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心の割れる音07


私はひたすらに炎と薔薇、棘。その全てを振るった。もう力の温存なんて必要ない。腕の痛みすら関係ない。今この瞬間、目の前にいる上位竜の全てを倒せば、残る混乱する翼竜たちは最悪軍隊でもなんとか出来る。そうすれば王都は救われて、宮殿も救われて、ララミラは一秒でも早く治療を始められるのだから。

さらに嬉しいことに、ファラン・メリユ地区からやって来る翼竜はなくなった。今ここにいるので全てのようだ。


最速スピードで翼を羽ばたかせて歯向かって来る白竜三体もまた私と同じように惜しげもなく炎を吐き続けている。

彼らの正体というのはあまり詳しく解明されていないから、永遠に炎を吐き続けられるのかすら分からない。もしもなんらかの仕組みのおかげで体内で炎を生成できるとすれば、半永久的に吐けるのかもしれない。もしそうだとすれば最悪だ。私の腕は軋み始めているというのに。


「それでも私は燃やし続ける」


薔薇と棘の再生を止めて、炎のみに賭けることにした。全てを凍てつかせる白き炎ならば、まずはその炎を打ち消す、あるいは打ち消した上で相手を燃やすのが一番だからだ。

正面衝突した二種類の炎は、爆発した。両方が同じくらいの強さの炎だったのだ。逆に言えば、三体の白竜の炎でようやく私一人の炎に相当することになる。

勝ち目がある。そう確信した。


先ほどの火の玉よりも大きなものを、私の左右に大量に生み出した。もはや空は明るくはなく、地上にいる人々からしたら何か赤い球が浮いていて、その他に竜がたくさん見えるだけで後のことは爆発で何も見えないだろう。ああ、もう一つ、私が乗っている巨大な薔薇の姿は見えるだろう。


「燃やせ」


私は翼竜たちと五体の蒼竜をほとんど無視する形で、白竜のみに集中していた。それがいけなかったことは、後になって痛いほど分かるのだけれど、この時はそれが最善だと思っていたし、そうするしかなかった。

一人で三百六十度の広大な空を認識し、その全てで攻撃を繰り広げることはほぼ不可能だった。他の《聖女》ならば、最初の翼竜に殺されていたはずだ。その点で私は最強だったし、よくやっていた。でもまだ不満だった。もっと簡単に、手軽に、圧倒的な力を持って勝利できると思っていたのだ。


「燃やせ、燃やせ」


一体一体は白竜、あるいはそれ以下のレベルで普通に戦えば勝てる相手だけれど、出来たばかりの友が死にかけている状況、自分以外の《聖女》がいない国家、まだ慣れきっていない環境、知らない技を唐突に思いついて最大火力で使う気力、ここに来て初めて現れた腕の紋様と痛み。その全てに心が屈してしまいそうだった。今にも白旗を上げたいような感覚の中、私は戦い続けた。

そんなふうに余計な考えと纏まらない思考回路、止まらない痛みに振り回されていたから、(ほころ)びは案外すぐに現れることになった。


「咲き誇れ、火玉」


それは私が一体の白竜を倒した時だった。

三体同時に相手は面倒だと気がついて、試しに一体に的を絞って二十八発の火球を飛ばしたその時、見事に二十三発が命中して白竜は墜落していった。そこへ、夢中になって追撃のために直径一メートルほどの丸い炎の球を一つ投げた。そうして白竜は灰となり炭となり、地上には天空からのプレゼントのようにして竜の遺骨が降り注いだ。

真白のその粉は、あたかも少し早めの雪みたいだった。


一気に強い《聖女》を使ったものだからか、腕が痛んだ。それまでの中でも最も痛烈な感覚だった。まるで、体の中を電流が走るみたいに。雷に打たれたらこんな感覚なのかなって思いながらも、私はなんとかして次の白竜を倒そうと前を向いた。


「あれ…?」


そこに、白竜は一体しかいなかった。

おかしい。今私が倒したのは一体で、あと二体残っているはずなのだから。

ならば私が痛みに耐えかねて下を向いた隙にどこかへ飛んでいったのか。

そう考えて辺りを見回しそうとしたら、後ろから熱を感じた。慌てて背後を向くと、そこには一体の蒼竜がいた。いつの間にか私に接近していたのだ。しまった、と思った時にはもう遅くて、先ほど感じた熱が背中にある水色の炎なのだと分かった。


「最悪よ………」


蒼竜の炎は消せない。私が水の《聖女》だったら可能かもしれないけれど、炎で炎を消すのは無理だ。たとえ出来たとしても、自分に自分の炎が移ってしまうかもしれない。

赤いドレスの背中部分が燃えていくことを感じながら、どうしようもないことを悟った。

代わりに、私に接近するために結構近いところまで来ていたその一体の蒼竜を思う存分燃やした。先ほどとは違って、青の粉が空から大地へと降り注いだ。


「ああ、これ、どうしましょう……永遠に消火は不可能だろうし、放っておけば風で消えるかしら」


背中が燃えたことで肌が少しばかり露出してしまったのは恥ずかしいけれど、こんな上空じゃ誰も私の姿は見えないからひとまず後回しの問題だ。


「うっ……」


右腕に力が入らなかった。感覚はちゃんとあるから、休めれば回復出来るのだろうけれど竜はそんな呑気に私の回復を待ってはくれない。

再び元の方向を向いた時、私の立っている薔薇の下から一体の白竜が飛び出して、炎を吐いた。さっき行方が分からなくなっていた竜だ。


思いっきり炎を受けた私は、反射的に出した赤い炎によって少しは威力を打ち消せたものの、左半身はあまり守れず、白い肌の上に軽く凍ったような後が出来た。代わりに、背中に付いていた青い炎も凍って、消化することが出来たのは不幸中の幸いだった。

とはいえ、凍らせるのとは私の炎は相性がいい。凍らされたら、溶かせば良いのだから。私は左手に炎の感覚を集中させて、火傷を負わないように加減を注意しながら体に纏わりつく氷を溶かしていった。背中の大きな氷も溶かす。


さて、次はこの白竜を、と意気込んだその時に、右から炎が吹かれた。白だ。


そうして気がついた。

ようやく気がついたのだ。

己が置かれた状況の、真の危うさに。


「しくじった」


半分くらい諦めのような言葉が、自分でも考えないうちにこぼれ出していた。口調は令嬢らしくなくて、アランの言葉遣いがうつったみたいだった。


つまりはまぁ、囲まれていたのだ。

四体の蒼竜と二体の白竜に。

どの方位を向いても竜、竜、竜。

その一言だった。


「まだ悲劇はここからってか」


半笑いで右腕を押さえていた。

炎で受けた攻撃よりも右腕が痛いなんて、馬鹿みたいだ。

これまで怪我なんてしたことなかったから余計に痛みに弱いのもある。


「勝たなくちゃな」


セイラに、私は強いのだと、言わせたのだから。


□■□■□


セイラはアランと共に、一人の女性を見つけた。

本だったり花瓶だったり、メイドたちの私物だったりをしまっていた棚三つの全てが倒れ、その隙間に挟まってしまったようだった。


「今助けますから、意識を保ってくださいね」


ここで人に見つけてもらえたと安心して眠られては困るから、セイラは彼女の顔に少し触れた。人肌を感じ取ったメイドは、「は、い」と返事をしてくれる。


「俺こっち持つから、そこ押さえといてくれ」


「分かった」


日頃からこっそり裏で筋トレをしているアランの出番だった。ここぞとばかりに腕に力を入れて、重い棚を一人で動かし始める。セイラはその角などがメイドに当たらないように見ると共に、アランに的確な指示を飛ばし始めた。

恐らくは足を捻るなどの怪我をしている女性を見つけた以上、セイラはもう先ほどアランに感じた違和感なんて考える暇がなかった。人命優先だ。


──本当は、早くみんなを非難させないといけないけれど、アグリアお嬢様ならば、誰一人見捨てたりしないもの。


セイラさえ気が付かないことだったけれど、二人には強い共通点があったのだ。

アグリアのためにいる。そんな、主人への信頼と盲目的な形なき何かが。


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