兄弟
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その後、私とヴィルヘイム王子は貴族たちへ挨拶するために一階へ降りて、庭へ出た。
ノストラダム宮殿の庭はとても広くて、一人だったら迷子になるかもしれないと思うくらいだ。
「ご結婚おめでとうございます」
「お幸せに、アグリア様、ヴィルヘイム王子」
そう言うアストレア王国の貴族たちの顔に浮かんでいるのは、私への嫉妬と、ヴィルヘイム王子の姿を見ての恋心。
全く、オーランド帝国のことを野蛮な国だと言っていたくせに、いざ王子がイケメンだとこうもあっさり手のひらを返すのだから、呆れたものだ。
「お姉様!」
少し遠くから、ドレスの裾を持って小走りに駆けてくる少女が見えた。妹のミレイアだ。
「ヴィルヘイム王子。彼女は私の妹のミレイアです」
「レイ王子の妻か」
「えぇ、そうです」
ミレイアの隣には、レイ王子もいる。
二人は私たちの前へやって来て、お辞儀をした。
「この度はご結婚おめでとうございます、ヴィルヘイム王子」
ミレイアはそう言って可憐な笑みを浮かべたかと思うと、無邪気な表情で私に向かって告げた。
「アグリアお姉様、とっても綺麗です! ヴィルヘイム王子とよくお似合いですよ。 ふふ、お二人に子供が産まれたらきっと愛らしい子でしょうね」
「ミレイア、気が早いわよ」
そう言いながらも、ヴィルヘイム王子との子供かぁと思い描いた。……なんだか、恥ずかしい気がする。というか私、子供苦手よ? 子供ってすぐに泣くし、体も細くて小さいからどうすればいいかよく分からないのよね。うっかり気を抜いて異能が出たら、死なせてしまいそうだし。
「そういえば、子供が出来たら、異能はどうなるんでしょうね?」
レイ王子がふと思い至ったようにそうこぼした。
「どうって……女の子だったら《聖女》で、男の子だったら《魔王》なのでは?」
「普通でしたらそうなんでしょうけれど、二つの強い異能が混ざったことはないですからね」
確かに、歴史的に珍しい。
下級貴族ならば過去にも多く事例があるだろうけれど、三大貴族の《聖女》と、王族直系、しかも長男の《魔王》が混ざることはこれまでなかっただろう。
「二つの異能が両方出る、なんてことはありえないですよね、ははは」
もしそうだったら興味深い、とでも言いたげにレイ王子が微笑んだ。
「そうなったら、ソイツは両国の頂点に立てるかもしれないな」
ヴィルヘイム王子が真顔で答えた。
それはつまり、両国が合併されるということなのだが……。
「ヴィルヘイム兄さん!」
そこで、聞き覚えのない声が聞こえてきた。
声の主を見たレイ王子とミレイアは、「それでは、これで」とお辞儀をして去っていく。
その理由は明白だ。
声の持ち主がヴィルヘイム王子の弟だったからだ。兄弟の邪魔をしたくないと思ったのだろう。
「クレイグ」
少年の正体は第二王子のクレイグ・オーランドだそう。
兄と同じで目の色は青だけれどもう少し水色に近い。髪は短くて赤い。右側の横髪が少し長いという変わった髪型だ。
そして何故か、私のことをジロリと見つめている。
私、何かしただろうか。
「ヴィルヘイム兄さん、いつもに増してカッコいいです!」
まるで私がここにいないかのように兄にそう話しかける姿を見て、察した。
──あ、この王子、ヴィルヘイム王子のこと大好きなんだわ。
その後、クレイグ王子を追って来た別の王子が現れた。
「アグリア嬢、ヴィルヘイム兄さん、結婚おめでとう」
ぶっきらぼうに王子はそう言った。
第三王子のラクレスだと、ヴィルヘイム王子が耳元で小さく説明してくれる。
一見優しいイケメンに見えるクレイグ王子とは違って、ラクレス王子は、例えるならば本能で生きるバーサーカーといったところか。
目の色は青ではなく紫で、常に殺気を放っている。本人は無意識なのかもしれないが、確実に辺りを睨んでいた。
赤い髪はあまり整えておらず、ライオンの鬣のようになっていて、肩スレスレまで伸ばされている。
見た目にも言葉遣いにも気を使わないようだが、決して下品に感じられないのは育ちの良さが出ているからだろう。
「ラクレス、今日くらい髪を整えたらどうだ」
兄としてヴィルヘイム王子がそう言うも、
「誰もオレのことなど見ちゃいねぇ。今日の主役はヴィルヘイム兄さんとアグリア嬢だ」
王女でも姫でもなく、アグリア嬢?と驚いていると、ラクレス王子が顔を歪めて言った。
笑っているのかもしれないが、本当に、すこーしだけ口角が上がったのみだ。ヴィルヘイム王子と違い殺気や威圧感を隠そうともせず振り撒いているせいか、より一層表情が分かりにくい。
「アグリア姫の方がいいか? それとも、アグリア王女かアグリア様か」
十六歳とは思えない声の低さだ。
「いえ、アグリア嬢で構いませんわ」
「そうか……おいクレイグ兄さん、今日くらいブラコンはよしておけ」
「うるさいぞ、弟のくせに……それにしても、この人が義理の姉になるのか」
最後の一文は小さかった。
青と紫の視線が見つめ合い、睨み合う。
が、辺りの貴族たちは特に気にもしていないようだった。アストレア王国の貴族は一部が何事かと見ているが、オーランド帝国の人からすればよくある兄弟喧嘩なのかもしれない。
「二人とも、場を弁えろ」
「すいません、兄さん」
「悪い、兄さん」
二人が軽く頭を下げた。兄には忠順らしい。
それから何人もの人と話して、やがて執事がやって来た。
その時には体力はもう空っぽで、新しく知り合った人の顔と名前を覚えるために頭も疲れていた。
けれどもまだ、最後に大仕事が残っている。
馬車に乗って、オーランド帝国の首都の道を回るのだ。アストレア王国出身の私はオーランド帝国では知られていないため、顔を見せて覚えてもらうのが最大の目的である。なにしろ未来の王妃なのだから。
「ふぅ……」
馬車に乗せられて、息をついた。
ここまで来るのに使った馬車とは違い、もう少し窓が大きくて開放的だ。
私はこれから愛想笑いを浮かべて回るのだと思うとそれだけで身体が重くなる。部屋のベッドでゆっくり眠れるまで、あとどのくらいかしら。
隣に座ったヴィルヘイム王子が、「疲れたか」と声をかけてくれる。
「少しだけ。けれど、国民に顔を覚えてもらうのが最大の仕事だもの。頑張るわ」
「そうか。ところで……」
ヴィルヘイム王子が何か言いにくそうに話題を切り出した。
「今日から俺たちは同じ寝室で眠ることになるが、恋愛で結婚したわけではないからな。アグリア姫が嫌ならば、自室で眠るが、どうする? 自室と寝室が繋がっている以上、他の連中に何か噂されることもないが」
その噂とはおそらく、結婚したのに一緒に寝ていないらしい、王子と王女は仲が悪いのかも、あるいは世継ぎを産まないつもりかしら、なんて話だろう。
「お気遣いありがとうございます。でも、私は大丈夫です。それに、ヴィルヘイム王子とは恋愛での結婚ではないですから、貴方のことを知りたいんです」
仕事が忙しいから、話せる時間は少ないだろう。ならば、夜寝る前くらいは、と思ったのだ。
互いのことをよく知らないままこの国の国王と王妃になろうだなんて、国民に失礼だし。
それに……。
バルコニーへ出る際のヴィルヘイム王子の言葉が脳裏をよぎってまた顔が赤くなりかけたところで、馬車が出発した。
ナイスタイミングだ。
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