確かにそこにあったはずの世界線
ここまでの物語の修正をしていますが、読みやすいように文の最初をひとマスあける等の内容ですので改めて読む必要はございません。内容は変わってございませんのでご安心を( ´∀`)
「ギデオン、アラン、どこ?」
私は屋敷の庭にいた。もうすぐ六歳の誕生日パーティが始まるというのに、二人が見当たらないのだ。
「まったく、困るなぁ」
とはいえ放っておこうとは思えなかった。二人は私の最高の友人だから。家族と同じくらいたくさん誕生日を祝って欲しいのだ。
「ここだよ」
一本の大樹の横を過ぎようとした時、アランの声がした。大樹の上だった。なぜかは知らないけれど、木に登っていたのだ。
「ぼくもいるよぉ〜」
やや頼りない声も聞こえてくる。ギデオンのものだ。多分、アランに連れられて、一緒に木に登らされたのだろう。災難なことだ。せっかく上質な服を着ているのに、台無しになってしまうかもしれない。ただまあ、本人も嫌そうな顔はしていなかったからなんだかんだ楽しんでいるのだろう。
「早く降りて来て! パーティ始まるわよぉ〜!」
ちゃんと聞こえるようにと大きめの声で叫んだ。すぐに二人は降り始めてくれる。
「よっ、と」
先に地面に降り立ったのはアランだった。
その上に、少し高いところにある枝に手をかけてどうやって降りようかと試行錯誤しているギデオンがいる。
「ジャンプすりゃいいだろ」
「えぇ〜、高いよ、ここ」
「いーからいーから、早く来ないと置いてくぞ〜」
アランがそう急かすものだからギデオンは心を決めて飛び降りた。うわっ、なんて悲鳴をあげながら。
けれど私は知っている。ギデオンがどんなに降りるのに時間をかけたってアランが彼を置いていかないことを。友達思いなのだ。今急かしたのは、そうした方がギデオンが早く降りられると思っただけだろう。
「ほら早く、行くよ!」
ギデオンが降りたのを見届けて、私はパーティ会場に向けて走り出した。薄い桃色のスカートをひらりと揺らしながら駆けていく。
「競争だ!」
アランもまた走り出す。運動神経の良い彼はすぐに私に追いついて、それだけでなく追い越してしまった。
「あー! アラン待ってよ!」
それを見て私も速度を上げていく。
「ちょっと、二人ともぉ!」
さっきのジャンプでまだ呼吸が整っていないギデオンも、二人に負けるものかと走り始める。でも、それなりの距離があるからすぐには追いつけない。一生懸命追いかけて来てくれるギデオンを、私とアランは手を振って待っていた。
そうして始まったアグリア・レーランド・ファナ六歳の誕生日パーティは、それはもう幸福に満ち溢れたものだった。
ケーキは大きいし美味しいし、子供のパーティだからと大人たちも普段の権力争いは忘れてくれている。アレク兄様は勉強が忙しいみたいで来られなかったけれど綺麗な服を贈ってくれたし、両親も盛大に祝ってくれた。妹たちはまだ幼いからメイドと一緒に屋敷に行ったりこちらに来たりを繰り返していたけれど、「おたんじょうびおめでとう」と慣れない発音を頑張って祝ってくれた。
最後のイベントとして予定していた私の《聖女》の力の披露も上手くいって、国宝級の美しい赤薔薇が庭に咲き誇った。空から薔薇の花弁が降り注いで、誰もが感嘆した。
昼を終え、三時頃、パーティは終わりを迎えた。
最後まで何も起きない幸せな一日だった。
□■□■□
竜と屋敷の崩壊から逃げるようにして裏庭へ出たアランとセイラ、そしてキャサリン、ラナ、ララミラ、そのメイドたちは第二王子クレイグ・オーランドと合流することに成功した。
「お前、医者を呼んでこい」
クレイグが兵士の一人に医者を求めた。
ララミラの怪我の具合はあまり良くなかった。服は血に塗れ、ガラスのせいでところどころ破けている部分もある。クレイグと会ったことで少しホッとしたのか、今は気絶するように眠ってしまってもいた。
「アグリアは………」
裏庭まで竜が来ることはまずない。宮殿が縦になってくれているから、下手に騒がなければ竜がこちらに気がつくこともないのだ。そんな中、アランはメイドたちを逃し終えたことで一仕事を終え、今度は主人アグリアの心配を始めた。
さっき、窓から見えた落ちていく何かがアグリアに見えたからだ。
主人が負けるとは思えないけれど、さすがに竜が多すぎる。最大火力をぶちまけてしまえば王都は壊滅するということも考えると、死を覚悟した捨て身の攻撃には出られない。何よりアランは、セイラの話からも、アグリアがララミラの生死を心配しすぎているように感じていた。
友人として、年上として、男として、暗殺者として、竜を倒せなくとも、フォローくらいしたかった。
「オレが、異能を持っていれば……」
無い物ねだりしても仕方ないなんて分かっているけれど、願わずにはいられなかった。もしも自分がヴィルヘイムだったならば今すぐにでも駆けつけてありったけの《魔王》を使うのにと。
だから、目にした光景を理解するには時間がかかった。
「なんだよ、あれ」
アグリアが竜を倒したならばともかく。
アグリアが竜に負けたならばともかく。
そこにあったのは──。
──青い薔薇と、それに群がり攻撃する竜の大群。
「アグリアは、どこだ……」
魔弾を持つ者とその元となる異能の持ち主はある種の力で繋がっている。例えば、魔弾はその元となる力の持ち主が死ねば効力を失いただの弾丸と成り果てる。故にアランは、魔弾に触れることでその鉛が魔弾であるかが分かる。効力を無くしていないかが。だから今、アランは胸ポケットに隠すようにしてしまっている拳銃に触れた。その中にある魔弾から、力を感じる。アグリアは死んでいなかった。
「じゃあ、どこに……」
どう見ても、青薔薇の場所はさっきアグリアが落下していた地点だ。確かに天空に浮かぶ巨大な薔薇は竜の数倍のサイズを誇っている。
「そうだ、オレは、アイツが地面に落ちるのを見てない……じゃあアイツは…まさか………」
アランが見届けたのはあくまで落下途中の少女の姿。はっきり見えたわけではないけれど、アグリアだったということは疑わなくても良いだろう。他に空を飛べる人なんていないのだから。
「青薔薇の、中、なのか……?」
不気味なほどに堂々と、そして凛として咲き誇る一輪の薔薇。アランはアグリアが青の薔薇を咲かせるのを見たことがなかった。大抵の場合が赤で、力を弱めたりすればピンク、枯れそうな時は黄色というようなことはあった。けれど青はない。何度記憶を伝ってもない。
皮肉にもこの国オーランド帝国の国花はブルーローズ。アストレア王国を出る前に少し勉強をしたから、国花がどんな花言葉を持つかは植物に疎いアランでも知っていた。
「不可能、奇跡、夢叶う」
どうか、この青薔薇が、勝利の『不可能』なこの竜害において、アグリアが『奇跡』的に助かるという、アランのささやかな『夢が叶う』未来を示しているように。
暗殺者はそう思わずにはいられなかった。
現実の世界線の過去、ギデオンを殺してしまった六歳の誕生日パーティにおいて、妹二人は偶然にも姉のスピーチを見終えて一度メイドたちと屋敷に戻っていたところだったため、惨劇を見ることを免れています。




