嫉妬と羨望
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異能試合を見ていた夫ヴィルヘイムが妻アグリアの戦いぶりを見るのは二度目だった。竜と対峙した時と違い、繊細に《聖女》を操っている。
「美しい戦いだ」
ヴィルヘイムが珍しく褒め言葉を紡いだ。
「まあ、強いのは認めますけど……」
隣に立つクレイグは、兄がアグリアを褒める事が気に入らなくてむすっとした顔をしながらも、認めざるを得ない試合内容を睨みつけていた。
実際、アグリアには竜と対峙して勝利を得るだけの実力がある。竜を倒したとの話を聞いた時はクレイグもヴィルヘイムや軍の援護があった上に運が良かったのだろうと思っていた。それが今では違ったのだと分かる。
繰り広げられる幾多の炎と棘。相手が人間であることを考慮した力加減、しかし決して舐めて掛かるわけではない全力の戦い方。それは生半可な実力では出来ないことだ。
古来より《魔王》が炎以外の異能を出したことはない。炎の威力、そして炎を活かして何が出来るかということこそが彼らに求められるものだった。
そしてクレイグに出来ることは兄のヴィルヘイムのような圧倒的火力と体格の良さを武器にした戦法ではなく、炎を纏った弓矢を飛ばすことだった。王族だというのに前線には向かない戦い方。かつてそれを嘆いていた時、兄が言ったのだ。『俺が前線を行くのは、後方部隊を信頼できるからだ』と。それを聞いた時、クレイグは思った。
ならば自分は、兄が安心して戦場へ向かえるように信頼のできる後方部隊であろう、と。
だからこそクレイグは今、アグリアの強さを認めると同時に嫉妬していた。
──アグリア王女の異能は炎。
大きさも火力も丁寧に操ることが可能な、繊細かつ強力な炎。
──あの赤い炎は、ボクの《魔王》よりも強い。
悔しいけれど、見て見ぬフリは出来ない強さ。
──さっきみたいに小さな炎を飛ばすことも可能なら……。
つまりは、アグリアは……。
──前線へも、後方へも行ける人材ということ。
アグリアはきっと、兄ヴィルヘイムに並ぶ最強の戦士となるだろう。戦争が起きた時。あるいは、犯罪を抑える時。はたまた竜を討伐する時。
その時、自分は。
──兄のための最強の後方部隊には、いられないかもしれない。
そんな弟の思いを汲み取ったのか、単純にタイミングが良かったのかは分からないけれどヴィルヘイムはこう言った。
「戦となれば、アグリア姫には前線へ出てほしいものだ。王女自ら戦場を駆ければ士気が上がる」
その言葉に兄の優しさと自分への無力さを感じたクレイグは、何も言わずに異能試合を見つめ続ける。相変わらず、アグリアは炎と棘を惜しむことなく振る舞っていた。
静かに王族二人と兵士二人が眺めていると、どこからか噂を聞きつけた訓練終わりの兵士たちが集まって来た。
「おいおい、王女が訓練してるぞ!」
「マジかよ、変わった姫だな」
「《聖女》なんて初めて見た」
「俺もだ!」
「綺麗な炎だな」
「あの棘、刺さったら痛いな」
「《聖女》ってのは人によって内容変わるんだろ?」
「化け物じゃねぇか」
クレイグは、そんな兵士たちの感想を右から左に聞き流すようにしていた。
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六波羅朱雀をどうぞよろしくお願いします。
悪役令嬢系の短編も書きましたのでぜひ\\\٩( 'ω' )و ///




