煩わしさ
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私とヴィルヘイム王子はノストラダム宮殿へと戻った。これから昼食を取るのだ。
ちなみに、クレイグ王子は一緒には帰らなかった。なぜか暗い顔をしながら、別の馬車に乗って行った。恐らく少し遠い訓練場へ向かうのだろう。近年は竜害が多いから、兵士たちの指導が重要な仕事になる。王子自ら異能を惜しみなく用いて指導すれば、兵士たちの士気も上がるというもの。
「お昼食をお持ちいたしました」
メイドと料理長たちがたくさんの料理を持ってやって来た。テーブルに次々とそれらが並べられていく。長いテーブルの向こうとこちらに私とヴィルヘイム王子が座っているのが、なんだか距離があって悲しい気がする。
血の繋がる家族がいない環境下だからだろうか?
たったそれだけのことと笑い飛ばすべき出来事の一つ一つに、いちいち感傷的になってしまう。
──私は棘だらけの薔薇姫よ。
「いただきます」
──そう簡単に苦しみを感じるものですか。
「美味しいわ」
温かいスープを一口、口に含んでそう言えば近くの壁に並んで立っている料理人たちが頭を下げた。料理長が「光栄です」と言う。
本当ならば人に見られながら食事をするのは嫌いだし、大して人数がいないのに無駄に長い作りになっているテーブルも嫌いだ。生まれつきこういった環境で育って慣れているはずなのに、たまに庶民の生活が羨ましく思える。
──庶民に、生まれていたら。
パンを一口サイズに千切って、口に入れる。もっとガッツリと食べた方が時間はかからないけれど、令嬢としてのマナーがある。
──そしたら、異能を持って生まれることはなくて。
目の前、といっても長いテーブルの向こう、数メートル先に座るヴィルヘイム王子と一瞬目があったような気がした。けれど、向こうは気にも止めていないようだ。視線に気づいていないのか、気づいてなおどうでもいいのか。
──《聖女》でなければ女は竜と戦わなくてよくて。
時間が流れるにつれて、段々とスープが冷えていく。パンの残りも少なくなって、おかずである野菜やお肉も減っていく。そしてデザートのアイスが運ばれる。
──貴族でなければ、マナーに縛られることも。
デザートのアイスはシャーベットで、真っ赤な苺が乗っている。ヴィルヘイム王子は甘いのが苦手なのか、単にアイスの気分ではなかったのか、砂糖一つ入れていないコーヒーを飲んでいる。
──人前で婚約破棄されることもなかったでしょうし。
シャキシャキと音を鳴らすアイスは高級品だ。今は冬だからともかく、夏は氷が手に入りにくい。最近では市民の間でも流行り始めているそうだけれど、それなりのお金はかかる。毎日食べられる品じゃない。
──プライドを傷つけられることも知らない国で過ごすこともなかったはずだわ。
真っ赤な苺を見て、ガンド訓練場での一件を思い出した。赤い赤い炎。もしもあの時発動した力が別のものだったら私は人殺しになっていたかもしれない。そうすればきっと、ヴィルヘイム王子と私の権力によって事態はもみ消され、私は異能を使うことを控えるよう言われたのだろう。
──《聖女》は神からの貰い物。誇り高き女への祝福。
ずっとそう習ってきたけれど、あれは嘘だ。
昔の自分ならばアストレア王国の歴史と最初の聖女である王妃に憧れや敬意があっただろう。
でも今なら言える。
──あの国は、間違っている。
庶民だったらとか、異能が無ければとか。どれだけ、そんなタラレバを考えたって。
現実は違う。
私は他者よりも強い異能を持っている三大貴族であり王女。命を賭ける分、市民よりも高貴で金持ちであることを許されている。
ならばこんなところで、寂しいなんて思ってはならない。
ならば、こんなところでifを考えてはならない。
ここに生まれた宿命と運命を背負う。
「ごちそうさま」
庶民ではお目にかかれない高級なアイスを食べ終えた。
「ヴィルヘイム王子、今夜、先ほどの話の続きをしてくださいますか?」
コーヒーを飲み終えた彼はカップを机に置いて答えた。
「もちろんだ」




