異能クエスチョン
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私たちは少し離れた場所にある休憩所へと向かった。他のテントとは違う、簡易的な建物だ。真白の壁で出来ていて、屋根は茶色。中には幾つものベッドがあり、暖炉、剣を研ぐ石、椅子など休憩を取るための道具が豊富に置かれている。
「そこに座るといい」
ヴィルヘイム王子が黒の長椅子を勧めてくれたので、そこに座ることにした。そろそろ本格的に冬になってきたので、兵士二人が薪を持ってきて暖炉に火を点けようとする。
「あ、私が点けるわ」
そこに声をかけて、兵士二人に少し横にどくように言った。怪訝そうな顔をしながらも二人は横にどいて、私が右手を前に出し人差し指を突き出したのを眺めている。そのまま、異能の特徴である無詠唱で指先から火を飛ばしてみせる。極限にまで小さくした火の玉は、真っ直ぐ進んでいくと兵士二人の間を抜けて薪にたどり着いた。ボワ、と音を立てて炎は薪に着火。
「おぉ…!」
「すごい!」
異能で作られたものは基本、簡単に消えたりはしない。
竜などと戦う時に爆発的な強さに重点を置くならともかく、ただ異能を出すだけならば外的要因が無い限り半永久的に在り続けるのだ。
だから異能で作った炎が灯る暖炉はいちいち火の調節をする必要がないし、薪が無くなっても水をかけない限り消えるには時間がかかる。最高の省エネだ。
「ありがとう、アグリア姫」
「どういたしまして」
ちなみにヴィルヘイム王子の後ろにはクレイグ王子が立っている。クレイグ王子が『暖炉に火を点けるくらいボクの《魔王》でも出来る』と言いたげな水色の瞳を浮かべてこちらを見ていたので、生暖かい視線を投げておいた。すぐにムッとした表情が返ってきた。
と、このままでは早く質問したがっている兵士たちが暴れてしまう。
「それじゃあ、早く質問をどうぞ?」
その言葉を聞いた兵士たちの顔がぱあッと明るくなった。
「では、まず僕が質問させていただくのですが、《聖女》の異能は何歳ごろから使えるのでしょうか? 不穏な話ではありますが、いつか敵対する可能性もあります。その時、貴族や王族の女性を全員殺してしまうのは気が引けますから、異能が発動しない、戦力にならない年齢を知っておきたいのです」
それを聞いていた他の兵士が一瞬、顔をこわばらせた。だってこの兵士は、アストレア王国の三大貴族の私に、アストレア王国とオーランド帝国が対立する可能性のことを話したのだから。
しかし、彼の気持ちは分かる。いくら戦争とはいえ救える命があるならば救いたいはずだ。
でも、残念なことに──。
「異能は、生まれた瞬間から発動出来るわ」
《魔王》がどうなのかは知らないが、《聖女》は生まれた時から使える異能だ。
「詳しく言えば、自分に異能があるだとか、異能を使おうとするだとか。そういったことがあれば使えるわ。私は二歳になる前に、指先から花が咲いたことをきっかけに自分の中にある異能の存在を覚えたわね」
兵士たちが息を呑む。何人かが、「じゃあ俺たちは、赤子ですら殺さなきゃならないのか」と悲痛そうに呟いたのが聞こえた。
「《魔王》もまた同じだ」
兵士たちの重く暗い沈黙を破るように、ヴィルヘイム王子がそう言った。
「俺は一歳の時に暖炉に手を伸ばし、火が点いたことで異能を使う感覚を覚えた。戦争となれば、オーランド帝国の《魔王》を相手は年齢関係なく殺すかもしれない。そして、幼い子を殺すことに罪悪感を覚えるのだろう。お互いが同じ痛みを知るのだ。そうなれば、和平などの案も出るだろうな」
お互いが殺しを忌み嫌い始めた時、仲介しようとする人は増えるだろう。無論、殺しを楽しむ者がいれば別の話だが。もしもそんな輩がいれば、戦争反対派の人間は彼らによって殺されてしまうことだろう。
水を吸った布のようにずっしりと沈んだ空気をなんとかしようと、他の兵士よりもやや階級の高い男が手を挙げた。一般の兵士がただの黒い軍服なのに対し、背の高いその男は胸元に一本、白のラインが入っている。一階級上の証だ。
オーランド帝国の軍服は黒だ。ほとんどの兵士が黒一色に染まる中で、この男のようにラインが入る者がいる。功績を上げた証拠だ。左胸から白のラインは入り、六本目からは右の胸にラインが入る。十一本目からはそれまでの十本のラインが全て消え、左胸に勲章が付き始めるのだ。
ラインが十本までなのに対し勲章は左右それぞれ三つなのだが、一つでも付けば英雄扱いなのだから、六つ付いてしまってこれ以上どこに付けよう、なんてことにはならないんだろう。……とはいえ、ヴィルヘイム王子は現時点で四つ付いているのだから将来的にはラインと勲章以外の何かが作られるかもしれない。
結婚式の時は三つだったけれど、あの時白竜を倒してアストレア王国を救ったことで一つ勲章が増えたそう。このままだと六つまですぐそこだ。
「俺はベラムドと言います。《聖女》が《魔王》と違い異能の内容がバラついていることには理由がありますか?」
「いい質問ね、ベラムド」
「ありがとうございます」
「残念だけれど、推測でしか答えられないわ。《聖女》は神に願って得た力で、《魔王》は赤竜の鱗を食べて得た力。だから《魔王》は赤竜の得意とする炎しか使えないんでしょうね」
自分で殺した竜の鱗を食べようだなんて、信じられない話だわ。それが逸話ではなく事実なのだから余計に信じられない。
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