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追放された魔法使いの巻き込まれ旅  作者: ゆ。
2章 魔法の国ルクレイシア
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温もり (セイルクside)

先生がやってきて、俺とミュゼは先生が連れてきた受付の担当者に保護された。


それから俺たちの身体の冷えや魔力の回復などを考慮してか、森のすぐ近くにある騎士団の詰所で暖を取っている。

ミュゼは暖炉の前で動かずに火をずっと見ている。

先生は受付の人と話すために離席していた。


この部屋は十分に暖かいはずなのに、芯まで温まる気がしなかった。


保護されてからもう一刻が経とうとしている。

なのに一向にクレアの安否がわからない。


クレアは魔力暴走をきっと起こした。

最後に見た泣きそうな顔が頭から離れない。


先生に会えたとき、自分のことでいっぱいいっぱいで、クレアのことを気にかけられなかった。

こうして詰所に来てやっと思い出したくらいには、追い詰められていた。

でも、それだけの理由で忘れていい理由にはならない。

クレアは俺を助けてくれたから。


「…………………無事でいてくれ」


俺は吹雪の外を部屋から眺めながら小さく呟いた。

この吹雪で森はまったく見えない。

頼むから、無事でいてほしい。

俺には願うことしかできない。


俺の小さな呟きが聞こえたのか、ミュゼは暖炉の火から目を離して俺に何か言おうとしていたが、そのことに気づかなかった。



ガチャ



窓とは反対側にある扉が開く音がして振り返ると、先生が戻ってきた。

首から下げた老眼鏡をかけて、眉間を揉む姿を久しぶりに見た。

教え方に困ったときによく見た仕草だ。


俺が窓辺から先生を見ていると、視線に気づいた先生が微笑みかけてきた。


「少しは身体も温まったか?」

「……………うん」


本当は、ありがとうみたいな感謝の言葉とか、たくさん魔物を討伐したこととか、話したい。

でも、まだ気まずい。

いつもどうやって話してたかもわからない。

1ヶ月は会いに行ってなかったけど、先生が依頼で会えなかったときよりは短い。

それなのに、なんだか壁を感じる。


沈黙が流れる。


すごく気まずい。

俺も、多分先生も、どう接すればいいかわからないからだ。


俺たちが黙っているのに痺れを切らしたのか、ミュゼが咳払いをひとつした。

ミュゼに目を向けると、暖炉に近すぎて煤だらけになったブランケットを羽織りながら床に座っていた。

相当寒かったみたいだ。

ミュゼは何かを考える仕草をして口を開いた。


「あぁー……………、と。ハシュアさんはどうして私たちがいる場所がわかったんですか?」

「え?あ、あぁ……それは」


突然の質問に先生は狼狽えながらも肩掛けの鞄を探る。

実は俺も気になっていたことだった。

国民だから実施されることは知っているとはいえ、どうしてあの場に駆けつけられたのか。

そもそも保護者でもないのにどうして来れたのか。


その答えは先生が鞄から取り出したものですぐにわかった。


「………………青の連絡魔石」


先生の手にのる見覚えのある魔石に思わず口を開くと、先生は静かに頷いた。


あのとき、俺とミュゼが青の魔石に魔力を込めたとき、魔石は光って空へ飛んで行った。

この魔石が先生のもとに届いたということなら納得が………………。


「ちょっと待って」


俺は待ったをかけた。

ミュゼも少し不思議な顔をしているあたり、きっと同じことを思っている。

俺は先生を見ながら質問した。


「この魔石は『緊急連絡先』に登録された人のもとへ届く。

でも俺は、先生が『緊急連絡先』じゃない。

どうして先生のもとにこれが届いているんだ?」


そうだ。

俺は『緊急連絡先』がクレアと同じ人だった。

俺はその人に届くだろうと願って魔力を込めたことを覚えている。

それなのに、俺が飛ばしたはずの魔石は先生の手元にある。


どうしてなのか。


先生は俺の質問に目を丸くした。

今知ったというような顔だった。

でも、そのあとすぐに理解したように小さく笑った。


「……………クレアさんにやられたな」


俺とミュゼは顔を見合わせて首を傾げた。

ここでクレア?


俺たちの疑問が伝わったのか、先生は色々と教えてくれた。


「実は、クレアさんは何度か私に会いに来てくれていてね。

セイルク………お前の魔力コントロールの授業で何を気をつけるべきか、どんな癖があるか、どう教えてきたかを都度確認しに来ていたんだ。

だから、セイルクの魔法の上達具合はいつも聞いていた。

……………よく頑張ったね。


まあ、そういうこともあって………1、2週間前だったかな。

毎週来ていたんだけど、ちょうどそのときにエントリー用紙を持ってきたんだ。

内容を聞いて『サインしてください』と言われて、最初は拒否したんだ。

セイルクが嫌かと思って。

それに、魔法が使えない私が言っても何もできないから、『緊急連絡先』になり得ないと思ったんだ…………。

でも、クレアさんが『あなたじゃないと意味がないです』なんて、根拠のないことを言ってきたんだ。


何度も推されたから、渋々書いたんだけど…………まさか知らなかったなんて。

一瞬信じられなかったけど、クレアさんなら何か工作をしたんだろうね。

私がセイルクに気が付かれることを避けたいことを勘づいていたのかもしれない」


青の魔石をなでながら先生が答えてくれた内容は、俺には結構衝撃が強かった。



クレアが工作………?

そういえば、クレアは俺とエントリーに行くとき、俺の紙を取り上げて『緊急連絡先』のあたりをほこりでも払うような仕草をしてから渡していた。

それに、その前。俺が家で必要な項目に記入する中、『緊急連絡先』に腕が触れたとき、微かに魔力を感じた。


あのときは気のせいだと思ったけど、クレアが俺にバレないように魔法を使って『緊急連絡先』を偽装していたなら、先生にこの魔石が届くのも納得がいく。



他にも、先生には聞きたいことがたくさんある。


その思いが先行して、考えていたことが次々と口から出てくる。


「先生、クレアと会ってたってどういうこと?クレアの授業って、先生が先に指示してたってこと?


それに俺が嫌って………俺は先生に迷惑をかけたくないから行かなかっただけで嫌いなわけじゃないよ!

なんで勝手に決めるんだよ………。


しかも、魔法が使えないってどういうことだよっ!!」


はぁっ、と大きくため息をついてしまう。

先生の顔が見れない。

俺は先生と話すと毎回こんなに余裕がなくなってしまうのかと、自分が嫌になりそうだった。


俺は下を向いて先生の言葉を待つ。


先生は俺の次々と聞いた質問に、長い沈黙の後に答えてくれた。


「クレアさんと会っていたのは本当だよ。

突然来て、授業の仕方を教えてほしいと言われた。

初めてやることだからどうすればいいかわからないから、昔教員だった私に教えてほしいと。


セイルク……お前は確かに私のことを嫌いになることがなかったね。

あの日、もう来ないと言った日も私を気遣ってのことだった。

私は…………、自分に、自信がなくてね。

きっと嫌われたとそう思い込んでしまったんだ」


先生はそこで言葉を区切って、俺の頭を撫でてくれた。

俺がふと顔を上げると、先生は申し訳なさそうに顔を歪めて俺を見ていた。

目が合った先生は泣きそうな顔をして教えてくれた。



依頼で向かった先で殺されかけ、なんとか一命を取り留めたが『杖なし』になったこと。

価値がなくなって所属していた魔法協会から追い出されたこと。

心身の立ち直りを待つうちに、帰るのが遅くなったこと。

俺と会って自信を失い、避け続けていたこと。



そのすべてを、先生は何度も俺に「すまない………」と謝りながら話した。


先生は、俺のせいで魔法を教えなくなったわけじゃなかった。

『杖なし』になったのが一番の理由。


『杖なし』は、優秀な場合とそうでない場合がある。

優秀な『杖なし』はほんのひと握り。

俺たちが普段魔法を使うときに必要な杖を持つ必要なく、魔力を循環させて魔法を使うことができる。

使わなくなった杖は取っておく人もいれば、お守りとして弟子に譲渡する者もいる。

そうでないのは愚か者の証。

杖がなければ魔法が使えないのに、その杖を失う。

魔法が使えないなら魔法使いではない。

それは魔法使いとして烙印を押されるのと同義だ。


先生は、そんな自分が教えていいはずがないと思って、そして、魔法が使える俺を羨んだ自己嫌悪で避けていただけだった。


今も目の前で謝る先生は許されないことをしたという思いを募らせていた。

確かに、避けられたときはすごく悲しかったのを覚えている。



でも。


「…………よかった」


俺はぼそりとつぶやいた。

先生も聞こえていたみたいで、驚いたように俺を見る。

俺の顔を見て、先生は俺の頬を撫でて親指で何かを拭った。

親指には水が付着していた。


そこで俺はまた涙を流していることに気づいた。

慌てて乱雑に拭って、俺は先生に笑って見せた。


「俺は、先生に嫌われてなくてよかったよ」

「……………っ」


俺の言葉で先生も堪えていたのか、涙を流して俺に抱きついてきた。

俺は先生の背中に手を回して背中をさする。


温かさをようやく感じた。


クレアのおかげで、俺は先生と仲直りできた。

ありがとうと、感謝を伝えたい。

それに、あの日魔法を馬鹿にしたこともちゃんと謝りたい。


俺が先生と抱き合っていると、扉がノックされて俺を引き留めてくれた受付の人が入ってきた。







「クレアさんと思われる方が森で保護されました」

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