罪悪感 (ハシュアside)
2025.9.24(水):追記
後ろの話に繋がるのに必要だったので修正しました。
私はセイルクが見えなくなった後も店の前で呆然と立っていた。
そして、居住スペースに戻ってからずっと座り込んでいた。
去り際のセイルクが忘れられなかった。
もう来ないと言っていたから、嬉しいはずなのに。
私は昔セイルクにもらった感謝の手紙を見つめた。
セイルクは魔力を買われて孤児院から引き取られた子だった。
歳に合わない魔力量のせいで不安定な魔力が感情に左右されて、里親を攻撃したことで冷遇されていた。
『こんなところで……どうしたんだい?』
『別に、おじさんに関係ないだろ』
初めて会ったとき、セイルクはまだ10歳で、私の店の前で道行く仲睦まじい親子を羨ましそうに見ていた。
孤児院でも魔力で人を傷つけた経験があるセイルクは、誰にも見向きされていなかった。
今にも泣きそうなセイルクが放っておけなかった。
『それじゃあ、おじさんとお茶でも飲もうか』
お茶に誘ったセイルクは最初のうちはツンツンしていたが、次第に涙を流して自分のことを教えてくれた。
『おれ………かぞくのこと、傷つけちゃって………誰かと一緒にお茶飲むの、久しぶりで………』
得意魔法の『風刃』でコントロールが効かず、人を傷つけたことがトラウマになったようだった。
この歳で『風刃』を使えるのは感心したが、コントロールができないのは将来に大きく関わるだろうと思った。
それなりの魔法使いで、人の魔力が『視える』才能もあった私は、昔魔法学校で子供たちに魔法を教えていた。
力になりたかった。
『…………そうか。それじゃあ、おじさんと魔法を上手に使えるように練習してみないかい?
きっと、お父さんとお母さんも喜ぶよ』
『そうかなぁ…………?』
『できるさ。まずは、君がどれだけ魔力を使えるか教えてほしいな』
それから私は、彼に魔力をコントロールする方法を教えるようになった。
『おじさん!今日も教えて!』
『焦らなくても時間はあるから、大丈夫だよ。じゃあ今日も、最初はコントロールの練習からだ』
『うんっ』
常連か冷やかしの客しか来ない書店だったから、構う時間も教材になるような本もたくさんあった。
『先生、この『風盾』ができないから、少し見てほしい』
『わかったやってごらん。
……………魔力は十分だけど、できないと思ってないかい?
最初からそれだと一生できないよ』
『えっ、そんなこと思ってたのかな………?』
『魔力に迷いがあったよ。次はできる!と思ってやってごらん。そしたらきっとうまくいくよ』
『…………できるできる…………こう?』
『すごいじゃないか!やっぱりできたじゃないか!』
『へへ、やった!』
毎日通ってくれるセイルクを生徒のように感じながら教えていくうちに、セイルクが私を「先生」と呼ぶようになり、次第に親しくなっていった。
しかし、楽しい時間も終わりを迎えることになった。
『ほんとに行っちゃうの……….?』
『たった数ヶ月だよ。それまでちゃんと練習しておくんだよ?』
『………….うん。
あっ、約束しよう?先生が帰ってきたらまた一緒に授業するって』
『はは、いいよ。しようか、約束』
セイルクが魔力をコントロールできるようになってきたころ、私のもとへ久しぶりに依頼が来た。
簡単な依頼で、遠方の森に棲む魔物を退治してほしいという依頼だった。
距離的に数ヶ月空けることになった私は、来年度から魔法学校に入ることになったセイルクと、魔法学校でしっかり勉強して、私が帰ってきたら魔法の授業をしようと約束をした。
『ぐっ…………』
『アナスタシアの人間か。やはり、弱いな。
簡単な魔法しか使えないくせに、魔法都市など馬鹿馬鹿しい………』
しかし、私は森で対峙した魔法使いの『普通じゃない魔法』に殺されかけ、その際に杖を壊されてしまった。
あの魔法使いは私よりも年老いていた。
きっと、その昔、アナスタシアの政策で追い出された『普通じゃない魔法』を使う魔法使いだったのだろう。
逆恨みには酷すぎる仕打ちだった。
それから私は簡単な魔法しか使うことができなくなった。
『今日をもって除名とします』
『そんな………!待ってください!私はまだ魔法が使えます!』
『…………はっ、そんな簡単な魔法を使えるだけでは生きていけませんよ。あなたも災難でしたね』
『まっ─────』
バタン、と扉を閉じられた瞬間は今でも覚えている。
杖を失うことは魔法使いとして生きる道を断つことだった。
私はこれまで使えていた魔法が使えなくなったことに、精神的にダメージを受けていた。
簡単な魔法しか使えない、魔力が視えるだけの『杖なしの魔法使い』になった私に価値はなくなったのか、所属していた協会を追い出され、魔法使いではなくなった。
数ヶ月で戻ると言った私が次にセイルクに会ったのは、約束から2年が経ったころだった。
少しずつ立ち直りつつあった私は、あの魔法使いのルクレイシアでは見ない『普通じゃない魔法』を知るためにたくさんの魔法書を読んでは、世界の魔法についての見聞を深め、ルクレイシアの偏見に気づいた。
『あっ!先生!やっと会えた…………!!』
『………………セイルク、か』
『うん!俺、今2年生なんだけど、先生に言われた通り練習続けてるよ!見てよ!』
そんな私がルクレイシアの国立図書館でセイルクとぶつかって再会を果たした。
魔法学校に通い始めて2年のセイルクは、最後に会ったときよりもずっと大きく、健康に育っていた。
そして、最後に会ったときよりもルクレイシアの偏見に染まり、『普通の魔法』を上手く扱えていた。
『すごいでしょ?先生のおかげで今はクラスでも褒められてるんだよ』
『…………やめてくれ』
『……え?』
ルクレイシアに戻ってから書店に篭りきりだった私は、久しぶりに見た魔法を羨んでしまった。
『…………セイルクにもう、私は必要ないな』
『えっ、なんで?俺、もっと教えてほしいよ!できない魔法もあるから、先生と練習したいんだ!だから────』
『もうやめてくれ!………授業は終わりだ』
『先生…………?』
『普通の魔法』でさえ使えなくなった私に、「先生」と呼ばれる価値はない。
そして、あれから3年間、ずっとセイルクとの授業を拒み続けていた………。
セイルクは教えて欲しそうだったが、私はもう教えられない。
杖がなければ魔法は使えないから。
3年も拒み続けて、何も悪くないセイルクを怒鳴り、早く離れてほしかった。
こんなに私のもとへ来ることを欠かさずにいる子を、私は怒鳴り続けている。
ずっと、ずっと罪悪感でいっぱいになっていた。
でもセイルクは毎日やってきた。
やってきていた。
その結果がこれだ。
「はは……」
私は弱々しく自嘲するように笑った。




