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追放された魔法使いの巻き込まれ旅  作者: ゆ。
1章 商業都市フレンティア
31/54

証拠 (ゼルナside)

「だからッ!私はやっていないと何度も言っているだろう!!」

「うるせぇっ!!お前がテッド逃がしたのは知ってんだぞ!」

「どこに証拠がある!?他人の口から聞いた話を鵜呑みにして私を責めているのか!?」




コツ、コツ




互いに叫びあっている警備舎の取り調べ室に続く廊下で、クレアさんの靴音が響いた。

不意に取り調べ室の扉が開いて、ヒルゼ様がこちらを見て目を見開いた。


「ク、クレア?お前さんどうしてここに」


さっきまで大声を出して怒っていたとは思えないくらいにヒルゼ様が狼狽まくっている。

いつも子供に怖がられているからだろうな。


クレアさんは表情を変えることなく、ヒルゼ様の横を通り過ぎて取り調べ室に入った。



僕たちも入ろうとしたが、ヒルゼ様がため息をついて閉めたので、外(中の様子が見えるように窓がついている)から見ることになった。







大声を出して疲れたのか、メイウェル伯爵は肩で息をして下を向いていた。

クレアさんはローブの中から、手に収まるくらいの水晶玉を机の上に



ダァンッ!



と、音を立てて置いた。

急に大きな音がして顔を上げたメイウェル伯爵は、初めてクレアさんのことを認識した。

だが、何が起こるのかわかっていないようだったから、認識しているかも怪しい。



クレアさんはメイウェル伯爵に向かって笑顔を向けて口を開いた。


「テッドを逃がした証拠がないせいで、納得がいっていないみたいですね。こちらはいかがですか?」


そういって、クレアさんは水晶玉をトン、と押した。



ザ……ザザ………



その瞬間、取り調べ室にスクリーンに映し出したような映像が流れ出した。

ところどころ砂嵐が流れている。











「ほ、本当にやるのか?鎖もついているし十分じゃないか!」


中年近い声が流れ出した。

少しずつ砂嵐が消えていき、誰かの視点のように映像が動く。


水色の短い髪を小綺麗になでつけた頭の、中肉中背の弱々しい男、メイウェル伯爵がテッドの腕を握っている。


テッドが煩わしそうにメイウェル伯爵の手を払い落とすと、メイウェル伯爵は小さな悲鳴をあげながら後ずさった。


「俺のことを解放したのはアンタだろ?

今さら何を怖がってんだよ」

「わ、私は、アメリアに頼まれてっ、」

「でも、俺を利用する目的もあっただろ?」

「そ、それは………」


メイウェル伯爵の体中から汗が流れているのが、遠くから見るこの視点からでもわかる。




今の会話を聞く限り、アメリア令嬢の頼み以外にも理由があって、メイウェル伯爵はテッドを解放したことがわかる。



視点が下を向く。何か考えているのだろうか。



バキィッ!!




少しして、何かが殴られる音が聞こえて視点が上を向く。

メイウェル伯爵が右頬を押さえながらうずくまっていのを見るに、テッドが殴ったようだ。



「俺に逆らうな!そしたら俺もお前に協力してやるよ」

「ひぃ………」


メイウェル伯爵は腰を抜かしている自分の足を奮い立たせて逃げていってしまった。



テッドはメイウェル伯爵を殴ったと思われる右腕を回しながらこちらを向いた。


「邪魔もいなくなったし……楽しませてもらおうか。

お前に捕まえられてから、お前にはずっとムカついてたんだよ………」






ブツッ






映像はそこで途端に切れた。

僕たちがポカンと見つめている中で、メイウェル伯爵の顔だけひどく青ざめていた。



「ち、違う……これは、そう!これは嘘だ!

私を陥れるために手の込んだ映像を作ったんだ!

それを証拠と言って見せているだけだ!!

こんな牢屋を私は知らない!!!」



必死に弁解するメイウェル伯爵に未だに困惑していると、クレアさんが悪そうに口角を上げた。



「牢屋、ですか?

私にはどこからどう見ても物置にしか見えませんが………」

「牢屋に決まっているだろう!!扉に鉄格子があるのが見えないのか!?」



怒り心頭のメイウェル伯爵をなだめながら、クレアさんは丁寧に聞き返す。



「鉄格子………すみません。暗いからなのか、私にはこの映像から鉄格子は見えないです。どこにあるか教えていただいても?」



クレアさんのお願いに、これは冤罪だと訴えられるチャンスだと思ったのか、メイウェル伯爵は余裕ありげな顔で映像を流させた。



砂嵐が流れる。




「ほ、本当にやるのか?鎖もついているし十分じゃないか!」


中年近い声が流れ出した。

少しずつ砂嵐が消えていき、誰かの視点のように映像が動く。


さっきと同じように映像が流れ、メイウェル伯爵がテッドの腕を握っている。




メイウェル伯爵は「止めろ!」と言って、クレアさんに映像を止めさせて扉を指差した。


「ほら、見えるだろう!?この扉の外側に鉄格子がついている!」


そう言っているメイウェル伯爵を信じて扉を見てみるが、この映像では『扉の外側が見えない』。

扉が外開きだったからだ。

クレアさんが首を傾げたのを見て、メイウェル伯爵はやっと、映像を凝視した。



そして、気づいた。



「うーん……やっぱりおかしいですね。外側なんて見えないのに、どうして鉄格子がついていると分かったのですか?」

「そ、それは………!」



しどろもどろになるメイウェル伯爵。

クレアさんは笑顔で話を続ける。



「これは、北の森にあった、とある建物に誘拐されたルークさんの『記憶』です。あのとき取っておいて正解でした。


さて、見えてもいない部屋の構造を言ったこともそうですが………偶然にしては珍しく、貴方は今右の頬を怪我しています。

───誰かに殴られたように


本当はここに来たことがあって、テッドに殴られたんじゃないんですか?




真実を話してください」




取り調べ室一帯を包むように一瞬、魔法陣が現れたのを僕は見逃さなかった。

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