日課
宜しく御願い申し上げます!
首だけぐい、と回して左後方を視認する。 キャップのブリムエッジ(つばの縁)を二本指で摘んで、くい、と持ち上げる。 軽い高跳びをとん、と着地する。我ながら見惚れる程、見事に着地を決める。 着地をしくじったことなどはない。 ただの一度もない。 回り込む。 駆け足だ。全力の駆け足だ。 後で運転手から、うすのろだの、とろ、だのと怒鳴られないように駆ける。怒鳴られたくないから駆ける。 後ろに着く。 鉄の扉を開く。 キャップのつばを上げるのは視認性を良くして安全を確保する為と、つばに吐息が吹きかかった気流が逆流してきて、顔に振り掛かるのは、いくらなんでも暑苦しくてキモいから、だ。 ぐい、としゃがんだら、ふたつ指を突撃させて、ぱんぱんに膨れ上がった何処かのスーパーのレジ袋の取っ手の部分だけ突き出て輪っかにされた部分を摘み上げるのだ。 キャップの内側は、流れ落ちる汗の為に、不快に濕る。
扉は本当に鉄なのだろうか?もっと軽めの素材なのでは? ぱんと破れたレジ袋から溢れ出る食べ残しの生ゴミの汁は、戦場に飛び散る血潮のよう。
日課?これは、仕事なのであって、日課ではない。 戦場に飛び散る血潮なのように。
御読み頂きまして、誠に有難う御座いました!