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オーランド帝国第三王子の戦場


 ちょうど、アグリアが上位竜の全てを倒した時。未だ翼竜は残っているものの、その数もわずかと言ったところ。もう軍隊のみでも十分竜を排除できるほどに戦力が逆転したその頃、オーランド帝国第三王子ラクレス・オーランドは王都へと帰還した。途中で兵士と会い、王都が竜による攻撃で甚大な被害を被っていると聞いたため馬を走らせる速度を上げたこともあり、予定よりも早い時刻での帰還となった。


「これは………」


 あらゆる土地に赴いて竜害を対処しているラクレスを持ってしても、王都ガロランドの様子は酷い有様だった。アグリアがガンド訓練場へと竜を引きつけたため、国民の住居が狙われることは少なく、よって死者も少ないだろう。けれど翼竜の羽による強風は建物の屋根を剥がしてしまったり、飛んできた屋根によって下敷きにされたりと、王都としての機能を失いかけ、怪我人は多かった。


「至急、民の救出を」


 ただでさえ低い声を、緊張と驚愕によってさらに低くラクレスは唸らせた。


「残っている翼竜の対処は──」


 指示を聞いていた部下の一人がそう問うた瞬間、ラクレスは右手をばちばちと弾かせた。そう、弾いたのだ。指が、ではなく、手から溢れた《魔王》の力が、爆ぜるような炎を弾いた。ボッ、ボッ、と機能を確認するかのように数度音を立ててみせると、ラクレスは馬から降りて走り出す。


「オレが()る」


 そう、言葉を残して。その場に置いて行かれた兵士たちは、その指示をしっかりと聞く。彼らは決して、異能を持っていないから戦えないのだと諦めているのではない。ラクレスがいれば翼竜など敵ではないと知っているし、さらに言えばあんなふうに好戦的になった彼には誰も勝てないと分かりきっている。一言で言えば、信頼故にラクレス一人に任せたのだ。


 飛ぶように駆けて行ったラクレスは、翼竜に接近しながらも状況を確認しようと考える。

 ここへ辿り着く途中、青い花が見えた。どう考えても異能だが、《魔王》があんな力を持たないことは誰よりも知っている。ならば、あれはアグリアの《聖女》だろうと結論が出た。それにしても、禍々しいオーラだったと感じるけれど。


「………危ないな」


 そう呟いた理由は、断じて一匹の翼竜がこちらに気がついて鋭くて強い風を飛ばしてきたからではない。そんなもの、手で振り払えると言っては大袈裟かもしれないけれど、とにかくそれくらい眼中にない攻撃だ。仮に真っ向から受けたところで、傷一つ付かないだろう。ラクレスの身体は異能によって常人よりも強くなっているし、それに今は竜の鱗で作った立派な鎧を着ている。もちろん、田舎の地にて竜害を片付けた際に自分で倒した白竜の鱗だ。

 ラクレスが危ないと言ったのは、アグリアのことだった。《魔王》よりも強い異能を持つ者が王家に来るということは、竜害への対策を強められると同時に、謀反を起こされた際にこちらが対処できないというリスクを背負ってしまう。


「はぁッ!」


 右手から爆発するように現れた瞬間的な炎の球を、翼竜へとぶつける。あまりの威力にたちまち翼竜は地面に倒れ伏した。

 ラクレスの異能である《魔王》は、もちろん二人の兄と同じような力で、炎を司る。けれど剣にそれを纏わせる長男や、弓にそれを抱かせる次男とは少し違う。ラクレスは、体のどこでも爆発させることができる。いや、純粋に炎を出すだけなのだけれど、あまりにも短時間しか現れない炎だから爆発のように見えてしまうだけで、長時間出すことも可能ではある。ただ、それが出来ないというか、堪えざるを得ない理由があってこんな闘い方をしているのだ。

 見る者を深く沈めるような紫の眼光を細め、竜を見つめる。


「悪いな、竜」


 何があって王都まで来たのかは知らないけれど、竜たちもまた一つの命と誇りを持っていることをラクレスは理解している。同じ戦場に生きる者として、殺し合いこそすれど遊びのために殺すことはなく、なるべく一撃必殺で苦しまないようにあの世へと送り出すようにしているのだ。

 それが戦士としての優しさだと思っていた。


「すごい数だな」


 走りながら辺りを見渡せば、多すぎる数の竜の死骸がガンド訓練場敷地内にあるのが伺えた。ここから見えないものや灰となって跡形もなく消えてしまったものがあることを思えば、自分が来る前に随分な数をアグリアが倒したことが分かる。負けたような気がして悔しい気もするが、国を守ってくれたことを感謝しているし、なによりもその強さを尊敬する。竜たちは苦しむことなく死ねたに違いなかった。


 至る所から煙が上がっていた。ここから数ヶ月、最悪半年以上、全ての力は復興に注がれるだろう。ノストラダム宮殿の窓もだいぶ割れてしまったし、竜の灰も片付けないとだし、それから食料の確保と、家が壊れた人たちへの臨時の宿泊先も用意して、ああ、国家予算が飛んでいってしまう、けれどここで金を出さずしてどこで出すのか。金目当ての貴族たちが何と言ってきても金を用意させようとラクレスは誓った。


 正直、ラクレスは社交界にも王位にも興味はない。ただ王家に生まれた宿命として、兄ヴィルヘイムの手助けをして帝国を長く築いていこうと思うだけ。竜と戦うのもそうだ。何も大義名分がどうたらこうたら、みたいなややこしい理由はない。助けた相手に感謝されることは嬉しいが、元はと言えば戦いを好む性格だったというのが始まりだ。綺麗さを好むマナーは面倒だし、結婚について問われるのも嫌だから戦場で忙しくしようと思ったのも一つの理由だけれど。


 一言で言えば、ただただプライドが高い、である。


「はッ!!」


 自分の代で王家が衰退するのは許せない。

 自分が竜を含む全ての生物に負けるのは許可できない。

 自分が何も救えずに終わるのはありえない。

 自分の前で弱き誰かが死ぬのは生涯目覚めが悪くなる。


 自分が困難な運命に屈するなど、不可能だと証明する。


 「はぁぁぁぁぁぁあああッッッッ!!」


 だから彼は、灰色と白色を混ぜたような鎧を竜の血に染めて、拳に熱を纏い、あるいは剣を振るい、勝ち続ける。


 全ては、己の強さの証明のために。

 故に彼は、狂戦士(バーサーカー)と呼ばれているのだ。


「刈り取る時が来た」


 動きを止めたかと思うと、腰を低くして体制を構え、ぽつりとそう呟いた。次の瞬間、こちらに集まって降下している竜目掛けて、足を薙ぎ払う。ヴィルヘイムならば剣を使うのだろうけれど、ラクレスは本来、その身一つで暴れることを好む。だから今この瞬間、必殺の一撃と言える技もそうだった。人間相手であれば回し蹴りとでも言うべきものを竜相手に使ってみせる。足が爆発してみせて、熱い炎を纏う。それを高さを変えずにターンするかの如く一周させることで、全ての竜に炎は命中する。風での攻撃をする翼竜相手に、勢い任せの炎の攻撃、いわば光速でやって来る熱風で相手したのだ。翼竜からすれば、実に皮肉なものである。


「さて、どうしたものか」


 翼竜特有の、赤とも緑とも言えない濁った血を拭うこともせず身体中から滴らせながら、立ち尽くす。ライオンの立て髪のような赤い毛髪は、血のせいでより紅に染まっている。何をすべきか分からないというよりは、何からすべきか悩んでいた。


「……………」


 王都ではラクレスの部隊の兵士たちが国民の救出と手当、遺体の回収に全力を尽くしている。ならば今、自分がすべきことは何か。それは、きっと。


「顔が知られているオレは、ひとまず他の王族貴族の安否確認といくか」


 いちいち身分を証明するアイテムがなくとも、この顔が立場を証明してくれる。毎度のように警戒させることがないため、相手の安否を確認するという仕事は自分にとって最適だろう。


 遠くの方で、炎が光るのが見えた。兄ヴィルヘイムだ。竜の死骸をどうすべきか考えている様子。このまま置いておくと邪魔だし運ぶには重い。しかし、燃やしてしまうと灰の回収が面倒になる。最終的に、燃やすことに決めたのだろう。炎が死骸を包み込んでいく。


「さてと」


 そうしてラクレスもまた、宮殿の裏庭に向けて歩き出した。


ラクレスのいうところの爆発は、足が吹っ飛ぶような爆弾由来ではなく、煙が見えるような、光が爆ぜるような、そういった見た目のこと、いわば爆発っぽい何かです。

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