自分にも落ち度があったとの内容だった。

 気にしてないけど、気にするなら飯を奢ってくださいと返信しておく。



 そして新たに作ったグループに書き込む。


 もしかしたら姉と彼氏が、俺を助けた相手かも知れないという情報を伝える。神社仏閣、縁も所縁もない京都に進学したことも踏まえて。


 今日の夜にでも、その理由を聞いてみたいと思う。

 宮内からの返事が来た。


『浦部が京都に行った経験は?』


『修学旅行と家族での2度だけ、どっちも小学校』


 既読がもう一つ追加される。


『急な話だったの? それとも最初から進路は京都だった?』


『姉と彼氏は卒業前の冬休みに行っている。そこから急に進路を二人して変更すると言い出した。先生は止めたらしいけど、親は好きにしろだった』


 二人の成績はうちの学年でいう神崎や宮内だし問題なかったようだけど。まあ、そんな時期に旅行だなんてしてるくらいだ。


 志望校変えるってのは、そんな簡単な話じゃなかったはずだ。出願ってのは、たしか締め切りは2月頃だっけか。

 修吾先輩んちのほうが大騒ぎになったんと違うだろうか。


 聞いたところで、京都が素敵だったからで終わるかも知れんと伝えておく。

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