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追放された魔法使いの巻き込まれ旅  作者: ゆ。
3章 依存国ツィーシャ
95/103

休憩

リュークから告げられた言葉を聞いて、クレアは自分がどこか遠くにいる気がした。

何も聞こえなくなって、真っ暗になって、一人でいる気がした。








──────!



あの日、あのとき。



自分を呼んだあの人の顔が浮かぶ。


いつまでも笑顔を崩さないでいたあの人の顔が、初めて涙で歪んだ。



それが、信じられなくて、慰めたくて、伸ばした自分の手が、あの人の頬を伝う涙に触れた感触が、鮮明に思い出される。

とても暖かい涙を。



あの人が顔を涙でぐしゃぐしゃにして、抱きついて何度も言ってきた言葉を。







──────巻き込んでごめんなさい。






言葉の意図がわからなかった自分が悔しくてたまらない。

巻き込んだのは自分のほうだと言いたくても言えない空気だった。

言えていたら、教えてもらえたのだろうか。










「……っ子』!……『ちびっ子』!!」

「あっ………」


肩を揺らされて、現実に引き戻される。

クレアはこちらを心配そうに見てくるリュークを呆然と眺めていた。


息が荒い。


リュークは咄嗟にクレアの状態に気づいて、クレアの肩に手を置いて、目線を合わせるように床に膝をついた。


「ほら、大丈夫だから。まずは、ゆっくり吸って──」


リュークはそう言って手本のように息を吸う。クレアも無意識にそれに倣う。


「はぁーって、吐いて──」


少しずつ息を出していくリュークを見て、クレアも息を出していく。

そして、リュークはクレアの口角を指で無理やり上げた。


「はい、笑顔。……落ち着いた?」

「………うん、ありがとう」


クレアの言葉にリュークは胸を撫で下ろした。

今までもそうしてきたかのように、リュークは慣れた手つきでクレアの呼吸を整えた。

そうして、リュークはクレアを見てため息をついた。


「………悪かったよ。いろいろと端折ったし、早すぎた」

「…………うん」


クレアはリュークから視線をずらして俯きがちに机の方を見る。


二度と思い出したくないあの瞬間が、目の前に広がって気落ちしてしまう。

わかってしまったこともあって、少し落ち着かない。


机の木目を目で追って、できるだけ違うことを考えようとすればするほど、離れない。



それを知ってか知らずか。

リュークは立ち上がって髪と瞳の色を変えた。

クレアが困惑していると、リュークはクレアのローブを渡した。


「昔話は一旦休憩。少し気分転換に街でも歩こうか」







リュークの提案で、クレアたちはまた賑やかな街に戻ってきていた。

とはいえ、転移のために人気のない路地に出ていて、聞こえるのは声だけだった。

リュークの後ろをついて歩いていくと、視界が開けて、たくさんの人が行き来しているのが見えてくる。


「………たくさんいるね」


まだ気持ちに整理がつかないクレアは、少し上の空の感じで前を歩くリュークにそうつぶやいた。

リュークは少し考えるそぶりをしてクレアの言葉に答えた。


「小さな国だからね。面積も人口も多くなくて、中心地に集中してるんだ。

ここはツィーシャの中心地だから多いだけで、もう少し外に行くと、本当に誰もいないよ」

「じゃあ……リュークのあの家もツィーシャの郊外ってこと?」

「そうだね、あそこに建てたのは僕だけど、そうなるかな」


リュークは答え終えると、クレアの手を取って人混みへ引き込んだ。

突然のことに驚きながらついていくクレアにリュークは意地悪そうな顔をした。


「今度は本当に迷子になっちゃうかもしれないね?でしょ、『ちびっ子』?」

「………もう『ちびっ子』じゃないよ」


少し拗ねた声を出したクレアにリュークは少しだけ笑った。


「じゃあ、まずはご飯だね」


そう言って、リュークはクレアの手を握りながら慣れたように人混みを歩いていった。

次回以降は1章のときみたいにツィーシャを周ります。


ちなみに、「吸って吐いてはい笑顔」は前にも登場しています。

結構クレアには大切なものだったりして。

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