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追放された魔法使いの巻き込まれ旅  作者: ゆ。
閑話 西に向かって

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連絡

結構大事そうな話に見えますが、読まなくても2章は読めるように調整してあります。


ただ読むとまた、厚みがあって面白くなったり、ならなかったりするかもしれないです。

フレンティアを出て、北西に数キロ進んだ先。

長い銀髪をフードで隠して歩く、トランクを持った少女、クレアは休みたがっていた。



数刻前、クレアはフレンティアで出会った人々と別れを告げた。

トランクはそのときに餞別としてもらったものだ。



今は、次に向かうルクレイシアを目指している最中。


体力のないクレアでは歩いて行くのには時間がかかるため、近くまで乗せてくれる荷台がないか、探しながら歩いている。



(本当は魔法で行けるけど……)



そこまで考えると、クレアは頭の中で、クレアが魔法を使ったことを知って、いつものように心配しているけど、偉そうにため息をついてくる人を思い出した。

どんなときもクレアを最優先に考えてくれる人。


クレアは口もとに微笑みを浮かべてまた歩き出した。





少し寒さが増してきたあたりまで行くと、馬宿が見えた。

馬宿に着くと、クレアはすぐに腰を下ろした。

クレアはルクレイシアの隣の国まで行くという商人たちと出会った。


彼らの荷台の車輪が壊れてしまったところを通りかかり、直す代わりに乗せて行ってもらうことになった。


彼らもフレンティアを出たところで、進もうとしていたが、この後は雪がたくさん降るということで、一緒に馬宿で泊まることになった。



宿の人から膝掛けと温かい飲み物をもらって、クレアはほっと一息つく。

温かい飲み物を飲んだからか、冷たくなっていた鼻がツンとする。


クレアは下を向いた。

昨日のアメリア令嬢からの言葉が頭で反芻される。



出来損ない

死んでしまえ

多くの犠牲



クレアには相当堪えていた。

だから、ゼルナの励ましを受けたときは涙を流しそうになって危なかった。


(あの日から、ずっと私は変われていない)


クレアはふと顔を上げた。

雪が降り始めたようだ。

宿の中で座っていたため、降られることはなかった。

クレアは借りた部屋の中に入った。



トランクを置いて備え付けの椅子に座ると、しん……と静まり返った部屋が久しぶりに寂しく感じた。


「…………連絡、しようかな」


ホームシックなのか、声が聞きたくなったのか。

クレアはぽつりと呟いた。


いつもなら3日くらいの感覚で連絡し合っているが、今回は5日空けてしまっている。

そろそろ連絡しないと向こうもしびれを切らすころだろう。


お互いちょうどいいと思って、クレアはトランクの中から水晶玉を取り出した。

机の上に布を敷いて、両手に収まるほどの大きさの水晶玉をそこに置いた。


クレアは水晶玉に手をかざした。


『伝達』


クレアの言葉を合図に、水晶玉は淡い青い光を発したかと思えば、砂嵐が流れだす。



ザ……ザザ………



プツッ



何かが途切れたような音がすると、水晶玉の上部に大きなモニターが現れた。

モニターの中には、クレアと似たさらさらとした銀髪を首あたりで結び、肩の前に垂らした男が映し出された。

男の顔には左半分を覆うように痛々しい火傷痕が広がっていることが異様なだけで、とても整った顔立ちをしている。

30代くらいと推測される秀麗な男の方にもモニターが現れたのだろうか、男の業火のように紅い瞳がクレアに向いた。

その瞳は視線だけで誰かを射殺すことさえできるような鋭い視線だったが、クレアを認めた瞬間に穏やかなものに変わった。


クレアは姿勢を正して、男に向かって笑顔を見せた。



「ご無沙汰しています、公爵様」

『………5日ぶりか』


公爵と呼ばれた男は、目を細めるだけでクレアに返事をした。


突然公爵のほうから、ドタッ、ガタガタ!と大きな音が聞こえたと思えば、公爵の後ろに2人割り込んできた。


左から割り込んできたのは、栗毛色の髪をゆるやかなウェーブをかけておろした、30代が近そうな女性。

右から割り込んできたのは、公爵と似た髪色と顔立ちを持った少しわがままそうな、クレアと同い年の男の子。



クレアはそんな2人にくすりと笑った。


「お久しぶりです。夫人、公子様」

『連絡がなかったから死んだと思ってたぞ。今はクレア、だっけ?』

『ちゃんとご飯食べてる?なんだかやつれていない?』

「はは……ちゃんと生きてますよ」


いつも通りの2人との会話にクレアはほっとした。

クレアが笑っていると、公子と呼ばれた男の子は『おい』と言って、クレアに話しかける。

クレアが公子のほうを向いて首を傾げると、公子はクレアに向かって指をさした。


『お前、俺のことは名前で呼べと言っただろう』

「え?連絡時は心臓に悪いからやめろと言ったのは公子でしょう?」

『俺がいつそんな………!』


クレアはいたずらっ子のような顔をして公子に言うと、公子はクレアに向けていた指をしなしなと折って自信なさげに怒った。


『言ってたわよ。生で受けられなくても連絡でならと思ったけど、あまりにもクレアちゃんが───』


しかし、隣で夫人が頬に手を当ててため息をつきながら思い出させるように言うと、公子の顔はみるみるうちに赤くなって夫人の口を塞いだ。


『あぁぁぁぁ!!言った!言った!!でも撤回だ!だから俺のことは名前で呼べ……!』

「ふふ、はい。ファル様」

『………様は、いらない』

「うん、ファル。久しぶり」


本当にこの公子、ファルとクレアは同い年なのか疑うほどの態度の差だ。


ファルはクレアが可愛く笑いながら自分の名前を呼んだことに不意打ちを喰らい、口もとがにやけている。

少し、いや、結構だらしない。


話が終わったと思ったのか、公爵がファルの前に手を出すと、ファルははっとしてすぐに礼儀よく公爵の後ろに立った。



『……フレンティアに行くと言ってから連絡が切れていたが、何か変わったことでもあったのか』

「あ……えっと」


クレアは頭では公爵が心配してくれているとわかっている。

それは、2年間過ごしてきた故のことだ。

だが、今は公爵の無表情で無機質な声がクレアには逆効果だった。


クレアは下を向いた。


(大丈夫、大丈夫………)


うるさいくらい鳴っている鼓動を抑えるように深呼吸をして、クレアは公爵と目を合わせた。



「き、気付かれました。それで、少し迷惑をかけてしまって、その、早く連絡しようとしてたんですけど、巻き込むと思って、出てからにしようと、して」


捲し立てるように、震えながらも言葉を紡ぎ、フレンティアでのことを端的に伝える。


本当は、この連絡をするときが楽しいから。

寂しくて連絡をしてしまったんだ。

声が聞きたくなったんだ。


全部が言えない。



そんな様子のクレアを見て察したのか、公爵は『クレア』と言って言葉を遮った。


クレアは我に返って公爵をしっかり見た。


さっきまでは無表情に見えた公爵。

しかし、ちゃんと見ればいつもよりも柔和な表情をしているのがわかる。

そして温かな眼差しをクレアに注いでくれている。


決して責めているわけじゃない。


頭でわかっていても、クレアはわかっていなかった。

公爵はふぅ…と息を吐いて、いつも話してくれるみたいに穏やかな声で話しかけてくれた。


『迷惑をかけるなんて思わなくていい。それはきっとフレンティアの人も思っているはずだ。

それに、グラント公爵家はそんなに弱くない。

何かあったらこうして連絡して、いつでも頼ってほしい』


その穏やかな声は春の暖かな陽差しのようで。

クレアの氷のように固まっていた心を一瞬にして溶かしてしまった。


クレアは気づけば、涙が頬を伝っていた。

止まることを忘れた涙は溢れ出して、やがてクレアは声を出して泣いた。



あぁ、私は本当に弱い。

言葉ばっかりが邪魔をして見えていなかった。

まだ、昔に捉われてばかりで、すぐ近くに自分を案じてくれる人がいることに気づかない。

私の旅は始まったばかりだというのに。



不安だったクレアは、その気持ちを誰かに聞いてほしかったみたいだ。

まだグラント公国を出て半年だというのに。

縋るように、クレアはフレンティアであったことを事細かに話した。


公爵たちはうなずくだけで、クレアが話し終わるまでずっと聞いてくれていた。

やがて話が終わると、公爵はすぐに『頑張ったな』と言ってくれた。

後ろにいるファルもうんうん、とうなずいている。


そこでクレアはやっと、すっきりとした笑顔を見せた。









クレアが泣き疲れて、眠くなってしまったため、今日はここまでにしようと連絡を切った。


連絡が切れたグラント公爵家では、公爵が難しい顔をしていた。



「こうも早く教会にバレるとは思っていなかった……。向こうが気づくのも時間の問題か」


グラント公爵の呟きにその妻、グラント公爵夫人が彼の肩に手を置いた。


「きっと大丈夫ですよ、あの子なら。それに、『影』も付いていますし、何かあればすぐに貴方が飛んでいくでしょう?」

「………そうだな」



仲睦まじく話す2人を横目に、息子のファルは公爵の執務室から窓の外を見た。

今年は例年よりも雪の威力が強い。

魔物が凶暴化する年とも重なって、今年の公爵家は少し忙しくなっている。



(無理してないといいけど………)


飼い主がいなくて耳を垂れる犬のように、寂しそうな顔をしたファルは自分の部屋へ戻った。

ちなみにファルはツーブロックで、前髪を七三で分けて立ててます(伝われ)。


ファルみたいな子は大好きです。

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