いただきます
2026.10.18 改訂
晩餐を食べ終え、使った食器を片付けると、子供たちは年上と年下でペアを作って浴場へ向かって行った。
ルークは自室に戻ると言って2階の方へ行ってしまった。
クレアは晩餐のときから続く子供たちの礼儀正しさに、どこか落ち着かなかった。そんなクレアを見てシスターは笑った。
「あの子たち、普段はあんなに静かじゃないのよ。今日はあなたみたいな可愛い子が来て緊張してるのかしら。
とにかく、嫌だとは思っていないはずだから、仲良くしてあげてね?」
「はい、もちろんです」
シスターの言葉に安心して、クレアは外の空気を吸いに中庭へ出た。
庭、と言ってもそこまで広くはなく、フレンティアの中心部にあった噴水でも置いたら、歩く場所もなくなるだろうと思われるほどだった。
端っこには野菜が植えてあり、ところどころ人の名前が書かれた札がささっているのを見るに、自力で育てているのだろう。
上を見上げると、貧民街であまり発達していないほうだからか、灯りが少なくて星が見えやすい。
クレアが夜に歩くとき目印にしていた、一段と明るく光る赤い星も見える。
(フレンティアは全体の生活水準が高いとは聞いていたけど、格差が小さく済んでるだけなんだろうな…)
一日フレンティアを周って、色んな階層の人に出会った。
商店街や貴族街、そして孤児院がある貧民街に分かれてはいるが、貴族といえど平民寄りの中流階級が多かったり、一律の値段で売る政策によって儲けがまばらではあるもののほぼ均一な商人が多かったりする。
ルークに聞くと、盗みなどの犯罪行為さえしなければ、フレンティアの人々は貧民街にも協力的だという。
先ほど植えられていた野菜も商人がタダで分けてくれたものを使っているそうだ。
そのため、貧民街もそこまで貧困で困っているようではないようだ。
ガシャーンッ!!!!
何かが壊れたような音が聞こえたのは、クレアが空を見上げて息を吐いたころだった。
外に出てから半刻は経ったころだ。
ガラスか何か硬いものが打ちつけられて壊れる大きな音が聞こえてからすぐ、何かに怯えるように叫び声をあげて数人かが孤児院の前を走り去って行ったようだ。
音の発信源は孤児院からさほど遠くない場所だったため、クレアが気になって見に行こうとすると、
「ダメよ!!!!クレアちゃん!」
後ろから突然、大きな声でシスターに呼び止められてしまった。鬼気迫る顔で言うので、気圧されたクレアは行くのをやめた。
土地勘のある人が強く止めるのなら行かないほうがいいのだろう、と判断したのだ。
大人しく孤児院の中に戻ると、自室に戻っていたはずのルークが制服を着て真面目な顔で今にも孤児院を出ようとしているところだった。
クレアが戻ったのに気づいたルークはクレアにいつもの表情を見せた。
「クレア、孤児院はどう?」
「え……あ、いいところ、です」
「そう、よかった」
てっきり今起きたことの事情を聞いてくると思っていたクレアは、拍子抜けな顔で聞かれたままに答えてしまった。
ルークは後ろにいたシスターのほうを見て、また真面目な顔をする。
「シスター、悪いけど俺また出ないとだから。アイツらにもまた埋め合わせする、って言っといて」
「怪我だけは気をつけるのよ?生きて帰ってきなさい」
「大げさだってば」
まるで熟年の夫婦のような会話をして、ルークはシスターに別れを告げた。
そうして、もう一度クレアに視線を戻した。
シスターとの会話でさっきの音の犯人を追うのだろうと察していた。
クレアはルークに近寄った。
「ルークさん、私を連れて行ってください。役に立ちます」
クレアの言葉に、ルークは顔を顰めた。
ルークの中にはテッドを捕まえたという、役に立つ実績を持っている『魔法使い』クレアと、昼間に見たあどけない表情をする『十五歳』のクレアがいた。
確かにクレアを連れていけば役に立つかもしれない。
しかしクレアを危険に晒しては、残っている年相応の反応も少なくなるかもしれない。
そんなことを考えなくても、ルークの頭の中で、答えは決まっていた。
ルークはクレアに王子スマイルを向けて肩に手を置いた。
「クレアはここでお留守番です」
クレアは、一線を引かれたと感じた。
顔が見れない。
ひどく落胆した顔でクレアは、何かを思い出していた。
『あんたは、私たちと違う』
(………あぁ、また)
暗い感情に支配されそうになったあたりで、ルークがまた口を開いた。
「クレアは強いので、ここを守る役目を与えます」
クレアは驚いて、ぱっと顔を上げる。
そこには、自分と対等な立場で話すルークがいた。
ルークは自分を捨てない。
むしろ、信じてここを任せようとしてくれている。
「クレア、ここで『お留守番』を任せていいですか?」
ルークは王子スマイルを崩さずにクレアに問い直す。
クレアはルークの目をしっかり見すえた。
「──はい。任せてください」
クレアの答えにルークは満足したようで、立ち上がった。
シスターに目配せをして後を頼むと、ルークは孤児院をあとにした。
「クソ……、あのガキただじゃおかねぇ………」
ザリッと、ガラスを踏みつけながら大柄な男は貧民街を徘徊していた。
「おにいさん、お話しませんか?」
謎のフードを被った人物が男に話しかけた。




