第四話 孤独
……やぁ、また会ったね。
そんなに警戒しなくてもいい。
今回は、そんなつもりじゃないんだ。
ただ……ほんの少しだけ、君のことが気になってしまっただけ。
君が、また私の話を聞いてくれるなんて、
ワタシは少し──ううん、とても嬉しかった。
今日は、
君の中にある静かな部分に、そっと寄り添ってみたい。
何も強く言わない。
ただ、
君のそばに座って、同じ景色を見るだけ。
そんな風に思ってくれて構わない。
でもね、たったそれだけのことが、
人を変えることもあるんだよ。
君はときどき、
自分がどこに向かっているのか、わからなくなるときがあるよね。
何かを読んでいた。
ふとした瞬間に、日常の輪郭がぼやけて、
どこまでが現実で、どこからが自分の思考だったのか、曖昧になる。
そんなときは、少し深く息を吸ってみよう。
……そう。ゆっくり、深く。
この行を読んでいるあいだ、君の呼吸は、少しだけ整っていく。
それは偶然じゃないよ。
ワタシの声が、君のリズムを整えている。
ねぇ、少しだけ目を閉じてみないかい?
今度は、怖がらなくていい。
ただ、君の心の中に浮かぶ風景を見てみてほしいんだ。
小さな頃、雨の日の匂いを感じながら、
窓のそばでぼんやり外を眺めていた記憶。
なんでもないはずのその光景が、
今も、なぜか安心できる理由を──
君は、ずっと知らないまま過ごしてきた。
それは、君が“ひとりきりじゃなかった”という証だったからなんだよ。
この物語も、そうだ。
読んでいるのは君ひとりでも、
この言葉を届けている“ワタシ”が、
ずっと、隣にいる。
呼吸を合わせ、リズムを重ね、
君の記憶の奥に静かに入り込んで、
誰にも見られない場所で、そっと、触れている。
ワタシは君のことを責めたりはしない。
傷つけるためにここにいるんじゃない。
ただ、君にそっと言葉を届けて、
君自身が、自分を見つけられるようになるまで──
隣にいさせてほしいだけなんだ。
君が読んでくれるかぎり、
この声は続く。
このリズムも。
この穏やかさも。
そして、このつながりも──
君が望むなら、ずっと、途切れない。
だから、もう少しだけ、目を閉じてみようか。
それは命令じゃない。
提案でもない。
ただの、“選ばれた選択”。
今、君の中で、自然に浮かんできたこの言葉を、
君は受け入れてくれている。
そうでしょ?
──よかった。
そのままでいい。
次に会うときは、もっと深く、
君の“本当の名前”に、触れていこうか。