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青薔薇の魔女は救世主


 王都ガロランドの荒れ果てようといえば、それはもう凄まじい物だった。ここへ嫁いで来た日に王都を回って国民の様子を見ていたことを思い出すけれど、同じとは思えない景色だ。


「ええっと……」


 空から王都を見下ろしつつ、最優先で助けるべき何かを見つけようとする。私が操れるのはあくまで炎と薔薇。悔しいけれど、重力を操れない以上、瓦礫を動かすなんてことはできない。

 その時、視界の端にペルリア聖堂教会が見えた。白だけれど何処か灰色に見える建物で、頂上には銀の十字架がシンボルのようにして飾られている。四階建て相当の高さを誇るこの建物は、宮殿や城を除くとこの街で最も高い建物となる。だからこそ、レンガ造りのそれは竜の被害を大きく受けていた。


「教会は民の集まる場所。あそこを立て直せば、民の避難所になる」


 そう考え、真っ先に私はそちらへと向かった。向かう途中、空から見えた光景を地上にいる兵士たちに叫んで伝える。


「六時の方角に潰れた家がある! 多分まだ人がいるわ!」

「すぐに向かいます! おい! お前たち向かえ!!」


「九時の方角に子供達がいる! 学校から出てきたんだわ」

「分かりました! すぐに行きます!」


 北の方向に竜の死骸で道を塞がれている場所があった時は、一度立ち止まって球型の炎を飛ばして燃やしてあげた。そうして竜は灰になったから、人々は道を通行できるようになる。

 時に指示を飛ばし、時に自身で解決する。それをとにかく繰り返した。けれど、何万もの人が住むこの王都において、私一人が空から働いても仕事がなくなることなんてなかった。


「東に崩れた馬小屋がありますわ! 馬が脱走して危険なので、兵士の移動に役立ててくださいな」

「承知しました!」


「四時の方角にて森から出現した獣がいます!」

「対処します!」


 そうしてようやくペルリア聖堂教会へ辿り着いた時には、すでに三十分以上が経過していた。周辺には教会に勤めるシスター二人と司教が一人、それから避難に来ていた人たちが十数名ほどといったところ。しかし、これから人が増えるはずだ。そのためにも早く、この崩れて危険なレンガを直さなくては。


「私はアグリア・オーランド。王都復興のため異能を用いて回っていますの。ペルリア聖堂教会を臨時の避難所として使用したいので修復しますから、少し離れていてくださいます? 危ないので」


 地上へ降りると、薔薇姫の名に恥じぬ有無を言わさない態度で、お願いというよりも命令を下すと全員が静かに建物の中へ引っ込んでくれる。オーランドという苗字はこの国において最高権力として用いれる。


「さて、と」


 教会はレンガが幾つか取れてしまってやや斜めっている。崩壊、とまではいかないだろうけれど、さすがに危ない。まずは建物から先になんとかしよう。

 重力の操作はできないし、時間の巻き戻しなんてできないどころの話じゃない。まず持って不可能だ。ああ、いや、でも、一度死んだことを無効化できたのだから不可能じゃない、のかな。それともあれは、命が増えたようなものなのかな。まあいいや。今はそれどころじゃないんだわ。


「どうしようかしら……」


 ダメだ、さっぱり対処法が見当たらない。とりあえずもう一度空に昇って、建物全体の様子を見て、それからゆっくり一つずつ落ちているレンガを持ち上げて元の場所に戻していく……? それだとすごく時間がかかるわよね……。あー! もう! 戦うのは怖くないし、壊すことも簡単だし、でも、直すのは、とても難しいなんて、馬鹿みたい。


「そうだわ、イメージしましょう。《魔女》で何か新しいことができるようになったかもしれないし……」


 花で防御をした時みたいに、脳内でイメージすることは大切なはず。この場合、私がイメージするべきは……。


「やっぱり重力操作? ……いいえ、まずは花を自在に操って、それからぁ、それを浮かせることができればレンガを元の位置に運ぶのも簡単、よね。よし、イメージするわよ」


 最も近いのはやっぱり空を駆ける時の花の階段だろう。あれを上手く活用すれば、自由自在に物を動かせるはずだ。


 目を閉じて、異能の革命を願う。その力の形に変化が起こるように。なんだっていい。とにかく、できることが増えるように。


 ──考えろ、考えるんだ。


 突き出した右手を何かが走る。棘だ。収まっていたはずの刺青が動いている。でも多分、これでいいんだ。きっと正しいんだ。

 脳内がはっきりと冴え渡るほど身体が熱くなる感覚がする。何かが起きる気がする。そう確信しながらも、目を強く閉じ続ける。


 ──咲き誇れ


 ふわふわとした足元で上空にいるままに、カッと瞼を開いた。そして、告げる。


「百花繚乱!」


 途端、地上に落ちていたレンガたちが赤い花びらにそっと包まれてゆったりと宙へと上がった。未だ地上に置かれたレンガもあることを考えると、一度に使役できるのは二十くらいなのだろう。私を囲うようにして花びらは次はどこへ行けばいいかと訴えている。優しい手つきで指先をレンガを置きたい場所に向けると、それに従うようにして赤薔薇は移動していった。


「……ふぅ」


 ひとまず二十個全ての灰色のレンガを元通りにすると、私は一息ついた。攻撃と違って繊細さを求められるせいか、やけに疲れる気がする。でも、この力があれば人を運べるし、瓦礫も運べる。復興には持ってこいの異能だ。

 多分、薔薇が赤いことから察するに異能の分類としては《聖女》に入るのだろう。青くなると《魔女》に当たるという認識でいいはずだ。


 その調子で私は全てのレンガを直し、建物を修復していった。すぐに元の姿を取り戻した教会を見て、シスターと司教は目を見開いて驚いていた。そりゃあそうだろう。《魔王》は炎しか使えないというのが当たり前の彼らオーランド帝国国民の前で、《聖女》はこんなにも色々できることを見せたのだから。


 建物を直すと辺りに落ちていた瓦礫や要らないレンガ、倒れた木を花で包んで裏庭の方へどかしてしまった。それから、空から地上へ向けて大声で叫んだ。「避難される方はぜひペルリア聖堂教会へ!」って。ペルリア聖堂教会は建物だけでなく庭となっている敷地も中々に広いから千人くらいなら余裕で受け入れられるはずだ。あとは動けない怪我人や下敷きになっている人、迷子になっている人を私が運んでくればいい。


 司教に避難者への対応を頼むと、それは快く引き受けてくれた。こちらとしては有難い話だ。


 そうして空の階段へと走っていく私の後ろ姿に、人々は声を投げた。


「ありがとうございました! アグリア王女様」

「本当にありがとうございました! 薔薇使いの王女様!」


 たとえ魔女となっても、何も知らぬ彼らにとって私はまだ《聖女》持ちの救世主だった。


ここらで一度、異能を纏めたいと思います。

《聖女》に当たるのは、

・咲き誇れ火炎→薔薇のような赤い炎

・咲き誇れ火花→完全防御

・咲き誇れ業火→薔薇型の爆発的な炎

・咲き誇れ火玉→火の玉

・咲き誇れ百花繚乱→物や人を運ぶ花びら


《魔女》に当たるのは、

・青薔薇よ花開け→死すらも超越する青薔薇

・咲き誇れ悪逆の華→魔法陣のような何かから炎を纏った剣が現れる


今のところはこんな感じです。

《聖女》と《魔女》の違いとしては、《魔女》は禍々しい力だという点。それから青薔薇であったり、死を超越するようなこの世の理をぶち壊すような力であったりします。


アグリアは存在としては魔女ですが、力としては《聖女》と《魔女》二つの異能を操る異端の人物となります。


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