貴女を守ると誓う時
ぜひ最後まで読んでください!
太陽が頂上へと達した時、盛大にファンファーレが鳴り響いた。その音に、国民の誰もがようやくこの時が来たのだと歓喜する。
「ヴィルヘイム王子がついに結婚を…!」「相手の方は三大貴族だそうね」「今日は素晴らしい日になるな」「オーランド帝国の未来は確実なものね!」
国民がそれぞれの感想を口にして、なるべく最前で二人の姿を見ようと押し合っている。
そこへ、四人の人物が登場した。
オーランド帝国国王のリアムとその妻フレア。
それから、アストレア王国国王のグレアムとその妻マリアナだ。
「皆、今日はよく集まった」
一歩前に出ると、威厳のある声でリアム国王がそう言った。場所はもちろん、ノストラダム宮殿の、あの塔のように飛び出している真ん中にある大きくて白いバルコニーだ。
その声に、騒いでいた国民はぴたりと静まり返った。
「竜による被害のため、我が国での式は予定より遅れ、さらにアストレア王国での式は戦争のようになってしまった……しかし!」
リアム国王はそこで一言区切ると、一気に言い放った。
「我々が嘆くことなど何もない。今日の主役である二人が素晴らしき異能を用いて竜を倒し、そして、民を救って見せたのだから。今日という日は、そんな二人の英雄の晴れ舞台である。心から祝福しようではないか」
それが、リアム国王の挨拶だった。
軍事国家であるオーランド帝国の国民は、誰も「野蛮な姫が来たものだ」とは言わなかった。むしろ、「元気な姫様だな」「強くてかっこいい方に違いないわ。ああ、早くお姿を見たい!」とより盛り上がっていく。
続いて、グレアム国王の挨拶だ。
一歩下がったリアム国王とすれ違うようにしてグレアム国王が前へ出ると、国民はまた黙った。
「えー、今日は実に素晴らしい天気だ。まるで、神々も二人の結婚を祝福するかのようである……先程リアム国王も仰ったが、アストレア王国での式は残念なことに竜騒ぎに見舞われた。しかし、勇敢な二人の人物が果敢に挑み、国民は救われた。そうして今日、無事にオーランド帝国で式を行うことができる。この幸福を胸に、存分に二人を祝福し、これからの両国の未来を高め合っていきたいと思う」
たどたどしくはあったが、アストレア王国での式の時よりはいささかマシな挨拶だった。
国民はグレアム国王に拍手を送る。
そして、今、ようやく、バルコニーの奥から二人の人物が登場しようとしていた。
□■□■□
「準備はいいか」
私とヴィルヘイム王子は二人の国王の挨拶を聞きながら、バルコニーに繋がるその部屋の奥で待機していた。
「えぇ、もちろんよ」
「そうか」
ヴィルヘイム王子の質問に頷いた私は、メイドがこちらを見たのを合図に椅子から立ち上がった。
そして、彼の横に並ぶ。
「アグリア姫」
私の方を見ないまま、ヴィルヘイム王子が名を呼んだ。
バルコニーの方からは、国民の歓声が聞こえている。
「なんでしょうか?」
ヴィルヘイム王子の服装は相変わらずの軍服だが、髪型などはいつもより整っていて、腰には剣を下げている。炎を纏っていたあの剣だ。ただ、あの時よりも研ぎ澄ましてあるように見えるのは気のせいだろうか。
まあ、剣を使ったら手入れしておくのは当たり前か。
「……」
ヴィルヘイム王子は黙ったまま、目線だけを私の方へ向けた。私よりも二十センチほど高い場所から注がれる視線は、燃えるような赤い髪とは違って水面のように透き通る碧。
何も言わずに、私は彼の言葉を待った。
少し離れた場所から、メイドが「早くバルコニーへ」と視線を送っているのが伝わる。
ヴィルヘイム王子もその視線に気がついたのだろう。まだ心の準備が出来ていないとでもいうような表情のまま、彼は言葉を口にした。
「……ウェディングドレス、似合っている。綺麗だ」
「……へ?」
一瞬何を言われたのか分からなくなってしまった。
そして、頭の中で言われた言葉を反芻すると、一気に顔が熱くなって、花束を握る手に力がこもった。
「行くぞ」
ヴィルヘイム王子がそう言って前を歩き出す。置いていかれないように、私も急いで後を追い、並んだ。
ふと視線を横にやれば、表情こそいつも通りの無に近いものだけれど、耳の辺りが少しだけ赤くなっていた。
「……ふふ」
なんだか嬉しくて、思わず微笑んだ。
──最初は、表情の硬い軍人だと思っていた。
──最初は、婚約破棄されたすぐだったから、これはチャンスだと思って結婚を受け入れた。
──今だって、彼のことはよく知らない。
──ただ。
「ヴィルヘイム王子。私、幸せだわ」
バルコニーに足を踏み出す寸前、私はそう言った。
隣で、息を呑むような小さい音がした。
多分だけれど、ヴィルヘイム王子の声だ。
けれどバルコニーに出てしまったから、彼の顔を確認することは出来なかった。
二人の国王陛下が妻を連れて左右に立っている。
私の隣にグレアム国王とその妻、ヴィルヘイム王子の隣にリアム国王とその妻だ。
私たち二人は国王よりも前へ出て、国民を見た。
ノストラダム宮殿内の敷地では、多くの貴族たちがこちらを見て立っている。そこにはもちろんレオハルト殿下とクレアもいたけれど、もはやどうでも良かった。
ただ、幸福に満ちていた。
ヴィルヘイム王子は私の手をとって跪いた。
そして、告げる。
「貴女を、生涯守り通すと誓う」
国民の息が止まったように思えた。
それくらい、静かだった。
リアム国王とその妻であるフレア王妃だけが、温かい目で息子を見ていた。
「俺と人生を共にすると、誓ってくれるか?」
レオハルト殿下とクレアは心の中で悪態をついた。もちろん、内容は違う。
レオハルト殿下は「なんであんな虐めっ子がオーランド帝国の王子と!」と思ったし、クレアは「どうしてレオハルトよりも良い人があの女に!」と思った。
似ているようで似ていない内容だ。
でも、どちらも二人が幸せになることへの嫉妬ではあった。
国民は私の返事を今か今かと待っていた。
「えぇ、もちろんです、ヴィルヘイム王子」
薔薇姫様と呼ぶには似合わない、花のような笑みを浮かべてそう答えた。
後で聞いた話では、この瞬間、何名かの国民は「尊い…!」と言って倒れたらしい。
ヴィルヘイム王子は私の手を握ったまま立ち上がると、私の顔に手を添えて、軽く口づけをした。
王族の結婚式ではよくあることだし、多分一般人の結婚式でもすることだと思う。
それでも、国民の誰もがこう思った。
あのヴィルヘイム王子が、紅蓮の魔王と呼ばれし王子が、口づけを…!と。
「この時を持って、俺、ヴィルヘイム・オーランドは、アグリア・レーランド・ファナを妻として迎える! 皆はその場に居合わせた歴史的瞬間の目撃者である! 今日という日が未来永劫語り継がれる日となるよう、共に両国を思い、そして祝福してくれ!」
「ヴィルヘイム王子! お幸せに!」「アグリア王女! 美しいです!」「最高の結婚式です!」「お二人ともお幸せに!」「オーランド帝国に一生ついていきます!」
そんな国民の声は、どれだけ経っても止まらなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
面白いと思っていただけたら嬉しいです!!
いいね等お待ちしています。
他作品もぜひ。
六波羅朱雀をどうぞよろしくお願いします。




