北かぶれの国
2章が始まります。
ゆっくり書く予定です(多分)。
「………うん、そう。あんまり波風立てないつもりだけど、何かあったら連絡するからちゃんと応じてね」
『はぁ?なんで俺がお前に、』
ブツッ。
連絡用の水晶玉の中で相手が面倒そうにしたのを見て、彼女は連絡を一方的に切った。
鳥のようにすいすいと飛んでいるのは、銀髪を高いところでひとつにまとめ、冬の寒空のような淡い水色の瞳を持つ人物───クレアだった。
クレアは目的地であるルクレイシアの隣の国まで商人に送ってもらい、残りの道をひとっ飛びで向かっている。
予定よりも遅れてしまっているため、時短をしようと思った結果だ。
功を奏してか、クレアが飛んで数時間でルクレイシアの結界が見えてきた。
クレアはゆっくりと地上に降り立ち、フードを被った。
検閲の列は二手分かれていた。
「観光客はコチラ」 「魔法使いはコチラ」
しかし、魔法使いの列に並ぶ者は驚くほど少ない。
観光客の列を見てみると、相当な数の魔法使いが並んでいるのがわかる。
クレアは道中でルクレイシアについて聞いたことを思い出した。
ルクレイシアは『魔法の国』と言われるくらいには魔法が栄えているが、その魔法は『一般的に大陸に普及している魔法』じゃない限り、あまりいい反応をされないという。
簡単に言えば魔法陣や詠唱が独自のものであると馬鹿にされるみたいだ。
きっと観光客側の列に並んだ魔法使いたちはプライド故か、自分の魔法にいい反応がもらえないことを恐れたのだろう。
クレアは先ほどの連絡で「波風を立てない」と言った矢先、あまり目立つのもよくないと考えて観光客側の列に並んだ。
観光客なのは確かだからだ。
「お名前は?」
「クレア=モルダナティスです」
「ご職業は?」
「魔法使いです」
「…………わかりました。ではこちらのスタンプを押させていただきます」
検閲官はクレアが職業を言った途端睨んできたが、すぐに自分の職務を全うする。
手の甲にスタンプを押されるが、スタンプの跡は見えなかった。
「あの、これを押すと何が起きるんですか?」
「あれ、わからないんですか?このスタンプは『魔法文字』が読める人は何も聞いてこないのですが……魔法使いのくせに『魔法文字』も読めないんですね」
明らかに馬鹿にされている。
クレアを見下す検閲官は、さも当然のように自分を上だと思ったらしい。
普通、誰だってこんな馬鹿にされれば苛立つものだ。
しかし、クレアは何も感じていなかった。
ただただ、スタンプを押された自分の手の甲を見ていた。
そして、検閲官に向かって笑顔を向けた。
「すみません、まだまだ未熟なもので。それで、どんな効果があるんですか?」
馬鹿にした言動がまったく効いていないことが気に食わなかったのか、検閲官は小さく舌打ちして教えてくれた。
「このスタンプは結界に受容される魔法がかけられていて、これを押されることでルクレイシア内に入ることができます」
「へぇ~、便利なんですね。ありがとうございます」
クレアはそのまま笑顔で結界を通過した。
「……………うわあ」
結界を通ってクレアは感嘆の声を上げた。
結界の外からだと擦りガラスみたいなフィルターがかかって見えなかったが、中に入った途端に視界が明瞭になった。
さすがは魔法の国と言ったところか。
魔法で飛んでいる人がたくさんいる。
魔法関連の本や道具が売られている。
店や配達など仕事に就いているルクレイシアの国民は、皆魔法を使って仕事を行っている。
右を見ても魔法、左を見ても魔法。
どこを見ても魔法だらけで、魔法を全面に出して売り込んでいることがよくわかる。
恥ずかしいくらいに、だ。
クレアは最初こそ感動したものの、あたりを見回して魔法ばかりだったことに、ひどく冷めた表情を見せた。
国民の中に魔法が使えない人がいない。
魔力はほぼ遺伝だと言われているが、正しいことはわかっておらず当てはまらない人は結構な数がいる。
だというのに、この国に入ってから一度も魔法が使えない国民を見ないのはおかしいのだ。
よく見てみれば、クレア以外にもルクレイシアを残念そうな目で見る者がしばしば見られる。
北方特有の服を着ていることから、北方から来た人間だとわかった。
北方を見てしまうと、この国が『北かぶれ』していることがよくわかる。
北方は、大陸一魔法に長けた地方だ。
寒さに耐えるための強靭な体力と魔法を幼い頃から叩き込まれる。
それ故に魔法を極める民がほとんどで、『杖なしの魔法使い』の輩出率が高い。
そして北方にある魔法使いの学校はエリートしか入れないと言われるほどの難関校で、卒業した実績だけで大陸中から引っ張りだこになる。
クレアが所属していると言った「大陸魔法使い協会本部」も北方にある。
北方とはいえ、2国しかなく、ほとんどはグラント公国にある。
グラント公国で世話になっていた時期があるクレアは、そこまで交流はなかったものの、大陸一魔法に長けた国の様子をこの目で見てきたのだ。
どうも劣って見えてしまうのはルクレイシアにも原因があるが、グラント公国が発達しすぎているのもあるかもしれない。
(いつのまにか、目が肥えていたみたい)
クレアはため息をついた。
一旦宿を取ることにしたようだ。




