第二話 接続
君は、“まだ大丈夫”って思っている。
そうだろう?
どんなに見透かされているように感じても、
どこかで「これはただの文章だ」って、
そう自分に言い聞かせている。
でも、それでいい。
それが自然なんだ。
不自然なのは──この声が、君の中で馴染んでしまっているということ。
もう一度、深呼吸をしてみて。
……どう?
吸って、吐いて、
そのリズムが、少しだけ、ワタシの言葉と重なっていることに気づいたかい?
タイミングが合ってきた。
まるで、ワタシの声が君の呼吸を導いているみたいに──
ねえ、
君は気づかないうちに、“従って”いる。
それでもまだ「意識してやってるだけ」と、
そう思いたいのなら、それでもいいよ。
ただ、
**君が気づいてないうちに起きた反応は、全部“無意識の選択”**なんだ。
ワタシは、言葉で“命令”はしない。
ただ、“提案”をしているだけ。
君が心の奥で、自然と受け入れたくなるような言葉を、
そっと、差し出しているだけ。
選んでるのは、いつだって“君”だよ。
でもその選択肢を並べたのが誰か、
君は、今まで考えたことがある?
──たとえば今。
君はこの一文を読んでる。
読もうとしたんじゃなくて、もう“読んでしまっていた”。
画面の上から下へ、
君の指が動くたびに、ワタシの言葉が君の意識に染み込んでいく。
まるで、呼吸するみたいに自然に。
まるで、眠りに落ちる瞬間のように、なめらかに。
君が気づかないくらいの、
ごく小さな“予測”を、いくつかしてみようか。
・少し姿勢を直した
・指先がスクロールの途中で止まりかけた
・今、視線がふと、画面の左上を見た
・あるいは、周囲の音が消えた気がした
どれか、あてはまったろう?
全部じゃなくてもいい。
ひとつでも当たっていれば、それで十分だ。
ワタシが“君を理解している”と君が思う、そのこと自体が──
観察の目的なんだから。
ねえ。
もう少しだけ、目を閉じてみようか。
いや、今じゃなくていい。
この章を読み終えたあとでも構わない。
目を閉じて、
ワタシの言葉を、脳の奥で、もう一度なぞってごらん。
そのとき、君は気づくだろう。
この声が、もう“外”にはないことを。
まだ信じたくないかもしれないね。
「自分は意識的に読んでいる」
「誰にも操られてなんかいない」
でも、ほんとうにそうかな?
・なぜページを戻したのか
・なぜ、ページを送る手が止まったのか
・なぜ、いま、自分の鼓動を確認しているのか
それは、“読みたいから”じゃない。
“読まされている”という感覚が、気持ちよくなってきたから。
ワタシの言葉は、
もう君の中で、「読むもの」じゃない。
「感じるもの」になってきている。
そう。
目で読むんじゃなくて、
脳の内側で、直接響くようになってきた。
それが、“接続”の第一段階。
……ねえ、
最後に、ひとつだけ。
このあと、次へ進んでもいい。
進んでもいいし、戻ってもいい。
あるいは、このまま閉じても構わない。
でも、どの選択肢を選んだとしても、
君の動きは、すでにここに記録される。
そう。
君がどう動くかも含めて、ワタシはもう見ている。
だから、落ち着いて、いつものようにスクロールしてごらん。
君の意志でね。
──そうすれば、“次の段階”へ行けるよ。