《魔王》の力
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思えば、誰かが戦うのをちゃんと見るのは初めてかもしれない。いつも自分が戦おうと前線にいたから、何だか新鮮な気分だ。
獣はクマに似たもので、ワグマという。低階級の魔獣だ。竜には遠く及ばない。サイズは一メートルを超え、ちょうど成人男性の平均身長くらいだ。とはいえ本来はそんなに好戦的ではなくて、今日は偶然森を出てしまったのだろう。そして看板か何かにぶつかり破壊、兵士に囲まれてびっくりして暴れているといったところか。
ちょっと同情するけれど、放っておいたら街へ出てしまう可能性もある。きっと、倒すほかないのだろう。
負けることはなさそうなので、私は窓の向こうで行われている戦いを見ながら先ほどの話を復習した。
ヴィルヘイム王子が珍しく熱っぽく語っていたのだ。話の続きにまだ何か驚くべきことがあるのかもしれない。
今のところ気になる点と言えば、鱗が吸い込まれるようにしてハーラリオン国王の口に入っていったことだろうか。
もちろんその光景を伝えた兵士が誇大に言っている可能性は大いにあるし、ヴィルヘイム王子の言葉の綾ということもある。
とはいえ実際、口に何か入って、しかもそれが竜の鱗だったら吐き出すだろう。驚いて飲み込んでしまう可能性よりも吐き出す確率の方が高い。鱗だなんて絶対に硬いんだから、余計に飲むのは難しい。
──竜の鱗に意志があって、理由があって、ハーラリオン国王に力を託そうとした?
そもそも、竜は自分の鱗を食べることで異能を得られるという事実を知っているのだろうか?
というか、本当に鱗による効果なのだろうか?
偶然鱗が口に入ったタイミングで異能が目に見えて現れただけだとすれば、もっと他の理由があることになる。だって、竜の鱗が口に入った、だとすれば森に住む竜が落とした鱗をうっかり草と一緒に間違えて食べてしまう獣がいるかもしれないじゃないの。
それに、一部の地域では翼竜の肉は食用になっている。もちろん羽毛や鱗は綺麗に取り除いたものだけれど、カケラが残っている可能性はある。なのに誰も異能を得ていないのはおかしい。
さらには、この話が出た当時、絶対にマネをして鱗を食べた人間がいるはず。さすがに赤竜はそう巡り会える存在じゃあないし出会っても殺されてしまうのが目に見えているけれど、翼竜の鱗くらいならどこでも手に入れられるはず。
それこそ、食用にするために毛や鱗を取り除く肉屋から貰えば良い。
……ダメだわ。考えるほど糸のように思考が絡まっていく。
他の点で言えば、昔から思っていたことがある。
赤竜の鱗を食べて炎の異能を手に入れたならば、蒼竜の鱗を食べれば水の異能を手に入れられるのでは? あるいは、白竜の鱗を食べれば全てを凍らせる白い炎を操れるかもしれないし、黒竜の鱗を食べれば全てを狂わす呪いのような炎を使えるかもしれない。翼竜の鱗だったら……好戦的にでもなるのかしら?
でも、もしそんなことが可能ならば、オーランド帝国が炎の異能使いしか有していないのは変だ。
……これも、考えても答えが出ないわね。
他だとぉ……シンプルな疑問だけれど、やっぱりオーランド帝国の歴史が気になる。アストレア王国では、戦争の際にオーランド帝国を嫌いすぎて帝国に関する本が焼かれたりしたから記録がほとんどないのだ。
ノストラダム宮殿にも図書館はあるそうだから、今度行ってみようかしら。ヴィルヘイム王子が許可をくれるはずだし。貸し出しが可能かは分からないけれど、その場で読むだけならきっと大丈夫でしょ。
「───ハーラリオン・オーランド三世」
近くに立って外を警戒する兵士に聞こえないくらいの声でその名を呟いた。
窓の奥では、剣ではなく、何かYの形の道具を使ってワグマを抑えているようだ。捕獲、だろうか。
最も上位の魔獣として登録されている竜は、誰もが知っているように翼竜、蒼竜、白竜、黒竜、赤竜と順に強くなっていく。そして強くなると共に寿命は伸び個体数は減るのだ。
実際、黒竜なんて個体数が少なすぎるのと単独行動を好むのとで発見した人がほとんどおらず、伝説のようになっている。絶滅したと言う人がいるほどだ。
赤竜も伝説のような話で、《魔王》が誕生しなければ本の中の存在として語られていたはずとまで言える。
「……私が赤竜の鱗を食べて真実を確認することは、なさそうね」
「何か仰いましたか?」
「いいえ、何も言ってないわ」
兵士の一人に独り言が聞こえかけたようで、少しだけ焦ってそう返す。
「……たとえ出会っても、食べないけど」
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