魔王の夜
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オーランド帝国ノストラダム宮殿にて。
赤髪の男が、自室のベランダに立っていた。
「……ふぅ」
今日の訓練を無事に終え、夕食と両親への挨拶を済まして男はここにいた。
訓練内容は、自分で考えたものだ。
軍の指揮権を与えられてから、オーランド帝国の軍事力を上げるべく頭を働かせた。
そうして生み出したのは、それぞれの特技によっていくつかの部隊に分ける、ということだ。
一つ、歩兵部隊。
常に徒歩で行動するため、脚を鍛えることと体力をつけることがメインの訓練を行う。
二つ、狙撃部隊。
歩兵部隊の後を行き、あるいはどこかに隠れて狙撃するという部隊だ。
歩兵部隊に追いつくための脚、銃撃戦に耐えられる視力と体力、重火器を持ち続ける腕力。
その全てが求められる部隊だ。
ここでは、毎日違う訓練を行なってもらう。
三つ、海洋部隊。
海や風、天候の全てを把握する頭脳と、船酔いしないことや閉鎖空間である海上での生活、戦闘などの体力とメンタルが求められる部隊だ。一ヶ月の半分は船の上で生活してもらう。
四つ、暗殺部隊。
国のあらゆる機関に散らばった彼らは、死神とも呼ばれている。
表向きには存在せず、国民が認識していない部隊だ。
四十二名という、部隊と呼ぶには少数のチームだが、その分優秀な人材の集まりだ。
彼らは訓練などせず、毎日が仕事だ。
代わりに、正式に部隊に入るまでは地獄のような訓練がある。
毎年多くの志願者がいるが、彼らの半数がそこで死ぬか、怪我するか、他の部隊に行くかだ。
五つ、情報部隊。
他のメイン四つの部隊が集めた情報を合わせ、精査し、次の行動を指示する部隊だ。
軍隊の要とも言えるだろう。
彼らは暗号解読や速記などの訓練を行なってもらう。
他にも近衛部隊もあるが、これは軍隊というよりも主そのものに忠誠を誓う者たちだ。
近衛部隊を除く部隊の全てを仕切るのが、この赤髪の男ヴィルヘイムの仕事だ。
自分自身が美しい容姿の持ち主であり、けれど恋愛に花を咲かせることもなく二十歳を迎えそうだったのだが……。
二日後に結婚式を迎えるのであった。
そんな彼は今、ある事を考えていた。
「アグリア姫は、なぜ……」
それは、あのパーティでのことだ。
己の目でもハッキリと、田舎貴族のクレア・シーランドが嘘をついていたのが見てとれた。
あの王子はただ騙されているだけだ。
幼い頃から第一王子として生きてきたヴィルヘイムにはそれくらい、簡単に見抜けた。
「シーランド家は何がしたい」
ヴィルヘイムとしては、レオハルトがアグリアとの婚約を破棄したおかげで結婚できるのだから構わないが、やはりアストレア王国の動きは気になる。
かつてはオーランド帝国と張り合えるほどの国であったアストレア王国は、今では見る影もないほど平和ボケしている。
現国王は一体何がしたいのだろうか。
「結婚式に、何か動きがあるかもしれんな」
風邪を引くわけにはならない。
いつもより早めにベランダから室内へ戻ったヴィルヘイムは、一人で寝るには大きすぎる豪華なベッドに横になる。
「……すぅ」
一分も経てば、規則正しい寝息が聞こえ始める。
戦の最中ではいつ寝られるか分からない。故に、昔から眠りに入るのは速い。
──大丈夫だ。
夢の中でヴィルヘイムに誰かが言った。
──絶対に、負けたりしない。
それはいつかの記憶だった。
気が強いその誰かは、弱音を吐かずに大丈夫だと繰り返す。
必死に己を鼓舞するその姿は健気で、それでいてヴィルヘイムは嫌悪感を抱いた。
──大丈夫だ、俺は負けない。
やがて、それが幼い日の自分の姿であると思い出した。
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