遠く (ハシュアside)
勉強の休み時間にちまちま書いていて遅くなってます。
それでも読んでいただけると嬉しいです。
今後ともよろしくお願いします。
「クレアさん待って………!」
逃げる少女に手を伸ばすも、彼女は振り返りもしないで勝手口から出ていった。
行き場を失った手を見つめて私は大きくため息をついた。
もっと優しく接してあげないといけなかった。
去り際に見えたあの子の顔は、何かを恐れていた。
きっと、魔法が関連しているのだろう。
カウンターの近くから音が聞こえて、私はゆっくりと体を起こした。
クレアさんが治してくれたおかげでまったく痛くない。
私はカウンターの客側に回った。
そこには吐きそうになって手で口を押さえているセイルクがいた。
さっきの魔力暴走のとき、クレアさんが荒療治をした結果だろう。
『дэшс』
私が詠唱すると、すぐに水が出てきた。
私は居住スペースからコップを取って水を入れ、ついでに大きめの袋も取った。
セイルクに水を差し出すと首を激しく振って拒絶してきた。
私がセイルクの目の前に吐いてもいいように袋を広げてもう一度水を差し出した。
セイルクは一度ためらったが、今度は水を飲んでくれた。
結局気持ち悪さは治らなかったため、セイルクは袋に吐瀉物を出してまた水を飲んだ。
ようやく落ち着いて来たころ、セイルクは口もとを手で拭いながら口を開いた。
「すみませんでした、怪我をさせてしまって」
目線を下に落として私に謝るセイルクは、私の前ではこんなに素直なのに。
私はまたため息をついてしまった。
「セイルク」
私が話しかけると、肩をぴくりと揺らす。
15歳で体もしっかりしているのに、どうしてこんなに子犬のように見えるのか。
おそるおそる私を見てくるセイルクは怒られるのを待っているみたいだ。
私はセイルクの肩に手を置いた。
「私は大丈夫だ。クレアさんが治してくれた。
お前の魔力暴走もクレアさんが治してくれた」
「…………」
セイルクは黙ったままだ。
わかっているはずだろう。
「セイルク、今度クレアさんに会ったらちゃんと感謝を伝えなさい」
「………はい」
「…今日はもう帰りなさい。明日も学校だろう」
「………はい」
いつも食い下がるセイルクは今日は大人しく頷いて立ち上がった。
ふらふらと歩くセイルクを支えて扉まで来ると、セイルクは歩みを止めて私を見た。
「先生………あいつに謝ったら、また授業してくれますか?」
期待のこもった眼差しで私を見てくるセイルクに、私は喉を震わせてしまった。
毎日、セイルクはやってくる。
私がもう教えられないことを知らないから。
私が返答に詰まっていると、セイルクは残念そうな顔をして扉に手をかけた。
「……迷惑をかけて、すみませんでした。
明日からはもう来ないです」
弱々しい笑顔を見せたセイルクはそのまま立ち去っていった。
外は雪が降り始めていた。
私は今日2度目の行き場を失った手を見つめた。




