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名誉毀損を逆手に取れ

第一章: 謎のビラ配り

ある日の朝、俺――桐谷理きりたに おさむはいつものように法律事務所に向かっていた。すると、事務所の前に奇妙な男が立っていた。薄汚れた服を着たその男は、道行く人々にビラを配っている。


「おい、何をしているんだ?」


俺は男に声をかけた。彼はビラを差し出してきたので、俺も受け取ってみる。そこには、俺の顔写真と共に大きな文字でこう書かれていた。


「詐欺師弁護士! 法の盲点を悪用する危険人物!」


俺はその場で吹き出しそうになった。何という酷い中傷だ。だが、次の瞬間、俺の頭にはある考えが浮かんだ。これはチャンスだ。名誉毀損で訴えるのは簡単だが、そんなことはありきたりすぎる。この状況を逆手に取って、もっと面白いことができるはずだ。


「いいだろう。遊んでやろうじゃないか。」


俺は男からビラを受け取り、自分でそれを大量にコピーして配り始めた。俺の事務所の前で、自らが詐欺師だと宣伝する奇妙な光景が展開される。


第二章: 自己宣伝の妙

数日後、俺が配り続けたビラは街中に広まり、SNSでも話題になった。「自分の悪名を広める弁護士がいる」とニュースにまで取り上げられ、事務所には取材が殺到するようになった。


「桐谷先生、なぜこんなことを?」


記者たちは当然のように不思議がりながら質問を投げかけてくる。俺はニヤリと笑い、こう答えた。


「真実を隠すつもりはない。それが俺のスタイルだ。法律を巧みに使いこなすことに誇りを持っている。だが、俺の行動をどう捉えるかは人それぞれだ。だからこそ、皆さんに判断を委ねたいんだ。」


メディアはこの異様な自己宣伝に飛びつき、俺は一気に有名人になった。依頼が次々と舞い込み、事務所は大繁盛だ。しかし、成功は常に代償を伴うもの。俺は次第に、この異常な状況がどこかで反動を呼ぶだろうと予感していた。


第三章: 謎の挑戦者

そんなある日、一通の手紙が届いた。それは手書きで、こう書かれていた。


「真実を追求するジャーナリストより。あなたの行動には矛盾がある。近いうちに、それを暴く。」


俺は手紙を読みながら笑みを浮かべた。「暴く」とは、面白い。俺が広めた名誉毀損のビラで、今度は自分が攻撃されるとは皮肉だ。


だが、この手紙は単なる脅しではなかった。数日後、インターネット上に俺に関する暴露記事が掲載された。内容は、過去に俺が手掛けた案件の一つで、法律の盲点を利用して正当な報酬を受け取らなかったクライアントがいるというものだ。


「ほう、やるじゃないか。」


その記事は瞬く間に広がり、今度は俺の「悪名」ではなく、「不正義」を糾弾する声が高まった。事務所に寄せられる依頼も次第に減り、逆に批判が殺到するようになった。


第四章: 逆転の発想

俺は窮地に立たされていた。名誉毀損を逆手に取るつもりが、今度は本当に窮地に追い込まれてしまったのだ。だが、俺にはまだ策があった。


俺は一つの記者会見を開くことに決めた。すべてをひっくり返すための一手だった。


会見場には多くのメディアが集まり、俺が何を言い出すのかと興味津々の様子だった。俺は静かにマイクの前に立ち、こう切り出した。


「皆さん、私は真実を隠すつもりはないと言いました。過去に手掛けた案件の一つで、法律を駆使してクライアントの利益を守ろうとしましたが、結果的にそれが不満を生んだことは事実です。」


会場がざわついた。しかし、俺は続けた。


「しかし、私はその案件の後も、そのクライアントに対して誠意を尽くし、彼の生活が良くなるようにサポートを続けました。今、この場でそのクライアントに証言してもらいます。」


そして、俺の合図で一人の男性がステージに現れた。彼はそのクライアント、田中健太郎たなか けんたろうだった。


「桐谷先生は、私のためにどんなに努力してくれたか、今まで黙っていました。でも、ここで真実を話すべきだと思いました。」


健太郎は、過去に受けたサポートについて具体的に語り、俺の行動がいかに彼の生活を支えてきたかを訴えた。


「桐谷先生は、法律を使って私の利益を守ろうとしてくれた。そして、彼は今も私を助け続けています。」


その証言により、俺に対する批判の声は一転して称賛へと変わった。ジャーナリストの暴露記事は根拠が薄弱であり、俺の誠実さが際立つ結果となったのだ。


第五章: 真の名誉とは

会見が終わり、健太郎と握手を交わしながら俺は言った。


「ありがとう、健太郎。君のおかげで俺は再び立ち上がることができた。」


健太郎は微笑みながら答えた。


「先生、私が助けたわけじゃありません。先生が私を助けてくれたんです。そのお返しをしただけです。」


俺はその言葉に心から感謝した。真の名誉とは何か。それは単なる評判ではなく、人々との絆と信頼によって築かれるものだと痛感した。


そして、俺は再び自分の仕事に向き合うことにした。法律を駆使しながらも、人々のために何ができるかを常に考え、行動する。これが俺の新たな決意だった。


【完】

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