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偽装結婚のトリック

第一章: 不可解な依頼

ある日、俺――桐谷理きりたに おさむの法律事務所に、一組のカップルが訪ねてきた。男性は坂本修一さかもと しゅういち、日本人の若いビジネスマン。女性はアナ・イバニェス、南米出身の美しい女性だった。


「先生、助けてください。私たち、結婚したいんです。でも……」


修一は困った顔で言葉を詰まらせたが、アナが彼に代わって話し始めた。


「実は、私のビザがもうすぐ切れてしまうんです。修一とは愛し合っていますが、もし私が日本を出たら、もう二度と戻って来られないかもしれません。」


「なるほど、そういうことか。」


俺はすぐに状況を理解した。偽装結婚だ。ビザを延長するために結婚を装い、アナが日本に留まるための手段だろう。こういったケースは珍しくないが、違法行為だ。


「君たちが本当に愛し合っているなら、なぜ俺に相談に来たんだ?普通、そんなことは必要ないだろう。」


俺の問いに、修一はさらに顔を曇らせた。


「実は、私たちの関係が本物だと証明できる自信がないんです。もし移民局に偽装結婚だと疑われたら、アナは強制送還されてしまうかもしれない。だから、何とか合法的にこの状況を切り抜けたいんです。」


俺はしばらく考え込んだ。彼らが本当に愛し合っているなら、偽装結婚と見なされるリスクを避けるための合法的な手段を講じる必要がある。しかし、それには一つの大きな問題があった。


第二章: 奇策の提案

「確かに厄介な状況だな。しかし、俺には一つの提案がある。」


俺は二人に、ある奇策を提案した。それは、結婚する前に、法的に婚約の段階を証明し、関係が真剣であることを示すための証拠を積み上げるというものだった。


「まず、婚約を正式に宣言し、その過程をしっかり記録に残すんだ。例えば、婚約者としての生活を共にし、写真やビデオを残す。そして、友人や家族にも協力してもらい、二人の関係が本物であることを証言してもらう。」


「それで、本当に大丈夫なんですか?」


アナは不安そうに尋ねた。


「もちろん、これだけで万全とは言えない。だが、移民局に対して誠実に対応し、関係が本物であることを示すことで、偽装結婚の疑いを回避できる可能性が高まる。」


二人はその提案に同意し、俺の助言をもとに婚約を進めることにした。


第三章: 幸せな日々

二人は俺の提案通り、婚約者としての生活を始めた。修一とアナは本当に仲が良く、楽しそうに一緒に過ごしている姿が見られた。二人の周囲の友人や家族も彼らを祝福し、婚約パーティーも盛大に行われた。


俺もそのパーティーに招かれ、二人の幸せそうな姿を見て、安心した。これなら、移民局も偽装結婚の疑いを晴らすことができるだろうと思った。


だが、ここで一つの問題が発生した。


第四章: 予想外の展開

ある日、俺の事務所に修一が一人で訪ねてきた。彼は深刻な表情をしていて、何か重大なことが起きたのだと直感した。


「先生、実は……アナが急に南米に帰らなければならなくなったんです。」


「何だって?それはどういうことだ?」


「彼女の母親が重病で、急遽帰国する必要があると言われたんです。でも、帰国してしまったら、もう二度と日本に戻って来られないかもしれない……」


修一は絶望的な表情をしていた。アナの母親の病状は深刻で、彼女が帰国しないわけにはいかない。しかし、彼女が帰国すれば、ビザの問題で再び日本に戻ることは難しいだろう。


「つまり、アナは母親を助けるために帰国するが、それで二人の未来が危うくなるということか。」


俺は深くため息をついた。これでは今まで積み上げてきた婚約の証拠が無駄になってしまう。しかし、ここで新たな奇策を思いついた。


「修一、聞いてくれ。今すぐアナと結婚するんだ。そして、結婚した状態で彼女を帰国させる。その後、君はすぐに彼女を呼び戻す手続きを進めるんだ。」


「でも、そんなにうまくいくんですか?」


「これはリスクのある手段だが、結婚した状態で彼女が帰国すれば、夫婦としての権利を主張して彼女を呼び戻すことができる。もちろん、簡単ではないが、他に選択肢はない。」


修一はその提案を受け入れ、アナと急遽結婚することを決意した。そして、結婚後すぐにアナは母親を看取るために帰国した。


第五章: 最後の試練

アナが帰国した後、修一はすぐに彼女を日本に呼び戻すための手続きを始めた。しかし、移民局は彼女の再入国を簡単には認めなかった。彼らは、結婚が偽装である可能性を再び疑い始めたのだ。


修一は何度も移民局に足を運び、アナとの結婚が真実であることを証明しようと努力した。しかし、移民局の姿勢は厳しかった。彼女が再び日本に戻るには、さらなる証拠が必要だった。


俺はここで最後の手段を考えた。それは、二人の結婚が真実であることを公に示すため、メディアを利用することだった。


「修一、君たちの物語をメディアで取り上げてもらうんだ。彼女が母親のために帰国し、それでもなお君と共に生きるために戻りたいと願っていることを世間に伝えるんだ。」


修一はその提案を受け入れ、メディアに自分たちの物語を語った。彼らの愛と苦難の物語は、多くの人々の心を打ち、大きな反響を呼んだ。


最終的に、移民局は世論の圧力もあり、アナの再入国を許可した。彼女は再び日本に戻り、修一と共に新しい生活を始めることができたのだ。


終章: 新たな始まり

「先生、本当にありがとうございました。あなたのおかげで、私たちは再び一緒になることができました。」


修一とアナは、俺に感謝の言葉を述べた。彼らの顔には幸福が満ち溢れていた。


「俺は君たちのためにできることをしただけさ。これからは君たちが共に未来を築いていく番だ。」


俺は二人の姿を見送りながら、自分の心に深い満足感を覚えた。法律は時に冷酷だが、それをどう使うかで人々の人生を大きく変えることができる。そして、今回のように、本当に大切なものを守るために戦うことができるなら、それが俺の役割だと再確認した。


【完】

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