7話 仲間になった②
報酬のビー玉を拾い、宮内のぶんを渡す。
「なあ」
「どうした」
先ほどの最後を思いだし。
「あの騎士は君なのか?」
「……俺だけど、たぶん俺じゃない」
そうか。
騎士としての礼儀とか、今のお前は戦う前にしないもんな。
巻島は消えることなく、ブランコで居眠りを続けていた。
ナイフは足に巻かれたベルトの鞘に収まっており、綺麗な外套を羽織る。
「適正の有無だけどよ、もしかすっと大本になる問題をさ、どうにか出来るかどうかなんじゃね」
「なるほど」
いつものように腕を組み。
「できるのか?」
「作品ごとに設定って違うけど、最近みたアニメだとよ、妖精の鱗粉や羽根は病に効くんだ」
その所為で種族が絶滅の危機ってのが話の流れ。
「宮内君は映世の環境が悩みの改善につながった」
「槙島はスキルが糸口になるってことか」
俺がうなずきを返すと。
「それってホントなの?」
巻島さんがこちらを見上げていた。
・・
・・
無事だった予備の手鏡を握ってもらい、鏡面をこちらに向けさせる。
宮内が操作するのを俺は横目で眺めていた。
「スキルにそれらしきものはないな」
「……そっか」
表情を暗くする。
「いや、まだ早い。ほかの画面にスワイプしてくれ」
「わかった」
そこに現れたのは、ポーション制作と書かれた内容だった。
『各種宝玉を入れることで、それを反映したポーションの作成が可能です』
「ほう」
「こりゃもしかすっかも」
身体強化薬や属性耐性薬。
あれも違うこれも違うと試した結果。
《HP回復》《スタミナ》《防御力》《状態異常耐性》などが候補に挙がった。
そして俺らがこれだと感じだ効果を発見する。
『体調と体質改善(小)、ただし現世だと(極小)。病改善には継続した服用がお勧め、ただし飲み過ぎには注意。これで作成しますか?』
「体調と体質の改善か」
巻島さんは宮内の言葉を聞くと、鏡をひっくり返して食い入るようにそれを見つめる。
「現世だと(極小)って書いてあるけど、此処は違うの?」
「今いるのは映世ですね。使ったビー玉……これのことっす」
ポーチから玉を取り出し、手の平に乗っける。
「効果が低いんすよ。俺らもまだ(中)はほとんど持ってない」
効果(中)は主力だから、申し訳ないけど簡単にはポーションにゃできん。
「ここで中だとすれば、もといた場所じゃ一段階さがるってこと?」
ダメだ、さっきから呼吸が全然落ち着かない。
「いったん脱出しましょう。俺ちょっとやばいんで」
「わかった」
重い足を引きずりながら、公衆便所まで足を動かす。
「俺は槙島を脱出させるから、荷物を一緒に頼む」
「へい」
宮内に続いて巻島。
彼女にとって都合のいいポーションという要素。病を癒す力を持った妖精が前世。
運営の意図らしき何かを感じるのは、俺の考えすぎだろうか。
・・
・・
現世に帰還すると、宮内と二人で幾つか追加の使わないビー玉をだし、巻島さんに手渡す。ちょっと触れて緊張しちゃったよ。
「たぶん体調と体質改善は、スタミナ系が一番重要だと思います、次点でHPや負傷の回復に防御力」
そんで状態異常治癒。
宮内に視線を向け。
「なんこか試してみてくれ」
「わかった」
ポーション制作の画面は彼女の鏡でないとでない。
「あとそれが終わったら、これを読んでもらった方が良いな」
俺はリュックから説明書と攻略本を取り出し、それを宮内に渡す。
「了解した」
「すんません、ちょっと休ませてもらう」
背を向けてブランコへと足を進める。視界がふらつく。
騎士戦の時より酷くないか、同じ疲労(中)なのにさ。
「彼、大丈夫なの?」
「スキルのデメリットに疲労ってのがあってな。あと妖精の槙島に感情移入してたみたいだ」
納得したとの口調で。
「うろ覚えだけど、戦ってるとき浦部すごい楽しそうだったもんね」
聞こえてるよ
「あれは槙島であって槙島じゃない、前世みたいなものだと思ってくれて良い」
「……そっか」
だから俺に聞こえない音量で話してくれって。恥ずかしいじゃん。
巻島さんが座ってたのとは別のブランコに腰を下ろす。
またいつか、か。
・・
・・
漆の手鏡に触れると、まず最初に運営からのメッセージが表示された。
『迷い人の救助に成功しましたこと、まことにおめでとうございます。新たな宝玉が解放されましたので、一般の敵をたくさん倒して収集を頑張ってください』
まだ文章は続く。
『あとご希望に沿い、時計の機能も追加しました。我々にはいくつもの制限があり、人に対する直接の干渉が難しいので、今後とも映世での活動をよろしくお願い致します。神の如き力を持つ種族一同より』
なんか本当に運営みたいになっているね。
神さまではないんだ。
「まあいっか」
報酬のビー玉を確認する。
全色の鎖《他色の鎖と一緒に使える・自分に使うと命中位置に強のデバフ》
黄の鎖《感電発動時に電撃となり、敵にHPダメージ・ソケット1枠追加》
さすがボス戦の報酬。
俺の最高火力の出し方を考え直しとくか。
咎人のメイス時は自分に全色を打ち込めるが、2つ放つには《同じ個体に重ねて使える》が必要だったりする。
《鎖によるデバフに耐えていると自分の身体強化》
これを〖赤鎖〗にセットしてるから、今のところ熱感に耐えてる間だけ、俺の身体は強化される感じになっている。
《白鎖を解除後、デバフの数ごとに身体強化(発動時間は耐えた秒数)》
各色デバフの弱強で度合が違う。
妖精戦では赤の熱感並が2カ所。青の悪寒弱が1カ所。
自分に感電のデバフは今回の報酬でとりあえずいけるか。(強)ってのが怖いけど。
今後の目的としては、同じ個体に鎖を2つ放てるってやつか。ただ最高火力優先してるから、HPとMPの回復が後回しになってんだよな。
「ソケット1枠追加か」
緑の法衣はレベルアップでソケットが2枠になったが、黄鎖は未だに1枠のまま。
漆の手鏡を取り出すと、試しに今のを外し、それをつけてみる。
〖黄の鎖〗ソケット1枠+1。
《感電発動時に電撃となり、徐々に敵のHPを奪う・ソケット1枠追加》
《なし・なし》
1つの欄を埋める代わりに、1枠を追加って感じか。良いじゃん良いじゃん。
「もし感電系の効果じゃなければ、全スキルにつけれたってことか」
まあでも(大中小)がついてないのって、かなり優秀な効果だよね。
今後腕当や自分がレベルアップしてスキルも強化されたら、これも自動で底上げされるわけだ。この場合は感電の弱並強で威力が変わる。
こいつはずっと使えるビー玉だ。でも強より(極大)の方が上なんだろうな。
・・
・・
そんなことを考えてたら、今世の妖精がこっちにきた。
両手にはペットボトルが一つずつ。
「これ」
「いいんすか?」
うなずきを返され。
「もともとあんたの宝玉ってのでしょ?」
そうではあるけれど。
効果は疲労回復(極小)。あとけっきょく使わなかったビー玉。
「こっちはアタシにちょうだい。次からは自分で集めるからさ」
「協力してくれるなら、自分としても助かるっす」
体調と体質改善のやつだろう。
ペットボトルの中身は満タンでなく、4/1ほどの量だった。
「もっと小さい容器で持ち運んだ方がよさそうですね」
「作って欲しい時は素材を寄こしな」
了解と返し、宮内の方を見る。
隣のブランコに巻島さんは座った。照れちゃう僕、なんか話さなきゃダメだろうか。
「自分の報酬を確認してるみたい」
「まじでゲームっすよね、これ」
苦笑いを浮かべてしまった。
「でもついでに人助けしてるんしょ、ついでに」
「いや、まあ。そうっすね」
やはり緊張する。
「そのっ な、悩みはどうです、ちっとは行けそうですか?」
「これから数カ月ごと、検査のたびに圧し潰されるんだって思ってたから」
再発か。
世の中には大切な相手が死んでしまった人もいる。でもそれと比べりゃ良いじゃんとかは言えねえよな。
自分なりにネットや図書館で調べたりしたはずだ。
「なにも出来なかった今までに比べれば、ずっとね」
今からさっそく病院に行って、ポーションを飲ませてみるらしい。
「飲んでくれそうっすか?」
「病気になってアタシが優しくなったとか喜んでるくらいだし、たぶん問題ないよ。こっちの気も知らないでさ」
子の気持ち親知らずってか。
「つっても、効果はまだ極小なんだけどね」
「それなら頑張った甲斐もありましたよ。まあ半分は報酬のためっすけど」
俺の手鏡を眺めながら。
「でも今日のために前もって、色々と準備してくれたんでしょ?」
集めた情報から対策やらビー玉の選別をしたことだろうか。まあ思い通りになったとは言えないんだけど。
もっと有効な手段はあったはずだ。
でも異性に格好をつけたいし、良くも思われたい。
「いや、あのですね。昨日は前世の巻島さんに酷くやられまして、そりゃもうムキになっちゃって」
「うん知ってる」
あっ 良かった正直に言って。
・・
・・
翌日。なぜか巻島さんは髪をバッサリと切ってきたらしい。
俺のもとまで噂がきたので、かなり話題になってんだろうな。皆に驚かれていたが、思い悩むのやめて心機一転するためだと。
昼休み。次のテストに向け、ノートを読みながらお茶を飲んでいたら、彼女がニヤニヤしながら俺のもとへ来て。
「もうマッキマキじゃないでしょ?」
思わずむせ込んでしまう。
「違うんですっ 巻島さん。あれは、その」
机にメモを置き。
「あと勘違いしてそうだから、念のため言っとくけどさ。アタシのマキはこっちだからね」
「えっ あ、そうなんすか」
巻島じゃないのか。
「……あっ」
「やっぱ間違えてたじゃん」
アハハと笑った彼女の声は、どこか奴に似ていた。




