旅の終点
クレアはルークの言葉に賛同し、ご飯にすることにした。
太陽がまだ真上に上がりきっていないため、少し早めの昼食である。
クレアは近くのベンチに腰掛け、ルークおすすめの食べ物を待つことにした。
することがなくなり、クレアはおもむろに『旅のお供に読める本』を取り出し、しおりを挟んでいたページから読み始める。
この本は作者が旅で出会った旅人に聞いた面白エピソードを文章で面白おかしくまとめてあって、読み応えがある…とクレアは思っているらしい。
実際のところ、この本の半分以上はでっちあげの話だと言われていて、そう簡単に旅で危険な目に遭った人に出会えないと批判を受けている。
クレアが黙々と読んでいると、ルークが買い終えた食べ物を持ってやってきた。
「お待たせしました。これが東の特産、ウナギの蒲焼きをごはんにのせた、うな重というやつで、こちらが南の特産、青菜とにんじんのあえ物というものです」
「……匂いからして美味しそうですね」
少し子どもらしい場所が垣間見えて、ルークはまた笑った。
ベンチのクレアとルークの間に食べ物をおいて、2人はご飯を食べ始めた。
「実は、私も初めて食べるのですが……このうな重、ご飯とウナギについたタレがいいマッチングをしてますね…。この濃い味がやみつきになるポイントですね」
「少しウナギが焦げているのがまた味にいい効果を出してるように思えます。あえ物も、美味しくて…この黒いごまがついたものがすごく美味しいです」
「それはノリというものだそうですよ」
「へぇ……これが…」
異文化交流をしながら食べる昼食は珍しく、2人は時が過ぎるのも忘れて味を堪能した。
完食して食事の感想も言いつくしてごみなども処理すると、食事で仲が良くなったのか雑談に入った。
「クレアはこのあとルクレイシアに行くと言っていましたが、旅の終点などは決めているのですか?」
「終点、ですか」
「はい。海が見たくて南を目指している人や東洋の魔術を身につけるために東に行く人はよく見るので。
西に行くということは…最西端のトランスヴァール帝国の宮殿を見に行くのが目的ですか?」
クレアはルークに笑顔で問いかけられて返答に詰まった。
(トランスヴァール帝国……)
クレアが黙り込んだのを見て、ルークは慌てて話しかける。
「勝手に決めつけてすみません。話したくないようでしたら大丈夫ですよ」
ここまで案内してもらって、ルークはうるさいが常識もあって優しい人だとわかった。
今もこうして返答に困るクレアに気を遣ってくれている。
クレアは少し笑って首を横に振った。
「大丈夫です。今まで旅の終点なんて聞かれたことがなかったので驚いただけです」
クレアは晴れた冬の空を眺めて何かに思いを馳せる。
その光景は雪の精霊が願っているようにも見えた。
ルークがその光景に見惚れていると、クレアはぱっと顔をルークの方へ向けた。
「私の旅の終点は___アナスタシア王国です。
私はあそこで、人に会う約束をしています」
クレアの答えにルークは息を呑んだ。
アナスタシア王国は、7年前、トランスヴァール帝国と結託した革命軍に征服された土地だったからだ。