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そこに居たはずの誰かへ  作者: 作者でしゅ
二章 マキマキギャル(?)・槙島真希編
10/15

4話 連休開始



 日曜日。

 俺らはファミレスに集合となる。勉強まじで助かりました、ありがとう宮内君。


 早めの昼飯を済ませた午後12時。

 学校の裏門は開いており、そこにいた警備員さんに頭をさげる。


「すんません、助かりました」


「良いよ良いよ、気にせんで」


 用務員さんなどは、休日の方が掃除などしやすいようで、廊下をモップがけしていた。教科書を忘れてしまったと嘘をつく。


 俺らは半分ずつ持ち寄った勉強道具を、リュックや鞄ごと更衣室のロッカーに置くと、映世の正門に立つ。

 今日は少し遠出の予定。


「浦部からみて、問題はなさそうか?」


「俺の地元に向かって歩くしな。厳しいようなら脱出しよう」


 学校まで電車で25分。鏡社と大鳥居のパワーがあるから、敵の強さもちょうど良いんじゃないかと推測する。


「自動脱出の場合だと、壊れる確率は7割くらいって書いてあったな」


「なるべく普通に出たいとこだ」


 今回は漆の手鏡だけでなく、予備のを数枚準備しておいた。

 無事な手鏡をメインにしておくが、例の《死亡時に蘇生、冷却1週間》は漆のやつでないと設定できなかった。


「途中に寺がいくつかあるし、そこを通るルートで進もう」


 映世ではスマホも使えない。

 ウエストポーチから地図を取りだし、寺の位置を再確認する。


「まずはここな」


「おし、行くか」


 宮内も肩と脇に密着してるタイプのを背負っている。私服もオシャレだね、何着てもイケメンは格好良い。俺は学校のジャージですはい。

 坂をくだりながら、前回習得したスキルを思いだし。


「んで、どっちにするか決まった?」


「すげえ悩んだけど、昨日のうちに選んどいたよ」


 〖仕込短剣〗 最大数1(固定)。盾裏に短剣が仕込まれ、それを浮剣と重ねて操作ができる。物質化したことで浮剣の耐久強化。肉体への攻撃も可能となる。飛行範囲増加。

 盾鞘に収まった状態で浮剣と重なれば赤は身体強化(小)。青はHP耐性、装備性能、防御力強化(小)。徐々にMP消費(中)。

 浮剣使用後は自動で盾裏の鞘にもどる。


 〖守護の浮盾〗 最大数1。味方の背後に青盾のエフェクト、騎士盾が青白く光る。味方のHP耐久・防御力強化(小)。味方のHPダメージ3/1を使用者が引き受ける。自分の総HP増加(中)。自分のHP耐久強化(中)。一つごとにMP消費(中)。


「どっちも使えるんだよなぁ」


「浮盾にした」


 HPという要素があるので、俺らは肉を切らせて骨を断つって戦い方になりがちだ。


「正直ありがたい」


「二人とも前衛で戦えるし、これで中衛の補助もできるけど、高火力は咎人のメイスくらいか。確かに仕込み短剣は有用だけど、たぶん威力の底上げはそこまでない」


 確かにそうだ。


「あれ使ったあとは疲労がヤバいんだわ」


「助けてもらった時、俺よりも辛そうだったもんな」


 滑車破壊は高威力だけどHPしか削れん。


・・

・・


 何度かの戦闘を繰り返しながら、俺らは1つ目の寺を通過した。


 二人して車道の真中を歩いていたが、放置されていた車の前席に敵を確認。闇の発生と共に軽自動車は消え、二つの影が形状を変える。


「車ん中で喧嘩でもしてたのかね」


「突発的なストレスの増加って場合もあるのか」


 たとえば銀行強盗やら立て籠もり。


 30代の女性は最終的に大きな猪になる。

 小学生ほどの男子は一度の変化だけだった。その姿は狩人風の弓使い。顔は空間の歪みで確認は難しいけど、年若い娘さんだね。


「狩人は俺が受け持つ」


 顔が見えないのは本当にありがたい。


 火曜と木曜の活動により装備のレベルも上がって、スキル枠が腕当3・自分3・メイス1となった。

 腕当にセットした〖風の法衣〗をまとい、周囲に緑の流れが渦巻く。


「猪は任された」


 俺の背後に〖守護の浮盾〗が出現。

 滑車より〖青と白の鎖〗を宮内へと打ち込む。守りと回復のバフ。


 弓使いが筒より矢を抜いて弦につがえる。(やじり)が茶色に光りだしたので、重量を操作してくる可能性が高い。

 こちらに放たれると同時に〖赤鎖〗を射出。


 矢は〖風〗に流されて軌道を変えるが、〖鎖〗は横に跳ねられ回避された。俺は気にせず狩人へと走り出す。

 宮内の様子は見れなくなるが、今はあいつに託すしかない。


・・

・・


 猪は牙を赤く光らせ、それが全身に広がる。恐らく肉体を強化したものと思われる。

 宮内は突進される前に駆け寄るも、猪は頭部を降ろしてから、勢いよく【牙】を振り上げた。

 道路が削られ破片が飛び散る。


 【牙】の衝撃は薄い銀光と共に〖白盾〗へ吸収され、靴底を擦りながら後退するが受け止めは成功。

 二つの〖赤い浮剣〗が上空から落下し、頭部と首に刺さって獣のHPを減らす。


 〖黄剣〗で追撃を狙ったが、猪は振り上げた頭を横に反らし、鼻の側面を宮内にぶつけてきた。接触部に剣を挟んで受け止めるも吹き飛ばされる。

 〖盾〗を地面に押し当てながら、身体を半分起こして姿勢を立て直す。


・・

・・


 俺が迫ろうと弓使いは焦ることなく、手慣れた動作で発射体勢を整えるが、やはり〖風の法衣〗は軽量の遠距離武器には有効だ。


 渦に弾かれたのを確認すれば、相手は弓を投げ捨てて短剣を抜く。


 間合いを見極め、勢いよく飛び跳ねてからメイスを振りかぶる。動作が大きかったこともあり、弓使いは横に回り込んで避けると、短剣を俺の脇下へと差し込んできた。


「だよなっ」


 肘で短剣を払うが、刃に当たったようでHPが微かに減少。


 脇の下が急所なのか不明。それにHPは満タンなので、致命傷だと判定されない場合もある。

 危険を狙わせ、突風により姿勢を崩させるってのは駄目だ。


 あくまでも突風は打ち負けた時の手助け。


 そのまま肘を振り抜き、反動で腰が捻られろば、姿勢の連動でメイスが振られる。

 弓籠手で受け止めるも発生した白光りは強い。もしHPという要素がなければ、装備ごと潰れていただろう。


 弓使いの側面には〖黄色の滑車〗が浮かび、〖鎖〗がその身体へと伸びる。

 素早さの低下と疲労の蓄積。


「運は俺に味方してるようだな」


 感電確率を上げるビー玉をセットして正解だった。


「こいつはオマケだ」


 〖青鎖〗も打ち込む。素早さ低下のお陰か、無事に命中してその部位が薄く凍る。


 メイスは確実にHPを削り、やがて肉体を抉った。


 

 呼吸をつく間もなく、宮内の方を確認する。

 一進一退の攻防を繰り広げているが、決定打はないようだ。俺も数度短剣をもらったけど、〖守護盾〗のお陰で思ったほど減ってないぶん、あいつは消耗しているかも知れない。


 すでに青と白の鎖は解除されていた。

 その場から回り込み、【牙】を受け止めた宮内の背中に〖白と青の鎖〗を放つ。


「こっちは片付いたぞ、今加わる!」


「助かる」


 デカい的に〖青鎖〗を打ち込み、その戦いに合流した。


・・

・・


 活動の序盤から咎人のメイスを使うのは避けたかった。それでも〖鎖破壊〗でHPを削り切り、二人して攻撃をしまくる。


 人間に比べて身体頑強すぎだろ。その後なんとか止めを刺して、女性は姿を消す。


「2体同時は始めてだった」


「実は俺もだ」


 計3つのビー玉を回収。


「仲直りできると良いな」


「まあいっか ってなるそうだから、ある程度は解消されんじゃない?」


 その場のふとした喧嘩であれば、十分に効果もあるはずだ。


 ビー玉の確認。でませんねぇ。


 地図をとりだし、ルートを調べる。


「その信号を左に曲がって、ちょっと脇道に入ったとこだ」


「今回は少し休むか」


 宮内は黄剣でスタミナ強化されており、まだ余力はありそうだ。

 さっきは2体同時だったからあれだけど、基本は彼が前衛で俺が後衛って感じ。



 10分ほど歩けば町中にある一般的なお寺に到着した。ベンチがあったので座らせてもらう。


「ほいよ」


「サンキュ」


 〖黄鎖〗を宮内に放ち、スタミナ回復を施す。


「報酬が宝玉だけだから、意外と手荷物少なくて助かるよ」


 持参したペットボトルから水分を補給。


「飲料と手鏡くらいだしね」


「にしても学校に比べると強い。さっきのは厄介だった」


 宮内は腕を組み。


「やっぱ火力が低いな。そのぶん守りとHPは高いから、タンクってのになるのか?」


「守護盾があると余計にそうなるね、あとはヘイトスキルが欲しいかな。俺は選択で巻き取りじゃなく、滑車破壊を覚えたってもある」


 HPを削る上でかなり有効なスキルだ。


「黒にも心の要素があったか」


「そうだね、もしかするとヘイトはそっちかも」


 白は精神安定。黒は精神圧迫や憎悪。赤は攻めだし戦意高揚とかあるかもね。


「まあナイトってゲームでもタンクの場合多いし。さっきの報酬は良い効果なんだけどなぁ」


 守護の浮盾《最大数+1・自分のHPを秒間回復(小)》


「仲間が増えないと活かせんか」


「まっ 流れに身を任せて行こうや」


 こっちの世界に迷い込むって、喜ばしい状態じゃないからな。


 手鏡を見つめながら。


「時計の機能欲しいよな」


「そうなったら、益々スマホみたいになる」


 空を見上げ。


「不便だぞっ! 運営さん聞いてるかぁ!」


「前にも言ってたけど、神的存在を運営呼ばわりか」


 体内時計や太陽のようすで察するしかない。


・・

・・


 学校を出てたぶん2時間以上は経っているが、寺を回りながらだし途中なんども戦っているしで、実際の移動距離は大したことない。


 俺らは今、橋の上を進んでいた。なんとなく車道ではなく、歩道を選んで歩く。

 先日は雨も降ったが、川の水量は少なく岩石や砂利の方が多い。目下は草が生い茂っている。


 目前に出現した影を見て。


「おいまじかよ」


「神崎……たしかこの辺りだって言ってたな」


 ここに出たということは、彼女もまた精神的にまいってるということか。

 小学校の頃に引っ越したというのは有名な話で、俺も誰かの話を横から聞いたことがある。


「両親が家を建てたとかで、俺の中学に引っ越してきた」


 巻島とは小学校のときからの同級生で、特別に仲の良い相手が重い悩みを抱えている。


「人気者は人気者で大変なのかね、いろいろ噂されるし」


 どうなんでしょう宮内君。


「応急にしかならんけど、せっかくの機会だ」


 1時的なものだけど、ストレス解消にはつながる。



 神崎を包む闇が広がり、その身体を覆い尽くす。


 まずは角の生えた美しい着物姿の女性となった。

 次に仙人風の衣をまとった筋肉ムキムキのかなり大きな男。闘仙とべも呼ぶべきか、良く見ると角が一つ折られている。


「えぇ……うそぉ」


「これは、やばいかも知れん」


 最終的に具現化したのは、鉄塊の大剣を携えた見上げるほどの鬼。


「オーガかよ」


 全然イメージに合わないんですけど。

 そして肌で感じる。精神圧迫なんて受けてないはずなのに。


「来るぞっ!」


 頭髪に【赤い鬼火】が灯る。

 雷鳴のような【咆哮】が橋を揺らした。


 少なくとも今の俺たちに、なんとか出来る相手じゃない。


・・

・・


 数分後。

 宮内は車道に吹き飛ばされHPが0となる。


 俺は大剣で橋の柵ごとぶち壊され、草やら砂利が広がる川原へと落下していく。

 あまり見る機会のない橋の裏側。

 それを眺めながら思ったことは、修理費が高くつきそうだという嘆きだった。


 すでにHPは0となっていたはずだが、緊急脱出が機能していたお陰か、地面に激突しても痛みはなく。いつの間にか意識を失っていた。


 

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