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追放された魔法使いの巻き込まれ旅  作者: ゆ。
1章 商業都市フレンティア

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長い旅路 (ルークside)

長い間、暗闇の中にいる。


たしかに俺はここにいるのに、ずっと体が動かせないでいた。

親に捨てられたときと同じみたいに。


俺は、何をしていたんだっけ。


何か、大切なものを守っていた気がするのに、思い出せない。



あー……もうこのままここに居ようかな。




















「えぇー!?クレアさんさよならなの!?やだやだやだやだやだやだやだやだやだ!!!!!!」









子供の声?

聞き馴染みがある声だ。

誰だろう。



顔を見れば、誰かわかるはず。

近くにいるみたいだし、目を開ければわかるはず。


…………っ、開けない?


なんでだろう、すごく見たいのに、目が開かない。






「昨日、寝る前に言ったんだけど……やっぱり覚えてないよね」

「おぼえててもやだっていうもん!!!」

「はは……困っちゃうなぁ」






もう1人いる?

あぁ、早く目を開けて今の状況を確認したい。

もどかしい。







「ルーク、まだねてる……」

「………きっと、あと少しで起きるよ」

「じゃあ、ベッドでねないとね!このままじゃゆかでおきちゃうよ!」

「そっか。じゃあ私がルークさんを運んでいくから、リリーちゃんにはこの部屋の掃除をお願いしてもいいかな?」

「うん!リリー、おそうじとくいだよ!」






ルークって、俺のこと?

声の高さからして、2人とも女性のはずなのに、俺のことを運べるのか?

一体どうやって…………っ、










「えっ、待って、俺浮いてる!?」





俺は、間抜けな第一声を出して目を覚ました。























「ルークもういたくない?」

「あぁ、リリーがそばにいたおかげだな」

「リリーだけじゃないよ!クレアさんも、みんなもそばにいたよ!」

「はは、そうだな」


目を覚まして、軽く湯浴みをして着替えると、すぐにリリーが駆け寄ってきた。

怖い思いをさせたのに、俺の心配をしてくれるリリーは本当に優しい。


本当はまだ脇腹とか頭とか、痛いところはあるけど。

リリーが笑ってくれるから痛みなんてないも同じだ。


俺はリリーの頭をくしゃくしゃになるまで撫で回した。


リリーがいる。

五体満足、どこも怪我なしだ。

守れたんだ。


俺に髪をボサボサにされて、俺の太ももを叩くリリーも、すごく嬉しそうだ。



コツコツ



廊下で俺とリリーがじゃれていると、奥から荷物を持ったクレアが歩いてきた。


クレアはあのとき俺とリリーを警備舎に送ってから、テッドやあのフード男を退治してくれたらしい。



まさかクレアが解決してしまうなんて、俺も警備員失格だな。



そんな1日にしてこの都市のヒーローとなったクレアは今日、ここを発つ。

俺は警備舎あたりまで見送ることになったが、リリーは誘拐されたことと、まだ熱が引かないこともあって、シスターから謹慎命令を出されているから、ここでお別れだ。


荷物を持ったクレアを見て、リリーは涙を流した。


「ほんとうに、いっちゃうの………っ?」


リリーは泣きながらクレアのローブの裾を掴んだ。


寂しいよな。

俺が巡回の間、話を聞く限り、リリーはクレアと相当仲良くなったみたいだし。


クレアはリリーの頭を優しく撫でた。


「うん、ここには居られなくなっちゃったから、もう行かないと」

「うぅ………ぐすっ、やだぁぁぁ~!!」


ついに本泣きしだしたリリーの泣き声にクレアは困ったように笑った。


俺もリリーが泣いたのは久しぶりに見たから困ってしまった。

もうお姉さんなのよ、と言って泣かない宣言をしたのは5歳のときだったかな。

なのにこんなに泣いちゃって………。


クレアはリリーの手を引いて中庭へと連れて行った。



隅に子供たちが育てている野菜が植わっているだけの、何もない中庭の真ん中にクレアは立った。


「よく見ててね」


一体何をするのか、リリーと不思議に思って見ていた。



クレアが指を鳴らした次の瞬間、クレアの足もとから同心円状に広がるように花畑が現れた。

フレンティア中央にある噴水くらいの大きさまで花畑が広がると、花畑の大きさの魔法陣が出てきた。


黄金色に光った魔法陣が発動して、あたり一面に光の人形が出て動き始めた。

その人形の形や動きはひとりひとり違う。

見たことのあるものばかりだ。


「これ、リリーたち……?」


リリーが隣で呟いて、俺もそれに気付いた。

孤児院の皆がここで遊んでいる様子を見せてくれている。

とても美しい魔法だ。


俺もリリーもクレアの魔法に見惚れていると、クレアはこちらを見た。


「楽しかったよ、ありがとう」















魔法を見せて泣き止んだリリーと孤児院に別れを告げて、俺とクレアはフレンティア警備舎に向かうことになった。



何を話そうか少し話題に困っていると、クレアがくすくす笑った。


「急に何を笑ってるんだ……?」

「ふふ、その、最初に会ったときはこんなに砕けた話し方ではなかったなと思い返していました」

「あぁ………。お望みであればこの話し方でお別れしましょうか?」


俺が恭しく礼をしてクレアを見ると、クレアと目が合ってお互い笑ってしまった。


懐かしいな、もう4日も前の話だなんて。


笑って歩いていく中で、他愛のない話をして最後の時間を楽しんだ。




警備舎が見えてきたころ、俺の少し先を歩いていたクレアは思い出したようにこちらを向いた。


「そうだ、ルークさんは魔法の鑑定を受けたことがありますか?」


それは、あまりにも急で、俺には関係のない話だった。


「いや、ないけど……」


中央部の人同士の間に生まれた子供は、魔法を使えるほどの魔力をもつ可能性が低い。

高貴な血だったり、魔法が使える人と結婚しない限りは魔力持ちが生まれない。


俺の親はわからないけど、記憶の中で裕福な暮らしをしていた記憶がないから、平民で魔力もないだろうと思っている。


クレアがこんなことを聞いてくるまで、一度も魔法の鑑定に行こうなんて思わなかった。


魔法の鑑定はフレンティアでは誰でも受けることができる。

精度も高くて評判がいいということくらいしか知らない。


俺はクレアの次の言葉を待った。

クレアは俺の答えを聞いて、だと思った、というような顔をして俺の目の前にぴっと指を立てた。


「いつでもいいので受けてください。魔法に詳しい人……ゼルナさんと必ず一緒に」

「え……?」


クレアはそれだけ言うと、そのまま警備舎まですたすたと歩いて行ってしまった。


なんだったんだ……。

















「えっ、クレアさん今日で出るんですか?」

「はい、言ってませんでしたか?」

「そういえば言い出せない空気でしたね!!!」


警備舎の前にはいつの間に知り合ったのか、たくさんの警備員がクレアの見送りに来ていた。

中でもゼルナはクレアが旅立つことを聞かされていなくて、相当拗ねている。


あいつ、本当によくわからないな……。



「ルークぅぅぅうううう!!!!!!!」

「いてぇっ!?」


離れたところでクレアたちを見ていた俺に突撃してきたのはハースだった。


まだ怪我してる奴にするもんじゃねえだろこれ……。

殺す気か?


はがそうとしてもはがれないハースは、俺を抱きしめて、俺の肩に顔を埋めている。

こいつ身長高いから、すっぽり収まってる感じになってるんだけど……。


俺がハースの背中をポンポンと叩くと、ハースは俺をより一層強く抱きしめた。

部下は上司に似るのか。



俺はハースを引きずる形でクレアたちのところまで近づく。

ちょうど、ヒルゼ様が警備舎から出てきてクレアと話している最中だった。


「昨日は世話になった。おかげで、メイウェル伯爵は爵位を剥奪された。今回関係なかった夫人が継ぐことになったみたいだ。娘のアメリア令嬢はまだ処置を考えているところだ」

「それは、良かったです…?」

「はは、そうだな!わかんなくていいさ!とりあえず丸く収まったってことだ!」


豪快に笑うヒルゼ様にクレアも笑顔を返していた。


そうか、あのときテッドに殴られていたメイウェル伯爵は爵位剥奪か。

事情は後で聞くが、そこまで酷いことをしてたのか……。


クレアはその後、ヒルゼ様に何かを渡して話していたが、そこまでは聞こえなかった。



しばらくの間、クレアとの別れを惜しんでひとりひとりがクレアと話して。




そして、ついに、クレアが旅立つときがやってきた。



「次はルクレイシアだっけ?西とはいえ、北西にあるからここよりずっと寒い。体に気をつけろよ」

「魔法使いが多い国ですね……。クレアさんなら無双しちゃいますね。心を軽くしてくださいね」


俺に抱きついたままのハースとゼルナがクレアに別れの言葉を告げる。


もう旅立つのか。


「………クレア」


俺に呼ばれて、クレアはすぐに俺と目を合わせてくれた。


「短い5日間だったけど、旅の思い出になると嬉しい。

まだ紹介したいところがたくさんあったけど、それはまたここに来たとき、だな」

「……はい」

「~~~っ、元気で旅しろよ!」



泣かないように前を向いて、クレアに伝える。

クレアは、目が潤んでいる俺を見て笑った。


「はい。皆さんもお元気で」


その笑顔は何かに囚われているときよりもずっと穏やかな笑顔だった。






































クレアが見えなくなるまで、警備舎の皆で手を振り続けて見送りも終えると、俺はふと、クレアが鑑定に行くように言っていたことを思い出した。


「ゼルナ、今から空いてるか?魔法の鑑定を受けに、ゼルナと行くようにクレアに言われたんだ」

「えっ、鑑定、ですか……?まあ、今日は非番なので付き合いますけど……一体なぜ?」










そうして受けに行った魔法の鑑定で俺が身体強化やマッピングといった『支援属性』の魔法に適性があると知るのはすぐ後の話だ。












一方で、見送った後で警備舎にそのまま戻ったハースは、冬なのに汗をダラダラとかいているヒルゼ様を見つけたらしい。

多分冷や汗だろう。


「なあ、グラント公国には2人子供がいたか?」

「……?いいえ、グラント公国は跡継ぎの乱暴公子がひとりいるだけのはずですが」


ヒルゼ様の質問にハースは首を傾げながら即答した。

そしてヒルゼ様は、はあぁぁぁぁぁぁ………と、大きなため息をついた。


「そうだよな、おかしいよな、あの『氷の守護者』が娘なんて変だよな…………」


ますますわからなくなったハースはその場を立ち去ったが、ヒルゼ様は心ここにあらずだった。


考えていたのはクレアのことだ。



『今回フレンティアで起きたことは私のせいでもあるので、何かあったときはここに連絡を送ってください。

───私の親代わりをしてくれている人なんです』



そう言って渡された紙にはグラント公国を治める、グラント公爵家が書いてあった。


グラント公国は北方地方で最大の国土を持ち、魔物が出るため武力はもちろん、北方出身特有の膨大な魔力と魔法技術により発展を遂げている大国だ。


そのグラント公国を治めるグラント公爵家は、大陸随一の氷魔法と、家に伝わる固有魔法により公国を守り発展させてきた。

その氷魔法と彼らの氷のように冷たい態度、そして守り抜いてきた功績から、人々は畏敬の念を込めて『氷の守護者』と呼んでいる。


ヒルゼ様はそんな実力者が、クレアの親代わりをするなんて考えられなかったみたいだ。





「……はは」



力無く笑ったヒルゼ様は遠い目をしながら食堂に向かった。

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