罪悪感 (ハシュアside)
私はセイルクが見えなくなった後も店の前で呆然と立っていた。
そして、居住スペースに戻ってからずっと座り込んでいた。
去り際のセイルクが忘れられなかった。
もう来ないと言っていたから、嬉しいはずなのに。
私は昔セイルクにもらった感謝の手紙を見つめた。
セイルクは魔力を買われて孤児院から引き取られた子だった。
歳に合わない魔力量のせいで不安定な魔力が感情に左右されて、里親を攻撃したことで冷遇されていた。
初めて会ったとき、セイルクはまだ10歳で、私の店の前で道行く仲睦まじい親子を羨ましそうに見ていた。
孤児院でも魔力で人を傷つけた経験があるセイルクは、誰にも見向きされていなかった。
それなりの魔法使いで、人の魔力がわかる先天的な才能もあった私は、昔魔法学校で子供たちに魔法を教えていたため、彼に魔力をコントロールする方法を教えた。
常連か冷やかしの客しか来ない書店だったから、構う時間も教材になるような本もたくさんあった。
毎日通ってくれるセイルクを生徒のように感じながら教えていくうちに、セイルクが私を「先生」と呼ぶようになり、次第に親しくなっていった。
セイルクが魔力をコントロールできるようになってきたころ、私のもとへ久しぶりに依頼が来た。
簡単な依頼で、遠方の森に棲む魔物を退治してほしいという依頼だった。
距離的に数ヶ月空けることになった私は、来年度から魔法学校に入ることになったセイルクと、魔法学校でしっかり勉強して、私が帰ってきたら魔法の授業をしようと約束をした。
しかし、私は森で対峙した魔法使いの『普通じゃない魔法』に殺されかけ、その際に杖を壊されてしまった。
それから私は簡単な魔法しか使うことができなくなった。
杖を失うことは魔法使いとして生きる道を断つことだった。
私はこれまで使えていた魔法が使えなくなったことに、精神的にダメージを受けていた。
『杖なしの魔法使い』になった私に価値はなくなったのか、所属していた協会を追い出され、魔法使いではなくなった。
数ヶ月で戻ると言った私が次にセイルクに会ったのは、約束から2年が経ったころだった。
少しずつ立ち直りつつあった私は、あの魔法使いのルクレイシアでは見ない『普通じゃない魔法』を知るためにたくさんの魔法書を読んでは、世界の魔法についての見聞を深め、ルクレイシアの偏見に気づいた。
そんな私がルクレイシアの国立図書館でセイルクとぶつかって再会を果たした。
魔法学校に通い始めて2年のセイルクは、最後に会ったときよりもずっと大きく、健康に育っていた。
そして、最後に会ったときよりもルクレイシアの偏見に染まり、『普通の魔法』を上手く扱えていた。
ルクレイシアに戻ってから書店に篭りきりだった私は、久しぶりに見た魔法を羨んでしまった。
『普通の魔法』でさえ使えなくなった私に、「先生」と呼ばれる価値はない。
そして、あれから3年間、ずっとセイルクとの授業を拒み続けていた………。
セイルクは教えて欲しそうだったが、私はもう教えられない。
杖がなければ魔法は使えないから。
3年も拒み続けて、何も悪くないセイルクを怒鳴り、早く離れてほしかった。
こんなに私のもとへ来ることを欠かさずにいる子を、私は怒鳴り続けている。
ずっと、ずっと罪悪感でいっぱいになっていた。
でもセイルクは毎日やってきた。
やってきていた。
その結果がこれだ。
「はは……」
私は弱々しく自嘲するように笑った。