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1「デクの棒」

2025/7/14

大幅加筆修正

2025/7/31

タイトル名追記

ひとつはだえと電熱服の外は死の世界だ。


そういう訳で俺は、こののろまのデクな棒にしがみついて、

必死で祈るしかない。

どうかこの薄っぺらい電熱服が機嫌を損ねず持ちますように、針ほどの破片一つにかすりもしませんように。


もっとも俺の目の前にゃマーシーっていう野郎が同じようにデクの棒から振り落とされないよう必死にしがみついているから危ないのは俺1人だけじゃあないって事だ。


それに、耐弾ガラスってやつの中でぬくぬくやってるあの連中だって、

どうなるかはわからない。


学識高い連中にゃ、何で「防弾」じゃなくて「耐弾」なのかって気にする方もおられるだろうが、霧がこもらないようにちゃんと1発ではじけ飛ぶようできてるんだと。


そういうわけで1発だけなら耐えられるっていうんで、耐弾ガラスなんて珍妙なお名前してんだな。


で?じゃあ2発目からはどうするかって。命がもう幾つかあれば助かるって話よ。


もっとも昔は分厚い装甲で全周ぐるっと守られていたらしいんだが、

ーーー結局のところあんまり意味ねえってんで、やめちまったらしい。


装甲ってたって長い金属棒みたいな弾体であっさりぶち抜かれるし、

霧も煙も立ちこめりゃ、もう前なんか見えやしねえ。


……もっとも、装甲の中で金属片がはねくり回って、それでも生きてる奴がいれば、の話さ。


だから苦しまずにいけるならーーかえってそっちの方が楽かもしれねえ。


だがなそんな装甲だって破られるまでは頼もしいってもんよ。装甲なんてぜいたくは言わねえが、俺だって時にゃ、あの“聖なる耐弾ガラス様”の庇護に預かりてぇって思わんでもねえ。


機械のためとはいえ空調完備でヘルメットだってこっそり脱げるのはーーあの耐弾ガラス様のお陰なんだからな!


ごく初期型のデクの棒にぁ、マーシーや俺のような人間の席はなかったらしい。


しかしまぁ戦に出てみれば、

やれあっちが壊れた、こっちに穴が空いたって、修理に出る人間が必要になるってわけだ。


……だがな、この話にはどうもウラがあるらしい。小銃歩兵の1人に取り憑かれて初期型があっさりやられちまったんだと。


しかも事もあろうに、機体を丸ごとかっ拐われちまったんだ。

全周装甲で守ってた頃から数えても、そんなのは最初で最後だ。


じゃあ俺たちも歩兵を積もうって話になるが、それはそれで立ち消えた。さあて、なんでだろうなぁ?


けれど必要なものは必要なんでな。整備兵を乗せるって建前で最低限の改造をして、そのまま就役。


……そういうわけで、実際マーシーと俺にゃ危険手当的なものは出ない。あくまで整備兵という名目だからな。


ーーだがもちろん、降りかかる火の粉は自分で払えとのお達しよ。


建前ついでに言っちまえば、この機体が建前のカラクリで出来上がった代物だ。


なんざデクの棒って言われるくらいには、うすらとろい上にーー少なくとも整備をさせられる身分からしちゃ、バカみたいにデカ。


するっていうとコイツは自力航行可能な人工天体、わかりやすく言えば移動もできる要塞ですっていうんだ。


詰まるところは何が言いたいか?


お偉方の書類上じゃあ正面兵器という扱いですらないわけだ。


ところが用兵側からしちゃあ、コイツはまるっきり鉄砲玉だ。

俺たちだって死にたかぁないから必死こいて撃ちまくる。


結果として俺たちゃ損な役回りなんだがーー

得してる人間がどっかにはいるんだろうな。


あー畜生め、マジで背中がピリピリしやがる。

「おい、マーシー!マーシーの兄弟さんよぅ!!お前さんの電熱服は異常ないか?ああ、そうかよ…」


この電熱服もそろそろ寿命かな。

そんなにびくつかなくてもいいだろう、ちょっと肩叩いただけじゃねえか。


確かに静電気も走ったがさ、

まったく、人さまがお前さんの心配までしてやってるっていうのに、やっこさんは手でしっしとほっとけとさ。(コイツには人の情けってもんがないんかね?えぇ?)


聞こえちゃないが今ごろクソ喰らえとでも唸ってるんだろうな。


……しかし面白いのはそういう仕草はどこのお郷も似たようなもんで、何だっけ?「アイヤッ!」なんてやっこさんが言ってたってどこにもおかしいところがない。


とにかくあいつはストレスが溜まるとイライラするようなチックが出る。

見ているこっちがハラハラしてくるんだ。


元をただせば、この薄っぺらい電熱服がいけねえ。


制式に正確にはたしかーー

極地用恒常性保持船外作業防護服(Ⅲ型)とかって言うんだが、

誰もそんな長ったらしい呼び名は使わねえ、電熱服で通ってる。


とにかくこの薄っぺらの電熱服は

すぐに機嫌を損ねるし、まったく壊れっぷりまでイカれちまってる。


汗が噴きまくるように暑くなったと思ったら、今度は雪のように冷えきっちまう。


俺も一度ならずくらった事があってな、その日の気分ときたら、

とにかく憂鬱にもなるってもんよ。


すぐに帰れりゃいいんだがそういう時に限ってうんっと遠出してたりするんだ。

すると、凍った自分の手足をチョンぱするハメに合う。


それならまだマシな方。

もっとひどいのは液体に漏電すると感電死しちまうってウワサだ。


何言ってんだってな?

人体はほとんど水分で出来てるなんて言うじゃぁねえか。おっかねぇ。


それで3世代に渡って人間さまの「恒常性」を失っちまうっていう肝心の部分だけは直らないと来てる。


どんなに鈍感なヤツだろうと、そりゃストレスを感じるだろうよ。


ああ、生きてるって事よ!

ストレスも生きていればこそ!


だがあと何年こんな事をし続けりゃいいって言うんだ?


最初は3年って話だった。

それが次には実働3年又は最高拘束10年になって、


最後には訓練を除く実働3年又は最高拘束10年なんて言い出した。


まったくツイてねえ。

何で兵隊なんかに取られなきゃならねえんだ。


もっとも、俺の同世代全員が全員同じ事を考えてるだろうさ。


ああよ、少なくとも懲罰大隊の連中よりゃマシって思わなきゃな。

あそこに入れられるのは元犯罪者だとか、軍規違反だとかそういう連中だ。


だが中には、生き延びるためパンを盗んでとか、

下らない事でうっかり入れられちまって、毎日イジメを受けてるヤツもいるって話だ。


兵隊に取られてからこっち、俺だって苦難続きだがね、半分以上は過ぎたんだ。


そう考えりゃ、もうあと4年半辛抱したら晴れてシャバの空気が吸えるって寸法よ。


ーーだがなその後にぁ予備役招集ってワナが控えてるんだ。


だから苦しまずにいけるならかえってそっちの方が楽かもしれねえ…



「交戦区域、警戒」

「レーダーワーニング、発信源探知、コンタクト、正面、交差450秒」


ひと呼吸おいて、副長が堰を切ったようにまくし立てる。


「不明レーダー照射源に告ぐ、不明レーダー照射源に告ぐ。当航行衛星へのレーダー照射を停止せよ。また航行妨害となる現在座標から速やかに退去せよ。当方は自由協商軍所属、航行衛星、ハルナンバー、L6337。国際波、緊急波で発信中…」


「繰り返す、不明なレーダー照射源に告ぐ。当航行衛星に対するレーダー照射をやめよーー」


「応答せよ、不明なレーダー発信源、全ての活動を停止し、我に帰順せよ。」


「目標、レーダー発信源、交差415秒、」

「2、機長、レーダー警告照射、実施せよ」

「1、ウィルコ、レーダー警告照射、レディ、ナウ。」


「警戒、アクティブな飛行物体3、こちらに向かってくる。交差120秒1、近接240秒2」


「飛行物体、ヴィジュアルコンタクト…ミサイルだ、間違いない。エンゲージ。」

「国際法に則り排除する。」


耐弾ガラスの中がにわかに騒がしい。その様子はまるで、デクの棒にできた瘤の中で寄生虫がうごめいているようだ。

モゾモゾと忙しなく動いている。


へいへい、では我々ウシバエもよろしく準備にかかろうか。


「JJ、マーシー。どちらでもいい、左翼の第三受信帯を診てくれ!エラーが出てシステムから切り離されている。」

戦術航行機関士のアダムだ。機体全般のシステム保全を一手に引き受けている。当然整備兵へのオーダーも多くなる。


……どっちでもいいって言ったってな。

こういう時、マーシーはまず動かない。旦那は機能不全の機体より、いつ出て来るかわからない敵兵の方が気になって、作業どころじゃないらしい。


まあ、俺としては構わないさ。

実際ひょっとしたら敵の歩兵が取り憑いてくる可能性もあるわけで。

俺が撃たれる前にヤツが撃ち落としてくれりゃあ、それで御の字よ。


アダムもそんぐらい、わかっているはずだろう?


「JJ、マーシー、どちらでもいい」

なんてまどろっこしい言い回しするんだからいけねえよ。


「えーと、じゃあ俺が行くのかい?」って、考える時間が増えちまう。


「JJ、左翼第三受信帯」

とでも言ってくれりゃ脊髄反射で取り掛かれるのによ。


他の連中も「どちらでもいい」だなんて真似して、余分を付け足しちまうじゃねえの。


「アダム、ジャック、ウィルコ。」


呼吸器ホースの安全ピンを、うっかり抜かないよう注意しながら(あれを引っかけちまう事故が1番多いんだ)、手早く携帯生命維持装置に切り替え、件の左翼第三受信帯に近づく。


……しかしまぁ、なんと間の悪い。


「ああ本当だ、気がつかなかったな。」


いつの間にやら穴が空いて受信帯が脱落しかけている。

まぁ、おツムのまともな連中なら絶対通らないような、危ない橋を渡っているわけでーーそういう事もあるだろさ!


まったく、機長さまは『あいつは毛根と一緒に常識まで抜け落ちてる』なんてまことしやかに言われるがね。少なくとも俺にとっちゃ生まれの親父より頼りになるってもんだ。


……親父?あいつは気がついた時にはいなかったな。

もっとも顔なんざ覚えちゃいねえが。ーーこのおツムの残念さはしっかり遺伝しちまったようだ。


今こうして宇宙の藻屑になり果てようってんだから、因果なもんだねぇ。


ケッ、地獄で会おうぜベイビー。

あいにく、俺は忙しくてね。


「ーーそれで?信号は来ているのか?」


「ああ。だが波長が無茶苦茶らしい、どうなんだ。」


「そりゃな。ブラブラぶら下がっているからな。見たところ受信帯自体は無事だ。よし、とりあえずダクトテープで固定しておこう。」

「そうしてくれ。ランダムに動きさえしなければ、ソフトウェアの方で処理できるそうだ、機能を絞ればまだ使えるはずだ。」


「アクティブな飛行物体は敵性誘導弾。直近は高機動再加速タイプ、近づく、防御」


「レーザー迎撃、ショック姿勢」


構える間も与えず、

溶接のアーク光のようなレーザー光線が視界を焼く。


おい、ハゲッ!抜け作!


……いや、どう。どう。


機長はいつも言ってたな。

『先手発見、速攻進撃、即時転進。そして有言実行。』

まさしく今、有言実行したってこった。


やれやれ。

レーザー近接防御兵器は弾なら何でも落とす優れモンだが、

眩しいったらありゃしない!


とはいえもう壊れた所はわかってるんだ、目を瞑ってささっと片付けちまおう。


「迎撃停止、回避運動コース計算」


……なに?そりゃあまずい。

いかにデクの棒でも軌道遷移時の重力加速度はかなりのものだ。


さあ、第三受信帯の固定は終わった。


あとは俺の体を固定するだけだ。カラビナを1番近いむき出しの構造体に引っ掛ける。


機長とチラリと視線が合う。


「JJいいな?ナウ」


言うがはやいが、ガクンと強烈なGに振られて、俺は宙に舞った。


空を切った手足の先で機体がぐんぐんと遠ざかっていく。


しなった命綱がピンッと張った瞬間、今度は気絶しそうな衝撃に、俺はかえって安堵した。


命綱の繊維が軋んでいるのか。毛細血管が千切れかかっているのか。どちらともつかぬ、かすかな悲鳴の音がする。


そして今はこの命綱一本が頼りだ。


……頼む、切れてくれるな。


ふと視線をずらすと、

ギラリ陽炎のように揺らめく破片が、虹色にキラキラと輝く雨粒のように広がって降り注いでくるのが見える。


だが、こっちだって進んでいるんだ。

ーー見方を変えりゃ、輝く破片にこっちから突っ込んで行っているのかもな。


おっかねえもんだ。


「反転するぞ、ナウ」


「アクティブな飛行物体2、ともに軌道変移、ひとつは交差コース!100秒、もうひとつは最接近130秒、大きいヤツだがサブタイプまではわからない」


「マックス、交差コースの飛行物体に、電子対抗措置」


「了解、やっています、こちらの軌道変移が少なければ、反射波に変調波を混ぜます」


「機長、よろしければフレア機雷2発スタンバイ」


「よし撃て、あと4発コース設定をしたい、操縦権限委任、副長、ユーハブ」


「2、アイハブ、コースこのまま、FCSオートトリガで射出」

副長のアイちゃんだ。

アジア人の違いなんて、言われたってわかりゃしないが、たぶん日本人なんだろう。

お堅いくせに、時々妙チクリンな言葉づかいで、ちっこい子どもみたいだ。

でも誰よりも機微を捉えるのがうまい。


破片の雨が脇を通過していった。


くぐもった射出音が2回、立て続けに起こる。


ーーあれがフレア機雷だ。


気に入らない。だいたい、機体からそう遠くないところで爆発するんだ。この薄っぺらな電熱服じゃあ、一瞬でカリカリのベーコンみたいな熱さになっちまう。


ーーああ目玉焼きは2つ、本物の芋もバターたっぷりでな!よく焼きで頼むよ!


「2、回避運動停止」


「1、回避運動停止、了解、4、状況報告」


「4、全システム、オンライン、第三受信帯小破、いくつか細かい破片に当たっている可能性はあります」


「了解、総員点呼、1」


「2」「3」「4」……


おいおい、「4」のお次は「5」だろう、マーシーの旦那さんよ。

「5」はお宅の番号ってのが相場だろう。

「こちら6、ジャック。……5を確認する」


「こちら1、機長ウォーレン、6、了解、報告してくれ、今計算中だがおそらく60秒後に大きく回避運動予定、2、副長。もうしばらく操縦してくれ。」


「2、ウィルコ」

「6、ウィルコ」


「2、こちらアイ、敵性誘導弾が子弾体射出タイプだった場合、すぐに乱数回避機動、注意されたい。機雷触発、ナウ」


パパッと機体前後で黄色い閃光が上がる。と同時に機体の光学欺瞞装置が目潰しみたいに明滅する。


ーー熱いんだよ!フレア機雷のバカ!


「…6、了解」


とにかく善は急げって言うんだ、

変なとこで破片にでも仲良くごっつんこする前にとっとと戻っておこう。


携帯生命維持装置が廃熱不良でお怒りだ。『次はお前の命がないからな!』


しかし、マーシーの旦那はどうしたっていうんだい?

さっきまでピンピンしてたくせに……返事のひとつもよこさないたぁ、まさか、敵の歩兵にノされちまったのかい?

それとも機長サマをよっぽどご機嫌ナナメにしたいのか。


…まあ人さまの考えていることはよくわからないこともあるが。


「おい、マーシー、おい?」


こりゃ様子がおかしい……。

バイタルモニターに反応がない。


「こちら6、マーシーのは、いや、5番、生命兆候なし。事故事由は不明。外傷は、今のところ見当たらない。」


「1、こちら機長。JJ、確認はあとだ、回避運動に入る。つかまれ。副長、アイハブ。機雷4発、FCSオートトリガに入力済み、射出予定」


「ユーハブ、機長」


「6、了解」

とにかくそういう事だ。


俺も機長も、ーーたぶん、そうだった。


マーシーはカラビナで機体と結びついている。

だから俺は、自分の穴蔵に潜り、生命維持装置を機体側の物に切り替える。

ちょうどその時、機雷の発射を振動音で感じた。


だが、今はこの冷たい空気を肺いっぱいに感じていたい。


「機雷触発、回避運動、ナウ」


バッと目の前に閃光が走り、ほぼ同時に急加速する。


肉眼でははっきり見えないが、敵の誘導弾は、おそらく光の向こう側にいる。

機雷と十分近ければ、2つのうちどちらかーーあるいは両方ーーの熱光学感知器を焼き切れるはずだ。


……しかし2つの誘導弾は直前までの観測により導き出されるこちらの予測座標をカバーするよう、協調して動き出した。


「こいつらッ…、レーザー迎撃、スタンバイ」


「副長!FCSオールオートで迎撃をセット、レディ」


「え、FCSオールオート、レディ…、セット」


その時、

突如一つの誘導弾が機首を反転させた。


もう一つの誘導弾を射程に捉えるや、自壊。身をよじり切って、腹に抱えた呪いーー指向性子弾体をぶちまける。


だが、そいつは破片を回避しなかった。


……自閉症モードへ移行したらしい。

一切の通信を拒絶し、冷淡にキャニスター弾頭を吐き出した。


「FCSオールオート、オン」


「ナウ」


敵を排除し、自機を守る。このシンプルな要求に応えるために、現代のファイアコントロールシステムには高度な自律型AIが組み込まれている。


ーーだが、乗組員の誰ひとりとして、その存在を好んでいない。


反復スライド運動、終わりのない間欠加速。永遠に続く振動、意味をなさない雑音、かき消される電子音。火焔。欺瞞装置。警告灯の明滅。


すべてが、人間の感覚を置き去りにしていく。


それは人の介在を許さないほどに、シンプルで、残酷で、効果的だった。


「…子弾体…、多数…、交差する…」


「マックス、舌を、噛むぞ」


「………」


「4、被弾した、…」


「…機長!」



「FCS、オーバーライド、タスク終了。アイハブ。こちら2、副長、JJ、聞こえるか?」


「ジャック、…聞こえる」


「JJ、機長がやられた。外から見てくれ。手が離せない。」


「6、ウィルコ」


あの機長さんがやられた?

自称『不死鳥』の『ハゲタカ』ウォーレンが?

こんな時でも案外ケロッとしていそうなもんだが。


「マックス、アダム、無事か?」


「3、オーケー」


「4、無事みたいだ」


「マックス、状況知らせ。」


あの機動の後は機械だってエラーを吐くどころか、壊れちまうやつもある。

もちろん、こっちも五感がぶっ壊れている。

俺は何とか機長の席に這って進む。

ーーだが、これは。見た瞬間にわかった。


「目標は報告通り。レーダーサイト、TYPE2-A6と同定。交差150秒」


耐弾ガラスはいつの間にか弾け飛んでいた。

ウォーレンのハゲ頭には、

ぽっかりと穴が空いている。


「6、アイちゃん、機長は……ウォーレンはダメだ。ちゃんと連れて帰ろう。動かないようテープで固定するけど、いいだろうか?」


「2、JJ、了解。そこは少し邪魔になる。傍に避けて作業して。」


「……あとは、終わったら対人戦闘準備。あ!それと、『ちゃん』をつけるな!覚えておけ!」


……アイちゃんは、鉄の女だな。


機長の手足をテープで座席に固定する。ついでに穴の空いた脳天もテープを貼って隠しておこう。

……故人にも尊厳ってもんがある。


「ありがとう、JJ、なまじ見えると見ちゃうから…」


鉄の女でもやっぱり気になるのか…。


「目標レーダーサイト、近づく、飽和電子ビームに警戒」


要は『電子レンジ』攻撃ってやつだ。見境がないから味方がいない時にしか使わない。


「アダム、電力は…全て電子対抗措置(ECM)に使う。操縦系は…、順次予備に切り替え。」


「マックス…そういうこと。任せる。

ここが、あなたの正念場だから。」


「JJ、対人戦闘準備は中止。作業が終わったら、すぐ爆弾倉へ。合図を待って。」


「3、了解、フルパワーで相殺する。」

「4、了解、再起動の準備もしておこう。」

「6、今終わった、ウィルコ。」


マーシーがいない分、とにかく忙しい。


「急げ、JJ。あと100秒だ!」


「了解、やってる。もう着く!」


「よし、弾倉を開放しろ。レーザー水爆。スタンバイ。信管、120秒遅発。シーカーは対レーダーモード。合図を待たずに全弾射出!」


「了解っ!」


「レディ、ガン、スタンバイ!」


「交差45秒」


「まだか?!」


「レーザー水爆、全弾射出……いま完了した」


「JJ、戻る時間はない。そこに留まって弾倉閉鎖し、何かにつかまれ!完了報告。急げ!アダム、セイルは使えるか?」


「6、弾倉閉鎖中、もうつかまってる!気にせず動け!」


「4、セイルは損傷軽微、展開できる。」


「了解。回避コースへ遷移、目標に機種転回、ナウ!」


「目標交差!」


「レーザー水爆、弾着、今!」


「よし、捉えた。ガンズ!ガンズ!ガンズ!」


「弾着!電磁波は、安全圏量に低下した。」


「4、マックス。電力必要量は操縦系にも戻すぞ!」


「3、アダム、了解した。副長アイ、チャフ散布準備完了」


「2、マックス、反転後直ちに実施せよ、アダム、そちらでセイル展開準備実施せよ。反転、ナウ」


「3、ウィルコ。」


「4、ウィルコ。いつでもOKだ」


「チャフ散布、ナウ!」


「このままある程度加速する!セイル展開は20秒後!」


「レーザー水爆のレッドゾーンを離脱、起爆60秒」


「セイル展開、ナウ!」


「ナウ!」


「レーザー水爆、起爆まで30」


「セイルは正常に展開」


モーターの音だけが聞こえた。きっと機体はセイルの影に上手いこと潜り込んだんだろう。


「起爆まで10」


「総員、対ショック姿勢」


「5、4、3、2、1…起爆」


………


電熱服がまた文句を吐いている。『酸素が少ないぞ!』

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