祭りの後の静けさが。
ぜひ最後まで読んでください!
ひとまず、第一章完結となります!
この後はそれぞれの登場人物を掘り下げるため、いくつかの話があり、その後、第二章へと突入になります!
馬車に乗り、王都ガロランドを巡る。
ヴィルヘイム王子は笑いもせず、ただ国民に手を振ったり見つめたりしている。
国民は笑顔のない王子を見て文句を言うわけでもなく、むしろ「目があった!」と若い娘たちは発狂していた。
対して私はというと……。
あまり仲の良くない国から来た貴族という立場を考えて、国民に受け入れてもらおうと頑張ろうとしたのだが………。結果は残念なものであった。
笑ってみせようとするけれど、爆笑しては品がないし、微笑んでも笑っていると思われない。
いつもパーティでどんな風にしていたかしらと思いを巡らせる。が、パーティで笑っていた覚えがない。
王族と話す時も、愛想笑いを浮かべているけれどあくまで礼儀であって、優しい笑みではない。ただ怒っていませんよと伝えるためだけの表情だ。
セイラやアランと居る時も、別に面白い話があるわけではないし、従者を相手に愛想笑いを浮かべる必要もないからあまり笑わない。
──もしかして私って、ヴィルヘイム王子と同じくらい無表情なのでは?
ヴィルヘイム王子には失礼かもしれないけれど、そう思った。
私たち二人を一目見ようと集まった民衆に、とりあえず手を振っておく。なんだか人形になった気分だが、相手が私を恐ろしい薔薇姫様と呼ばない人だからだろうか。それとも純粋にこの一大イベントを祝ってくれているからだろうか。こうして王都を周るのも悪い気はしなかった。
「きゃー! 素敵!」「美男美女って、見ているだけで癒されるわぁ」「ちょっと羨ましいわね。私もこれくらい素晴らしい結婚をしたいわ」「ヴィルヘイム王子が結婚って知った時は驚いたけど、お似合いだなぁ」
各々が感想を口にしている。
──美男美女、ねぇ。
確かにヴィルヘイム王子は美男だ。人形のように完成された姿は、無表情なことと相まって少しばかりの儚さと強さをもたらしている。
それに比べて私はどうだろうか。この顔のせいで、必要以上に怖がられていた気がする。
──愛想が良ければ、アストレア王国でも馴染めたのかしら。
ある意味、軍事国家であるオーランド帝国へ嫁げたのは幸運だったといえるだろう。異能を使っても恐れられないし、口調や態度が女性っぽくなくても誰にも何も言われない。むしろカッコいいと言ってもらえそうだ。
──もちろん、この国にも女性らしさを重要視したりする人はいるでしょうし、他国から来た私を良く思わない人はいるでしょうけれど。
それはもはや個人の考え方というやつで、集団が一人に向けて意思を押し付けることは無さそうだ。
私たちの馬車の前後には護衛の馬車がおり、横にも馬に乗った護衛がいる。オーランド帝国の軍人である彼らは今日から、私の部下のような存在にもなるのだと思うと不思議な気持ちがした。
□■□■□
やがて、ノストラダム宮殿へと戻った。
二時間ほど王都を見た感想としては、実に戦争で有利な街づくりになっているということと、誰もがオーランド帝国を思っているということだろうか。
何人かのメイドに案内された部屋でウェディングドレスを脱ぎ、簡易ドレスに着替える。これもまた高級品であった。
ヴィルヘイム王子はどこかと聞けば、一人の執事が「ヴィルヘイム王子はアルデバランという塔におられます」とのこと。私は早速その塔へと向かった。
その塔は、ノストラダム宮殿の敷地内の東に立っていた。辺りは木で覆われていて、まるで秘密基地のよう。入ろうと思ったけれど、重そうな灰色の扉には鍵がかかっていた。
というよりも、寝室と同じで、異能によって出入りが制限されているような気がする。
仕方がないので、扉をノックした。
すると、高さ五階建て相当の塔の屋上から、人がこちらを覗いた。もちろん、その正体はヴィルヘイム王子だ。
彼は少しだけ驚いて動きを止め、すぐに一階まで降りて扉を開けてくれた。
「どうかしたのか」
「執事に聞いたら、塔にいるって言われたから、来てみたんです」
「そうか………ひとまず、入るといい。これを持て」
「ありがとうございます」
ちなみに渡されたのは鉛であった。
…………なぜ?
内部は三階建てで、なんだか重い雰囲気だった。けれども嫌な感じではない。一人でゆっくりと過ごせそうな場所だ。例えるならば、雨の日にベッドで一人、本を読んでいる時の感覚と同じ。
私はヴィルヘイム王子の後を追って、屋上まで歩いた。階段は銀の装飾が施された螺旋階段であった。
「星が、綺麗ですね」
屋上からは王都ガロランドの様子がすっかり見える。
まだ盛り上がっているのか、オレンジ色の明かりが家々に灯っていた。今日は皆、酒を飲んで遅くまで祝うのだろう。
付近が木々であるおかげで、光が少ないこの場所では、まるで世界から孤立したかのように感じられた。
太陽が去った空には、その光を受けて輝く月と星々が見える。
「この塔の名はアルデバランといって、おうし座の一部になっている星の名だ」
ヴィルヘイム王子が、王都を見つめながら説明してくれる。その目には、いつか自分が治めることになるであろう国への誇りと信頼がこもっている様に見えた。
「そうなんですね」
「ああ………ここは、異能を登録した者しか出入りができない。無論、窓などから侵入することは可能だが、そうすればあらゆる仕掛けが発動する」
「それで、私が扉に触れても開かなかったんですね」
ノストラダム宮殿の守りでは、どんな暗殺者でも侵入出来そうにない。
その時、一つ、星が流れた。
「綺麗」
反射的にそう呟いた。
どのくらいの間か、無言で流星を眺めていた。
「ヴィルヘイム王子」
未だ止まらぬ流星を見つめたまま、口を開いた。
「今日一日、この国を見て思いました。オーランド帝国の国民は、アストレア王国と違い、誰もが国のためを思って日々を生き、王族の行動の一つ一つを、己に起きた事象のように喜び、あるいは悲しんでいる。平和に慣れてしまったアストレア王国の国民とは違います」
別にアストレア王国の国民が悪いとは言わない。
平和であることに疑問を感じず、平和であることを当たり前として謳歌出来ることは良いことだ。
それでも私はオーランド帝国の在り方が気に入った。
「私、この国に相応しい王女になりたい。そう感じました」
そこで星から目を逸らし、ヴィルヘイム王子を見た。
「薔薇姫様だなんて呼ばれる令嬢ですけれど、歴史に残る異能の姫君となれるように頑張りますわ。どうぞ、宜しくお願いいたします」
言い終わると同時に、長年の貴族生活で学んだ美しいお辞儀を披露する。
ヴィルヘイム王子が少しだけ呆気に取られて、やがて口を開いた。
「どうやら俺は、向上心の強い女性を妻にもらったらしい」
揶揄うようなセリフに、思わず苦笑した。
そして、「風邪を引くといけないからもう戻ろう」というヴィルヘイム王子に従って、一階へと戻った。
扉の前まで来たところで、なぜか彼が足を止めた。不思議に思っていると、ヴィルヘイム王子はこちらを見た。
「ここが気に入ったならば、異能を登録しておくと良い。登録された異能と同じ魔弾を持っている状態であれば、従者なども入れる。セイラというあのメイドと共に来てゆっくり過ごすのも良いだろう」
それは嬉しい誘いだった。断る理由などあるわけもなく、私は異能を登録した。セイラは魔弾を持っていないけれど、ここに来る時だけ持たせるのも有りかもしれない。
私は最初にもらった鉛を返した。どうやらこれは彼の魔弾だったようだ。そのおかげで異能を登録していない私でも入れたわけだ。
そうして自室へと戻った私たちは待ち構えていた従者によって、それぞれお風呂まで連れて行かれた。
寝室へと入ったのは夜遅くで、十一時は回っていたであろう。
「では、寝るか」
「はい」
なんだか恥ずかしい気もするが、夫婦なのだから何もおかしなことはないだろう。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
──今日から、私たちは夫婦……。
不思議な感覚だ。
布団はモコモコでモフモフだ。疲れた体を包み込んでくれる。隣で横になったヴィルヘイム王子も、すぐに寝息を立てていた。
──さあ、私の新しい人生がすたぁ、と、です、わぁ……
「……ふわぁ」
せっかく心の中で意気込んだけれど、眠気が勝った。
まずは………眠りましょうか。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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