申込 (セイルクside)
「はい、これ。書けたから返すね」
何日かして、クレアとまた魔力コントロールの訓練をするために会うと、クレアからプリントを渡された。
連絡に手こずったのだろうか、1日で返ってくると思ったが少し時間があった。
少し盗み見ると、しっかり『緊急連絡先』に情報が書いてあった。
パートナーの場合は所属している協会の名前を書いたりクレアのように遠方にいたりすることを考慮して代筆が許されている。
羨ましいな。
ファル・セルナリア=グラント、という名前に少し見覚えがある気がしたが、すぐに考えるのをやめてプリントを受け取った。
プリントが2枚重なっているのに気付いて、下のプリントをみると、案の定、生徒用のプリントだった。
やっぱり渡してたか。
俺が苦笑いしてプリントを見ると、何故か生徒用のプリントの『緊急連絡先』が埋まっていた。
名前や情報はクレアが書いたプリントの方と、まったく一緒だった。
クレアが間違えて書いたのだろうか。
俺が聞きたそうにしているのがわかったのか、クレアが口を開いた。
「それ、書き間違えたわけじゃないよ。前に、セイルクが家で肩身の狭い思いをしてるって聞いたから。『緊急連絡先』に書いてもらうときいい顔をされないんじゃないかなって思って…………。
私の緊急連絡先の人に相談して書いたんだ」
クレアは俺がしぶしぶ署名されて、緊急時も心配しなさそうな人と会わないように配慮してくれたみたいだ。
知らない人で気が引けるけどありがたいかもしれない。クレアが信頼する人だから、何かあったときに必ず来てくれるだろう。
ただ。
俺は少し申し訳なく思いながらもクレアに答えた。
「『緊急連絡先』を書いてくれたのはありがたいけど、結局参加するかどうかで家の人に署名してもらわないといけないんだ」
「えっ」
失念していたのか、驚いた声を上げたクレアはその後何度か俺に謝ってきた。
緊急連絡先を書いてくれただけでも嬉しいから謝る必要なんてないのに。
クレアに俺の家のことを話したことはあっただろうか。
その後、俺は署名だけしてもらうために家に戻った。
知っての通り、一応この家の者にもかかわらず客室に通された俺に、里親は恐ろしいものを見る目を向け、距離を取りながら署名した。
討伐で何かあっても責任は取らないとだけ言って、俺より先に客室を後にした。
一人残された俺はその場で自分の名前や学年などを記入した。
そのとき、『緊急連絡先』の欄に腕が触れたときに、微かに魔力を感じた気がしたが、気のせいだとすぐに無視した。
外で待機していたクレアと合流して、一緒に学校へ向かう。
国から派遣された魔法使い以外をパートナーにする場合は、架空の人ではないか、確認のために一緒に行く必要があるのだ。
事務のところへ行くと、事務員が「プリントを」と言って提出を促してきた。
俺が手に持っていたプリントを提出しようとすると、クレアが俺からプリントを取り上げた。
そして、プリントの真ん中あたりを埃を払うように触れてから事務員に提出した。
急にどうして取り上げたんだ?
俺が不思議に思っている間にも確認作業が進み、無表情だった事務員が少し微笑んでプリントを受理した。
「それじゃあ、今日も魔力コントロールの練習だね」
クレアは何事もなかったかのようにそう言って図書館へと手を引いた。




